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転生者は夢を見ない  作者: カール・グラッセ
第一章
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アルフレッドの決断3

続けて投稿させていただいてます。

というか、アルフレッドのやり取りがここまで長い話になると思ってなかったのでちょっと驚きです。

四将軍のそれぞれの一人称が違ってたりしたらどうしよう、と一応投稿前に見返してますが間違ってたらごめんなさい(陳謝)

 その問いをしてきたのは一人のリザードマンだった。だが、このリザードマンには見覚えがある。

そして、俺の返答を聞いたリザードマンからは敵意と凄まじいほどの威圧が向けられてきた。

他の三人からは驚きながらも警戒する気配が伝わってきた。


「デハ… 俺ノコトガワカルカ?」


「二年前に俺と戦ったゴラン将軍だな?」


そう、この目の前のリザードマンと俺は二年前に戦場で相対した。

そして、お互いに殺しあった。

帝国軍が撤退してくれたので俺は死ぬことなく帰還できたが、戦闘が続いていたら恐らく俺は…


「ソウダ。アノ時ノ『バーサーカー』トハナ…」


「…俺の首が所望か?」


俺がそう言うと、隣で土下座していたミントがハッと頭を上げて声を挙げそうになる。


「…リザードマンハ武人ダ。武人ハ戦場デノミ武ヲ奮ウ。敵ト言エド、アノ状況、アノ場デ戦ッタオ前ニ悪イ感情ハモッテイナイ。ダガ… 『バーサーカー』ノ息子トハナ…」


「俺もまさか、こんな場所で将軍に会うことになるとは思わなかった。それで、俺の願いは聞き…」


「俺()?」


「い、いや、俺達の願いは聞き届けてもらえるのだろうか?」


思わず素の言葉遣いに戻りハイエルフに聞こうとしたら、ミントからの思わぬ威圧感を感じ取り慌てて言い直した。

ただ、そんな様子を見ていた将軍とその仲間達は次第に笑い出した。


「ま、まさかあの戦争で殿を務めワシ等を苦悩させた『バーサーカー』がこのような女子(おなご)に慌てふためくような者だったとはのぅ…」


「確かに、あの時に一番苦労した相手のこのような様子を見られるとは…」


「フフ、この四将軍を相手に一歩も引かなかった御仁とは思えないな。」


その人狼の言葉を聞いて俺は思わず聞き返した。


「え、四将軍!?」


「オイ…」


「あ…」


ゴランが人狼に対して突っ込みを入れるとハイエルフもドワーフも思わず止まっている。

だが、その時の俺は助かった気がした。

そして、それをそのまま口に出す。


「帝国の四将軍が認めてくれるならその方がありがたい。お願いします。何卒、レオンのことをお願いします!」


正体をばらしてしまった四将軍は黙っているが、帝国でこの四将軍の存在は大きい。


ハイエルフの『魔将軍アザリー』

ドワーフの『蹂躙のドワーフ』ことガンドルフ。

人狼の『弓のヒューバート』

リザードマンの『武器屋将軍』ことゴラン。


ヒトは彼らの存在を恐れ、相対するものは死を覚悟させられる。

それだけ強く、帝国でも存在も大きい。そして、発言力も大きい。

帝国の皇帝も彼らに対しては強気で対することは早々無いと聞いている。

だからこそ(・・・・・)、彼らの許可がもらえたらそれだけレオンのことは信じられるのだ。


俺の声を聞いて正体をばらしてしまったヒューバートが口を開いた。


「我等の正体を知りつつ庇護を求める… 我が子を想う強さはわかった…が、一度アザリーが魔力操作などに関して赤子に叩き込むと思うのでしばらく預かることになる。それも数年、数十年と掛かるかもしれない?お前はそれに耐えられるのか?」


