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転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第二章
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レオンの成長報告

 里の東側へ討伐に出る。

レオンと約束したことをアザリーはちゃんと守り、次の里長会議で提案した。


里長会議で集まっているのは帝国内に散らばるハイエルフ、エルフの其々(それぞれ)の長達だ。

全員(あわ)せるとアザリーも含め十五人ほどになる。

全員が集まったところで議長であり帝国の将軍職も兼任しているアザリーが全体の長として会議を執り行うのだが…


「アザリー様、如何(いか)にあなた様であろうとも、ヒトの子の言うことを真に受けて戦士を何人も里から出すのか?」


そんな反論があり、実行には移されていない。


帝国内に散らばるエルフの里には其々に名前があり長がいる。

大小様々な里があるが、どこかの里が他の種族や魔物、魔獣などから襲われたと聞くと付近の里から次々と援軍が送られ撃退していく。

そして、アザリーが治める大樹の里でも同じでレオンから提案された討伐を行うとしたらいつも警備に就いている戦士だけでは人数が足りないため他の里から応援を頼む必要があったのだ。

いや、元々はその人数がいた。

だが、七年前の戦争で里にいた戦士が激減。更に、減った戦士を補うため訓練中だった若いエルフ達は帝都へ向かいそこで訓練しているため各里には戦士が不足していたのだ。

そのため討伐など戦士が多数必要な場合は里長会議で提案され、了承を得たものだけ戦士を送りあい行っていた。

が、アザリーが提案したものはレオンがいう「聖霊様が言ってる」という(おおよ)そハイエルフやエルフだけでなく、他のどんな種族の者達が聞いたとしても一笑に付される理由だ。

なので、他の物事はごり押ししてでも推し進めたりするアザリーがこの反対意見に対し強気で動くことができなかった。

それに、五年前から魔物や魔獣の動きが活発になってきたとはいえ、今のところは各里で十分対応できていたのでそこまで脅威とされていないのだ。


(レオンとの約束事ではあるが、さすがにこれは…)


反論されたアザリーは苦い顔をしていたが、無理を悟り会議はそのまま討伐に関しては様子見となった。

会議が終わりすぐさまアザリーはレオンへ会い話をしておこうと思い部屋まで向かってみるとそこには先程会議中真っ先に反対意見を言い、あまつさえ批判までしてきた若いハイエルフがいた。

嫌な予感を覚えたアザリーが急いで向かうと、部屋の入口辺りで世話を任せているレターニアと押し問答をしている。


「『スフィン』様、レオンハルト様は現在生命力枯渇寸前で寝込んでいらっしゃいます。現在はどなたにも会わせることはできません。」


「ハッ。お前も誇り高きハイエルフならわかろう。今回、会議でアザリー様が提案されたのはそのヒトの子が戯言(たわごと)を言ったからだぞ。そのヒトの子さえいなくなればアザリー様は正気を取り戻されるのだ。」


「それはレオンハルト様に何かされるという意味ですか?レオンハルト様はアザリー様が大切にされているだけでなく、陛下のお客様として遇すると通達もあったではありませんか。」


「ふん、それは五年前のことだろう。現在、ヒトの子が起こしているこの騒動を知れば優しい陛下でも処罰を決められるだろう。アザリー様がヒトの子などを(かば)って我々ハイエルフが不興を買うことにもなりかねないんだぞ?そうなる前に手を打つのだ。わかったならそこをどけ。」


まだレターニアは何か言い掛けていたが、アザリーの姿を見るとカーテシーを行い、それに気付いたスフィンも軽く頭を下げ礼をしてきた。


「スフィン、先程のやり取りはワシにも聞こえた。貴様は何を考えておる。」


頭を上げたスフィンはアザリーを見ながら大仰に説明を始める。


「おお、聞こえていたのなら手間が省けました。失礼ながらアザリー様はヒトの子(ごと)きに心を動かされてる様子。何やら悪い呪いか何かでもかけられているのでは、と心配しまして… 原因となるヒトの子がいなくなれば(・・・・・・)アザリー様も正気に戻るのでは、と愚考し動きました。」


