表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第二章
11/29

五年後

 暗い、とても暗い洞窟の中を這い回る。

周囲の仲間と共に這い回る。

外から取ってきた硬い石と折ってきた木で斧を作ったり、弓を作ったりする。

できた武器は配分され仲間達と洞窟から外へと出て行く。


外に出ると辺りは眩しい光で満ちていてオレ(・・)達には目を開けられないほどだ。

全員が眩しさに慣れ、改めて目を開き辺りを見回すとそこにあるのは見事な森。

立派な大木が並び、美味しそうな木の実が沢山実っている。


(これはオレ達のもの。誰にも渡さない。でも、これを取りに来る敵がいる…)


敵なら…

殺そう。


単純な思考。

でも、仲間を見ると全員が同じ気持ちなのか猛る気持ちが顔に現われている。

オレも同じような顔付きをしているだろう。


行こう。


誰が口にするわけでもない。

でも、みんながわかっている。


殺せ。

奪え。

犯せ。


みんな手にそれぞれ武器を持ち森を走る。

集まって動くでもなく、それとなく散らばり辺りを見回しながら目的地を探す。

そして、仲間の一人が目的地を見つけ、みんなに伝える。


あった。

あそこが エモノ(・・・) の居る場所だ。


無言の合意。

そして… オレ達は襲う。

ヒトを、家畜を殺し、喰い、犯し、タカラを見つけ洞窟へ持ち帰る。

犯したヒトの女も連れて行く。

子供を増やせ。

仲間を増やせ。

本能に従い行動する。


何度か同じように村を襲い洞窟へ帰る。

その繰り返し。

終わりはない。


だが、ある日突然終わりは来る。

今までと同じように村へ行き、襲い掛かると仲間が次々と死んでいく。

慌てて辺りを見回すと罠が仕掛けてあったようで混乱しているうちに今度はヒトが武器を持って襲い掛かってくる。

仲間が死んでいくことに憤りを覚えながら反撃する。


(よくも仲間を…)


