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4. 自業自得で帰れない

 そういえば俺、なんかこの世界に滞在するみたいな雰囲気になってるけど普通に帰れば勉強もなにもしなくていいんじゃ、と今更気付く。


「あのー、じゃあいろいろ知識もついたことだしそろそろ帰ろうかな〜」

「なにを言っているんですか?帰れませんよ」

「えっ、なんで」


 案外何事もなく歩いてこっちまで来れたんだから、てっきり楽に行き来できるものだと思っていたがそうでもないのだろうか。


「あのですね、基本あちらの世界からこちらの世界への道は一方通行ですよ。まあ優秀なウィザードやウィッチならあちらへ繋がる道を作ることは可能であったのですが」

「じゃあその優秀な人たちを見つければ一件落着?」

「いえ、気づきませんでした?僕は可能であるとは言ってません、可能であったと言ったんです」


 うん、なにが違うんだ?ただ帰って安全にのんびり過ごしたいだけなのに。


「……マリクさん、ちょっとこれ以上この人と話してると殴ってしまいそうなので代わりに説明お願いします」


 そう告げると、彩心は階段に座り込み頭を抱え込んだっきりうんともすんとも言わなくなってしまった。

 俺、なんか悪いことした?


「いやあ悪いなイツキ。サイシンだって普段はもう少し冷静で余裕もあるんだが、今回ばかりはちょっと」

「なにかあったの?」

「言いにくいんだが……お前がこの世界にくるときに壊した扉があるだろう?」


 あの薄汚れた金の扉か、見た目に反して脆かったんだよなっと思い出しながらマリクの問いに相槌をうつ。


「あの扉には保護の精霊が宿っていてな。あちらの世界に行くためには強力なウィッチとウィザード各1人、地、水、火、風、空、金、空気を司る妖精を1人ずつの合計9名で、あっち側にいる保護の精霊へと声を届けるための大掛かりな儀式を行う必要がある」


 なるほどなるほど……あれ、ってことはあの扉壊しちゃヤバかったんじゃ……?冷や汗をかきながらもマリクの話に再び耳を傾ける。


「だが最近なかなか行き来する機会もなく、こっちとの関わりがないせいで保護精霊の力が弱ってきててな、急遽儀式を行う準備をしていたんだ。場所も確保し残るは妖精1人を連れてくるだけだったというときに……」


 お、俺が扉壊してやらかしたってこと……か?


「え、でも精霊が宿ってたならそう簡単に壊せないんじゃ?」

「普通はそうだ。だがしかしあまりにも精霊の力が弱まっていたため、うさぎに体当たりされただけでも壊れる強度になっていたんだ。そもそもここ数年であの神社に訪れる生物すら皆無だったから大丈夫だと思ってたんだが」

「す、すみませんでしたぁぁぁぁぁぁ!!!」


 やばいやばいやばいじゃん俺なにしてんの!?自業自得で帰れなくなるどころか相当な数の恨みを買ってるんじゃ?まてよ、しかも精霊の宿りを壊したってことは……。


「お、俺!保護の精霊をホームレスに!?いやまさかころしっ……!」

「がははははは、いくらなんでもそこまでやわではないだろうあいつは。しかし時間をかけて集めた妖精たちは異様な雰囲気を感じて逃げ去ってしまったしどうしたものか」


 マリクは物言いたげに俺の方を見ながらブツブツと呟いている。これは、俺になにかをやらせるつもりか?


「えーと、本当にそんな大きな計画をぶち壊して心から申し訳ないと思ってるしそりゃあどうにか手助けしたいとは思っているけど……」


 けど、1つだけは譲れないことがある。


「お願いですから命だけは!生贄とか死んでも嫌です!いや死ぬつもりは根っからないですけどとにかく嫌だ!」

「いや、元々そんなつもりはないんだが。でもまあお前がどうしてもって言うなら生贄として有効活用を」

「ちょっとなんで!」

「なーに場を和ませるためのジョークだよジョーク」


 いや普通に怖いこの人、いやプーカ。ここは下手に出ておかないとマジで命が。


「そ、それで俺は一体何をすれば」

「あーそうだな、ある程度この世界、マギア・パトリアエ連邦の知識を身につけたらサイシンと一緒に旅に出て欲しいんだが」

「え、旅?」

「ちょっと待ってください!聞いてません!」

「そりゃ言ってないからな」


 旅ってことはあれだろ、魔法使ったり人食い獣と戦ったり他の人間と関わりあったりしなきゃいけないわけだろ?


「そんなの俺には……」

「こんな無能でバカで後先考えなくて頼り甲斐がないやつと旅なんて断固拒否です!必要なものがあるなら僕とアリーヤで行ってきますから!」


 わーお、俺の代わりに断ってくれてありがとう。ちょっと、いやかなり傷ついたけど。それにアリーヤって誰だ。


「確かにサイシンとアリーヤに比べればこいつは足手まといのお荷物にしかならないかもしれないが、だからといってずっとここに住まわせておくわけにもいかないんだ。いろいろダメにした償いもしてもらわなきゃいけないしな」


 う、マリクまで……ここまで邪魔者扱いされるといくらなんでも泣きますけど?


「しかし、それにはまずは精霊との契約を結ぶところからじゃないですか。それにこいつ人の話聞かないから言語も魔法も寿命の間に習得できるかが疑問です」

「ちょっと!流石に酷すぎない?いいよ、俺じっとして話聞いてても何も入ってこないけど実践には強い方だから!旅先でお前より上級魔法だか魔術だか習得してやるよ!」

「おう、言ったな」

「あっ」


 さいっあくだ、つい売り言葉に買い言葉で旅に出る宣言しちゃったよ。自分自身に呆れながらどうしたものかと頭を抱える。


「そいつが旅に出たいと言うのなら一人で行かせればいいでしょう?僕は彼とパーティーを組む気はありませんから。そもそもまだ組みたくても組めませんけど」


 吐き捨てるように告げた彩心は、荒々しく階段を登り自室であろう場所へと姿を消してしまった。


「ど、どうすんのこれ」

「心配すんな、アリーヤが説得すれば一発だろうよ」


 だからアリーヤって誰だよ!

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