アザリーの苦悩
ワシを「婆ちゃん」と呼び可愛らしい笑顔で呼んでくれるレオンを見て苦悩する。
最初はただ友と認めたアルフレッドとミントの子供というだけの存在じゃったのに、いつの間にかワシにとっても本当の自分の子供かもしくは孫とも思えるほど入れ込んでおった。
自分の夫を惨たらしく殺したヒトの子であるというのに不思議な子じゃ。
自分自身の気持ちの変化をフッと思い出しておるとレオンは小首を傾げ「ダメ?」と言ってきおった。
思わず「ぐっ…」と声を洩らしてしまい、慌てて咳払いをして誤魔化した。
本当にレオンはその心もそうじゃが、姿が愛らしすぎる!
だからこそ、そんなレオンが初めてお願いしてきたことを認めてやりたい…
じゃが、それは認めてはならんのじゃ!
「レオン、お前が自分の希望をワシに言ってきたのは初めてじゃ。だからその希望を叶えてやりたい。」
「なら…!」
「じゃが!それは認めん!」
「…なんで?」
とても悲しそうな顔になったレオンに思わず認めてやろうか、などと考えもしてしまったが首を横に振り冷静さを取り戻す。
(いかんいかん!)
「当たり前じゃ!確かに魔力量はミーティアと同じくらい多くなりヒトでは有り得ないほどの魔力量となった。しかも、ミーティアが契約していない風の聖霊様とも契約を既に交わしておる。里から出る条件はお前の言う通り聖霊様との契約。じゃ・が!お前は五歳じゃぞ!?ハイエルフやエルフの子供の中に今までも優秀な者が生まれ、同じように幼い頃から契約を結ぶことに成功した者もおったが、ワシは幼い子供が里から出ることを認めたことはない。」
ワシがそう言うとレオンは首を項垂れ意気消沈してしまった。
「…婆ちゃんの嘘吐き…」
「い、いや!嘘は言っておらん!大体、五歳の子供が魔物や魔獣を討伐するという方がおかしいのじゃ!お前は子供らしくみんなと遊んでおればよい。魔物や魔獣などはワシや他の大人が討伐するものじゃ。」
ワシがそう言うと項垂れていたレオンは顔を上げまた首を傾げながら手を顎に当てて考え始めた。
なんと言ってこようが認めんぞ!
ワシがそう強く気持ちを固めていると考えが決まったのかレオンが口を開いた。
「でも、婆ちゃん。魔獣や魔物の気配がどんどん多くなってきてるって聖霊様が言ってるよ?」
その言葉を聞いてワシは驚いた。
聖霊様の声を聞けるのは勇者と行動を共にし魔王を倒した『聖女』と呼ばれた者だけなのだから。
しかもその聖女は女であった。
レオンは男。
ワシがそう思っていたら抱きしめていたミーティアも同感だったのか騒ぎ出した。
「お前、里から出たいからってそんなわかりやすい嘘を言うな!聖霊様の声が聞こえるのは嘗て勇者と魔王を討伐した聖女だけだ!しかもお前は男!聞こえるなどありえない!」
ミーティアの言うことを聞いてレオンが嘘を白状したり、慌てて弁解するのか…
(ワシが少しレオンを可愛がりすぎたためレオンが増長してしまったのか…?)
そう思いレオンの様子を見ているとまたレオンは考え込んでしまった。
ワシはミーティアの育て方も間違えてしまっていたが、預かっていたレオンの育て方も間違えていたのかと思いレオンを叱ろうとした。
「…レオン。どうやらワシはお前を買い被っておったようじゃ。その様な嘘を言うようになってしまうとは…」
そこまで言ったところでレオンがまた口を開いた。
「…ううん、嘘じゃないよ。でも、嘘だと思うなら婆ちゃん。魔物や魔獣と戦えるような人達を連れて一緒に里の東に行ってみて。できたら早めに。」
「なんじゃと?嘘ではない、と言うのか?」
「ミーティアの言うように里から出たいだけなら東に行くって言わないでしょ?なら、『論より証拠』だよ。」
「お前は子供なのにそんな諺を知っておったのか。」
ワシは思わずレオンの賢さを褒めたが、なぜかレオンは嘘吐き呼ばわれされたことよりも褒められたことの方が慌てている。
「それで… どうかな?」
「…それはワシ一人の考えで行えることではない。次の里長会議で他の里長達に提案してみなの承諾を得ねばならぬ。」
「婆ちゃん、わかったよ。」
とりあえずレオンが納得してくれたことでワシはホッと溜息を吐いた。
子供の育て方も勉強しなおさないといけないが、レオンのお願いというのが子供の願いの範疇を超えていることでワシは頭を抱えることになった。