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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
七章 神の国 上
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想定外2

 まさに鶴の一声により洞窟でキャンプをすることが決まってから、俺達は荷物を運んでいた。といっても、俺達が準備してきた荷物は、殆ど俺のマジックバッグに入っているが。

 では、何を運んでいるのかと言えば、クレストがソリで運んできたものだ。手伝う義理はないが手を貸さないと、終わる頃には夜中になってしまうということで、いやいやながら手伝っている。

 もちろん、例外なく。


 「おい、何故余がこんなことをしなければならんのだ!」


 王の子であるルカも、俺が無理矢理やらせている。しかし、未だに不満は解消されずグチグチと文句を俺に垂れながらだが。

 ルカとは2度出会っていて、その度に俺と言い合いになり少なくとも俺に好意があるとは思えないはずだが、何故か俺に話しかけてくる。気に入らないなら話さなければいいのに。

 俺は白く染まる溜息を吐きながら、しかし荷物を運ぶ速度は落とさずルカに答える。


 「手伝わなくても良い俺達がやっているんだから、自分だけ楽しようなんて思うな。自分の意志でついてきたのなら尚更だ」


 まだ、ルカからどういった理由でついてきたのかは聞いていない。それを聞くためにもさっさと運び終わらせたい。それに、リディアが気になることを言っていて、その事についても確認したかった。

 ルカが少女だと。

 リディアを疑うわけではないが、やはり俺には信じられん。ルカが女の子で、わざわざ男のフリをすることがだ。何故かと問われば誰でも答えられる。

 それは全くの無意味だと。それに永遠に隠し通せるわけでもないとな。

 本当に少女だとしたら、なんでそんなことをするのか聞かなければならない。何故かって?もちろん、知識欲だ。()()()()、単なる人助けしたいが為に親身になって話を聞く?はっ、ありえんな。

 俺に当然の事を言われ無駄口を叩くことはやめたが、まだ不満なのか心底嫌そうな表情で小さな木箱を運ぶルカを見て、俺はもう一度溜息を吐くのだった。



 荷物を運び終わる頃には、上下左右がわからなくなるほどの闇が辺りを支配した。

 使いたくなかったが、俺の光魔法で足元を照らしてどうにか作業を終了することができた。

 別にクレストやルカの為に使いたくなかったからというわけではなく、魔物からこちらの位置がバレるからだ。

 悪天候でなければ、月明かりでどうにかなったんだが仕方がない。

 荷物を運び終わると、クレストがその荷物を洞窟内に広げていく。クレストが荷物を出し終わる頃には、洞窟内は基地と化していた。

 ランタン、椅子、簡易机、何の骨かわからない装飾が施された悪趣味なチェスト、挙句の果て絨毯まで敷いていた。

 そんなものまで必要か?とも思ったが、クレスト曰く「自分の趣味で満たさないと、こういった洞窟内で数日過ごすのは困難ですよ」と言っていた。

 王の命で各地に行かされるクレストにとっては、どこに行ってもこの家具類をセッティングすることが普通なのだろう。

 なんとか寝る所を確保でき人心地つけば、自分達が空腹だと腹の虫が思い出させる。そうとなれば、数日間準備してきた糧食の出番だ。


 「ギル殿、食事をルカ様と私に分けていただけるのは有り難いのですが、さすがに氷漬けになった肉はたべられませんよ……」


 俺がマジックバッグから冷気を帯びた肉を出すと、クレストがこんなことを言い出した。


 「まあ、安心しろって。俺達だって冷凍肉を好んで食べるわけないだろう?」


 俺は冷凍肉を人数分出すとまな板の上に置く。そして、冷凍肉に貼り付けるように魔法陣を出す。

 すると、今まで凍っていた肉が元の色を取り戻す。

 解凍の魔法だ。


 「な、何という高度且つ無駄な魔法なんだ……」


 クレストの口から思わず溢れる。

 失礼な。本来魔法はこういうことの為にあるべきだろうに。

 クレストに俺の持論を小一時間語りたいところだが、肉を凝視するエルの視線が怖いからさっさと料理してしまおう。

 フライパンを持つと、今度はそのフライパンに魔法陣を貼り付ける。その状態で暫くすると、フライパンが十分に熱を持ったことを知らせるように、付着していた水分を飛ばす音を奏でた。

