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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
七章 神の国 上
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新種の魔物

 細菌かウィルスかはわからないが、血を吐きながら死んでいる男は感染した可能性が高い。

 どこまで効果があるかわからないが、風の魔法陣を新たに作り出すと、直ぐ様発動させる。すると、風が俺を守るように周囲を回りだす。

 これで一先ず安全……かどうかはわからないが、今できる限りの対策だ。なんせ、男の体に触ってしまったからな。衣服だけ触ったが、感染してないことを祈るばかりだ。


 「ギル様、どうですか?」


 俺の事を気にするリディアが、入り口から声をかけてくる。

 まずい!


 「リディア、絶対中には入ってくるなよ!」


 叫びながら入り口に魔法陣を描くと、ファイアーウォールの魔法を発動させる。火柱が入り口を塞ぐように噴き出す。

 細菌かウィルスか知らないが、おそらくこれで外には漏れない……はず。


 「ぎ、ギル様?!大丈夫なのですか?!」


 「知らん!!とにかく、この男は何らかの病気で死んだ可能性が高い!俺達にも病気が移る可能性があるから中に入って来るなよ!」


 「わ、わかりました!」


 細菌だの、ウィルスだの言った所で理解出来ないだろう。今細かく説明する時間もない。病気と教えるのが一番分かりやすい。

 本当に細菌やウィルスのせいかはわからない。未知の毒や魔法だってありえる。元々、この男が重病だったのかもしれないし、言ったらキリがない。

 ただ、鮮血ではない血が口から垂れ落ちたのだ。体内のどこかが壊死している。

 そんな人間がわざわざこんなところに来るだろうか?歩けたかどうかもわからない。

 死を覚悟して死に場所を探しに?有り得る話だが、可能性は低いと思う。なぜなら、すぐ近くに法国という神の国があるからだ。

 助けを求めて祈りに行くのが普通だろう。

 その上、この世界では病気を治す魔法のような薬だってあるのだ。

 そう考えてもこの場所で何らかの病気になったはずだ。長居したくはないが、今調べる必要がある。

 俺は再び死んでいる男をよく診る。

 入り口に作ったファイアーウォールの灯りで見やすくなったとは言え、まだ薄暗い。俺は新たに魔法陣を出し、光魔法で男を照らす。

 男の顔は紫色に変色していて、口から黒に近い血を垂らしていた。喉にはひっかき傷。苦しくて藻掻いた末にか?

 服装は冒険者風。だが、冒険者ではないだろう。なぜなら、装備が綺麗過ぎるからだ。この陥没穴に来なければならず、わざわざ用意したといったところだろう。駆け出しという可能性も捨てきれないが。

 服が所々破れている。というよりは、何かと争って破ってしまった感じだ。

 一番気になるのは……。


 「二の腕が喰われている……」


 上腕の一部が噛まれたように失くなり、赤々とした新鮮な肉が見えている。噛み千切った後だ。

 新種の魔物に喰われたのか?

 だとしたらヤバイ!

 俺は男を照らしていた光魔法を消すと、新たに部屋全体を照らす光魔法を作り出した。

 洞窟全体が明るくなると、俺は辺りを見渡す。

 明らかに()()の最中だった。まだ近くにいるはずだ。


 「……いない?」


 だが、横たわっている男と俺以外に誰もいない。まさか、死んでいる男が実は魔物だったなんて、B級ホラーな展開か?

 男をもう一度見るために視線を移そうとした時、視界の端に違和感を感じた。

 ()()の角だ。

 ()()()()()()()()()()()()()

 そう認識した途端、そいつは俺に向かって飛びかかってきた。


 「新種か!」


 俺は飛び退くと、発動待機していた魔法陣に魔力を流し、15本の火の槍を魔物の着地点に放った。

 が、魔物は着地と同時に横へ飛ぶ。

 15もの火の槍は虚しくも何もない場所に突き刺さった。


 「速ぇ!!」


 畜生!見てから余裕でした的なやつか?!

 魔物は立ち上がると突撃体勢を取る。

 なら、飛びかかって来た所をカウンターで斬る!

 俺は刀を上段に構え、突撃に備える。

 しかし、魔物は飛びかかって来ず、ゆっくりと二足歩行しながら距離を取った。

 どんだけ知力の高い魔物なんだよ!

 確かにこれは新種だ。突撃が本能のはずの魔物が考えて攻撃するなんて厄介極まりない。

 たった一体にこれだけ時間がかかると、魔力だってもたない。なんとしてもここで攻略法を調べなければならない。

 俺がどうやって攻めようかと考えていると、魔物が変な仕草をする。人間でいえば、運動する前に肩を回すような仕草だ。

 すると、肩辺りから粉が吹き出し部屋に舞って行く。

 …………菌?これが男の死因か?!


