064、かまどの火
日付を跨ぐのに丁度いい切れ目がないのでここは短いです。
なので、今日中にもう一話上げます。
なんやかんやと、書類を探した後も少し話していたオーリは、じゃあそろそろ、と急に立ち上がって街に向かった。
時間を計っていた様子はなかったが、確かに、一人なら十分に間に合いそうだと思われた。
軽く見送った後に、今日は良く集まる三人、俺とニコとクヌートが食堂に揃っていた。
スープのために火を入れようかと立ち上がろうとした瞬間に、
「お客さん」
声をはさまれた。立ち上がろうとした動作に割り込まれたが、とりあえずそれには答えずに立つことを優先する。左足は力を込めることができない。力をかけても返ってくるのは筋肉の答えではなく痛みという信号だ。
机を支えにして立ち上がり、剣を杖にして歩く。
慌てた様子でニコが付いてきて、調理場に入るときには先導されている。
「で、お客さんって、オーリの言ってたやつか?」
どうした。と視線で問う。
すると彼女は竈の中の灰に埋まった燃料を掘り出し簡単に組み上げると火口に着火した。あまり気にしていなかったが、ニコの使う火口は何やら独特だ。
「それって、なに?」
「乾燥キノコ」
聞けば森の中でとれるキノコを特殊な薬液に浸したあとに乾燥させたものらしい。火がつけやすいのだとか。
売れるかな、と少し考えてみたが、火口は作るのが簡単なものもあるしお金を出してまでということが少ないように思えたので湿り気にかなり強いなりなんなりの特長でもなければ買うものはいないだろう。
薪を渡しながら燃え上がる炎を見る。
「お客さんを迎えるのに、料理の用意は要る?」
ニコはひとり呟くように言う。
料理の準備か……。それは何時に来るのかとか、どれくらい滞在するのかとか、そのあたりがわからないと何とも言えないが。
「多分いらないと思う」
あの商人がこちらに料理を任せるなど、あとから高くつきそうなことをするとは思えない。
たぶん、マルの店で昼ご飯分を買ってから来るとかそんな感じではなかろうか。
(そういえば、ダンジョン師の女の子は一食おごるみたいな話をしたような気が……)
そういえば、そもそも、大工が何人なのか知らない。
「大工か」
「大工?」
「ダンジョン師の子と一緒に来るって言ってただろ」
「ふむ」
ニコは思い出した表情でうなずく。
「建物を建てる人」
「うん……実物を見たことある?」
「んー、仕事をしてるところはない」
らしい。そういえば、この街の場合は建築物も特殊なのではないだろうか。
木造が多いほかの街と比較すると煉瓦造りを基調とした街では必要なものも必要なスキルも違うだろう。煉瓦、煉瓦か。
「建物立てるにしても、材料とかどうすんだろ」
あるいは明日は下見か、しかし、下見なら大人数で来る必要もない。
女性の送迎も兼ねているなら一人ということはないと思うのだが……まぁ、細かいところはいいか。ゼセウスがそういう細かい段どりのところで過つのは少々想像しにくい。
であれば、気にすべきは。
「夕食済ませて早く寝よう」
と、そういう明日への備えである。
その日はニコの好きな野菜中心の香草スープと豚の脂身を塩につけていたものをカリカリに焼き上げたトッピング。あとは、さっくりと温め直したパンが食卓に並んだ。
子供たちは男女の別なく脂身に飛びつく光景が見られた。
食後に口の周りをぎとぎとにしているのも微笑ましい、と感じた。