 料理するのに火を必要としない魔法を開発したのだ。さしずめ、IHならぬMHマジックヒーティングといったところか。

 油を塗り、肉を乗っけると小気味良い音を鳴らしながら焼けていく。しかし、長時間焼く必要はない。この肉は既に料理済みだからだ。

 料理したものを冷凍保存してあるから、時間をかけて焼く必要はない。無駄な水分をとばし、温める程度でいい。

 ここでフライパンの熱するのをやめ、余熱のまま置いておき次の準備をする。

 といっても、やることはそれほどない。

 マジックバッグからパンを取り出し切って、そこに野菜を乗せていく。

 その上に先程焼いた肉を乗せ、トマトケチャップをかけてもう一枚パンを乗せて完成。

 料理名、残念バーガーの出来上がり。

 なんでこんな料理名なのかといえば、流石に現代地球のハンバーガーのような柔らかいバンズはないからだ。大きめのフランスパンを輪切りにした物をバンズとして代用している。

 トマトケチャップも、この世界で何となく近いものを作ったそれっぽいものだし、肉ですら牛のような魔物という代物だ。

 これを残念バーガーと言わずにして何と言う?まぁ、味は悪くない。それに、これだけではなく、ポテト、ナゲットも用意してあるから、満腹になること間違いなし。両方共トマトケチャップというのが気に食わないが、そこはどうしようもない。

 手際よくハンバーガーを全員分作り終わると配っていく。全員に行き渡ったのを確認していると、食事の前の挨拶をせずに料理に手を伸ばそうとする不届き者がいた。

 予想はしていたが、それはルカだった。


 「おい、俺が良いと言うまで食べるな」


 「な?!それが王族に対する―」


 「これは俺が用意した飯で、ここは俺のパーティの食卓だ。俺に従え」


 「くそっ!だったら早くせぃ!」


 まったく、これだから坊っちゃん、いや、お嬢ちゃん?は困る。エルでさえ、そわそわしながら待っているのに。


 「クレストは手をあわせ既に祈りの姿勢なのに、なぜその上に位置するお前が祈れんのだ」


 「聖王は女神と同等であるのだ。ならば、次期聖王の余も神と同等である。故に、祈りは余へ送られるのだ」


 ここまで言えば分かるな?という表情だ。

 なるほど、宗教らしく『神様、今日の糧をありがとうございます』的なやつか。それが神への祈りならば、同等の立ち位置である自分は祈る必要がないと?


 「俺のパーティでは神に祈らん。犠牲になった魔物、一生懸命に野菜を育てた農家に向けて感謝をするのだ。言いたいことは色々あるだろうが、ここでは俺がルールだ。従えないのなら、食わなくて結構」


 ルカは一瞬だけ悔しそうな表情をするが、すぐに不安げになる。


 「余は、祈ったことがない。どうすれば……」


 「誰に感謝しているか、どうやって祈るかなんて細かいことはどうでもいい。クレストのように祈ってもいいし、俺達のように短く感謝するだけでもいいから」


 命を頂くのだ。一言あってもいいだろう。

 色々と教えてやりたいが、料理が冷めたら意味がない。さっさと食べよう。


 「よし、とりあえず今日はお疲れ様。温かいうちに食べよう。いただきます」


 「いただきます、です」

 「いただきます」

 「……糧を感謝します」

 「い、いただきます」


 「よし、食え!」


 俺の号令に飛びかかる勢いで食べ始める。もちろん、最速で料理にありつけたのはエルだ。俺の号令から1秒で口をパンパンに膨らませる様子に、ルカやクレストは驚きを隠せないでいる。


