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転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第二章
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レオンの変化

 婆ちゃんの告白も驚いたが、ミーティアが俺の名前を聞いてきたことにも驚いた。

なんせ、俺がミーティアを見ても怒り、声を掛けても怒っていたからだ。

さっき、魔力量のことで俺に怒鳴ってきていたが、あの怒っているときの怒りの何割かは俺がミーティアを見たまま話をしていたからだろう。


(でも、なぜいきなり名前を… あぁ、なるほど。ただのヒトの子だと思ってたのが敵対してるとはいえ王族の男児と聞けば気も使いだすか…)


思わず顔や態度にそんな気持ちが表れそうになるがそれを止める。

今の俺の心境を言葉で表すなら、『生き物不信』。

『男性恐怖症』、『女性恐怖症』、総じて『人間不信』。

でも、ここは異世界で婆ちゃんやミーティアはハイエルフ、爺ちゃんはドワーフ、ヒューバートは人狼、ゴランはリザードマン、陛下は竜人。

様々な種族がいるので生き物不信。

信じたいが信じられない。

何せ『加護』をもらったと言われても不幸が身に(まと)わりついていているのだ。

悪夢で見たようにいつか悲惨な終わりを迎える。

だから、母が言い残したように大切な人を守れるように力を付ける。

その結果として今までと同じような悲惨な終わりを迎えたのなら… それはそれで受け入れるしかないじゃないか。


「俺の名前はレオンハルト、だよ。婆ちゃん達はレオン、と呼ぶけどね。」


それを聞いたミーティアは自分の小麦色で綺麗な髪先を指でクルクルと回しながらそっぽを向く。

それから婆ちゃんが落ち着きだしたところで、次の里長会議で提案してもらうことを約束し直しその時は終わった。



だが、その日から俺に対して婆ちゃんとミーティアの態度が変わった。

婆ちゃんは(さら)に過保護になり、俺が部屋から外へ出かけようとすると自分かもしくは世話係りのエルフ、『レターニア』に付き添わせるようさせてきた。

そして、ミーティアは…


「れ、レオンハルト…」


と声を掛けてきだした。


最初は緊張した様子が表に出ていたのだが、慣れてきたのか次第に婆ちゃんと同じようにレオンと呼ぶようになっていった。

その様子を見たいつも俺をミーティアと一緒に虐めていた子供達が「何かあったのか?」と戸惑いながらも少し安心するような表情をしていた。

恐らく虐めていた時のミーティアよりも今のミーティアの方が安心するのだろう。


ともあれ、俺のことを愛称で呼ぶようになってきたミーティアは…

「お前は婆ちゃんの指図でも受けたのか」と思うほど過保護で俺に対して過剰に反応するようになってきた。


里の外にでることを許可してもらえなかった俺は今までと同じように魔力量を増やすため、自室にいるときも魔力操作を行い続けていた。

そして、いつものように魔力枯渇を起こし、そのまま生命力も削り魔力操作を続けていく。


(もう少しで生命力も枯渇してしまう… そろそろ止めるか。)


と、思いちょうどやめようとした時にちょうどミーティアが俺の部屋を訪ねてきた。


「レオンいる?」


ミーティアは言うならば思ったら即行動な猪突な部分がある。

部屋を訪ねてきてる時も俺が返事する間もなく部屋の入口にある(ふすま)のようなものを躊躇(ちゅうちょ)無く開ける。

そして、この時も開けた。

途端に叫ぶ。


「ちょっとレオン!何してるの!」


その言葉に俺は面くらいつつも魔力操作を止め、ミーティアを直視しないようにしながら返事した。


「何って… 魔力操作。」


だが、ミーティアはヅカヅカと近付いてきて俺の顔を両手で掴むと目と目を合わせて怒り出す。


「そんことは見ればわかるわよ!私が言ってるのはなんで生命力を削ってまでしてるの!ってことよ!」


(ちょっと待て、生命力枯渇寸前まで俺に魔力操作させてたのはミーティアなんだけど…)


