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こちらオーバンステップ第一迷宮  作者: 言折双二
6、追放者は《彼ら》の孤児院に過ごす。
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083、酒気と躁気の懸念

 坊の言い回しにピンとくるものがあった。


「酔っぱらいか」

「そうです」


 そういうことか、と思ううちに坊は補足の説明を入れてくる。


「現状は作業からくる仕込み量の上限によって、帰宅ラッシュが途切れるくらいでカンバンになってます。でも、人海戦術やらでこれを解決した、あるいは、解決してしまった場合、終了時間は後ろにずれます」

「そうなると、どうなる?」


「うちの主が許可を出しているのは治安の良い地域ですし、そもそもこの街の治安自体は悪いというレベルではないですが、それでも、気性の荒い酔っぱらいくらいはいます。子どもたちの店故に与しやすいと見られる可能性もありますし、そうでなくとも声の大きな酔っぱらいが苦手な子もいるでしょう」


 なるほど、彼女の言うのも最もだ。そんなことでリスクを負うのはまっぴらである。では、


「対策はある?」

「……無いことは無いですが」


 坊は沈黙をする、その視線は一瞬周りの子供達を見た。

 なるほど、何が言いたいかもわかるし、彼女から言い難いものわかる。

 こういうときは、


「ん、皆で考えてみようか」


 振ってみると最初に口を開いたのはマルだった。


「あたしは今の仕込み分しか作れないし、それで売り切れるならいいんじゃないかと思うぞ」


 頷いて、彼女の意見を考える。つまりは現状維持だ。

 もちろんそれ自体はいいのだが、場合によってはそうでなくなることも考えられる。それも内因ではなく外因、客足が鈍れば売り切れまでに時間がかかるだろう。

 そうなれば、治安の悪い時間に突入する可能性がある。


「はじめから営業時間を切っておけばいいのでは?」


 その辺りを補足するような意見がシノリから出てきた。最初から治安の悪い時間を切り捨てるという考え方だ。その場合は、仕込みのいち部を廃棄する可能性が出てくるが安全に代えられないと言われればその通りだというしかない。

 最悪、その分は身内で処理できるかもしれない。


「雇えばいいんじゃない? 安全を保証できるような人を」


 少し視点を変えた意見はオーリだ。危険の高い時間帯を避ける、という発想に対して、危険があることを前提にして対処を考える。それももちろん、多少のコストは掛かるが悪い考えではない。


「……えっと、危なそうな人お断り、とか……できないかな」


 言いたいことはわかるが具体性の足りない発想はリノのもの。しかし、これに対しては、


「営業場所を治安のいい場所にする?」


 補足を入れたのはニコである。間接的だが、客層を絞るという意味ではリノの発想を意見にするためのものだ。

 ということで最初の意見はそれぞれになんとなく個性の見える意見だった、


「そうですね。ほとんどそのような発想でいいかと思います」


 補足するなら、と言って彼女の付け加えた内容は『組み合わせ』とでもいうべき方法だった。『治安のいい場所にする』のと『警備員を雇う』の組み合わせとして、衛兵や自警団の詰め所の近くで屋台を開くとかの頼れる権力の近くで店を開く方法や、客層にそういった人々を取り込む方法などを提案してくれた。ただし、という言葉で付け加えられた要素として、


「こういった、暴力に近いことを生業としている人が酔っ払った場合にどうなるかはきちんと考えておくべきですが、そういう意味ではお金を払ってでも警備員を雇うというのもよろしいかと思います」


 坊としては、営業時間を最初から制限するのはあまり好ましく思っていないようだ。ふむ、それについては、売上を制限するようなことを最初から前提にするのは彼女の立ち位置的に呑み難いということだろう。


「まぁ、これは今日明日の問題ではないでしょう。どちらにせよ、仕込みに入れる人数を増やさなければなんともなりませんので」

「そうだぞ」


 それは……そうか、昨日の今日で客足が極端に落ちることもないだろうし、仕込みの量が変わらないなら伸びても半時間というところだろう。


「じゃあ、まぁ、それについては今後の課題ということで」

「そうだね、街でお祭りとかがあったりするとまた、別の問題も出るだろうし」


 ニコの補足に、あぁ、と卓についている皆が頷いた。

 とりあえず、リノの懸念については、今後の課題とした。



「次は俺だと思うけど、手応え関係は別にないかな」


 問題もなく、特に気づいた点もない、と。

 シノリとリノの方を見ると、こくん、と頷きそれを肯定している。


「あえて言うなら、子どもだけだと見くびって値引き要求したりするやつがたまにいるくらいか……後は、寒いから冷めないように運ぶのに気を使うのと、今の所大丈夫だけど、雨降ったらどうするのか、って感じかな」

「――店舗なら問題ないけど、屋台だと待つ間も寒いしね。何か解決法があればいいけど」


 オーリの言葉にそんなつぶやきを漏らすと、微妙に誰かが反応したような物音がした。音の方向にいるのはリノだが……。


「まだだめ」


 ニコがこちらの耳元で小さな声をかけてくる。今、彼女に視線を回すな、ということか。それは、どういう意味なのか。


「何かを思いついてるけど、まだ、リノの中で形になりきってない……と思う」


 あー、うん。なるほど。そういうことか。

 下手に弄って、雛になる前の卵を割るな、とかそういう。


「必要なものがあったり、思いつきが形を持ってきたら、多分誰かに伝えるから」


 いいか。そうだな。とりあえずはニコを信じることにする。


「その辺りも今回はいいか。今後の課題と考えておこう。……ついでに今日は大丈夫だと思うけど明日雨が降ったら中止にするか」


 という具合に、オーリの意見はすぐに消化された。

 まだ、オーリはなにかいいたそうにしていたが、ここで言わないということは、今ここでは言えないということだろう、と判断する。


 あとで、聞いておこう、と心のメモに書き込んで、坊に順番を回した。

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