天変地異
寝る度に悪夢を見る。
見る夢は全て違う内容だ。
ある時は人。
ある時は動物。
ある時は虫。
ある時は宇宙人。
ある時は魔物。
色々な生物の生と死を見ていく。
そして、その死は必ず悲惨な最期を迎え、私は苦しみ起きる。
正直言うと、寝ているよりも起きてミントさんと父の会話を聞いている方が安らぐ。
夢を見るのは沢山だ。
夢のはずなのに痛みや苦しみといったものにはリアリティがありすぎて起きた直後は自分の体を確かめたりする。
(あのポンコツ神め!『加護』じゃなくて、呪いでもかけやがったのか!?)
そう思わずにはいられない。
そりゃあそうだろう。
寝る度に悪夢だ。
良い夢かと思えばそこからどんでん返しで最期には必ず不幸な終わりを迎える。
さすがに恨みたくもなってくる。
そして、そんな私をミントさんは抱いたまま懸命にあやし、父は悩む。
起きる時には尋常でない泣き叫び方をしながら起きるのだから二人共凄く心配してくれている。
(ごめんなさい。私には何もしてあげられない…)
心の中で謝罪することくらいしかできない私なのだが、ミントさんと父はそれ以上に心配してくれている。
「ねえ!どうしましょう… レオン君がどんどんやつれていっちゃってる!」
「わかってる!俺にもそれくらいわかってるんだ!いや、済まない。だけど、本当にどうしたらいいか俺にもわからないんだ…」
悪夢を見て、魘され、ミントさんにあやされ、父が悩む。
そんな馬車旅が続く。
どのくらいそれが続いたのか分からない。
だが、それは突然起きた。
突然、激しく揺さぶられた…と思った次の瞬間、父とミントさんが声を挙げる。
「きゃあああああ!」
「ミント!レオン!」
音から周りの状況を読もうとするがそれはできなかった。
だけど、体全体が激しく揺れ動く感覚。
木々の枝が激しく揺れ、折れる音。
そして… 地面から聞こえてくる音。
(これは… 地震か!?)
全ての情報から辿り着いた私の結論は地震だった。
そして、そう思った次の瞬間に私は宙に浮く感覚を覚える。
「ああ!!レオン君!!」
「ミント!危ない!!」
そんな二人の声が聞こえた途端、私は地面に転がった。
痛い、激しく痛い。
恐らくある程度体が大きいとそうでもないのかもしれないが、今の私は赤子なので更に痛みが酷く感じる。
しばらく地面に転がり止ったが、父とミントさんの声が段々と遠くなっていく。
「離して!レオン君が向こうに…!」
「地面の裂けがまだ広がってる!揺れも続いてるんだ!立てもしないのに、この裂けを超えるなんて… 落ちて死んでしまう!」
「レオン君!レオン君!」
二人の会話がしばらく続いているが、その内容から察するとどうやら地震が起きて地割れを起こし、私と二人は離れ離れになってしまったらしい。
赤ちゃんという自分、しかも目も開いてなくて体も動かせない。
今までの旅の様子から思い出すと山だった気がするんだけど…
(詰んだ…)
私が泣きもせずに淡々と状況把握に努めていると二人の言い争う声と、地震が終わったようで辺りは静けさに包まれた。
「レオン!準備を整えたらすぐそっちに行くからな!」
「レオン君、大丈夫だからね!」
話が決まったのか二人の離れた声が聞こえなくなり、感じていた二人の気配も聞こえなくなる。
地震のためか虫も鳴いておらず、辺りは静けさに包まれている。
どのくらい時間が経ったのか、目が見えない状況で気配を感じるようになっていたのでわかる。
何かが私に近付いてきていた。