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転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第二章
23/29

さようなら

 レオンを殺そうとミーティアを攫い囲っていたハイエルフ、エルフの者達は硬直していた。

闇の聖霊王シェードと契約し、更には倒れる直前に光の聖霊王とも契約を結ぶ。

そんな現場に居合わせたからだ。


レオンは魔術教本などは読んでいたが物語や童話などは読まなかったので知らなかった。

この世界で使われてる魔法は聖霊と契約し使われてはいるが『聖霊王』となると『魔王』『勇者』『聖女』『賢者』という嘗て存在してました(・・・・・・・・・)、とされる者達だけだったのだ。

だから、襲ってきたハイエルフ、エルフ達、そしれレターニアやミーティアが息を呑むのが普通。

聖霊王と契約をあっさりと決めてしまったレオンの方が寧ろ異常なのだ。

しかもレオンは闇と光、契約していた以前の相手は魔王と勇者。

その勇者達が亡くなると以降は誰も聖霊王と契約をしていない。

今では本の中にしか存在せず、実は勇者が自分の威光を高める為に嘘を吐いていたのでは?

聖霊の声が聞こえるなんてありえない。

そんな意見も今の時代では言われ始めている。

聖霊王の存在に対して懐疑の気持ちを持つ者が現われ始めたりもするような目の前で聖霊王が現われ、声が聞こえ、あまつさえ契約する場面に出くわした彼等の内心は驚きと恐怖(・・)


レオンが怖がられたのは闇の聖霊王と契約したことでみんなレオンが魔王になったと思っていたのだ。

ところがレオンが次に契約したのは光の聖霊王。

光の聖霊王が契約していた以前の相手は勇者。


殺された者と殺した者。

自分達が恐れていた存在で物語や童話では全世界を支配しようと魔族を操り魔族以外の種族を滅ぼそうとした存在。

世界が魔族に次々と侵攻される中、仲間と共に立ち上がり魔王を倒した自分達を救った存在。


彼らの目の前では彼らこそ(・・・・)理解のできない出来事が起こり、この瞬間ただ一人を除いて時は止まった。

その動きが止まらない一人は狂ったように叫びだす。


「光の聖霊王よ!なぜ、なぜこんなヒトの子などと契約を結んだのか!!私の方がお前と契約するのに相応しい!!闇の聖霊王と契約を結んだこんなヒトの子となぜ契約したのだ!!答えろ!どちらでもいい、私と契約しろ!そうすればアザリーやミーティアはおろか、どんな女でも私が手に入れられる!世界すらも手に入れられる!!契約の代償を教えろ!私も何を引き換えにしてでも契約するぞ!!」


叫んでいるスフィン。

自らの欲望を高々と叫び、演技染みた身振り手振りを繰り返しシェードやウィル・オ・ウィスプへと呼びかけるが返ってくる返事はない。

返答されないことに激昂し始めたスフィンはレオンを刺した剣を振りかざしレオンへと近付いていく。


「こいつを… このヒトの子さえ殺せば、聖霊王と契約した者さえ死ねば… 私が契約者になれる!!」


意識を失っているレオンの傍まで歩いてきて地面と串刺しにしようと剣を振りかぶり、その降ろす直前でレオンが苦しみだした。

悪夢を見だしたのだ。

一瞬、ビクリと体を震わせたスフィンだったがレオンが未だ意識を失ったまま魘されているだけだとわかるとニヤリと笑う。


「ほう、とても苦しそうだな。ヒトの子の身でありながら高貴な私を差し置いて契約したのだ。苦しむのも無理は無い。」


周囲の覆面達はスフィンの本性を見て、スフィンこそが間違っているとやっと気付きだした。


「スフィン殿、私達はあなたの言うことが正しいと思って賛同しそのヒトの子を殺すことを決めた。だが、そのヒトの子は光の聖霊王と契約した。ならばそのものこそが次の勇者なのではないか?それを殺そうというのか!?」


「しかも、聞けばそのヒトの子を殺したらミーティア様と結婚することを承諾してもらってるとなると… ミーティア様と結婚したいがためにそのヒトの子を殺すということか?」


そんな騒ぎ出した覆面達はお互いに顔を見合わせた後、数人が覆面を取った。


「…お前ら、どういうつもりだ…?」


覆面を取った者達に対しスフィンが低い声で尋ねると、覆面を取った一人が言う。


「自分達が間違っていた、そう思うから覆面を取った。スフィン殿、いや、スフィン。光の聖霊王と契約したそのヒトの子は殺させん!」


「だが、そのヒトの子は闇の聖霊王とも契約している!私こそ正しいのだ!」


「その闇の聖霊王に呼びかけ契約しようとしていたスフィン。お前はどうなんだ!!」


「私は高貴だから問題ないのだ!!」


「話にならないな… レターニア、ミーティア様。二人には迷惑を掛けました。私達はスフィンを捕まえ事態を収拾します。私達自身もそうですが里に混乱を招いた者達は裁かれねばなりません。私と気持ちを等


しくする者達よ!醜い本性を表したスフィンを捕らえよ!」


「貴様、裏切るのか!私と同じくヒトの子に(たぶら)かされたアザリーやレターニアを散々批判していた者が!」


「だからお前を捕まえて我々も罪を償う!」


他の覆面達の中にも覆面を取り、レターニアとミーティアの護衛に付く者、覆面をしたままスフィンに付く事を決めた者達が対立している中でレオンの右腕がのそりと動き出した。