そう聞かれた俺はしばらく自分の心と向き合う。

そして、脳裏に浮かんだのは亡き妻のアンジェリカのレオンを頼むといった内容の最期の言葉だ。


「レオンの魘され方は異常だ。その異常さが無くならないとこの子は幸せにはなれないと思う。だから、我が子の為に俺は耐える。」


次に聞こえてきたのはアザリーからの質問だ。


「この赤子が魔力操作を行い、魔法を唱えようとした。ヒトの子でありながらな。これはワシ等にとっても異常なことじゃ。じゃから、


ワシ等は皇帝に対してこのことを進言してからこの赤子を預かり育てる。当然、それなりに監視も付くじゃろうし、将来は帝国軍人とし


て軍に組み込まれるかもしれん。お主… 将来、息子と敵対し相見えるかもしれんが、それもよいのか…?」


俺は頭を下げたまま少し首を頷かせた。


「その時までは普通に生きられる。それまででも幸せになってくれるなら俺は耐える。」


俺がそう答えた時、それは起きた…

レオンが魘されたのだ。


「あ゛あ゛あ゛あ゛ぁぁぁぁぁ……!!!」


それは今までにないくらいの泣き方をし、暴れている。

まだ碌に動かせない手足をばたつかせはっきりと声も挙げられないはずの赤子が戦場で大人が叫ぶ程の声量で声を響かせる。

そして、目からは赤い涙を流した。


その異常な状態を見た俺、ミント、四将軍は全員言葉を失い次の瞬間慌てた。


「っな!!赤子が… 血の涙じゃと!?」


「お、おい!婆!なんとかしろ!」


「アザリー殿!」


「アザリー!」


不用意に名前を呼んではいけないとかと俺もミントも声には出さないがアザリーの方を見ると、アザリーもかなり混乱してるようだ。


「ま、待て!えっと、確か… ここに…」


腰のポーチを探り、何かを出そうとしている。


「早くせい!赤子が血の涙を流すなどと…」


「くっ…」


「アザリー!」


「ええい!お主らのせいで逆に焦るわ!黙っておれ!あった!これじゃ!」


そう言いながらアザリーが取り出したのは丸薬だ。


「これを飲ませればええはずじゃ!」


「乳飲み子が飲み干すんか!?」


「あ…」


「貸して下さい!!」


アザリーとガンドルフが言い争いを始めた時、横からミントがアザリーから丸薬を奪い、自分の口に入れ噛み砕きそれを口移しでレオンの口へと入れると続けて胸をさらけ出し乳を吸わせ始めた。

いきなり胸を曝け出したので俺、ガンドルフ、ヒューバート、ゴランは慌てて目を逸らす。


「…お主、やるのう… 確かにそれなら乳飲み子もこの丸薬を飲むであろう。勉強になったわ。」


「いえ、お薬をいただけただけでも嬉しいです。レオン君のことは私もアルフレッドも悩んでいたので…」


「お主、生母でないのにこの赤子に入れ込んでおるな?『バーサーカー』の後妻か?」


「そうなれたらいいとは思ってますが…」


「この赤子に対してそこまで必死になれるのじゃ、お主がならんで他の者はなれまい。のう?『バーサーカー』」


そんなやり取りをしつつアザリーが聞いてくるが、まだレオンが飲んでいるので顔を逸らしたまま会話する。


「…レオンはちょっと事情がありましてね… ミントを正式な後妻に迎えることが上手くいくかどうか…」


「なんじゃと!?赤子とこの女子(おなご)を見てヒトを少しだけ見方を良く思ったらダメじゃと!?」


「い、いや!ダメじゃなくて!レオンが特別すぎるんですよ!」


「言ってみい!」


「…アンジェリカは現王の隠し子でした。それが答えです。」


「…つまり、王子の一人、というわけじゃな?それがどうした?」


「あ~… 今の王にはまだ他の男児がいないんですよ…」


「ほう~… 王の正式な後継ぎに成り得る、ということじゃな。」


「そうです。」


「しかし、それを無断で我等が引き取り帝国で育てることに同意とは…」


「貴様、『バーサーカー』トモアロウ者ガ、死ヲ覚悟デ預ケルツモリカ?武人ハ戦場デ散ルノガ定メダゾ。」


アザリー、ガンドルフ、ヒューバート、ゴラン達が口々に言ってくるが実は結構奥が深く俺も頭を痛めている。


「アンジェリカは俺と駆け落ちしてたんです。そして、産まれたレオンは戦地から離れた村に連れて行き三人で暮らすように考えていました。ですが、アンジェリカは死んでしまった。レオンを無事に育てるため、アンジェリカは後妻としてミントを勧めてきました。それに、俺もミントには好意自体は持ってるので後妻として迎えたい。」


