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1. 妖精って全員が可愛いわけじゃない

「これ……いくらなんでも長過ぎない?」


 先程とは比にならないくらいの長い道のりに、俺は早くも自分の選択を後悔していた。

 スマホの時刻は夜中の12時を指していて少なくとも4、5時間は歩きっぱなしってことになる。


 いやいやおかしいでしょ。

 そもそも4、5時間も真っ直ぐに歩けること自体がおかしい。扉が地下にあったならまだしも入り口は普通に地上にあったし、坂や階段もなく本当に真っ平らな道を歩いてきたわけだけど、こんな長い洞窟のようなものが普段からあれば普通誰かしら気づくだろう。


 え、俺とうとう頭おかしくなった?それとも夢でも見てる?

 疲労と混乱で足を止め振り返るが、やはり真っ暗な空間があるだけだ。


 本音を言えばもう帰りたいがそんな気力はないし、かといってこんな場所で休憩するのは気が休まらない。

 夜中に人1人いない不気味な場所、よく考えたら変質者や野生の動物が居てもおかしくはない。


 自身を危険に晒してまで不老不死の方法探しとか、本当に何してるんだろう俺。


 自分の間抜けさに落ち込みながらトボトボと足を進めてさらに1時間、やっと遠くの方に光のようなものが見える。

 よかった、遠かったしどこに出るかなんて知ったもんじゃないけど少なくとも行き止まりで一晩野宿という最悪な事態は免れた。


 さっさと外に出てどこか泊まれる場所を探そうと出口まで駆け足で向かう。

 やっとの思いで外に出て、俺が最初に気がついたこと、それは。


「うん?なんで空が明るいの?」


 さっき時刻を確認したら確かに夜中の1時前後だったはず。外から漏れる光はてっきり街灯や店からのものだと思っていたのだが。


「α, αναθa! Νανθτκ´θ´ρ´!」


 どこからともなく声が聞こえてくるが、辺りを見渡しても誰もいない。


「いや怖い怖い怖いだれだれだれ」

「κ´κ´δτσο!!」

「ぎゃああああああ!」


 いきなり目の前に飛び出して来たのは、小さくて羽の生えた妖精だった。疲れ過ぎてとうとう幻覚を見始めたのか俺。


「は?なにこいつ、え?」


 もちろん妖精が目の前にいるという事実だけで発狂ものだ。しかし、だがしかしこの妖精……なんで、


「なんで、お前頭ツルピカハゲなの!洋服もパツパツだし!妖精と言ったら小さくて可愛い女の子がふよふよ浮いてるイメージじゃんか!なんで初めて目にする妖精が手のひらサイズのくせにゴリゴリで素手で象も殴り吹き飛ばせますよみたいな男妖精なんだよ!!」


「……νανππθθτνδα, κ´πθσο」

「しかも言葉が通じない!もう俺の人生詰んだ?さいっあく」

「αα, κ´υτρ´ ραθασον´ σοκκαυπ ρασουτθτθα」


 なにかよく分からないことを呟いた妖精もどきは、クルッと空中で回ると筋肉質なその見た目に見合うガタイのいい男へと姿を変えた。

 かろうじて羽が生えてるだけであとはこの容姿って……こいつ妖精もどきですらない、ただのマッチョな男だよ!


「ήυτ, κ´υτν´μτ」


 そんな妖精もとい筋肉野郎は紫の液体が入った瓶をこちらに差し出して来た。


「は?こんなおっさんに渡されるものなんか飲めるか!しかもめっちゃ怪しい色、絶対毒じゃん絶対死ぬじゃん!」

「θοβτκ´βτπρασοσασσαθ´νπμτ!!」

「ひぃぃぃぃぃ!」


 拒否ができたのも一瞬、筋肉野郎に羽交い締めにされ無理やり口に謎の液体を流し込まれる。

 俺の人生、可愛い子じゃなくて筋肉に包まれて終わるってなんて悲しくて残酷……


「おいなに死人みたいな顔してんだ」

「ううー俺はまだ死ぬには若すぎるのに……うん?」


 今なんか筋肉が俺の分かる言葉を話したような?幻覚に加えて幻聴までとかもうだめかもしれない。


「おーいオレが何言ってるか分かるんだろ返事しろー」

「うるさい筋肉野郎!死ぬ直前くらい穏やかに過ごさせてよ!」

「あ゛?誰が筋肉野郎だって?そもそも異世界に来たくらいで死にやしないぞ何言ってんだお前」

「毒飲ませたのはそっちでしょ!それにいつまで俺を羽交い締めにしてるつもりだよはーなーせー!」

「どく?いやあれはただの意思疎通が出来るようになる魔法薬(ポーション)なんだが」

「はい?」


 毒、じゃ、ない?


「ってことは……俺はまだ死なない!よっしゃあああ!」


 よかったよかったこれでひとまず安心、それじゃあ寝床でも探しに行こうかなぁ。ビジネスホテルとか近場にあればいいんだけど。


「おいおいおいまてまてまて勝手にどこへ行くんだ」

「どこって、寝床探しにだけど?」

「おま、この状況でおかしいだろ!普通なんで妖精が目の前にいるんだとか魔法薬ってなんだとか聞いてくるところじゃねーの?」

「あ、じゃあやっぱ筋肉野郎って妖精の類に入るんだね」

「そこじゃない!」


 うーんやっぱり可愛い妖精がよかったなぁ。いやでもそもそも妖精も魔法も俺が探してるものじゃないしさ。


「うん、興味ない!おつかれ!」

「……ほー、勝手に2つの世界を繋ぐ扉を壊して侵入した挙句興味がないだと?来い!オレをおかしな名前で呼んだこともまとめて説教してやる!!」


 うっわ、マジかよ……俺はそんなことより寝床と食料確保して街を探索したいんデスケド。


「き、筋肉呼ばわりしたのは謝るから、扉も帰ったらちゃんと業者さん呼んで直してもらうから、ね?許して?」

「はぁ?だから何言ってんだ、そもそも壊したらかえれな……」


 筋肉野郎、もとい筋肉妖精サンが心底呆れた顔で俺に話しかけていると、突然狼の遠吠えのようなものが近くで聞こえる。


「お、おおおおおおかみがでるのここ!ひぃぃ噛み殺される!」

「いや、あれはただの狼じゃなくて人狼だな。基本人狼は人間しか襲わないからオレには関係ないし、お前がついてこないと言うならここに置き去りにしてもいいが」


 妖精の次は人狼?うん、もうここまでくると幻覚幻聴レベルの話じゃないよね。いやそれより今この筋肉と離れたら人狼に喰われる可能性大、でもだからといって素直についていくのもなぁ。


「あ、そこに人狼が1匹」

「はいはいはい喜んでついていきます妖精さまどうか俺の命だけはあああああ!!」

「よしそれでいい、そんじゃしっかり掴まっとけよー」


 筋肉妖精は俺のことを軽々と肩に担ぐと大ジャンプをし高速で空を駆け抜ける。


「い、いやだあああああああああ」


 俺の悲痛な叫びは、あっけなくも風に吹き消されていくのだった。


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