011 業務改革
ギルド本部で仕事を始めて一ヶ月が経過した。
住み込みで働いているので、朝は必ずフロイデに叩き起こされる。
フロイデは、初めてギルドに来た際に案内してくれたエルフのお姉さんである。
ギルド本部副ギルドマスターで、事務処理責任者にもかかわらず計算が苦手だった。
ダン!ダン!ダン!
仮眠室のドアを激しく叩く音がして目がさめる。
「ゲンワク! 早く算数を教えてください!」
「すぐに行きますよ。九九は覚えたんですか? 行くまで予習しててください」
眠いがギルドの食堂で、朝食前に前世の記憶にある算数の授業をフロイデに少しづつ行っていた。
実際にギルド本部の事務員になって仕事をすると、複数いる職員の計算能力が低い事に気がついた。
乗算などは解き方が出来ていないので、足し算で何回も足して計算していたり、割り算などは適当にやっていて超丼勘定など酷いものだった。
各種書類の整理も出来ておらず、書類の種類から名前などで見やすく分類して棚に並べた。
仕事の方法なども口頭で伝達することが多く、マニアルなどが一切無い適当の極みであったので、全ての業務にマニアルを作成して、読めば誰でも業務ができる体制へ移行させていった。
ここまで、脳筋の集まりになったのも冒険者ギルドの仕事をするには、例外の人物を抜かしてクラスがブロンズ以上であると言うルールが原因だが、これを廃止すると悪い事をする人物が採用される確率が高いので変更は出来なかった。
クラスのブロンズが目安になる理由は、ブロンズの昇級試験において、看破か鑑定、真実の義眼などの嘘を見破る能力者が一度鑑定して人柄を判定する為であった。クラスがブロンズ以上の冒険者は、脳筋でお人好しが多いと言う事だ。逆に能力が高くても精神的に問題がある人はブロンズになれない。
俺の場合は、例外的に昇級試験でもないのにハクオウに初期の段階で人柄を判定されていたので、採用されていた形になる。
行き当たりばったりの対応業務をマニアル化した流れ作業に変更して、算術などの指導のおかげで溜まっていた本部ギルドの仕事が一気に減少した。
事務員達の目の下のクマが消えたのだった。
だが、そこで大きな問題を発見した。
通常は、依頼を受けて依頼を遂行して完了となると最低限の記録が残って関係書類は破棄する。
しかし、誰も依頼を遂行しない、汚い、きつい、危険で報酬が安い案件が、累積して溜まっているのだ。
塩漬け案件と言う物だが、タチが悪い事に依頼主が死んでも残ってる場合もあるし永遠と溜まっていくのだ。
通常の依頼に上積みされて塩漬け案件の山が存在する。
これを誰かが処理しないと、最終的には事務がパンクする可能性がある。
そして、幻の冒険者を俺が創り出して、処理させればよい事に気がつくには時間がかからなかった。
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引き抜きに成功して本当に良かったと、心底フロイデは思うのであった。
ゲンワクが来てから、本部ギルドが生まれ変わった。
後輩に先輩が指導する際もマニアルと言う業務の方法が記載された書類を渡すだけで後輩がしっかり仕事をこなすのだ。
トラブルがある冒険者がやってきても、トラブル対応マニアルなる書類を読むと、トラブルメーカーと言われた私がトラブルを解決してしまうほど優秀な書類だ。
ゲンワクが教えてくれる算数と言う算術も、素晴らしい。
まさに、次期副ギルドマスターになってもらいたい。
ただ、クラスがシルバー以上でなければ副ギルドマスターには出来ないので、時間がある際にゲンワクを攫ってレベルをあげさせなければと使命感が湧いてくる。
ゲンワクが副ギルドマスターになったら、仕方がなくて嫌々やっている私が引退して現役冒険者に復帰だ! 楽しみ!
ゲンワクが知らない所でゲンワクの進路が勝手に決まっていくのだった。