俺のその言葉を聞いてミントがこっちを見てくるのが視線でわかるが、胸をしまってくれないと俺はミントの方を見れない。

だから、そのまま続けて離す。


「さっき打ち明けたとおり、アンジェリカとは駆け落ちで… アンジェリカの預けられた先は王国宰相の家です。せめてアンジェリカが亡くなったことを打ち明け、レオンの存在を認めてもらうことで生活を保障してもらおうと考えてたんです。」


「ふむ… じゃが、お主は仮にもワシ等帝国からの猛攻撃の最中、殿を務め尚且つ生き残りその勇猛さから敵味方を問わず『バーサーカー』として敬われ、王国から男爵の地位を得た英雄として称えられておるはず。宰相に補償してもらわずとも静かに生きていくならできそうな気もするが?」


そこを突かれると痛いんだが、今は正直に答えるしかない。


「アンジェリカはかなりの美人でしてね… 妻に、と欲しがる者達は数多かったんです。高貴な者達も含めて(・・・・・・・・・)。」


そこまで聞いて四将軍は悟ったらしい。


「なるほど…」


と口々にしている。

言ったとおり、アンジェリカを妻へと欲しがる者は数多く、俺が英雄とされてからも妬む者は後を絶たない。

そして、アンジェリカと両想いであることがわかると俺は反対を押し切り駆け落ちしていたのだ。

さすがにアンジェリカが生きていたとしても後ろ盾無しで静かに何時までも暮らしていけるとは俺も思っていなかった。

なので、元からレオンの存在は知らせるつもりだった。

王家の血筋を引く初の男児となれば、その親である俺もアンジェリカもそうそう手出しされないだろうから…

でも、不安になっていたこともある。

それが子育てであり、アンジェリカ亡き後、レオンをちゃんと我が子と同じくらいの愛情を持って育ててくれる女性でないと任せられないと思っていた。

それをアンジェリカは亡くなる前にミントを推薦してきたのだ。

生前から駆け落ちし、結婚する時に祝ってくれた友人の一人として紹介されたのが初めての出会いでその後は時々アンジェリカと話をしに来るぐらいの付き合いだったのだが、レオンに対する愛情を見て安心して後妻に迎えられると安堵していたのは秘密だ。

だが、まさか俺に好意を抱いていたとは思わなかった。

そんな考えを抱きつつ俺は追加で一言言う。


「それに、今、四将軍の言動をここで見たことで逆にレオンのお願いしたくなりました。」


「ドウイウコトダ?」


「レオンの存在が認めてもらうには恐らく何かしらの条件などが突きつけられたりするでしょう。一応、太子になりますからね。でも、すぐに応じることができない条件だったら存在を認めてもらうまでに時間が掛かります。その間、レオンを弟夫妻に預けようと思っていました。」


「ふむ…?」


アザリーが要領を得ない、と言った生返事を返してくるので情報を追加する。


「…私から見てみると弟夫妻は権力を嵩に掛け、自分達の利益を追求する者達なのです。そして、私に親族と呼べるのはその弟夫妻だけなんですよ…」


俺がそういうとゴランが言葉を続けた。


「『味方殺シ』ノ、ゴルド…カ?」


俺は頷く。


「そんな弟夫妻に預けるより、貴方達四将軍にお願いする方がレオンの育成環境がいいと思ったのでお願いしたいのです。」


俺が言い終わると、ミントも四将軍も黙っていたがしばらくしてガンドルフが話し始めた。


「…結局、話始めから話し終わるまでお前さんはワシ達に頭を下げっぱなしじゃの…」


「息子のためですから。」


「条件がある。」


「何でしょう?」


「ワシはドワーフじゃ。」


「はい。」


「ドワーフには一つ掟があってのう。その赤子が落ち着くまでの間まででよい。共にここで呑め。」


「…は?」


思わず頭を上げてガンドルフの顔を見るといかついドワーフがニカッと笑いながら言う。


「共に呑めば仲間よ。国同士がいざこざを起こし、敵として相対することがあろうとも呑み仲間じゃ!」


その言葉を聞いた俺は自然と涙が浮かんできて再度頭を地面に打ち付けた。


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


「呑み仲間に対して敬語など不要!土下座もいらん!ワシは個人的にお前さんの仲間じゃ!ワシ等ドワーフは仲間を大事にする。土下座なんぞやめて楽な姿勢で座り、腹を割って呑み明かそう!!」


