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こちらオーバンステップ第一迷宮  作者: 言折双二
4、追放者は《彼ら》ともう一度、街へ行く。
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032、解体場のバラバラ

「いやあ、ああいう扇動みたいなマネは好きではないのですけどねぇ」

 子供たち三人は、絶対嘘だぞ、という視線を向けている。

 そんな風にして五人で歩く先は、オーリが先導する農耕神殿付属施設である。



 あの後、祭りの熱の中で若き商人の挑戦を受け止めた形になった幼き料理人。

 周囲の集中する視線に耐えかねたのか頬を赤く染めながらレベルアップの儀式を繰り返し聴衆の歓声を浴びながら最終的にはレベル11に達した。


 結構な額になったと思うがゼセウスは平気な顔をしていた。


 実際、クラスのレベルというのは成果物の出来と比例関係にあるわけではないが、レベルだけで言うならこの街の料理人よりやや高いという程度の様だ。

 これについては、様々な事情がある孤児院の暖房の話にも繋がるのだが、


「薪税ってやつか」

「そうだね」


 金属の加工に燃料を使う、レンガを焼くのにも勿論使う、ということで、この街では森から薪の材料を取って来るのにも、できている薪を購入するのにも税がかかる。――ちょっとした枝程度は御目こぼしされているが。


 ともかく、街の中でも近くでも薪を使うには他の街より金がかかる。これが何に影響するかというと、まずは暖房、冬を越すのに使う生命線に直結する。そして、もう一つが市街における、煮炊きである。

 この規模の街なら多くあることではあるが、ほとんどの住人は持ち家ではなく、集合住宅、寄り合い所帯という奴になり炊事場は共用になる。


 しかし、燃料が高いこともあり出来合いの物を購入してくることが多く炊事場の利用は温め程度だという。


「つまり、この街では家庭の食事というのは家で作るものというよりも」

「外で買ってくるものみたいだぞ」


 ゼセウスのいっていたこととちょっと違う気がするが、

 まぁ、思考の誘導やリップサービスもあったのだろう。

 そして、ほとんどが買ってきたもので済ませるというなら利便性や価格こそが重要だ。味はファクターとしては落ちることだろう。


 そうなると、料理人としてのレベルはさほど必要ではなくなる。というよりも、味以外を追及しての料理だと上がりにくいという方が正しいだろうか。他にも経験値の溜まりやすいポイントはあるようだが、とりあえずは味を重視するのが確実、という様なのでこの推論は間違っていないはず。


 ちなみに、飲食店の数については、店舗が20で、屋台が24だそうだ。これについては、ゼリス商会が許認可をしているので間違いはないだろう。

 ただ、別枠の要素として、宿泊施設として登録しているが食事も出しているところや、食材販売の試食という枠で多少の軽食を出しているところもあるということ。

 これは取り締まったりしている訳ではないので把握しきれないが、量としては多くないだろう、


「というところでしょうか」


 ゼセウスが説明してくれる。マルのレベルアップは高額と言えば高額だが、彼のポケットに余るものではないだろう。


「その提供方法の違いは何か影響するのか気になるぞ」

「料理の質とはあまり関係ありません。料理を提供していた店に宿泊施設が生えたか、宿泊施設が食事提供サービスを始めたかの違いです」


 すっかり仲良くなったのか、マルとゼセウスは自然な感じで話している。仮にも対決するもの同士としてその感じはどうなんだろうかと思わなくもないが、すれ違う人に、がんばれよ、と言われて手を振り返しているマルを見て微笑むゼセウスを見ていると、まぁいいかと思える。


「あー、宿泊施設の、といえば、宿の主人とレストランの主人が兄弟で……」

「あぁ、宿のサービスと言っても宿の中で作る必要があるわけではないですからね。外のレストランと提携している例もあります」


 そうなってくると区別など本当に些細なものなのだろう。


「レベル自体は特に開示の義務があるわけではないですからね、ただ一応、高レベルであることを売りにしているいわゆる高級レストランのシェフがレベル16なので、11は雲を抜けて、天辺に届いていない、というくらいの感じではないでしょうかね?」


 少なくとも屋台の主としてはトップクラスだろう、と補足が入る。


「その上で、今は冬の前ともなれば、肉は市場に流れますのでそれを確保できれば……」


 安い肉串を提供できるということだ。

 因みに、ゼリア商会の規模感では『冬の前を歩く』という新人商人の訓練があるらしい。


 冬になって、出回り始めた土地で肉を買い付け、冬の前線を越えて次の街で放出し、冬に追いつかれてから肉を買い付け……というのを繰り返し、ちょっとした需給のバランスのズレから利益を得るのだ。