 「だぁ!くそっ!」


 即座に待機させていた魔法陣をすべて解除すると、魔物と俺を区切るように魔法陣を地面に並べる。

 魔力を出来る限り流すと、魔法陣から火を纏った竜巻が何本も吹き上がる。

 それから火の竜巻を魔物の方へと進ませる。


 「菌ごと焼き尽くしてやる!」


 魔物が吹き出した粉を巻き込みながら、火の竜巻は魔物を飲み込んでいく。


 「ぎゃああああああああああ!」


 魔物を飲み込んだ火の竜巻は、魔物を天井に叩きつけながら焼いていく。魔物が悲鳴を上げ、やがて聞こえなくなるが魔力を流すのを止めない。

 時間にして5分程焼いた後、俺はようやく魔法を消す。

 魔物は天井に焼き付いていた。

 菌も火に焼かれたのか無くなっている。

 だが、俺はまだ気を抜かない。

 魔物が焼き付いている真下の地面に魔法陣を出すと、石の槍を天井に向けて突き出した。

 槍は魔物の心臓を貫いたことを確認すると、ようやく敵の死を確信した。


 「くそ、結局攻略法どころじゃなかった」


 これじゃあ、ゴリ押しもいいとこだ。

 初めての会敵は失敗だらけだ。

 死体に無闇に近づき、魔物に奇襲され、挙句の果てには魔物の死体を調べることも出来ないぐらい焼き尽くしてしまった。どんな姿をしていたのかさえわからない程、真っ黒に焦げている。

 収穫といえば、魔物は二足歩行していたことと、壁に貼り付けること。そして、菌みたいなモノを体から出すことだ。

 ………俺、感染してないよな?

 後で、念の為に毒消しポーションを使っておこう。それも良い物を。

 俺は男の死体に手を合わせ死体を燃やした後、この横穴から出ることにした。

 なにはともあれ、ようやく一匹討伐だ。やれやれだな。




 「それでは今回の魔物は毒を出して私達を弱らせるということですか?」


 俺は横穴を出た後、中級毒消しポーションを飲み、更には下級毒消しポーションを10本程浴びた。感染したかもわからないし、これで対処出来るかもわからないけれど、やらないよりはマシだ。

 数時間リディア達と離れて何の変調もないことを確認した後、ようやく未知の魔物についての話し合いをすることにした。


 「そう。だけど、詳しいことはわかってない。知能が高く、厄介なスピードを持ち、毒もあることが今わかっている。ついでに立って歩くこともだが、それが全てだ」


 菌やウィルスのことも少しだけ教えたが、今回は無意味かもしれない。感染の可能性は低いと結論づけたからだ。

 予想だが、新種の魔物が使った菌のようなものは、即効性があり致死性の高い毒だと思っている。

 なぜなら、男の噛みちぎられた所がまだ新鮮だったからだ。

 これだけでは到底理論として成り立たないが、理由は他にもある。

 それは男の衣服が綺麗だったことと、今まで見てきた横穴になんの痕跡もなかったことだ。

 男の衣服は倒れていたのにもかかわらず、地面に密着していた部分しか汚れていなかったということと、人がキャンプした形跡が他の横穴になかったことが、男がこの陥没穴に来てから間もないことを示していた。

 喉を掻き毟った傷があったのに、のたうち回った様子もない。苦しかったのではなく、痒かったのかもしれない。異変はあったが、気にする程でもなかったはずだ。

 だが、体が動かなくなり倒れた頃には内臓のどこか、もしくは殆どが壊死し絶命した。

 そして、魔物が食事を始めた頃、俺達があそこに来たというところだろう。


 「はぇ~、こわい、です」


 「今回エルは後方からの索敵、狙撃だから出会うことはないよ」


 「ほっ」


 ほんと、羨ましい。


 「ですが、天井に張り付いていたのですから、後ろに回られることもあるのではないでしょうか?」


 「ひっ」


 安心していた所で、リディアが怖いことを言うもんだから、エルが飛び上がって後ろを確認する。

 可愛いが、今後ろを確認しても……。

 それに怖がると人って本当に飛び上がるんだな。


 「確信を持って言えるわけではないけど、その心配はないと思う」


 あの魔物が天井に張り付いていたとはいえ、虫のように壁や天井を歩いて来なかったから陥没穴の横壁を移動し、俺達の後ろに回ってくることもないはずだ。二足歩行に随分と慣れていたから、メインはそっちじゃないかな。


