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こちらオーバンステップ第一迷宮  作者: 言折双二
6、追放者は《彼ら》の孤児院に過ごす。
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071、雑談行軍

遅くなって申し訳ない。

 徒歩で一時間程度の時間がかかることを告げると、面倒そうな表情をしたのは意外にシレノワではなく棟梁以下大工組であった。どうしてか、と聞くと。


「そりゃ、今日はいいが道具やら材料を持ち込むのに整地されていない道を一時間と聞いて面倒にならないほうがおかしい」


 と言われた。まっとうだ。ちなみに、街から孤児院までもその位の時間がかかるが、直線距離ではなく回り込めば意外と馬車などで近くまではたどり着けるらしい。オーリの記した位置がある程度正しければ迷宮行きは孤児院経由がもっとも労力が少なそうだ。


 つまりは、棟梁の懸念通り、孤児院から一時間かかるというのはダイレクトに労力に加算される問題だということだ。

 最終的にはそのあたりの問題も何とかしたいところだが、『道を作る』ことにかかわるには現時点では小勢力過ぎる。


 その辺りを踏まえると……。


「急ぐなら人数任せでやるしかない?」

「そうだな。あるいは現地で材料を確保できるような幸運に期待するか、だな」


 どちらにせよ現地に着くまで考えようもない。

 言うまでもないことだとは思いつつも棟梁には孤児院から現地までの道のりを道具・材料を運ぶ場合にどのくらいの時間、コストがかかるのかを見積もってほしいとお願いしておく。苦笑しながらも頷かれた。



 さて、そちらは棟梁にお願いし一度現地に行ったことのある自分とニコを前の方にして進む。

 棟梁は何かと立ち止まって確認することがあるらしく、集団の真ん中あたりで、大工の一人を最後尾にいてもらって子供がはぐれないか、疲れが出ないかを念のために見てもらうことにする。

 自分も前の方にはいるが、実際物理的な一番前、本当の先頭を歩いているのはクヌートだ。


 注意力があってかつ、地図が読める、と言ったからだ。

 そこである程度の周囲警戒は彼に任せ、俺は勧誘と情報交換のためにシレノワと話をすることにした。

 ニコの了承も得ている。


「ということで、少し話を聞きたいんだけど」

「何が『ということ』なのかは分かりませんが……えぇ、別にお話をするに否はありません」


 浅い息切れは会話をするには問題なさそうだ。冬とはいえ歩き続けていれば息も切れるし汗も浮いてくる。

 それでも体力がありそうなので、見かけほどにインドア派ではないのだろう。


「で、何の話をしたいんですか?」

「そうだね、個人的なことはとりあえず置いておいて、仕事に関係した話をしようか」

「……はい」


 俺が彼女について知っているのはせいぜいがダンジョン師のクラスを持っていることぐらいで、普段ギルドでどんな仕事をしているのかもよくわからない。

 とっかかりとしてそのあたりを聞いてみると。


「まぁ、基本的には受付係ですね」


 と、そんな回答が返ってくる。


「とはいっても、迷宮のないあの街では業務が少ないです。あってもほとんどが、護衛と採取ですね」

「あー、迷宮のない街のギルドの仕事というのに少し興味があってね。もう少し聞いてもいいかな?」


 中級職員として、その存在意義などの講習は受けているが実際の様子はあまり知らない。


「えぇ……。まぁ、いいですが、やってることは、『迷宮のあるギルド』から『迷宮の仕事』を抜いたような感じですよ。他の街でもあるでしょう? 迷宮に関係しない仕事」


 言われて思い出そうとする。自分が窓口業務をしていたのは結構前になるので思い出しがたかったが言われてみれば、護衛なりなんなりもあったような……。


「まぁ、迷宮のコンディションによっては冒険者が潜れないこともあるのでそういう時のための依頼……という側面もありますね」


 シレノワの言う通り、状況によっては迷宮の危険度が高くなることもある。求道者や研究者ならともかく、素材を取って稼いだりする一般的な冒険者であれば、わざわざ危険の大きな状況で突っ込む理由がない。


 リターンがあまり変わらず、リスクだけが高くなる状況で、賭け金が自分の命だというなら、できるだけリスクの低い状況を選ぶのは至極当然だろう。


「普通はその期間を休みに当てることが多いと思うけどな」


 だが、全員が全員そうだとは限らない。であれば必然、その仕事は迷宮の外の仕事となり、戦闘能力が生かせる仕事としての護衛や野外での素材採取が仕事として発生するわけだ。


 ちなみに、この大陸でも過去にはあったし、他の大陸では現役の仕事として迷宮外の魔物討伐なんかもある。この大陸でそれが発生するとしたら、かなりの非常事態だろう。


「この辺りは、福利厚生って概念に近いな」

「福利?」


 話を振るとニコは首を傾げた。


「別に契約で縛っているわけではないにしろ、ギルドは迷宮管理のために冒険者という戦力を使う。冒険者は迷宮という資源のもとに入る。この辺りの関係性は、土地持ちと小作民の関係に近いかもしれない」


 そういうと、ニコは少し黙って考えだした。十数歩の歩みの間に言葉も何もまとまったらしい。


「なるほど」


 といって目を見開いた。


「土地持ちと小作人なら『土地を貸す』と『労働力を提供する』のを作物の一部で取引する、と」


 まぁ、そうだ。土地から得た作物は、法的な裁定を置いておけばどちらによって得られたかというのは分かりにくい。

 土地がなければ得られないし農作業をしなければ得られないし、というのはどちらも正しい。


「ギルドと冒険者なら『迷宮に入れるようにする』と『迷宮から物を持ち帰る』のが取引の中身になってる」

「そうだな、そして、やり取りされるのは金銭だ」


 リスクが重い代わりに、『農作業をして作物を刈って……』とするよりもサイクルは圧倒的に速い。

 だが、サイクルの早い生活に慣れることによる問題が生じることもある。手元に金を置いておくことができない性質になりやすいことだ。そして、そういう場合には即金仕事を求めることが多いが、


「そういうのを放置して犯罪などをされてしまうと……せっかくの貴重な戦力を使うことが出来なくなってしまいます」


 そうだ、シレノワは今あえて過激な言い方をしたが罪人では迷宮に潜ってもらうには差支えがある。

 『そういうことができる組織だとギルドが思われる』とこが冒険者の質の悪化を招き迷宮管理に支障をきたすからだ。


「それに、迷宮に潜って一獲千金、なんてことを夢見る奴には田舎から出てきてそのままの流れで、って奴も多いし、もしも、それが上手くいってたとしても、迷宮の罠になれることができても人の騙しには対応できないだろうから、それなりに強く稼げるようになっても他人に騙されて道を踏み外す奴は減らなかった」


「まぁ、そのあたりは、私やカミゾノさんよりも前の世代の話になります。結果として、現代まで伝わっている対処法が迷宮に潜っていないときにも冒険者の手を塞ぐ、金の儲かる依頼を用意しておく、ということになったわけです」


 それが、福利厚生というわけですねー、とシレノワが締める。

 なるほどー、とニコは納得したような表情をした。

 前を見るとクヌートは話に入りたそうにしているが、それはそれとして仕事をしようとしているのだろう。

 時折、注意深くあたりの様子を伺っている。


 もうそろそろ、七割くらいの場所についたはずだ。

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