 「うちの食卓は戦場だ。さっさと食べないと、エルに芋や肉を全部食べられちまうぞ?」


 ハンバーガーだけは1個ずつ配っているから安心だが、サイドメニューであるポテトとナゲットは大皿に盛っている。エルは物凄い速さでそれを減らしていっているのだ。


 「な?!ずるいぞ貴様!負けはせん!」


 「わ、私もいただくとします」


 ルカとクレストも手を伸ばし始める。


 「な、何だこれは?!うまい!」


 「はい、美味ですね。ルカ様」


 王族であるルカでも、さすがにジャンクフードは食べたことないだろう。毎日食べるには少々体調に不安を感じる料理ではあるが、簡単でそれでいて単純に美味い。

 俺もポテトに手を伸ばし口に入れる。軽い塩味が、今日の流した汗の分美味しく感じる。更にここからトマトケチャップをつけて食べれば、酸味が口をさっぱりさせ、次のポテトへナゲットへと手を伸ばさせる。

 はあ、これだからジャンクフードはやめられん。

 俺がジャンクフードの偉大さを噛み締めていると、また邪魔がはいる。


 「おい、フォークとナイフがないぞ。どうやって食せと言うのだ」


 ハンバーガーを食べようとするルカがどうやって食べて良いのかわからないみたいだ。


 「んーなものは必要ない。手で食え」


 「なんと下品な。これだから庶民は……」


 ナイフとフォークで食べるなとは言わない。そうやって食べる人も多いだろう。食べ方は人それぞれだ。


 「別に使っても構わないが、エルのように気にせず食べてみてもいいんじゃないか?それでも拒否したいなら、一応用意するが……」


 俺は顎でエルを指す。エルは既にハンバーガーの食べ方を熟知していて、エルフらしくない大口を開けハンバーガーにかぶりついている。

 それがまた美味しそうに食べるものだから、ちまちまとナイフとフォークで切り分けるのがバカバカしく感じる。


 「良い。試してみるのも一興」


 ルカも小さなお口を無理矢理大きく開いてかぶりつく。その様子にクレストは何も言わない。言える立場にないだけかもしれんが。

 ルカは何度か咀嚼すると目を大きく見開く。そして、夢中で咀嚼を続け飲み込むと料理の感想が無意識に口から溢れた。


 「う、うまい……。肉は噛むと優しくバラけるが、パサパサしていない。それどころか噛めば噛むほど肉汁が溢れる。かけてあるソースはかなり濃い味だが、一緒に挟んである野菜と上下にあるパンがそれをまろやかにしている。これは、完成した料理だな!」


 まったく子供らしくない感想だ。さすがは王族といったところか。

 特に子供には美味しく感じるだろうな、この脂っこい料理は。それに彼らにとっては未知な料理のはずだ。

 地球でもハンバーガーの歴史はまだ新しく、1900年頃から認知され始めた。ハンバーガーがいつ、どこで考案されたのかは諸説あり定かではないが、おそらく、忙しい人向けか、もしくは賄い用として作られた物だろう。

 どちらにしろ、大発明だったと個人的に思う。片手で食べることが出来、それなりの満腹度。なにより美味い。それだけで十分だろう。

 食事しながら今日の話を色々としたかったが、全員が黙々と食べている。今は食事に集中させてあげよう。



 食卓の戦いが終わり、満足げに腹を撫でるルカ。だらしない表情は王族には到底見えない。

 クレストも同じ心境だろう。各地に行き、それこそ多種多様な料理を口にしてきただろうが、単純だが絶品の料理はこれが初めてだったのか、食事前に祈りを捧げたのにもかかわらず、両膝をつき神に祈りを捧げているのだ。

 パーティメンバーのエルとリディアは片付けをしている。俺が料理をしたから、片付けは二人なのだ。

 そろそろ良いかな?落ち着いたし、ルカに聞かなければならないことを聞くなら今だろ。


 「ルカ、お前、王子じゃなく王女なのか?」


 俺の言葉に、ルカは一瞬だけ呆然とし、すぐに慌て始める。

 近くで祈りを捧げていたクレストも、祈りを中断しこちらに視線を向け唖然としていた。


 「な、な、なにを言っておるのだ!どこをどう見ちぇ、んんっ!どこをどう見ても!余は男子でありょう?!」


 完璧な二度噛みだ。マジか、この反応本当に少女だったのか?

