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転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第二章
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誘拐

 婆ちゃんが帝都会議へ向かい既に二年が経過した。

会議自体は二ヶ月程で終わるらしいのだが、その後婆ちゃんは陛下から頼まれて帝国内の視察に行ったらしい。

また四将軍揃ってお忍びの視察だ。

正直言うと一緒に行きたい。

凄く羨ましい。


そして、二年前から突如として俺の回りは世話係りのエルフやら警備の者だとか増えだした。

レターニアさんに理由を聞くとよく遊びに来ているミーティアの護衛らしい。

お嬢様だから仕方ないか。


俺は七歳になり、ミーティアは十二歳になった。

にも関わらず俺には友達と言える友達はミーティアだけだ。

なので、未だに鍛錬とミーティアの相手だけをする日々を繰り返している。

最近、ミーティアは俺によく愚痴を(こぼ)しに来る。


そして、今日も愚痴を溢している。


「ねえレオン、聞いてよ!」


部屋の襖を勢いよく開けながらミーティアが俺の部屋に入ってきた。

レターニアさん、止めようよ…


魔術教本を読んでいたのだが本を閉じてミーティアを見るとなぜか顔を赤くしてプイッと横を向いてしまった。

風邪なのだろうか?


「それで、今度はどうしたの?」


溜息混じりにそう聞くと、ミーティアは思い出したかのように喋りだした。

曰く、最近ミーティアに声を掛けてくる男エルフが増えて鬱陶(うっとう)しいとのこと。

だから俺はちゃんと教えてあげることにした。


「そりゃあ、しょうがないんじゃないかな?ミーティアもお年頃の女の子だし、俺から見ても可愛くて綺麗なんだから男ならミーティアにお近付きになりたいでしょ。」


「え… 可愛くて… 綺麗… そんな…」


さっきよりも顔を赤くして… というか、ホントに(ゆだ)った様に真っ赤になったミーティアが心配になる。


「ミーティア?風邪でも引いたの?顔が真っ赤だよ?」


そう言いながら心配して近付くと飛び退かれる。

少しショックだ。

仲良くなってきたほうだと思っていたらこの態度だ。

そんな俺達にレターニアさんが声を掛けてくる。


「お嬢様、ちょっと…」


「え、うん、どうしたの?」


チラチラと上目遣いでミーティアが俺を見ながら髪の毛を指先で(いじ)くっている。

その態度と表情を見れば大体の男が落ちるんじゃないだろうか?

まあ、俺には関係ないけどね。

そう思っている間にレターニアさんはミーティアの耳にヒソヒソと話をしている。

うん、大丈夫聞こえてないから。

話終わったのかミーティアは真っ赤な顔のまま俺に近付いてきた。


「話終わったの?」


「う、うん。ね、レオン。私って可愛いと思う?」


「うん、さっきも言ったよね。可愛くて綺麗だと思うよ。」


「そ、そっか~ それでね、レオンって今気になる子とかいるの?」


「…ねえ、それって嫌味じゃないよね?」


聞かれた俺は思わず顔を(しか)めながら聞いてしまう。


「え、違うわよ!何で嫌味なのよ!」


わかってもらえていないようなので教えてあげる。


「俺が友達と言えるのはミーティアだけでしょ。気になる子なんてできると思う?それでなくとも俺はヒトの子で嫌われることはあっても好かれることなんてないよ。それはミーティアがよくわかってるんじゃない?」


