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こちらオーバンステップ第一迷宮  作者: 言折双二
6、追放者は《彼ら》の孤児院に過ごす。
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076、日和うららか

 棟梁がシレノワと和気藹々とした話合いをしている。

 素材について、音について、反響について、反射について、スキルについて……そこに加わっているのは大工が二人と面白そうな顔をしているクヌートだ。


 もう一人の大工は、年中組の世話を見てくれている。

 俺はそのあたりにあった丁度いいサイズの石に腰かけてニコと話をしている。

 最初は、ここに来る途中で見た薬草の話だったが、しばらくすると話は別の方向にも伸びてきた。


「街のほうは?」


 ニコは考えるために目を伏せてからそんな質問を投げてきた。

 こちらはそれに対して回答を考えたが、


「牛はかなり安価で買えたし、あれが、そこそこはけていたら十分なんじゃないか?」


 買い叩いたというわけではないが、解体やらとサービス品の相殺額が大きかったのでかなりの格安といえるのではないだろうか。

 それを自家で調理して売るのだから利益率が低いはずはない。味も問題ないと思うで、何かあるとしたら外的な要因がほとんどだろう。


 会計や、運営上のはっきりとした不備があれば、小僧の子が指摘してくれているだろう。

 あとは……、


「他の店からの嫌がらせか……ほんとに突発的なアクシデントくらいだろう」

「アクシデントは」

「事故は防ぎようがない。発生率を低くすることはたぶんできるけどな」


 調子が良ければ銀貨で十数枚というところだろうか。


「昨日の入門券を入手しようとしてる様子からもそこそこ儲かっているのは間違いないだろう」


 適当な、けれどある程度の根拠をもって告げておく。

 とりあえず納得したらしいニコは、


「明日行ったらわかるかな」


 と、答え合わせの期限を設けた。



 ニコと一通りの話を終えて打ち合わせの現場に意識をやると先ほど、子供たちの世話をしてくれていた大工は棟梁組に戻り代わりにシレノワが子供たちの世話をしていた。年中組の女の子のが先ほどのシレノワのスキルを見て、やり方が気になったらしい。


 教わっているようだが、無論、一足飛びにさっきの技ができるわけもない。


「部分部分に分けてちょっとやってみましょうか」


 シレノワは自分のスキルを教えることに抵抗はないらしい。むろん、ダンジョン師に至るにはかなり適性的に厳しいところを潜らなければいけないからという余裕もあるのかもしれないが、それとは関係なさそうに熱心に教えてくれている。


「歌い手になれればとりあえずの小銭稼ぎにもなりますしね」


 少しばかりのたくましさを覗かせつつ、年中組の二人とクヌートに声楽の基礎を教えている。

 クヌートは実技というよりもダンジョン師のスキルとしての使い方の方に興味があるようだが、少なくとも、授業の邪魔にはなっていないようだからいいか。


 あ、の音を高く遠く響かせるソプラノと補うように追いかけてたまに音を外す男の子の声。

 響かせて嬉しそうに、外して照れて、でも、楽しそうに。そんな二声の追いかけっこを聞きながら棟梁の方を見ると、何か、手元の紙束に書き込んでいる。


 よく見れば、最初の下絵は、地面に書いたものらしい。シレノワの要望を聞きながら書き取った地面の設計図から、必要な原料と必要な道具を浮かべメモしているらしい。


(あぁやって見落しを防ぐわけか)


 なるほど、と思いながらこの不思議な青空の下の混沌を楽しむ。


(眠い……)


 日はとっくに落ちる方向へ進んでいたし、冬の空気はお世辞にも眠気を誘うものとはいいがたい。

 しかし、ゆったりとしたこの空気が安堵と安息を含んでいるのは間違いない。


「ら、る、る、ぅ」


 ふと見ると、ニコは年中組が声楽を習っているのを遠く見ながら、唇だけその指導をなぞっているつもりなのだろう。


 けれど、音楽は楽しむ者のところから音を生み出すのだといわんばかりに、彼女の楽し気な唇は、声を紡ぎ、歌を織り。

 俺はしらず、彼女にもたれかかって眠っていた。



 夕暮れは好きではない。

 雪山で自分の血に溺れたのが夕焼けの赤の中だったからからなのか。

 あるいは、捨てられたときが夕方だったのだろうか。

 もっと単純に、赤色でありながら憂愁を誘う色合いが苦手なだけかもしれない。

 けれど、この日初めて夕暮れが赤いことに感謝した。



 距離はある、上下動も大きい。疲労は積もるし、行き先で仕事もしたし、子供たちは遊んだ。

 新しく学んだことも多いし、面白いと思うこともあっただろう。

 けれど、帰り路を往く皆は笑顔だった。


――いや、笑顔というか。


「にやにや……」


 ニコが疲れたように言う。

 いや、実際疲れているのだろう。

 山歩きで、ではない。帰り道の間中向けられ続けるこの生暖かい視線にだ。


「えっと、何というか思ったよりも楽しそうなところ……ですね」


 シレノワは非常に言葉を選んだように告げるが、否定も肯定もしんどい。

 いや、楽しいことを否定するつもりはない、子供いる場所で楽しさがないなどとそれは間違っていると思うからだ。

 だが、こちらが、というか、俺が率先して楽しい人と思われるのもなんだが間違っているような……。


「……いや、まあいいか」


 その評価が彼女がこちらに来てくれる加算要素になるなら否定するのも馬鹿らしい。


「あんたは、もう少し固い男かと思ってたが……ぷ。いや、失礼。なんだ。人間らしくて安心した」


 聞いてみれば、ゼセウスからの評価に茶化しながらではあるものの、孤児院の子供たちをいいように使って何かを悪だくんでいる悪いやつ、というものがあったらしい。その言い方から仲間内の冗談として言ったようだが、棟梁はそのイメージが若干あったらしい。

 だが、


「そんな奴がそっちのおねえちゃんみたいな女の子の鼻歌で寝やしないやな」


 棟梁の言葉にニコは俯く。たぶん頬も染まっているだろう。

 夕暮れにその色は見えないが。

 どういう意味、と年中組の男の子が聞き、えっとー、とつっかえながら女の子が答える。


「こんないじられてどうするんですか」


 クヌートに突っ込まれて。

 そんな帰り道になった。

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