みんなの気持ちは一つだ。

だが、今回は違った。

ヒトはなぜかオレ達の攻撃を受けても生きていて、逆に攻撃されたオレ達は次々と殺されていく。

そして、仲間が少なくなってきた。

残りは僅かでヒトはオレを攻撃してくる。

斧を振りかぶりヒトの頭を狙うがあっさりと避けられ、オレは胴を剣で撫でられる。

次の瞬間にはオレは地面に倒れこみ、痛みで叫び声を挙げながら転げまわる。

オレを斬ったヒトは何か叫びながらオレの頭に剣を振りかぶり…

突き刺した。




















「うああああぁぁぁぁ……!!!」


「レオン!レオン!!しっかりせい!!」


「あああ、あああ… 体、頭… ううぅぅぅ…」


()は目を覚まし、自分の体を思わず確かめる。

胴体は繋がっていて、頭は剣など刺さっていない。

それを確かめると俺は声を掛けてきた人物を見て返事した。


「ハァ… ハァ… 大丈夫だよ。アザリー婆ちゃん。」


だが、俺の様子を見ていた婆ちゃんは首を激しく横に振る。


「何が大丈夫なものか。お前はもう少し自分を労わるということを覚えるのじゃ。」


「今でも十分労わらせてもらってるよ?」


そんな俺の返事を聞いた婆ちゃんは俺の頭を軽く小突く。


「子供の癖に変な気を使うでない!子供は子供らしくするのが一番じゃ。」


言い終わると婆ちゃんは俺を抱きしめながら頭を撫でてくれた。


「…また、夢を見てしまったのか?」


「…うん。」


「では、『無夢丸(むむがん)』を飲んでおくのじゃ。全く… 子供じゃから遊び疲れて薬を飲む前に寝るのは無理もないが、ワシの身にもなってみい。」


「ごめんなさい…」


謝る俺の頭を撫でていた優しい手は頭から頬へと移り、目と目を合わせられる。

そこに写るのは翡翠色の綺麗な目をした若々しいハイエルフ… アザリー婆ちゃんが居て真剣な目をしている。


「さっきも言うたように、子供は子供らしくするのが一番じゃ。お前が悪いわけではないのに謝る必要は無い。」


「…でも、俺はお世話になってる身だし…」


「ふぅ… お前は五歳のわりには気を使いすぎる。もう少し肩の力を抜くのじゃ。」


やれやれ、といった様子を見せながら婆ちゃんは優しく微笑んでくれる。



そう、俺は五歳になった。

狼から襲われた後、どうやら父と婆ちゃん達が話し合ったとのことで俺は現在婆ちゃんの故郷であるエルフの里の一つである『大樹の里』に預けられている。

どうやら、というのは地震の時に無理矢理魔力操作を行った影響で俺は魔力枯渇、生命力枯渇と死ぬ間際の状態に陥り意識が無くなり、その意識がない間に話し合ったと聞いているからだ。


その後、俺が目を覚ますと父とミントさんがすぐさま俺に駆け寄り抱き上げ喜んでいた。

が、しばらくすると俺を婆ちゃんへと預け、そして俺の頭を撫でながら


「アンジェリカの遺言通り生きてくれ…」


と、俺に涙声で声を掛けてきた。


父が離れた瞬間は正直捨てられたのかと絶望感に打ちひしがれた。

だが、婆ちゃん達に抱かれて帝都『ビース』へ向かい旅をするようになると悪夢を見ることが少なくなった。当初はそれを不思議に思っていたのだが、度々婆ちゃんが俺に口移しで薬を飲ませるようになってからだということがわかり、これこそが父が婆ちゃんに俺を預けた理由だ、と思うと預けた時の父の声や気持ちを理解した。

自分達、ヒトでは解決できない問題をなんとかしてくれたハイエルフ。

そのハイエルフに亡き妻の忘れ形見とも言える俺を預けた真の理由。

俺の悪夢が原因だったのだ。

ともあれ、その後ビースへと到着した俺は婆ちゃん達に抱かれたまま皇帝に会った。

皇帝『ウォルフガング』は玉座に座りながら、地震から始まりと周辺の被害状況、それから父や俺に関する婆ちゃん達の報告を聞くと立ち上がり俺の顔を覗き込み、(おもむろ)に頭を撫でながら優しい声で言った。


「悲しみのあまり髪の色まで変わってしまった子…か。敵対せぬ限り、しばらく『レオンハルト』はワシ個人の客として扱う。皆のもの、その辺りを理解して接せよ。」


その時には目が開くようになっていたので覗き込んできた皇帝と目を合わせると俺は笑いかけた。皇帝はそんな俺を見て驚いた表情になり、次に顔を(ほころ)ばせると再度その場で命令を下した。


「レオンハルトはワシが敵意を持ってないことがわかり笑いかけてきおった。我が子、『グレイ』の友となりえる子である。大切に育てよ!」


そんなことがあって俺はずっと婆ちゃんの故郷である大樹の里へと連れてこられ養われ始めた。


 俺を里へと連れてきた後、婆ちゃんは里の主だった者達を集め里長会議を行った。

そこでは当初ヒト嫌いの代名詞とも言われていた婆ちゃんがヒトの子である俺を抱いている姿を見て集まった里長達がヒソヒソと話をしているのが聞こえた。


「とうとうアザリー様はヒトの子を攫ってきたのか…」


「儀式の生贄とするためか…?」


などと言っていた。

俺としてはドン引きである。

ヒソヒソ話にしては声が大きく、婆ちゃんも聞こえていたのだろう、笑顔だが額に血管が浮き出るほど怒っていた。

ただ、そんな婆ちゃんを複雑な目で見ている者がいた。俺がその目に気付きそのエルフを見ると向こうも気付いたのか俺と目が合うと絶対零度の目で睨み付けてきたので俺は目を見開いて驚いた。

