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3.光の中で




 ……嘘だ。


 嘘だ、こんなの。


 隊長が……ルイス隊長が…………


 胸を、刺された。



 倒れたまま、動かない。

 血が、真っ赤な鮮血が、どんどん広がってゆく。



 どうして、こうなった?

 どうして、隊長が、みんなが……



 ……あたしのせいだ。

 あたしのせいで、大切な人たちが、みんな……


 死……





「……いやぁぁぁぁああああああああっ!!」





 ──カッ!!



 叫ぶのと同時に。

 何かが、光ったような気がした。



「な、なんだ?!」



 ジェイドの声に、閉じていた瞼を開ける。

 すると、真夜中だというのに、目の前が眩いほどの光に溢れていた。

 そしてその光は、あたしの身体から放たれていて……


 これは……一体、なに……?



「まずい、"精霊の暴走"だ! この女、制御できないのか?!」


 そう言ってジェイドは、あたしの身体を突き飛ばす。

 地面に転がされ、白いワンピースの裾が裂けた。


 起き上がりながら、ゆっくりと自分の手のひらを──白い光を放つ身体を眺めるが……

 自分の身に、何起きているのかまったくわからなかった。





 ………………いや、わからなくていいか。


 ええと、なんだっけ。


 あぁ、そうだ。


 消さなきゃ。


 どこもかしこも、血、血、血。


 あたしの大嫌いな、赤い色だらけだ。


 みんな、みんな、みんな。


 綺麗にしなきゃ。


 悲しみ。


 苦しみ。


 怒り。


 それも全部。



 真っ赤な血と共に、消してしまわなくちゃ。







「──精霊ヨ……」



 自然と、口が動く。

 自分の身体が、自分のものじゃないような、不思議な感覚に襲われる。


 そして、光を放っている右手で……


 あたしは静かに、宙に『署名』をした。



「──消セ」




 ──刹那。

 森中を覆い尽くすほどの光が、あたしの手から放たれた。


 直視すれば失明してしまいそうなほどの、強烈な光──

 それに、隊長やみんなが包まれ、ジェイドたちが絶叫する。


 目では見えないのに、手に取るようにわかる。

 みんなが、まだ生きていること。

 その傷が、みるみる癒されていくことが……


 どうやら、あたしの治癒魔法の能力が、最大限に発揮されているらしい。



「よかった……」



 なんだ……やればできるじゃん、あたし。

 このまま、みんなの傷を癒して、助けよう。


 そんなことを、ぼんやりとした意識の隅で思う。



 ……しかし。


 光の中のジェイドと術師は……

 苦しげな声で叫んでいて。



「ぐぁぁああああああっ!!」

「焼ける……皮膚が……あ、あぁ……!」



 光を介し、ジェイドたちの状態が伝わってくる。

 あの二人は、ほとんど傷を負っていない。

 だから、あたしの治癒魔法を浴びても、何も起こらないはずなのに。


 彼らの細胞が、組織が、再生と破壊とを繰り返し……

 ……死んでいくのが、わかる。



 これは……どういうこと?

 それじゃあ、このまま再生を進めれば、隊長たちも……

 彼らと、同じ目に遭うの……?



「いや……待って……!」



 草が、樹が、花が。

 森中の生き物たちが。



「だめ……そんな、あたし……」



 光に包まれたすべての生物が、死に向かっていくのがわかる。



「お願い、止まって! このままじゃ、みんなを……!」



 そう叫び、自分の身体をぎゅっと抱き締める。

 けれど、身体から放たれる光は、ちっとも止まってくれなくて。



 なんで……どうして?

 嫌……このままじゃ、あたし…………





「みんなを…………殺しちゃう……っ」








 ──ふと。


 光の中で、誰かが、泣いているあたしを後ろから抱き締めた。


 そして、あたしの右手に自分のを重ねると……


 耳元で優しく、囁いた。






「──君、やっぱり下手だね。


 貸してごらん?


 あとは僕がやってあげる」





 それは、もう二度と聞けないはずの……


 大好きなで、意地悪な、あの声だった。




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