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転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第一章
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アルフレッドの決断2

 一番騒がしいのはエルフの女性だ。大きい声なのでこちらまで聞こえる。


「ヒューバート!すぐさまこの赤子にマナポーションを飲ませるのじゃ!一刻を争う!」


その声は異常を示すようなものなので、俺もミントもすぐさま反応した。


「レオンに何かあったのか!?」


「レオン君!」


するとすぐにエルフから返事がくる。


「赤子の生命力が尽きそうで衰弱してきておる!マナポーションを飲ませ、静かに休ませんと赤子の命に関わるんじゃ!」


その言葉で向こう側の仲間もどのくらい不味い状況なのかわかったらしくオタオタとし始めていた。

そんな中で一人が言う。


「おい、お前が父親か?襲って来ないというならその言葉を信じてやる!こっちへ来るなら来い!」


その言葉を聞いて俺はミントの方へと顔を向ける。


「聞いての通りだ。相手は俺を信用してくれた。レオンの元へ行ってくるよ。」


だが、ミントの顔は蒼ざめていて私の腕に抱きついてきた。


「でも、アルフレッド… あの人達、帝国の人達よ?大丈夫なの?」


「ああ、だけどレオンがいるんだ。」


ミントの言うこともわかる。

何百年という昔にこの世界は『魔王』と魔族によって支配されかけていた。

それを阻んだのは当時『勇者』として立ち上がったヒトだ。

そして、それを支えた何人かの仲間がいたらしい。

仲間として行動したのは異種族も多くいて、『魔王』を倒し平和な世になった後も仲良く共存していた。

だが、代を経る毎にヒトは『勇者』を輩出したとして偉そうになり、異種族達を『応援するだけで何もしなかった種族達』として見下し迫害するようになってしまった。

そして、異種族達はそんな扱いに怒り、ヒトを殺し、追い出した土地で国を立ち上げた。

そこからはヒトによる王国と異種族達の帝国。更には大小ある国々でお互いに恨みをぶつけ合う戦争の歴史が刻まれている。

俺自身、借り出されて2年前に帝国と戦闘を繰り広げた。

そんな歴史は国民みんなが知っていて、勿論ミントも知っている。

だからこそ心配しているのだ。

そんな敵対関係の人達を信用して無用心に行くのかどうかを…


「ただでさえレオンはこの馬車の旅で衰弱していっていた。そこから更に魔力操作を行って悪い状態になってるとしたら… 親である俺があいつに付き添ってやらなくてどうするんだ?」


「…わかった。でも、私も行くわよ。」


「っ!いや、ここは俺だけ…」


「…あのね。私は確かにレオン君の実の母親じゃない。でもね、アンジェリカさんと親友だったし、レオン君のことも頼まれてるの。アルフレッドに恋焦がれてただけの私じゃないのよ?」


その言葉を聞いて俺は絶句した。


ミントは男爵家の令嬢で俺とアンジェリカの結婚後に政略結婚の道具として扱われ嫁ぎ、数ヶ月前に子供を産んだばかりだったが嫁ぎ先から不貞の子を産んだと、嘘八百を並べ立てられ強制的に離婚させられた女性だ。そんな女性だからアンジェリカの遺児であるレオンを我が子と同じくらい目に掛けてくれてるのだろう…くらいにしか思っていなかったが、まさか俺のことを好いてくれていたとは思ってもみなかった。


「何をそんなに驚いているの?子供を産んで母親になったら女性は強くなるのよ。」


好きだったことをさらりと告白されたことに対して驚いていたのだが勘違いされる。だが、今までの態度が嘘のように落ち着きを見せたミントが張ったロープを持ち渡ろうとしてるのを見て俺は正気に戻った。


「わ、わかった!ミントも行くのはわかったから!だから、せめて俺が先に行く!」


慌ててミントを止めたのだが、一瞬キョトンとした後、返って怒られた。


「何を言ってるの!先にあなたがあっちに行って、私が渡る前にこっちに狼が出たら大変でしょ!」


「あ…」


「はぁ… アンジェリカさんも大変だったろうなぁ…」


思わずそうだったのかと考え込んでいたら、その間にミントは四苦八苦しながらも渡り始めていて何度か風で体を揺らしながらも渡りきった。そして、今度こそはと俺が渡る。

渡りきった先に見えたのはレオンがミントに抱き抱えられ荒い呼吸をしている姿だった。


思わず目を瞠り駆け寄って覗き込んでいると、傍からエルフが話しかけてきた。


「…ふむ、あまりヒトとは話もしたくないんじゃがな… 一応、応急処置はしているからこの後は安静にすることじゃ。」


その言葉を聞き、俺は思わずミントの方へと目を向けるとミントが泣きそうな目を向けてくる。

恐らくミントも俺と同じ不安を感じているのだろう。

二人ともどうしようもなく、手を挙げていた問題がある。

ヒトではどうしようもないので異種族を頼る…

これしかないのだ。

だから、俺は実行した。


「っは?え、ちょ、ちょっと待つのじゃ!なぜお前がワシ等に土下座する!!」


そう、俺は土下座した。

そして、事情を話す。

アンジェリカが、実の母がレオンが産まれた直後に死んだこと。

その後、レオンが寝る度に魘され、気が付くと真っ黒だった髪の毛が白髪になってしまったこと。

ヒトの医学では原因がわからず、どうしようもないこと。

それらを聞いたエルフはしばらく考え込んだ後、切り出してきた。


「実はのう… この赤子が魔力操作を行ったとき、ワシはこの爺に思わず言ったんじゃ。『魔力操作など知識もなしにやっていたら廃人じゃぞ!?爺!お前はそこまで考えて言うておるのじゃろうな!?』とな。」


「…おい、婆。親がいるから静かにしてるがワシが考えなしのバカみたいな言い方を再現するな。」


「この赤子の髪のことはどうにもならんが… 魘されることだけはなんとかなるかもしれん。」


「…さりげなく無視までするか…」


爺と言われたドワーフに返事することなくエルフがこちらで話していた内容の一部を教えてくれた。

だが、俺とミントが解決できなかった魘されることがエルフには解決できるかもしれない、この一言が俺達には救いだった。

その言葉を聞いて俺とミントは目を合わせると思わず俺は頷いた。

そして、次の瞬間ミントもエルフに対して土下座した。


「お、おい!」


慌てるエルフに対して俺もミントも顔を上げもしない。

額を地面に押し当て続ける。


「お願いします!ヒトを嫌っているのは仕方がない。だけど、この子は… レオンは産まれたばかりでまだあなた達異種族に対しても何も悪いことは思ってもいません!どうか、どうかこの子の魘されるのをなんとかしていただけませんか?」


血を吐く思いで思いの丈をエルフに告げる。


「む、むぅ…」


考え込むエルフに対して、他の仲間が助けてくれた。


「…この地割れかなりの幅があり、ヒトでなくとも落ちたら命はない。そんな地割れを我が子のために超えてきた。そして、そんな父親とこの娘が敵対しているワシ等に土下座し頼んでおる。ここで断るのは自称『誇り高きハイエルフ』としてどうなんじゃ?」


「そうですな。礼儀を尽くし、頭を下げる。しかも敵対していた相手に対して… ハイエルフ殿?」


「そ、そうじゃな… よし、わかった!では…」


ハイエルフが言葉を続けようとしたとき、横から静かに声がした。


「…チョット待テ。ソコノ男ニ質問ダ。」


そこで俺も気付いた。まさか…


「オ前。モシカシテ、アノ『バーサーカー』カ?」


「…そうだ。」


俺は静かに答えた。

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