092、家庭訪問の予定
昼食は一人一口分ずつだったがおいしかった。
さて、どうして、一人一口分だったのかというと、それは坊の指示であったらしい。
どうしてなのか、と疑問して聞いてみると。
「まず一口食べた理由としては、改善案が出る可能性に頼ったというのと、もう一つ」
「そっちが本命?」
「まぁ、そうですね。えっと、感情的な話でもあるのですが、ここの店が屋台の仕込みに使われているというのは、たぶん、なんとなく知られていると思います」
そうだろうな、と思う。毎日ここにもどっているのだろうから、それに、たぶん、屋台自体もこの辺りに置いてあるのだろう。
「で、ですね。最近売り上げを挙げている屋台の関係者がそろいもそろって外で食事をしないのよりは、そこそこに外でも食事をしているほうが印象的にはいいのではないか、と思いまして」
「つまり、イメージ戦略的な?」
「んー、そこまではいかないので近所付き合いの懸念的な、それくらいですね」
それは、少なくとも、こちらが周囲を気にかけているとアピールするということか。
なるほど、何の気遣いもなく奪う収奪者ではないという証明のために金を落とす、と。
「その分、普段の食費よりは高くつきますが、周辺の感情が良好になるならまぁ、いいのではないか、と。この辺りはシノリんには相談しています」
「……そうか、ならいいや」
基本的には任せている。今日の打ち合わせでも意見は言ったが、向こうからの意見があればそちらを優先するつもりはあった。
……この辺りが自分の傲慢かもしれないが。ともあれ、
「とりあえず、みんな外食だな」
「えぇ。そうですね」
そのやり取りを待っていた、とでもいうかのように、シノリ、オーリ、クヌートがそれぞれに班分けした子供たちに引きずられるように店を出て行ったのが見えた。
リノとマルは厨房に残って何か作業をしている。
ひとしきりのにぎやかさが去って、作業による多少の物音ぐらいしか残っていない部屋の中で、坊を見る。彼女はまだ視線を逸らしたりせずにこちらを見ている。
子供らしいまっすぐな視線。純粋とか純真よりは、ただ『まっすぐ』という言葉が似合いそうな視線だ。それに射られる感を得ながら思う。
――何か聞いておくことがあっただろうか。
「……あ、昨日大工とギルドの職員が来たけど」
「把握はしています。棟梁と……なんというか、あちらにいる女性ですね?」
指さす方向を見れば、完全にオフとして気を緩めている女性が見える。
いつの間にか、外の屋台やらで買ってきたらしい、食べ物を机の上に積んで、時折やってくる子供にも分けている。
「……あのおやつを買うのも、孤児院の子たちにやらせたほうが良かったですね」
こっちはこっちでシレノワの金で周囲の悪感情を晴らす算段を立てている。
らしくて、安心である。
――ため息は出るが。
「完全な詳細を聞いていない立場からしても、組み合わせとそして、この屋台の役割等々を考えると、一つの推論が浮かぶのですが」
申し訳なさそうな表情で坊は言う。
「あー、あー、まぁ、そうか」
察しが良くて素直であるので、有能かつ騙されやすそうという一見矛盾した印象を受けるのだが。
この子の場合は、基本的には修行の途中、それも、ゼセウスが手綱を握っているのであろうから問題はないのだろう。そもそも、俺が心配する筋合いではないのだが。
「で、旦那様に聞いてみたところ。肯定的な返答が得られたのですが、同時にあなたに伝言です、えっと、二つ」
「聞いていい?」
「まぁ、伝言なので、当然です」
言って、坊は、ちらりとニコのほうを見るが、
それについてはあきらめたとでもいうのだろうか、一つ息を吐いた後に伝言とやらを口にした。
「『あんまりバレバレになるような行動をしないこと。適化したつもりの行動は読まれやすいからそう思って』というのが一つ目の伝言です」
「……うん。重々承知しております、と、機会があれば伝えておいてほしい」
「いえ、その必要はないでしょう。二つ目の伝言ですが『色々と相談したいことがあるから明後日か明々後日に訪問させてもらう』とのことです。訪問先はこちらの屋台ということですが、その際にお話しされてはいかがでしょうか? あ、ちなみに、伝言が昨日のものなので、今日か明日かですね」
「急だな……いや、この屋台がそもそも明日までだから妥当と言えば妥当な日程なのか?」
少し、疑問を口にするが、内容的には断る要素がない。若干気が重い、という以外は。
「承ったよ。一応、明日までは街の中にいる予定だから」
伝言を伝えて、少しほっとしたのだろうか、あからさまな息を一つはいて、坊は、よかったです、といった。