せっかく教えてあげたのに今度はミーティアが何やら落ち込んでしまった。

顔を両手で(おお)ってブツブツと(つぶや)いている。


「と、友達… ただの… 友達…」


「え、もしかして友達だと思ってたのは俺だけだった?」


俺とミーティアの関係が友達でなく、俺の勘違いだったのかと少し心配になったので聞いてみると正気に戻ったのかミーティアは首をブルブルと横に振る。


「いや、友達よ!そう、今はまだただの友達… うん… 大丈夫。これからだもん…」


やっぱり体調が悪そうだ、と思っているとレターニアさんがこっちを見ていることに気が付き目がいく。

なぜか溜息を吐きながら首を横に振っている。

理解できない。

しばらく、話が元に戻りミーティアは愚痴を続け夜も()けてきたので部屋から出て行った。



だんだんと眠くなってきたので眠ろうとしたところ、レターニアさんが部屋に飛び込んできた。


「れ、レオン様… お嬢様が…」


青い顔をして体を震わせながらレターニアさんが何かを伝えようとしている。

婆ちゃんから聞いたことがあるけれどレターニアさんは世話係りなんかしてくれているけど、実は婆ちゃんの片腕みたいな人で実力はこの里でも上位者である、と…

そんなレターニアさんが顔色を変えていることで俺は深刻さを悟る。

そして、言いかけた言葉が気になった。


「ミーティアに何かあったの?」


「誘拐されました…」


「はぁ!?だってここは婆ちゃんの館だよ?ミーティアの部屋だってあるし、二年前からこの屋敷って警備が厳重になってたでしょ?」


「それが… お嬢様は外出されていたんです。」


「こんな夜更けに?」


「はい…」


まさかのミーティアの行動に俺は天を仰ぎたくなった。


「…誘拐されたってわかってる理由は… 相手から知らされたの?」


俺がそう告げるとレターニアさんは驚きで目を見開くと頷いた。


「それで、俺に知らせたってことは… 相手からの知らせに俺が関係しているんだね?」


「…はい。これがその知らせです…」


レターニアさんは誘拐犯からの手紙を俺に見せてくれた。


『アザリーの娘、ミーティアは預かった。返して欲しくば里の東から出てさらに東へと移動し湖まで来い。ただし、来るのはヒトの子一人でである。尚、お供や警備の者などの姿が見えた場合はミーティアの命の補償はしない。』


(なるほど、俺が原因でミーティアは(さら)われたのか…)


俺が魔力操作を覚えるためにこの里に預けられ七年。

ヒトに恨みを持つものはこの帝国に数多い。

俺個人を気に入ってくれている婆ちゃんや他三将軍、陛下、ミーティア、レターニアさん、この人達は犯人でない可能性が高い(・・・・・・)

全肯定しないのは『生き物不信』となっている(さが)だろう。

俺が黙って手紙を睨み付けながら考えているとレターニアさんが声を掛けてきた。


「あの… レオン様…?」


「ああ、ごめん。ちょっと考え事をしちゃってたよ。」


「それで、どう致しますか?」


「うん、行くよ。というか、俺が里の外に出ても大丈夫なの?」


「わかりません…」


「まあ、誰かいても何とかして外に出るよ。じゃないと、ミーティアの身が危ないしね。」


俺がそう言うと、レターニアさんは(うつむ)いて涙を流し始めてしまった。

やめてくれ。女性の涙は苦手なんだ。

俺は自分の頬を指で思わず掻いていることに気付きその仕草を止めると服から手拭いを取り出しレターニアさんの涙を吸わせた。


「…レオン様、私は犯人について心当たりがあります。」


ちょっと驚いた。

レターニアさんが予想が付くのなら下手をすれば里の者だろう。


「そっか。その犯人はミーティアに危害を加えそうな人?」


「…いえ、危害は加えません… ですが、その…」


「何?」


「私が思っている人物と同一ならば、その人物はお嬢様に対して…」


なんとなく言いたいことがわかった気がする。


「なるほど、なるほど… 婆ちゃん不在。ミーティアさえ攫ってしまえば俺のことはどうとでもできる… そう考えたわけだね。」


しばらく考えた後、俺はレターニアさんには部屋の外で待機してもらうことにした。

そして、俺は普段使っている机で手紙を書く。

合計二通。


書き終わるとそれを纏めて机の中央へと持っていき、俺は支度を整え部屋から出る。


「レターニアさん、指定通りに俺は里の東から更に東に行って来るよ。」


また(こぼ)しそうになっていたレターニアさんの涙を背伸びしながら指で払うと俺は笑顔で館を出た。

さっき考えているときにわかった。

苦手ではあるけれど、俺にとってミーティアは大切な人の一人になっていたらしい。


(なら、助けるしかないだろ。)


館の玄関から外へと出ながら自然と拳を握り締めているのに気が付く。

多分、俺は犯人を… 許せない。

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