そろそろと密かに動いているので誰も気付いていない。

そして、レオンの右手はミーティアの縄を切った後、地面に落ちていた自分のナイフを掴み、寝たまま右腕だけでスフィンのアキレス腱を斬った。


「ぎゃあああ!うああああ!!!」


アキレス腱を斬られたことと痛みでスフィンは持っていた剣を放り出して地面に転がる。

その剣を拾いながらレオンは静かに立った。


「そう言えば、俺を殺したらミーティアと結婚するって婆ちゃんに… アザリー(・・・・)に取引を持ち掛けてたんだっけ?なら残念だな。こんな痛みでのたうち回る奴に殺されてなんかやるか。お前が死ね。」


そう言うとレオンは痛みで転がっていたスフィンのこめかみをつま先で勢いよく蹴り、脳震盪を起こして芋虫のように這ったスフィンの心臓へ向かって剣を突き刺した。

それは何十秒かの間のできごとであり、周囲の覆面や覆面を取った者達、レターニアやミーティアも硬直しているだけだ。

その中で、スフィンと言い争いをしていた男は一歩前に進み出ると膝を付く。


「ヒトの子よ。我々が間違っていた。いや、間違っていました。どうかお許し下さい。」


その言葉を聞くと黙ってレオンはスフィンの心臓を突き刺した剣を抜かずに湖の方へと一歩下がる。


「『ヒトの子』という名前など持っていない。俺の名前も知らずにこいつの言うことが正しいと決め付け俺を殺そうとした者を許せと?」


「それは!…その時はスフィンが正しいと思っていたので…」


「ははっ。笑わせるな。俺が光の聖霊王と契約したというだけで心変わりするようなそんな奴を許すとでも思ってるのか?」


「光の聖霊王と契約したのは嘗ての勇者だけだったのです!そして、次に契約できたのは(・・・・・・・)あなただけなんです!つまり!」


「俺が次の勇者だとでも?光が勇者ってことは闇は魔王か?」


「そうです。」


「なら、俺は魔王でもあり、勇者でもあると?」


「わかりません… ですが…!」


「まあ、光の聖霊王と契約したから利用したいと思ったわけだ?」


「利用するなど思っておりません!ですが、スフィンは間違っていると気付いたため許していただければ…と。」


少しレオンは考えると笑顔で答えた。


「いいよ。」


その言葉を聞き、その表情を見て男は安堵した。


「ありがとうございます!で、ではどうぞこちらへ…」


レオンに対しすっかり(へりくだ)った態度を取り出した男が(うやうや)しく手を里の方へと向けレオンを(いざな)う。

そんな男を見てレオンは無表情になり首を傾げた。


「俺を殺そうとしたこと、ミーティアを誘拐しようとしたことそれらのことを許しただけで里に戻るつもりはない。」


「そ、そんなっ!」


「俺からすればアザリーを含めてハイエルフ、エルフは敵になったんだよ。敵にしたのはお前らだ。なぜ敵の里へ行かなければならない?」


「で、ですが光の聖霊王と契約したあなたは勇者。怪我の状態も酷いのでとりあえず治療だけでも…」


「つまりは光の聖霊王と契約したことが重要であって、今回の事態は重要ではない、というのがあんたの本音なんだな。」


レオンの言った一言で男は体をビクリとさせ驚愕の表情を見せる。

そんな男を見たレオンは冷めた目で見たあと、少し目を和らげ視線をミーティアとレターニアへと向けた。

そこにはさっきからずっと驚いた様子のままのレターニア、レオンを怖がるミーティアが写る。

二人を見たレオンは静かに目を伏せ呟いた。





「さようなら。」




クルリと体を反転させるとそのまま湖へ飛び込む。

その姿を見て、レターニアが慌てだした。


「は、早く!早くレオン様に治療を!出血を止めないと!」


月の明かりしかないものの、レオンの体が負った傷は数知れず流している血の量も多い。更にはスフィンから刺された傷も背中から胸へと貫かれていたので普通は致命傷だ。

レオンが生きていられたのは契約したばかりの光の聖霊王の力のお陰。

自己治癒能力の強化だった。

だが、失った血まで回復するわけではない。

だから、レターニア気にしている出血死はありえることだ。

さらに湖に入れば傷口が塞がらず血は流れ続ける。

自殺行為なのだ。


最初はレターニア。

次にレオンに謝罪していた男を始めとした覆面を取った者達。

覆面をしている者達。

みんながみんな襲ってくる魔獣を駆逐しながらも湖近辺をくまなく探し始めた。


そして、ミーティアはここにきてようやく正気に戻る。

そして、気付く。

自分は攫われ、レオンは助けてくれた。

レターニアにも裏切られ、レオンは孤立無援の一人ぼっち。

半死半生の状態にも関わらず助けてくれた。

でも、助けて差し出された手を取らず怯えたのは自分。


「あ、あああ!あああっ!! れ、レオン!!レオン~!!」


アザリー譲りの小麦色で腰まで伸びているロングストレートの髪を振り乱し、エルフで一番と呼ばれるくらい綺麗で整った顔をグシャグシャにし、異性を虜にするくらい成長した体を泥だらけにしながらミーティアも探し始める。




しかし、レオンの姿を探し出すことは誰にもできなかった。

『逃がした魚は大きかった』

『覆水盆に返らず』

そういった内容です。

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