スフィンの発言が終わり辺りが静寂に包まれる。

レターニアはカーテシーの状態を維持しながら密かに目だけアザリーへと向けるとそこには絶対零度の目をスフィンへと向けているアザリーの姿が目に写る。

ばれても特に何を言われることもないのだが、レターニアはアザリーに見ていたことを気付かれないようまた静かに目を伏せた。


「ふむ… ワシを思っての行動とな?では、陛下からの直々の通達、もしくは命令書を見せよ。」


「いえ、それはまだ…」


「ほう… 陛下の通達から新たに何も指図されていないにも関わらず、貴様は動いておるのか。つまり、陛下の命令や通達を(ないがし)ろにしても問題ないと思ってるのじゃな?」


アザリーの発言でスフィンはアザリーが怒っていることにやっと気付いた。

だが、スフィンは表情を取り(つくろ)うと笑顔で平然と言う。


「では、この度の里長会議、そこでアザリー様が提案なさった討伐はヒトの子が原因だということで陛下へ処分を求める嘆願書を送らせていただきます。」


「なにっ!?」


「陛下が問題無いとされるのであれば何も起こりますまい。嘆願書はすぐさま用意致しますので、アザリー様が他の三将軍や軍関係の方々、及び陛下と会議をなされるため帝都へ出立するとき同時に持っていっていただけますか?途中で嘆願書がなくなっても困りますので。」


表すならニヤッとした嫌な笑い方をしつつ、スフィンはそこからアザリーへ驚きのお願いを申し込んだ。


「それと、その処分がエルフの里の混乱を未然に防いだなどと私の行動が功績と認められた時は… ミーティア殿と婚約させていただきたい。」


さすがに予想外の答えが返ってきたためアザリーは驚いて目を見開き、レターニアは殺気を(まと)い始める。


「ほう、ミーティアはまだ十歳だが?」


「十歳と言えど、あと五年後、十年後を考えれば今から決まってもおかしくないでしょう。それでいかがでしょうか?」


「それが、功績となったなら…な。考えてやろう。」


「ありがとうございます。」


アザリーから欲しかった返事を貰い、満面に笑みを浮かべたスフィンは丁寧な礼をしてからその場から去った。

スフィンの姿が消えたのを見たレターニアはアザリーに駆け寄る。


「アザリー様!よろしいのですか!?あのような欲深い者をミーティア様の婚約者として!」


「いいわけなかろうが!じゃが、あやつは『レオンを処罰しそれが功績となったならば』という条件ならば、と言いおったじゃろう?」


「ああいう者は手段を選びません!レオン様に何かしてくるやもしれません!」


「ふむ… 確かに… レオンを手に掛けておいて後で自分の言うことを主張する… やり方としては確かに有り得る。」


「では…!」


「じゃが、ワシは既に許可を出してしもうておる。陛下に奴の嘆願書を渡し、返事を持って帰ってくるまでレオンの周辺警備を強化しよう。」


「よろしくお願いします。」


レターニアがアザリーへお礼を言うと、アザリーはフッと表情を変えて意地の悪い笑いを浮かべる。


「それにしてもレターニア、お主がレオンのためにそこまで考えるとはのぅ。」


対して、レターニアは辺りを見回すとアザリーの耳元へ口を寄せると密かに(ささや)いた。


「…レオン様はあれから魔力量を更に増やし、既にお嬢様を超えていらっしゃいます。加えて私が付き添いで外へ出掛けた時は魔力操作だけでなく武術の方も訓練され始めました。武術の方はまだ肉体がついていっておりませんが、技術だけなら… この里のどの戦士よりも優れていらっしゃいます。」