「ありがとうございます!ありがとうございます!」


そして、そのやり取りを横で見ていたヒューバートとゴランも雰囲気が柔らかくなるのが気配で伝わってくる。


「…ならば、我もその掟に参加させてもらおう。しかし、ヒトにもお前のような者もいるのだな…」


「『バーサーカー』ハ勇猛デ戦ッテイテモ心躍ルモノガアッタ。ヒトデモ友トナリエル者ダ。俺モ参加サセテモラウ。」


「…全く、男共は単純だからいいが… えっとミントと言ったか?」


「は、はい!」


「乳をあげおわったら、ワシ等も呑むぞ。ワシも子の為に必死になる者は嫌いではない。ワシはお主を友としたい。」


「アザリー様…」


ミントの声が涙声になったので思わずミントの顔を見ると涙を拭っている。


「ど、どうした?」


「…アザリー様はレオン君が私の母親って認めてくれたの。それが嬉しいの。親族も誰も認めてくれないのにアザリー様は認めてくれたのよ?嬉しいに決まってるでしょう?」


俺はミントの言葉を聞いてハッと気付くとアザリーへと頭を下げ直した。


「どうした『バーサーカー』?」


「アルフレッドと呼んでください。ミントへの配慮ありがとうございます。」


「…ふ、ふん。お主は鈍感そうじゃからな、我が友ミントが哀れになっただけよ。」


「ほれ、アルフレッド!何時まで土下座してるつもりじゃ!こっち来て座って呑め!!」


「お前の殿は面倒だった。その時の話でもしろ。」


「ヒトノ中デ、要注意人物ダト思ッタノハオ前ダケダ。ソノ剣技ニツイテモ話シテモラオウ。」


「全く、いい話をしておるのに酒、酒とは… じゃが、たまにはドワーフの掟もいいところがある。」


「なんじゃ婆。お前さんがワシ等一族を褒めるとは明日戦争が起きそうじゃ、やめいやめい。」


「なんじゃと!?」


「…いつものやり取りが見れていいことだが、赤子が眠っているんだ。二人共、今は大人しくされよ。」


「「む…」」


四将軍のやり取りを聞き、思わずミントと顔を合わせ笑い合い、アザリーと既に酒を出して杯へと酒を注いでいるガンドルフ達の元へと向かう。

一時命のやり取りをした敵同士、種族の違い、今現在戦争中のお互いの国同士。

そんなものは横に置いておいて俺達は呑み明かした。

それは俺の人生の中で心躍る時だ。

ただ、できればミントだけでなくアンジェリカもここにいて欲しかった…


(「何を言ってるんだか。あなたってそんなに私を好いてくれてたの?それならもう少し態度に示して欲しかったんだけど?」)


聞こえないはずのアンジェリカの声が聞こえた気がして楽しく呑んでいた俺は思わず急いで辺りを見回す。

当然アンジェリカの姿はない。

だけど、また聞こえてきた。


(「私は十分幸せだったわよ?確かにレオンを産んですぐ死んじゃったけど、後悔はしてないわ。だって、ミントっていう私と同じくらいレオンとあなたを想ってくれる親友に私の後を任せられたんだから。それにね… あなたのそんな清々しい顔をしてるのを久しぶりに


見れたんだから… 愛してるわ、あなた… 私のことを愛してくれてありがとう… いつまでも見守ってるからね。」)


その言葉を聞いた俺からは再度涙が溢れ出し周りを驚かせた。

みんなにそのアンジェリカの言った言葉を言うとミントは泣き出しポツリとヒューバートが言う。


「…奥方のアルフレッドとレオン、そしてミントを想う気持ちに…」


静かに持ち上げた杯に皆で杯を重ね、更に呑み出した。

次、いきなりですが数年経過させます。

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