 「とはいえ、エルは念の為に全体を警戒してくれ」


 「はぃ、です」


 「リディアは無闇に近づくことはしないで、様子を見るように。または、粉を出される前に瞬殺してくれ」


 「わかりました」


 こうして失態の多かった探索初日は終わった。



 探索二日目。いつもにまして警戒しながらの探索になった。

 探索してから数時間が経った頃、リディアが横穴の一つで気になる物を見つけた。


 「ギル様、これを見てください」


 今探索している横穴の内部は入ってすぐ二方向に分かれていて、俺とリディアは別々の方向を探索していた。

 俺の方には何もなく、この穴も収穫はなしかと思っていたところでリディアに呼ばれたのだ。


 「これは、樽?」


 「そうです。中には食料が入っていたと思われます」


 「食料?」


 リディアの言う通り、中には食料が入っていた痕跡が見つかった。野菜の切れ端や、腐った肉片だ。

 食料がこの樽一杯に詰まっていたのだろう。


 「商人を襲って食料が入っている樽だけをここに持ち込んだのでしょうか?」


 「こんなところに商人?この辺りに街なんてなかったはずだけど……」


 この陥没穴周辺は平地で住みやすいが、ここに来るまでが困難なのだ。そんな場所に街を作るなんて考えられない。

 あり得ないとまでは言わないが、クレストもこの辺りに来る人は少ないと言っていたし、可能性は低いだろう。

 だとすれば、この樽は何なのだ。

 考えに没頭しそうになり、頭を振って思考するのをやめる。今は探索中だ。余計なことを考えるより、先に進む事を優先すべきだ。


 「とりあえず、外に出よう」


 「はい」


 入り口に戻って外に出ようとした所で、対岸に光があることに気づく。点滅ではなく、点灯。

 エルからの信号だ。

 『敵あり』の合図だ!


 俺達は急いで外に出ることをせず、覗き見る。

 そいつはこちらに向かって歩いていた。

 二足歩行する人型の魔物。

 背は俺より高く、皮膚が岩のような鱗で覆われている。手だけが大きく成長していて、鋭い爪を持っていた。


 「昨日の魔物とは違う。いや、そんなことより……」


 昨日の魔物は正確な姿形を見てないが、あんなふうに手が成長していた記憶はない。

 ただ、そんなことより気になることがあった。


 「服を来ているのか?」


 もはや服と言って良いのかわからないほどボロボロになっているが、その魔物は服を着ているのだ。

 ゴブリンやコボルト、オークの亜人系亜種か?

 亜人系の魔物は鎧などを着ている場合が多い。こいつもそいつらと同種の魔物だろうか?だが、亜人種系の魔物を思い出しても、こんな魔物はいない。

 いや、考えている場合ではない。

 ここで隠れ続けて、近づいた所で暗殺するのもいいが、今はこの新種がどういった攻撃をするのか見た方がいいかもしれない。

 リディアを横穴の中で待機させると、俺だけ外に出る。

 魔物は俺の姿を見つけると一瞬だけ動きを止めた後、俺に向かって走ってくる。

 歯をむき出しにした口から涎を垂らしながら、俺目掛けて突進してくるのだ。


 「なんだ、ただの突進かよ」


 昨日の魔物とは攻撃方法どころか、何もかも違う。新種は何種類かいるのか?

 だけど、攻撃方法が突進なら見ることもない。それに、わざわざ突進を受けたくもないしな。こんなところで真正面から受ければ、たちまち陥没穴の底へ真っ逆さまだ。

 突進を止めさせてもらう。

 俺は手を上げて、振り下ろす。

 すると、風鳴りが一瞬したと同時に魔物の膝辺りに鉄の棒が突き刺さった。

 エルの狙撃。

 さすがはエル。完璧な狙撃だ。

 クロスボウでは届かない長距離の射撃を可能にするのは、エルが覚えた風属性魔法によるものだ。

 ある程度の距離まで風の抵抗を受けないように、風魔法で風の道を作り出し、更にボルトを押し出す弦のアシストをする為とボルトにジャイロ回転を付与する為にも風魔法を使うことで、射程距離を大幅に伸ばしたのだ。

 この難しい射撃をするのに、エルは相当の時間を魔法の練習に費やした。

 だが、その努力に見合う射程距離と貫通力を身に着けたのだ。

 が、魔物の突進は止まらなかった。


 「は?」


 突き刺さったボルトを見ると、硬い岩のような鱗に邪魔され十分に突き刺さっていなかった。つまり、動きを止めるほど、足にダメージは入っていない。

 やべやべやべっ!

 悠長に構えて魔法陣の準備すらしていなかった!

 大急ぎで魔法陣を構築するが、魔物は目前まで迫っている。

 避けようにも、片方は壁で片方は崖だから駄目。

 一か八か、自分から穴に飛び込んで突き出た岩を掴めることを祈るしかないと覚悟したところで、突き刺さったボルトが爆発する。


 「ぐぅああぁああああああああ!」


 魔物は叫びながら転び、その勢いのまま陥没穴の底へと落ちていったのだった。

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