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転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第二章
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ミーティアの変化

 母上とヒトの子(・・・・)の話が終わった。

話し終わった母上は私の方を見て少ししゃがみ視線を合わせてくる。


(何か怒られるんだろうか…)


そう思い体を固くしてしまう。

だけど、母上は私の頭を撫でてくれた。


「…ミーティア。レオンに謝罪せよ。お前のやったことは下手をするとレオンの命を奪っておった。今のままだとワシはお前の見る目を変えねばならぬ。そうはしたくない。」


その言葉に私は耳を疑った。

そして、その疑問は思わず口に出てしまった。

昔から私は思ったことがすぐ口に出てしまう。

あまりいいことにならないから直しておきたい癖なんだけど…


「…母上は私にこのヒトの子に謝罪せよ、と仰るのですか?」


私がどれだけヒトを嫌っているか母上はわかってくださってる、にも関わらずこいつに謝れと言うのですか?

そう思い母上を見ると母上は顔を少し歪め笑った。


「お前がどれだけヒトを憎んでおるのか、ワシと同じかそれ以上かと思っておる。」


そうだ、七年前の戦争で父上は私達の目の前で口に出すのも、思い出すのも躊躇(ためら)うくらい(むご)い殺され方をしてしまった。

それ以降、母上は里長としての自分を自覚していたので日頃は表に態度を表さないようにされていたが、私は子供だから気にすることなく感情のままにヒト嫌いを表現してきた。


「じゃが、レオンは当時産まれてもおらず、ワシ等に何も酷いことはしておらん。」


そんなことは言われなくてもわかっている。

こいつは何もしていない。

でも、ヒトの子なのだ!


私が無言で母上を見ていると言いたいことが伝わったのか、母上は続けて話し始める。


「まだ話しておらなんだが、レオンは王国でその存在を(いま)だに認めてはおられておらん。つまり、成長しても国に帰れん。」


確かに今初めて母上から聞かされたが、それがどうしたのだろう?こいつは今帝国にいて保護されている。

でも、将来どうなるかと言えばもう少し成長したところで世話してやってる(・・・・・・・・)この里で死ぬまで奴隷となって働くだけだろう。

王国で存在が認められていようがいまいがそういうやつだと私は思ってた。


「レオンは陛下の客として扱われておる。」


それは陛下の温情だろう。

ウォルフガング陛下は帝位に就く時に苛烈なことをされた方と言われているけど基本的に私達、民のために政治を行ってくださってる。

こいつの扱いも成長するまでは客という扱いであって成長すれば私の思った通りだろう。

そう思って母上を見ると母上はとんでもないことを教えてくれた。


「レオンは王国の王の血筋を引く男児じゃ。しかも、今現在もただ一人の男児。お前ももう十歳。このことを聞けばレオンがどういう身分かわかろう?」


それを聞いて私の思考は停止し、思わずヒトの子の方を見た。

だけど、ヒトの子も驚いた様子で止まっている。

どうやらこいつも初めて知ったみたいだ。


「レオン、今ミーティアに告げた通り、お前は今現在認められてはおらんがワシ等が敵対している『エルスリード王国』の正統な血筋を引く唯一の男児じゃ。お前ほど賢ければそれがどういう者かわかろう?…いや、わかるよな?」


知らされたヒトの子はしばらく驚いたままだったけど、少しして母上に尋ねた。


「…婆ちゃん。婆ちゃんや爺ちゃん、ヒューバート兄ちゃん、ゴラン小父(おじ)ちゃん達が俺を大切にしてくれていたのはその王国の血筋を引いた唯一の男児だから?それとも陛下の客だから?」


その言っているヒトの子は今まで私が見てきた中では見たことが無い表情と気配だ。

でも、母上はそんなヒトの子を見て慌てて否定した。


「違う!ワシ等はそういう理由でお前を可愛がっていたのではない!!ワシ等は純粋にお前が可愛いから大切にしているのじゃ!」


それを聞いた私は驚いた。

ヒトの子が言う、爺ちゃんというのが誰かはわからない。

でも、兄ちゃんなどと呼んでいるのは恐らく母上と時々国内を視察したりしている『弓のヒューバート』様で、小父ちゃん呼ばわりしてるのは『武器屋将軍』ゴラン様だろう。

みんながみんなヒト自体をかなり嫌ったり、恨みを持っているはずだ。


(こいつ… 母上もそうだけど他の将軍達にも可愛がられてるの…?)


帝国内でも母上を含めみんな実力、人格が立派でみんなから憧れられている将軍達から可愛がられてるとか他の者達が聞いても信じられないだろう。

母上は違うと言っているがそうでもないとヒトの子が大切に扱われるわけがない。

ヒトの子もそう思ったのだろう。

一瞬(・・)悲しそうな顔になった。

でも、すぐその表情は笑顔になる。


(え、なんで?)


そう思っているとヒトの子は言う。


「うん、婆ちゃんやみんなが凄くいい人達なのはわかってるよ。いつも思ってるけど、ありがとう。」


その言葉を聞いた母上は片腕で私を抱きしめ、もう片腕でヒトの子を抱きしめたまま泣き出した。

私はさっき一瞬見せたヒトの子の表情の意味がわからず、初めてこのヒトの子の顔をマジマジと見る。

すると、ヒトの子は今まで見たこともないくらい泣きそうな顔になっていた。

こんな顔は数年間(いじ)めていた私でも見たことがない。

母上は抱きしめ、号泣しているから見えていない。

でも、私にだけは見えている。

きっとヒトの子も私が見ているとは思ってもいないのだろう、悲しそうな顔から… 無表情になった。

その顔を見て私はなぜか胸が締め付けられるような、そんな感覚を覚えた。

少しして私の視線に気付いたのかヒトの子が私の方を向き表情が少し困った顔ったような顔になる。

そして、そんなヒトの子を見ているとなぜかイライラしだした。

嫌って虐めていた時とは違うイライラだ。


(あれ?こいつって…)


と思っていると、


「おい、お前。」


…また私の悪い癖が出て気付けば口に出している。

母上が私がヒトの子に何を話すのかと気になったようで私達を抱いた状態から顔を離して様子を見ている。

少し慌てて自分の口を押さえるけどもう口に出し始めているので私は言った。


「お前の名前は?」


覚える気もサラサラなかった私はヒトの子がなんという名前か知らなかったのだ。

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