父と四人
GWに入り体力、精神力も余裕ができてるので可能な限り更新していこうかと思ってます。
さきほど聞こえてきた声が終わりを告げるのと同時に狼達の気配が消えた。
私は安堵しかけたがここでフッと気付いく。
(この人達が悪党じゃないとは限らない。)
そうなると、狼よりも実力のあるこの人達に対して気を許してはいけない。
(声の数だけで言うと人数は四人。一人は礼儀正しい男性。一人はプライドの高そうな女性。一人は頑固爺。一人は根っからの武人… 不意を付いたとしても、魔法が放てたとしても撃退は無理。でも、地面の割れの向こうには父とミントさんがいる。なら私がすることは変わらない。)
そう決心している間に足音は近付いてきて私を拾い上げた。
そして私はその瞬間再度魔法を放とうと試みる。
「っな!」
声からすると抱き上げたのは礼儀正しい男性だったようで驚きの声が聞こえる。
「どうしたんじゃ!?怪我でもしておるのか!?」
「いや… この赤子、魔法を放とうとしている…」
「バカな!そやつはヒトの赤子じゃぞ!?エルフでもないヒトの子が聖霊と契約もせずに魔法など撃てるものではない!しかも、そやつは産まれて間もないぞ!?」
「だが、この赤子の周りで感じるのは確かに魔力。疑うなら自分で確かめたらいい。」
男性がそう言うと、足音が近付いてくる。
「…確かに、ヒューバートの言う通り魔力を操ろうと必死じゃな… バカな。ヒトの身でありながら魔力を感じ操ろうとするなどできるはずがないのに…」
女性が唖然とした声でそれを言っていると父の声がした。
「…息子を助けていただいたようだ。お礼を申し上げる。敵意は全くない。息子を受け取りたいのでそちら側へ行ってもいいだろうか?」
すると私の周りの四人の気配が少し変わった。
これは…警戒の気配?
「ワシ等四人を前にしながらヒトの身で単身渡るというのか… 剛毅者じゃの。ワシはいいと思うが?」
「赤子が心配にも関わらず、礼をもって接してくる者は嫌いではない。私も賛成だ。」
「二人ノ意見ニ同意。襲ワレタトシテモ我々四人が揃ッテイテ負ケルコトハナイ。」
「そうじゃな。」
「うむ。」
そこまで三人で話が進んでいたが、ここでエルフが口を出した。
「…ワシは反対じゃ。」
「おい、アザリー!いくらヒト嫌いじゃからといって産まれたての赤子を親に返すことのどこに反対するんじゃ?」
頑固爺がそういうとアザリーという女性が激しく言い返す。
「ヒトじゃから問題なのじゃ!魔力操作など知識もなしにやっていたら廃人じゃぞ!?爺!お前はそこまで考えて言うておるのじゃろうな!?」
「ぐっ…!しかし、じゃからと赤子をどうするつもりじゃ?」
「…エルフの里である程度育てる…」
(さすが異世界。エルフがいて里があるとは…)
魔力操作に必死だが私の思考はついそういったことを考えてしまう。
「話し合いは済んだか?そちらに言ってもいいだろうか?」
再度父の声が聞こえたが、こちらの面子の意見は割れたままだ。
だが、その時武人の方から父へ質問が飛んだことで私の扱いは据え置かれることになる。
「…失礼。我等四人ヲ見テモ態度ヲ変エズ礼儀ヲ通シテクレタ貴殿ニ質問ダ。コノ赤子ハ貴殿ノ子カ?」
武人からの問いかけに少し父が躊躇っていたが答えた。
「…そうだ。10日程前に妻の命と引き換えに産まれた我が子だ。頼む、その子を返してくれ!その子は妻の形見のようなもので私と妻の最後の繋がりになる!金など必要だというのならば用意する!他に必要な物があれば言ってくれ!」
「本当にヒトの子だとはな…」
アザリーがショックを受けたように小さくつぶやく。
私を抱いている男性が私を覗きこむような気配を感じたので私は警戒を解かず、逆に魔力操作を激しくしできるだけ魔法を放とうと試みた。すると、アザリーが焦ったように声を挙げる。
「赤子よ!ワシ等は敵ではない!魔力操作はやめるのじゃ!」
そのアザリーの声で何かあったのかと異常を察した父とミントさんの声がする。
「レオン!?その子に何があったのか!?狼に襲われて怪我でもしていたのか!?」
「レオン君!?大丈夫!?」
二人の声で場が混乱したと悟った私を抱いていた男性は父とミントさんへ事情を説明した。
「お二人とも落ち着かれよ。この赤子は狼に襲われてもいないし、怪我もしていない。ついでに言えば我等も怪我などさせていない。…ただ、この赤子が身を守るため魔法を放とうとしているのだ。それでこちらのエルフも心配して声を挙げている。」
「えっ!」
「レオンが魔法を…?」
ミントさんと父が絶句し大人しくなった。
そんな父とミントさんの様子からアザリーが更に説明する。
「…魔力操作を行っている。恐らく外敵から我が身を守るため…じゃろうのぅ… じゃが、ヒトの身ではすぐ魔力は尽き、そして生命力を使う。この赤子は既に魔力が枯渇しておって、生命力を削って魔力操作をしておるのじゃ。」
そう言うとその後、しばらく場が静かになり父が私に言う。
「レオン、その方達は今現在お前を守ろうとしてくれた方々だ。私はその方達を信じている。だから魔力操作をやめなさい。」
(父がいいと言っているのだからいいか…)
そう思い、魔力を操作することをやめると私の意識は遠のいていった。