 しかし、どうしてここまで動揺するのか、どうして性別を偽るのかわからんな。

 別に男だろうと女だろうと関係ないだろうに。もしかして、聖王になれるのは男だけだとか?


 「クレスト、聖王になれるのは男子だけか?」


 「は、はい。それはそうですが……」


 「ルカ。そこまでして聖王になりたいのか?」


 そうとしか考えられない。聖王になりたいから性別を偽っているのだ。


 「ちがう、余は男子だ!王子なのだ!」


 ルカは顔を青ざめさせ否定し続ける。視線はチラチラとクレストを気にしていた。

 もしかして、同じ法国の人間にバレるのが駄目なのか?


 「クレスト、お前、ここでの会話は忘れるよな?」


 「え?」


 俺はクレストを囲むように無数の魔法陣を出す。


 「は、はい!」


 「よし。それで、どうして性別を偽る?」


 「ちが、ちがう。余は、余は……」


 クレストを口止めしたが、それでもルカは首を横に振る。

 んー?何だこれは。まるで怯えているようじゃないか。


 「ルカ、クレストは俺に従う。それだけの恐怖をクレストに与えたからな。そして、俺は法国の次期聖王のことなどどうでも良いと考えている。それこそ誰が聖王になろうと知ったことではないとな。俺の仲間はお前が女だと会った瞬間に気づいたのだから、いずれ露見する。なら、今素直に話してクレストを味方にしたほうが得策だぞ?」


 俺が長々と説得すると、ルカは少し落ちついたのか首を振るのをやめ考え込む。

 俺はルカが思考している間、何も言わなかった。

 長考の末、ようやくルカが口を開いた。


 「……ギル。そなたは城に入ったことがあるな?」


 「そりゃあ、聖王に呼ばれたからな」


 「クレストも城の内部は知っておるな?」


 クレストが無言で頷く。

 クレストに対しても説明するように話すのは、クレストですら知らない内容だからだろうか。


 「余以外、王の子と城で会ったことはあるか?」


 ん?そう言えば、城にいたのは短い間だったとはいえ、ルカ以外の王族と出会わなかったな。気にもしなかったが、聖王は各地から嫁候補を連れてきていると聞く。ならば、ルカの兄弟もそれなりに多いはずだが……。

 クレストにも疑問があったのか、黙って聞くことをやめて珍しく口を挟む。


 「ルカ様以外の王族の方を何人か知っておりますが、2度ほど会ったきりです。それがいかがしましたか?」


 「其奴らと……、同じ王族と再び会ったことはないであろう?」


 「たしかにそうですが、私はほぼ城におりませんので……」


 「そうか、クレストは執行者か。ならば、知ることは少ないか」


 執行者?ああ、聖王の命で動く胡散臭い連中のことか。アーサーが言っていたな。


 「それがどうしたんだ?王族なら忙しいんだろ?」


 「そうではない。常に城にいる余ですら、兄弟と会ったことがないのだ。いや、正確には一人だけ会ったことはあるがな」


 ……なんだかきな臭い話になってきたな。

 ルカは聖王の子なのだから、兄弟達と食事ぐらい一緒にするだろう。だけど、会ったことすらないとは……。


 「ギル、お前の仲間が話すとおり、余は女だ」


 ここでルカが正直に自分の性別を話した。俺は表情を変えなかったが、内心はひどく狼狽していた。それはクレストも同じだったことだろう。


 「これは一度だけ会ったことがある姉に聞いた話だ。真実かどうかもわからない」


 ルカは小さな手を震わせていた。間違いなく何かに怯えているのだろう。

 その震える手をもう一つの手で押さえると、深呼吸して続きを話す。


 「聖王になるに相応しくない能力の低い者や女は、殺される。そういう話だ……」


 俺とクレストはすぐに反応できず固まっていた。

 片付けをしていたエルとリディアも聞き耳を立てていたのか、ルカの想定外な言葉で俺と同じく固まってしまったのだった。

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