その密かな報告を聞いたアザリーは声を挙げそうになるのを必死に抑えると辺りを見回すとレターニアと会話を続けた。


「バカな!確かにレオンの父親は王国の『バーサーカー』。それなりに素質はあるじゃろう。じゃが、戦闘技術などは…」


「そうです。戦闘技術は先達者から教わったりしなければ知りえません。レオン様は人気の無いところで延々と何かの()を練習されてるように見えます。」


「レオンの言う、聖霊様の声が聞こえるというのもあながち嘘ではないのかもしれんな…」


「アザリー様は信じていらっしゃらなかったのですか?」


「…信じたいが信じられない、それが本当のところじゃな… 第一、それができたのは聖女だけで、しかも魔王がおった頃じゃぞ?尚且つ、レオンは五歳じゃ…」


「まさか、とは思いますが… レオン様は勇者なのでは…?」


レターニアの発言を聞いてアザリーは思わず息を止めた。


「…勇者が必要な世になったというのか…?」


「最近の魔物や魔獣の活発さは理由としては至極(しごく)もっともな理由になると思います。」


しばらく腕を組んで考えていたアザリーだが、苦笑し始めた。

レターニアがどうしたのかと思っているとアザリーは片手を左右にふり話し始めた。


「いや、スフィンの奴が言ってきたこと、レオンの提案のこと、帝国会議のこと… 色々なことを考えねばならぬのに。一番考えさせられたのはお主のその報告じゃったわ。」


「申し訳ございません。」


「怒っているのではない。レオンが異常に才能がありすぎるのじゃ。そういえば、レオンは魔力操作の他に武術の鍛錬以外はしておらぬのか?」


しばらく思案したレターニアが思い出したかのように報告する。


「最近は本を読みたがるようになりました。…魔術書といった(たぐい)ですが…」


「あの年頃の子供は普通、物語やら童話を読みたがると思うんじゃがのぅ…」


「歴史書は好んで読みますが物語や童話は読みませんね。友達と言える者がいないせいか外へ遊びに出ません。でも、一人遊びなどもしませんし…」


それを聞くと片手を額に当てて顔を少し上に向けた。


「…別にレオンはこの里に幽閉されているわけではないのじゃが… ミーティアはどうしておる?あれからレオンに対して意地悪などしておらぬじゃろう?」


母から見れば… というより、世話を言い渡されているレターニアから見てもミーティアはレオンに恋している。

そのミーティアがこんな状態のレオンを放っておくはずがない。

そう思ってアザリーは聞いてみたのだが…


「お会いになっておりません。というより、お嬢様が尋ねてきたときは大概の場合、レオン様は外に出掛けている最中なので…」


「避けておる…のか?」


その発言を聞き、レターニアの返事を待つとまたしてもアザリーは驚かされた。


「レオン様が言うには、風の聖霊様がお嬢様が近付いてくることを知らせてくれるからわざと外出してるとのことです。」


「……言葉を失わされるのぅ。そこまで聞くとお主がレオンへ傾倒するのも頷けるわ。ワシもレオンの言う言葉が聞こえることを改めて信じよう。じゃが… ミーティアが不憫じゃな…」


「ええ、私もお嬢様には同情を感じえません。ですが、アザリー様はお嬢様がレオン様をお慕いすることについてよろしいのですか?」


そう聞かれたアザリーは満面の笑みを浮かべた。


「子とも孫とも思っておるレオンじゃぞ?実の娘のミーティアが慕うとなれば逆に応援するわ。ワシがもう少し若ければワシが迫っておったかもしれぬ。」


「そうですか。ですが、レオン様はまだ五歳。これからの成長過程によっては我々に対して敵対心を持ってしまったり、下手をすればスフィン様と同じような者になってしまうやもしれません。今の年齢からミーティア様が近付くのは…」


「それが一番気になるところじゃのぅ… このまま育ってくれたらとも思うが、今のままではレオンは孤独じゃ… 今度の帝都会議で陛下や他の将軍達にも言ってみよう。さっきの聖霊様が知らせてくれるという件を含めて話をすれば陛下を含めてレオンの待遇のことがいい方向に変わるやもしれんしな。」


「レオン様の待遇がよくなるのなら個人的にも是非(ぜひ)に…と申し上げます。」


レターニアの顔が満面の笑みを浮かべたことでアザリーは自分の考えが間違っていないと確認できたのだが…


「お主… 本当にレオンに惚れていないであろうな…?」


そう言うと、レターニアは静かに横を向いた。

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