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こちらオーバンステップ第一迷宮  作者: 言折双二
4、追放者は《彼ら》ともう一度、街へ行く。
33/262

033、皆でお料理(『料理人』指導付き)

 さて、マルが解体作業を続けている最中、それ以外の人は何もしていなかったのかというとそんなことは無い。


 血抜きをする前にマルが周囲を見回すと、塩漬けの牛脂を持ってきていた農家の夫人が何か言いたそうにしていた。その意図を読み取ったマルは似た様な行動をしている奥様達を集め指示を与えた。


 乗っかったのがオーリとゼセウスで香辛料その他の必要な物を集めると、

「血のソーセージ、改良版を作ろう」

 として、血抜きの血を回収。


 絶命させた牛から内臓を抜き、川に沈めているあいだに奥様達に指示とアドバイスを出していた。

 マル自身は肉を冷やしている間、処理した内臓をソーセージ組にパスして、目と鼻で作業進行を監督していた。その後は肉の解体の方に全力を向けていたが、それでも監督は怠らない。


 少し離れた厨房からの匂いで判断しているさまは千里眼の様であるが、経験とレベルによる部分もあるのだろう。

 こちらに漂ってきた香りは何らかのネギ類を牛脂で焦がし、その油で穀物を炒めているらしい匂い。良し悪しはこの時点ではよくわからないが、食欲はそそられる。


 厨房の方から漏れ聞こえてくる声を聴いていると、何種類かの歯ごたえの良い内臓を細かく刻んで炒め始めたらしい。男衆を除いて作業しているので高い声で楽しそうに作業している様だ。


 半分を入れるはずの材料を全部入れた、とか、そんな感じの報告が上がるたびに、マルから何らかのフォローが入る、というのを繰り返している間に油のはぜる音がなくなって、かわりに、湯の沸き立つ音と熱い湯気が厨房から流れてくるようになった。


 ソーセージの茹でに入ったらしい。男衆は匂いに鼻腔をくすぐられながら、マルの作業を見つめている。料理人と農夫ではクラスによる加護は違うものの参考になるところが無いはずもない。

 今回は僥倖、たまたまもいいところの偶然なのだから次は自分でやらなければとみんなが思っている。

 特に、いつもと今回で倍、三倍の値段差がついた者たちは真剣な目をしている。


 時折、ソーセージの作業をしているところから子供が来てマルに何かを確認している。

「できた分はこっちの設備も使って水をかけた後、風に当てて冷やすぞ。ただ、皆で試食できるくらいはあったかいままで脇に置いておいてほしいぞ」

 そんな指示が聞こえてきた。


 彼女は自分で宣言したとおりに五頭目の解体を終えたところで置いてあるベンチにごろりと寝転がった。

 ニコとともにマルのところに行く。


「おつかれ」

「ご苦労様」


 ニコはいつの間にか用意していたデシードルをマルに渡す。

 この街では果樹が育ちやすいとのことで、果実酒類が多い。

 リンゴは、酒が苦手な人のためのジュース以外にも、シードルや、それを蒸留した強い酒もある。いま、マルに渡されたのは半分ほど発酵の進んだデミシードルよりもさらに酒精の弱いデシ-ドルというものだ。


 デシ・シードルという言葉が短くなってできたらしい。このデシードルはごく短期間発酵させたものや、強い酒精をジュースや水で割ったものなど色々な種類があるようだが、よほどの安物でもない限りリンゴの香りが活きていてなかなかに口当たりがいい。


 外気で冷えているそれが上体を起こしたマルの口に流れ込んでいく。

「ぷはっ!」

 ダンジョンに持って行っていた水筒で一気に水分を取り戻したマルは息を吹き返したといわんばかりにしぱしぱと目をしばたかせる。


「疲れたぞ」


 首を回して誰かを探しているようなしぐさをする。オーリを見つけたようだが、彼自身は農夫たちと何かを話している様子だ。


「お疲れ様です……さすがですね」


 最後に合流してきたのはゼセウスだ。彼はいつの間にか丁稚のような少年を従えている。


「さすがじゃないぞ、疲れたぞ」

「いえいえ、普通なら牛を複数捌くなんてとてもとても」


 それは普通には無理だろう。料理人のクラスであるマルは、料理に関しては加護が入る分、疲れにくかったり作業に補正が入ったりするのだろうが、それでも普通には困難な作業だと思う。

 協力者がいたのも大きいし、


「多分、テンションが上がってたから」


 ニコが補足する。たしかに、それもあるだろう。少しぐらいのオーバーワークはしているかもしれない。


「で……金勘定の話ぞ?」

「察しが良くて助かります。あ、もちろん、この分の利益を占有したりする権利はこちらにないことを誤解なきように宣言だけはさせていただきます」


 丁稚の子からあまり質の良くなさそうな一枚の板と紙と鉛筆――これは俺のものよりもよっぽどしっかりした頑丈で見目もよさそうなものだ――を受け取るとベンチに腰掛けた。マルの隣だ。


「あなたは、明日以降に屋台でもうけを出さないといけない……いえ、正確には出したほうがいいということですが、まぁ、それはさておき。もうけを出そうと思えば、同じような品質のものであれば、安く仕入れることが求められるのは言うまでもありませんよね」

「同じ品質でならそれはわかるぞ」

「それでは、今回の肉についてはどういたしますか?」


 商人が、話を持ち掛けてきた。


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