061、走る近況報告者
何を敵に回したのか……。
クヌートが何を言いたいのか、少しだけ考えたが結論が出るよりも前に、クヌートが次の話題に入っている。
「どちらにしろ、街組が帰ってきてからの方がいいでしょうね」
どのタイミングで全体に言うかということだ。この時点で言う言わないという意思が無視されているような気がするが、前向きに考えよう。包み隠しのない人格だと思われた、と。
「――」
「なんですか、その眼は」
とクヌートに問われる。自分で発言した無いように違和感はないらしい。
さて、次に口を開いたのは少しの間考える沈黙をはさんでいたニコだ、
「……早い方がよくない?」
それは単純な疑問。
「ニコ、あなたいつも性急ですよね」
「む」
クヌートはその反論に対して、軽く嫌みのない笑みで言い返す。
「いいですか、謝るという行為は、謝る側が楽になる為にしているのではだめなのです」
説明も同じだ、とクヌートは告げる。
「説明というのも、同じ、受け手側が受け取る体勢を整えている時に説明すべきだと思う。少なくとも、大忙しでどうしようもない時にすべきことじゃない」
「まぁ、そうか」
うん、とニコも頷く。俺もその考え方には賛成だ。
気を遣うのは大事だ。少しの時間を置くことでより伝わるならそうすべきときもある。
――それでも急がなければいけない時もあるというのが、なんとも判断の難しいところではあるが。
と、
「兄ちゃん、いるか?」
街にいるはずのオーリの声がした。
・
「んー、やっぱマルのほうが」
「じゃあ、撤収する」
「……いや、ごめん」
オーリは戻ってくるなり食堂のテーブルにつき、ニコのスープを口にしてそんなことを言った。
「俺はニコのも、好きだよ」
「……もう」
ニコはオーリへの激昂を収めたらしい。そりゃ、専門ではないとはいえ同年代の女の子と料理の腕を比べられて格下扱いされれば怒るだろう。
オーリとクヌートは何とも言えない顔でこちらを見ている。
さて、なぜ戻ってきたのか理由として、まず、このタイミングで戻ってきた理由は、
「昨日は夕食時が一番忙しかったからな、それまでには街に戻れるようにだ」
「へぇ」
夕食時が忙しかったという言葉について、なるほど。街の暮らしでは夕食が一番豪華なようで、肉類なら夕食時に売れるだろう、とのことだ。ちなみに、昼はそのタイミングで買うこともあれば、朝のうちに買って仕事先で食べる場合もあるようだ。夏は衛生関係からそのやり方は推奨されないが、冬ならということらしい。
とはいえ、冷えるとおいしくなくなるもの、あるいは、おいしくなくなるだろうと思われるものは、そういった購入のされ方はしない。
その事情から考えれば、肉料理が夕飯時によく売れるというのは、それらしい。
「回ってる?」
「回る?」
「えっと、忙しさに対して人数は足りてる?」
あー、と一瞬口ごもったあと、椀に残ったスープを一息に飲んでオーリは言葉を選ぶような沈黙を挟む。
「俺とリノのお客さんへの対応は間に合ってる。シノ姉の会計も問題ないと思う、あー、これは一応、あのちっさい商人が確認してぴったりだってびっくりしてたし、たぶん」
ちっさい商人というのは、あの坊だろう。
会計の一部も見てくれているのか……、仕事だとは思うけど関係は悪くなさそうで安心した。
「マルはどう?」
あえて後に回したということは何か言いたいことがあるのだろう、と判断して聞いてみる。
ん、んー、と先ほどよりも少し長い言葉を選ぶ沈黙の後に。
「なんつうか、暴走気味? 走ってるというか、奔ってるというか……どういったらいいのかな」
「今の時点で限界そう?」
「いや、そういう意味じゃなく、あーそうだな。例えば、俺とか兄ちゃんが何かをしようとしたときにさ、えっと、俺なら狩りに出たとするじゃん」
「ほう」
何を言いたいのかは分からないがとりあえずうなずく。たとえ話、か。
「狩りってまぁ、いろいろやることはあるわけだけど、めちゃくちゃ簡単に言って、『獲物のいる場所に行く』『獲物を捕れるタイミングを待つ』『獲物を捕る』って感じに分けるとするとさ」
「あー」
なんとなく言いたいことを察した。
「獲物を捕るところまでで体力を使い果たすと『獲物を持って帰る』とかそういう見落としていたけど必要な工程ってのがあとから出てくるとどうしようもないわけさ」
「マルはその状態だ、と?」
「いや、やることは分かってるとは思うんだけど、五日間やるってことまで意識してるかな……と」
オーリが椀を置くとテーブルが堅い音を立てる。
次に口を開いたのはニコだ。
「言ったら駄目?」
「それって、言葉で注意するってことか……いや、んー」
言いたくなさそうなリアクションをとるオーリ。
なぜなのか。
「そういうのを意識するのは良し悪しかな、と」
「というと?」
今度の疑問を投げたのはクヌートだ。
ニコに向いていた視線がクヌートに向くとはっきりわかるほど視線の角度が上を向く。
「走ってるときにさ。これ以上走れない気がする! ってなった後さ、それでも足を動かしてると意外と動くんだよ。でも、これ以上走れない、と思って止まると、動けなくなる……なんとなく言いたいことわかるか?」
「疲れを自覚すると、体が休みモードに入る、みたいな」
応えるニコにオーリが、そう、とうなずく。
「そんな感じ……俺の見た感じだと、祭りというか楽しんでテンション上がってるから五日目まで持つと思う、そのあとは、少なくとも一日休みがいるな」
そうだな。自分としても、店を開くなら調理担当が一人の間は一週間である五日のうち、一日ないし二日は休み……というか、店を開けないほうがいいのではと思っていた。もしくは3勤1休を繰り返すか、そんな感じの休みの挟み方がいいと思っていたけど、
「最初だからと張り切らせすぎたか?」
「いや、あいつは楽しんでるし、たぶんどのタイミングで初めても無理が来て初めて無理だと分かるタイプだし。どうしようもないといえばどうしようもなかったと思う」
それならそれでゼセウスと最初に交渉するときに四日か三日しか、最初の許可が出ない、なりなんなりの理屈をつけてもらえばよかった。
店が開けないと言うことなら、マルもどうしようもなかっただろう。
「今からでも、4日目を休みにするか?」
「マルはそれを今更受け入れないと思うぜ、さっきも言ったとおりに楽しんでるし、それに食材のもちとかも計算してるみたいだしな」
悪くなる前に使う、ということか。どちらにせよ、あまり聞く耳を持った状態ではないらしい。
それなら、
「じゃあ、何しに帰ってきたの?」
ニコは端的に俺の疑問を代弁した。
もうちょっと優しくしてあげてもいいんじゃないかな、と思った。