 土地ごとの風土を知りつつ旅商人の感覚を学ぶのだという。


 帰って来た時には商人としてのレベルが二、三上がる程度の経験値が溜まっているという寸法だ。

 面白い話だな、と思いながら聞いていると、

「ところで、これは何をしているので?」


 ゼセウスが今更のように聞いてきた。

「牛、解体」

 端的な回答はニコの物。


 マルはいま、黙々と手を動かしている。

 重量のある部分など、フォローにはオーリが入っている。


「もしかして、これがあなた方の呼び込みの対価ですか?」

「ご明察」


 ニコは表情を変えずに肯定する。


「高レベルな料理人と狩人が解体の手伝いをする、と」

「……なるほど、この時期の農耕神教会であれば、家畜の解体をしに来る人が多いですからね」


 ちなみに、解体所自体は教会・神殿から少し離れたところにある。理由としては農耕神教会が食品を取り扱う一角にあることと、街門からそこまでの距離があること、後は衛生系の問題である。

 つまり、街門から解体所への道は市街を流れる川沿いにあり、貧民街を通っている。ぼろをだすこともあるが、その清掃は貧民街の者が行い、多少の硬貨を見返りに受け取っているのを見かけた。

 最終処分をどうしているのかはよくわからないが、


「こっちの一角は余りきれいな地域とはみなされていないので……」


 ゼセウスもそんなことを言う。それでも、解体所は一番上流にある。肉を冷やすために流水を使うからだ。分岐した同等の上流位置に革加工の工房があるらしい。

 解体すれば皮も出るからだろう。


 この地域からでる排水はため池一時置き、沈殿したもの以外を湖に流すらしい。この湖では養殖事業も行っておりその養殖技法には<塔>の知識も入っているとか。

 それはさておき。


「使いやすいぞ」

「そいつは結構だな、嬢ちゃん!」


 見覚えのある男がいた。青い煙突の鍛冶屋、バズだ。

 同僚らしいさらに一回り若い男を連れている。


 マルが自身の体のサイズと比較して大きすぎる牛刀を器用に動かしているのを見て興味を持ったらしい。

 しばらく、マルと楽し気に言葉を交わしていた様だが、ふと、こちらに気づいた。手を上げようとしたが、代わりにニコが、よ、とばかりに片手を上げて挨拶をした。


「なんだ、あんた、あのちっこいのもあんたの知り合いか」

「そうなるな……あんたはここに何の用だ?」


 聞くとバズは親指でマルの方を指した。


「例えば、あれ、あの大きな牛刀とかこの解体場の刃物・工具類はウチから売ってるからな、アフターケアってやつだ」


 一回り若い男に手で指示をだすと、受けた男の方が工具カバンから何かを取り出した。煉瓦のような塊は砥石らしい。


「軽い手入れで済むもんはここで作業しちまうし、そうでないものは持ち返って整備だな、その間もここを止めるわけにはいかないから、代替えの品を用意して、とそのあたりを色々な奴らから依頼を受けてやるわけだ」


 バズが指折り数えた中には、市長である貴族の名や革加工工房、あとはゼリス商会の名も出て来た。勿論、農民たちや狩人たちの連名もあるようだ。そういった組織からの要請がある程度には重要な施設だ、と言える。


 ちなみに肉は、手を入れれば入れるだけ販売価格が上がるので農夫たちは重労働と知りつつも自分たちで加工をしようとする。勿論、そこまで手際が良いわけでもないし知識も完全ではないので、やらないよりまし、程度にしかならないのだが。


 たまたま今日来ていた幸運な農夫たちは、


「去年の牛子よりも倍ほどしとるぞ!」

「うちの牛子も三倍ほどしよる!」


 と歓喜の言葉を漏らしている。因みに、買い取りに来た商人からしても、品質が上がって売り先が変わるだけなので枠の大きな商売になっただけで損はない。


「五体目……で、限界だぞ」


 落命させて、血を抜いて、河に沈めて、という単純に筋力重点の部分は農夫たちの手を借りたとはいえ、引き揚げた後の肉の解体はほぼマルの一人作業だ。

 手伝いに入れたのはオーリくらいでそれ以外の手ではむしろ邪魔にしかなっていなかった。

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