婆ちゃんは俺の表情に気付き、次に睨み付けていたエルフを見て困った顔に変わった。

当時は知らなかったが、その睨み付けてきていたエルフこそ婆ちゃんの娘である『ミーティア』だったからだ。


婆ちゃんは咳払いを一つすると議場を静かにさせ、挨拶から入り、各里長達からの報告を聞いていた。

その報告を聞きつつ、時には笑顔を見せ、口で褒め…

時には怒り、叱責しながらも最適な対応がどうであるか教えてやるという立派な長の姿を見せた。

そして、最後…

婆ちゃん自身が今回、他の三将軍と共に出掛けていた先で起こった地震や俺に関することを説明し、且つ既に皇帝からの通達が発せられていることを伝えると議場は少し騒がしくなった。

そして、場の混乱はさておき、一人体を震わせながら椅子から立ち上がったエルフがいた。

ミーティアである。

ミーティアは婆ちゃんのように額に血管を浮かすほど怒りながら、婆ちゃんを指差しながら怒鳴った。


「母上!父上を殺したのはヒトであり、ヒトは利己的であり自分自身の利益を追求し、同族同士でも殺しあう理解できぬ蛮族だと私に教えたのは… あなたではないか!今更、ヒトの中にも信用できる者がいて、


その子を預かり養育することになったなど、あなたが我々に言うのか!」


それが五年前、俺が里に着た当時に起こったことだ。

その後の議場は惨劇という言葉がぴったりだった。

ミーティアは赤子である俺に魔法を使い殺そうとし、婆ちゃんはそれに気付きミーティアに対して魔法を唱える。

周囲のハイエルフ達はミーティアと同じ気持ちだったようで最初は止めようともせず傍観していたが、婆ちゃんが


「陛下が決めたことに逆らうか!」


と言った一言で俺に対する攻撃が反逆に繋がると思い至ったのだろう。

ミーティアを羽交い絞めにしながら止める様になった。

動けなくなったミーティアに俺を抱いたまま近付いた婆ちゃんは処罰として、嫌っているヒトの子の養育を自分が不在時に代わって行うようにと里長として命令した。

ミーティアは羽交い絞めにしてきた他の里長達から里から追放される可能性を指摘され、忌々しそうに俺を見ると婆ちゃんに承諾した。


その当時は知らなかったが、婆ちゃんの旦那であり、ミーティアの父であったハイエルフはどうやら二年前の戦争でヒトに(むご)たらしく殺されてしまったらしく、それまでヒトに悪感情を持っていなかったミーティアに対して強い憎みを植えつけてしまったらしい。さらに俺を連れて帰るまでヒトに対して悪感情しか持っていなかった婆ちゃんからヒトについて話を聞くことによりミーティアはヒトに対して酷く(いびつ)な見方をしてしまうようになっていた。と、俺が四歳になった頃、物事の分別が付く子だとわかった婆ちゃんが俺に教えてくれた。それと同時に、


「あやつもまだ九歳。今ならまだヒトに対する見方も変えることもできよう… レオンは迷惑を掛けることになかもしれんがあの子を見捨てないでやっておくれ…」


婆ちゃんが俺に言ったその一言は衝撃的だった。


(俺の面倒を見始めたのがあれで五歳児だったとはね… それに婆ちゃんに対して正々堂々と真っ向から正論で立ち塞がった。…ホントに五歳児だったのか?)


そう思わされたほどミーティアは考え方や態度はしっかりとしていた。

それは婆ちゃんの養育の賜物ではあるが、頑として自分の間違いを認めない頑なな性格にもなってしまっていた。

今現在、十歳となったミーティアは婆ちゃんが里に戻ってくるまでは俺の面倒を見ていたが、婆ちゃんが里に到着すると同時に俺の目の前から去って物陰から婆ちゃんと俺を睨んできている。

そして、俺が丸薬を飲まずに寝ることになったのは婆ちゃんが言っているように遊び疲れて飲み忘れたわけではない。

ミーティアのヒト嫌いはまだ続いているし、俺はそのせいで苦しまされている。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