思わず目がジト目になりミーティアを見ると慌てだした。


「あ、あの時は虐めてたから…」


と、声が尻すぼみになり「あの時はごめんなさい。」と謝ってきた。

憎み嫌っている種族でも王族だし、陛下の客。更には婆ちゃんが大切にしていることで態度を改めたのだろう。

ミーティアの気持ちもわかる(・・・)ので俺は怒ったりはしない。

同様な気持ちなど以前の生の中に何度も経験もしているから理解できる。

納得はできないけれど、対応するしかない状況というものも数多くあるのだ。

だから、ミーティアが生命力枯渇寸前まで魔力操作を行う俺を止めたのだろう。


「いいよ。ミーティアの父上を殺したのはヒトだもの。俺を殺したいほど憎んでもしょうがないと思うし… 魔力操作も… もう少し… 余裕をもたせるように… する、ね…」


生命力枯渇寸前まで魔力操作を行った俺は言いたいことをギリギリ言いつつ、(いま)だ目も合わさないようにしながら倒れ込んだ。

そんな俺をミーティアは名前を呼びながら半狂乱になり、レターニアを呼ぶと俺を寝かしつけた。

そこで俺の意識は一度消えたのだが…

しばらくして俺がいつもの様に悪夢を見て飛び起き錯乱気味に自分の体や状態などを確認し終わり落ち着くと婆ちゃんだけでなく、ミーティアまでが俺を抱きしめていた。


「…婆ちゃん。ありがとう、もう大丈夫。それと… ミーティア?」


と、声を掛けるとミーティアが俺の目を見てきた。

だから俺は逆に目を合わせないよう目を伏せながら言った。


「気を使わなくていいから。」


その途端、俺を抱きしめている婆ちゃんは硬直し、ミーティアは息を吸い込み俺の頬を思い切り叩くと罵倒しながら部屋から出て行った。

俺は婆ちゃんに聞いた。


「…婆ちゃん。俺、ミーティアに叩かれたんだけど…」


「そりゃあ叩かれるじゃろうな…」


「かなり痛かったんだけど…?」


「痛い目見ないとわからないこともあるもんじゃ。ワシの夫もそうじゃったが… レオン、お前も大概(たいがい)じゃのう…」


そんなことを言いながら婆ちゃんは少し体を離し、俺を呆れた目で見てくる。でも俺は納得いかない。


「ミーティア、以前は俺に声掛けられるのも、見られるのも嫌がって… いや、嫌がるどころか怒ってきてたからちゃんと見ないようにしたり、声掛けたりしないようにしてるのに叩くんだよ?酷くない?」


それを聞いた婆ちゃんは片手を額に当てて溜息を吐いた。


「…まったくあやつはあやつで… いや、でも…」


「うん、仕方がないと思うから怒らないであげてね?」


「あ、ああ。それは問題ないんじゃ。問題なのは…」


そこまで言うと婆ちゃんはまた溜息を吐いた。さっきまでの会話の中に何か婆ちゃんが頭を抱える部分があったのだろうか?

俺が首を傾げながら考え出すと婆ちゃんが声を掛けてきた。


「あ~… レオン。お前は考えてはならん。」


「なんで?」


「お前は多分間違った方に考えがいくでな。考え方を改めなければならぬのはミーティアの方じゃ。」


「…意味がわからないんだけど…」


いや、本当にわからない。

ミーティアが心底嫌がることをしないように気を付けたり、申し訳ないから気を使わなくていいと言ったのに返ってきたのは頬を全力で叩かれ罵倒されたことだ。

婆ちゃんはなんとなくミーティアの行動を理解しているようだったので素直に聞いたのだが、婆ちゃんは珍しく歯切れの悪い様子で呟いた。


「親子二代揃って面倒な性格なやつを…」


「え?何?」


呟いていた内容が聞こえなかったので改めて聞くと婆ちゃんは首を横に振った。


「いや、なんでもない。と・に・か・く、お前は考えてはならん。この件はワシに任せるのじゃ。」


俺は頷いたが、すぐ別のことを気にして婆ちゃんに(すが)った。


「婆ちゃん、わかってるとは思うけれどミーティアは仲間や家族想いなだけで悪い子じゃないんだよ。だから、もう命令で無理矢理俺の世話をさせたり様子見させないようにしないでね?」


俺がそう言うと婆ちゃんは目に涙を浮かべて頷いた。


「うむ… それにしてもお前は気遣いができる優しい子じゃのう… それにミーティアのこともよくわかってくれておる。大丈夫じゃ。そんなことはせん。…それより、レオン。この後からミーティアが尋ねてきたりしたらそれはワシや周りから言われて来たのではなく、自分自身の気持ちに添って行動したということじゃ。それはわかっておくれ。」


「うん、わかったよ。」


婆ちゃんが言ってることはよくわかってないけれど、とりあえず支離滅裂なミーティアの行動がどうにか解決するならそれに越したことはないので婆ちゃんに任せることにした。


「それはそうとレオン。無夢丸を持ってきておいたから飲むのじゃ。」


持ってきてくれた無夢丸を俺は受け取りながら婆ちゃんを部屋から出るように促し、出て行った後は部屋の外側で待機しているレターニアにも謝罪してから布団に戻ると無夢丸を飲まず(・・・)にまた眠った。

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