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こちらオーバンステップ第一迷宮  作者: 言折双二
6、追放者は《彼ら》の孤児院に過ごす。
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066、食事と打ち合わせの始まり

 食事の用意をする必要がないとはいえ、用意するのが簡単なものを用意しないという手はない。

 そういうわけで、彼らに持ち込んだ肉とは別に、スープを提供することができた。


 物としては、今日の昼ご飯の残りだ。実際には残りというよりも見越して余らせたので残りという言い方はふさわしくないが、別にいいだろう。

 結果として言えば、野菜中心のスープは持ち込まれた肉との相性が良く好評だった。


 ふと思う。

(屋台でスープを出すのはどうだろう?)


 この前、屋台や店先を覗いた感じではスープを売る店というのはなかった気がする。

 肉串をバクバクとほおばる大工の男たちと、同じものを食べていながら噛み切るのに苦労しているシレノワの様子を見るともなく見ていると年中組の一人が包丁を取り出して、もう一人がシレノワに声をかけに行っているのが見えた。


 食べやすいようにしてやろうというのだろう。

 シレノワは困ったような笑みを浮かべた後に、こちらと目が合った。すぐに視線は逸らされたが結局頼むことにしたらしい。彼女に割り当てられた二本分を少年たちに手渡している。少年はそれを調理場に運ぶ。包丁を調理場から持ち出さないようにしつけられているらしい。シレノワはかじりついていた一塊分を串から抜いて一口にほおばって咀嚼している。


(リスっぽい)


 頬が膨らんでいる。おそらくは歯ごたえを楽しむためというところなのだろうが、楽しむにも手ごわすぎるような気がする。その固さに意味があるなら今度、マルにどういう意図なのか聞いておこう。


 さておき、スープは、ダメだ。

 考えてはみた、これから冬になり需要はあるだろう。そのうえ、具材の選定さえきちんとしておけば現場ではマルの調理が必要なく、煮立たせたり、冷ましすぎたりしなければ手離れがいいと思う。


 つまり、需要が多く、競合が少なく、手間が少ないと、いいことづくめであるが、今ぱっと考えて問題がある。


 今すぐ始めるには入れ物の問題がある。候補としては、木の容器、陶器の容器、金属の容器というところだが、どれも中に入れるスープよりは高くつくだろう。その場で食べてもらって回収するというのも一案であるが、陶器や金属の容器などを採用すれば、それでもこっそりと持って帰られるに違いない。


 つまり初期投資が高く、常に器ごと提供するためにリスクが大きい。そちらの見張りが必要となれば、マルの手はかからなくとも別種の手間がかかるということになる。

 もう一つの問題点は、真似がしやすいということだ。味を真似るのは困難だったとしても、スープを売るというアイディア自体はすぐに真似ができるレベルのものだ。それこそあたたかな液体という意味ではホットドリンクでも良い。容器の問題はスープと変わらないが中身の用意のしやすさは間違いないだろう。


 入れ物に関しては『容器は持ち込み』とか『容器返却で払い戻し』とか単純な解決策は浮かぶが実際の場で動けるかどうかにも関わるし、マルとシノリあたりに、案だけでも出しておくことにしよう。

 頭の中でアイディアをまとめているうちに全体の食事は終わったらしく歓談の空気になっている。子供たちは人見知りも少ないようで、大柄な大工にも恐れることなく近づいているし、年中組の女の子なんかは、中年男性――棟梁らしい――の力こぶなんかに触れてきゃっきゃとはしゃいでいる。


 そんな中で棟梁はやおらに立ち上がり、

「ようし!」

 と、食堂に響く声を上げた。


 急に、とはいえ、立ち上がる椅子の音の後なのでそこまで驚いたものはいない。気遣いなのかたまたまなのかはわからないが。

 加えて手を打ち鳴らす音一つで棟梁は食堂中の視線を集めた。


「カミゾノさんよぅ。そろそろ、仕事の話と行きてぇんだが、どうかな?」

「あぁ、分かりました」

「……そういう丁寧な言葉は出来ればやめてくれ。と、んじゃあどうする。別の場所でやるか? それとも、小さいやつらはどいててもらうか?」


 仕事の話をするのに子供は邪魔だ、ということか。なるほど。まったくもってまっとうな意見だがここはどうしようか。


「出来れば、この子たちにも聞かせたいがいいか?」

「ふむ、まぁ、理由次第だな」

「理由自体は簡単だ。まっとうにきちんと働く大人の姿というやつを見るのは何にも勝る経験だと思うからだ」

「……」


 棟梁は沈黙した。外からでは何を考えているかわからない浅黒い顔が、深く目をつぶっては虚空を見上げるような動作をしたりと忙しない。

 何か気に障っただろうか、と思ったところで、後ろにいた若者大工の一人がいう。


「あ、棟梁、もしかして照れてます?」



 軽くはたかれて目元の危うい若者の犠牲によって、子供たちがここで話を聞けるようになった。

 あとで、感謝の品でも贈っておこう。



 食器類を調理場までひいたあと、机二つをくっつけて即席の作戦会議の場とした。

 そこに乗せるのは地図一枚と、白紙が多数。

 考える内容をみんなで共有するためだ。


 話し合いのメインは俺とシレノワと棟梁。他のみんなもできるだけ机の上が見えるようにする。

 小さな子供は大人に割り込む形で最前列に噛み込めるが、特に背の低い子供の中には棟梁以外の大工に肩車をされている子もいた。

 なんともまとまりもないが、作戦会議の場は出来た。

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