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2.泣き虫蝶々




「──まぁ、なんて可愛らしいお嬢さんなの!?」

「ママから事情は聞いたわよ。一人だけ生き残ったんだって? 大変だったねぇ」

「お名前はなんて言うのかしら?」



 ……結果として。

 あたしの心配は、杞憂に終わった。

 だって、目の前にいる女性たちは皆……


 あたしがイメージしてたホステスとはほど遠い、おばちゃんたちだったから。



「フェ……じゃなかった。レン、ていいます」

「レンちゃんね。お名前まで可愛らしいのねぇ!」

「これ、あめちゃんあげるから後で食べなさい!」

「クッキーもあるわよ? 今食べなくてもいいからとっておきなさい! ね!」


 おばちゃんたちがわらわらと集まって来て、一斉に話かけられ、目を回していると、


「こーらみんな! 彼女困ってるじゃない、ゆっくり一人ずつ自己紹介して!!」


 パンパンと手を叩き、ヴァネッサさんが言う。

 その言葉に彼女たちは「はーい」と答え、横一列に整列して、一人一人自己紹介をしてくれた。


 あらためて見ると、その数は八人。

 最後の一人が名乗り終えると同時に、ヴァネッサさんが頬に手を当て、ため息をついた。


「本当はもう一人いるんだけど……まだ来てないのよね。何してんのかしら」


 その言葉に、「もう一人?」と小首を傾げると同時に……

 まるで、そのセリフを聞いていたかのようなタイミングで、



「ういーっす、おはようさ~ん……あー頭いたー……」



 そんな気怠げな声と共に、店のドアが開いた。


「あらら、もう始まっちゃってた? ごめんごめーん」


 そう言って店に入ってきたのは、若い女性だった。


 二十代前半くらいだろうか。

 輝く金色のショートヘア。

 切れ長で涼しげな、エメラルドグリーンの瞳。

 手脚がすらりと長い、スレンダーな身体。

 もう、誰がどう見ても美人だった。


 格好からして、彼女もホステスのようだが、この中ではダントツに若い。

 そんな綺麗なお姉さんは、ゆっくりとあたしに近付き、


「……ふーん」


 あたしの顔をまじまじと覗き込み……ニッと、口の端を吊り上げた。


「なかなか可愛い新人じゃん。あたしローザ。よろしくねん」

「れ、レンです。よろしく……」


 近くで見るとますます美人さんだ。顔ちっさ。

 しかし……ちょっと酒くさいぞ。


「こぉらローザ! 今日は十五時までに集合って言ったでしょ!? なに堂々と遅刻してんのよ!!」


 声を張り上げて怒るヴァネッサさん。ローザと名乗る美人さんは耳を塞ぎながら眉間にシワを寄せ、


「あーもう、声も顔もでかい……頭に響くー……しゃーないでしょー? 昨日はお客さんと朝まで飲んでたんだから。文句ならお客に……あーもう無理。お水ー」


 と、ふらふらしながら店の奥へ消えて行った。

 ……なるほど。なかなかにマイペースな人だ。


「もう……ごめんね、レンちゃん。あれでもいちおうウチの指名ナンバーワンだから、仲良くしてやってね」


 呆れた様子で言うヴァネッサさん。

 ということは、ここはお客さんがホステスを指名するお店なのか。


「さぁみんな、レンちゃんにはさっそく今夜から働いてもらうから、いろんなこと教えてあげてね」

「「はーい」」

「ローザも返事!!」

「あーい」


 手を上げるおばちゃんたちと、奥にあるキッチンと思しき場所から手だけを覗かせるローザさん。

 そのアットホームな雰囲気に、あたしはさっきまでいた、ルイス隊長のあの隊を思い出す。


 きっと隊長は、あたしのことを考えて、この職場を選んでくれたんだ。

 そう思うと、ちょっと泣きそうになる。



 ──本当はあの時、隊長にすがって泣きたかった。

「離れたくない。一緒にロガンス帝国へ連れて行って」と、子供のように喚きたかった。

 兵士Aと別れる時だってそう。つられて泣きそうだった。

 それを、今日はずっと我慢してたから……

 緊張が解けた途端に、溢れてしまいそうで。


 ……やだな。あたし、強かったはずなのに……

 いつからこんなに、泣き虫になったんだろう?



「…………みなさん」


 あたしは、目に溜まった涙を拭いながら、


「今日からここで働かせていただくことになった、レンといいます。未熟者ですが……あらためて、よろしくお願いします」


 深々と、頭を下げる。

 そして顔を上げると、みんな穏やかな顔で微笑んでくれていて。

 だから、あたしも……とびきりの笑顔を返した。





 ──この日から。

 あたしの、"レン"としての生活が始まった。


 そして、この場所で……

 あたしは、出逢ってしまう。


 気まぐれにあたしを翻弄する、意地悪なあの人に──




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