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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
七章 神の国 上
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想定外1

 ダンジョン跡が崩壊し出来上がった陥没穴だと予想をしたが、そんなことより俺達はどう降りるかで悩んでいた。

 エルの村で買ったロープがマジックバッグに入っているとはいえ、底が見えない陥没穴を降りるには心許ない。長さも強度も本数すら足りていないでは、表層から最も近い横穴でさえ届かないだろう。

 その上、天候が更に悪化してきている。

 既に吹雪と勝手に思っていたが、そうではなかったらしい。猛吹雪と化し、気温が下がってこのまま突っ立ていると凍えてしまう。

 そして、もうすぐ日が暮れて何も見えなくなってしまう。闇雲に動き回るのは危険だ。

 依頼の魔物退治をするより、今日をどうやり過ごすかという問題になってきた。猛吹雪の中、魔物が巣食っているであろう場所の近くでテントを張り、そこで寝るには危険過ぎる。

 さてどうするか、と頭を悩ませているとエルがある場所を指差した。


 「お兄ちゃん、向こうに降りる道、あるかも、です」


 俺には何も見えないが……。ホワイトアウト気味な視界でも、エルの目には見えているらしい。しかし、この情報は果たして良いのか悪いのか……。

 だが、このまま考えていても仕方がない。とにかく行ってみるか?


 「エル、案内してくれ。皆、穴に落ちないようについて行くぞ」


 エルの先導で案内された先はそれほど離れていなかった。

 つまり、それほど視界が悪いということだ。もうそろそろ歩き回るのはやめたほうがいいだろう。陥没穴から離れるにも、動かずテントを張るにも決断を急ぐべきだな。

 しかし、折角エルに案内してもらったのだから、穴に降りられるか確認しておきたい。

 雪が積もっていて分かりづらかったが、たしかに道がある。陥没穴の横壁に沿って下り坂があったのだ。探索はここから始めるのが良さそうだ。

 そんなことを考えていると、クレストが話しかけてきた。


 「進むというのもありですな」


 進む?進むっていうのは、陥没穴へという意味か?いったい何を言っているんだ。……いや、正直に言えば、俺も考えなかったわけではない。外でキャンプというのは自殺行為なのだから、陥没穴の横壁に見えている横穴の一つを占拠し、見張りを置いて寝るのが実は安全なのではと。

 だが、それをクレストが言い出した事が問題なのだ。

 俺はまだクレストを信用していない。今回の依頼は聖王と大司祭ホーライが仕組んだ罠という可能性がある以上、クレストも罠に関わっていないとは言えないだろう。

 これだけ規模の大きい陥没穴ですぐ魔物と出会うとは限らないが、文字通り魔物達の巣窟で、それもどんな魔物かわからない状況で一夜を過ごすのは賢いとは言い難い。

 だけど、凍死もありえる猛吹雪の中のキャンプも危険という点は同じ。だとすれば、進む選択も案として考えるべきか?決断を急いだ方が良いが迷うところだ。


 「どちらにしろ、中の様子を見るか……」


 少しでも安全に一夜を過ごせると思う判断材料がほしい。


 「でしたら、私も同行します、ギル様」


 「いや、俺一人でいい。リディアはここで待機してくれ」


 まずい状況になったら、大規模魔法で切り抜けるから一人の方が良い。


 「ですが……」


 それでもリディアは俺を一人で行かせることに抵抗があるみたいだ。しかし、俺もリディアや仲間達を危険な目にあわせたくない。なんとか俺に任せてもらうために、リディアに役目を与えるか。

 俺は小声でリディアに話す。


 「リディアにはクレストを見張っていてほしい」


 リディアに残ってほしいのもあるが、実はこれも本音である。さすがにエルとクレストを二人っきりにはさせられない。


 「……わかりました、ギル様お気をつけて」


 リディアは賢い女性だ。俺がまだクレストを信用していないのを理解したのだろう。今度は素直に頷いてくれた。

 エルは俺の判断と実力を信じているからか、異論はないみたいだ。クレストも何も言わないが、元々ただの案内役だし、依頼を達成するために偵察するのならば反論すら持たないだろう。


 「よし、じゃあ行ってくる。すぐ戻るから」


 そう言い、俺は陥没穴へと入っていった。



 陥没穴へ下りていく道にも雪が積もっていた。これが迷彩の役割になっていて遠くからでは気づかないわけだ。

 道自体にも厄介な事がある。壁に沿っているから雪が少しずつしか積もらず、それが固まって氷になっているのだ。薄い雪の下は氷だから非常に滑りやすい。

 ここで滑ったら高確率で死が訪れるだろう。

 今日か明日かはわからないが、皆もこの道を通るのだからなんとかしておくか……。

 俺は魔法で熱湯を大量に作り氷の道に流していく。地面が見えたところで、今度は魔法で熱風を作り濡れた大地を乾かしながら歩いていく。

 そこまでやっておいて今更だが、あることに気づいた。


 「ここまでしておいてなんだが、もし地面が無く氷だけの道だったら、俺死んでたな……」


 急いでいるからか、正しい判断が出来なくなっているみたいだ。これからはしっかりしないといけないな。だが、いつまでも仲間達を待たせるわけにはいかない。冷静且つ迅速にだな。

 魔力を更に流して風量を上げ、道を乾かしながら進んでいく。時間にして20分程歩いたところでようやく最初の横穴に辿り着いた。

 中は真っ暗で何も見えない。ダンジョンの壁は薄っすらと光を発しているから、真っ暗はありえない。ここがダンジョンで出来た陥没穴だとしたら、やはりダンジョンとしては既に終わっているのかもしれない。

 しかし、今はそれよりもこの横穴の中の様子を確かめなければならない。

 気をつけないといけないのが、中に魔物がいる可能性があることと、洞窟の中を火を使って調べないことだ。

 魔物がいたら危険なのは当然だが、火を灯りの代わりにしてはいけないのは、もしガスが出ていた場合発火もしくは爆発する場合があるからだ。

 穴に入らず光魔法で照らして確認するのが良いだろう。

 俺は魔法で光をスポットライトのように照らし中を覗いてみる。

 横穴の広さはそれなりにあったが、先に進むような道はなく行き止まりだった。なにより、幸いにも魔物の姿はなかった。

 安堵の溜息を吐くと、今度は先へ進む道をスポットライトで照らしてみる。

 魔物の姿はなく、次の横穴までそれなりの距離があった。これならここで野宿したほうが安全かもしれないな。

 後は横穴に有毒ガスがあるかないかだが、カナリアなんて用意していないし、動物を使うのもなんとなく嫌だ。苦肉の策としてカナリア役に他の動物を使うにしても、ここは雪山だ。そう簡単に見つかるわけがない。

 もちろんガス探知する最新機器なんてものは持っていない。

 さてそうなると、中へ火を放り込んで爆発しないことを祈るしかない。


 火の魔法で確かめた結果、幸いにもガスは出ていなかった。つまり、魔物は近くにいるが、ここは安全な上に入り口は一つで守りやすい洞窟ということになる。

 ここで野宿するかは皆と相談するが、今の所最有力候補だ。早く戻って皆に知らせてやろう。


 帰りは雪を取り除いておいたおかげで、すばやく戻る事ができた。苦労はしたが、正解だったかもしれない。


 「ギル様!ご無事ですか?!」


 俺の姿を見つけたリディアが、俺に怪我がないか確かめる。


 「大丈夫。魔物もいなかったし、危険もなかったよ」


 エルも俺に近づいて無言でしがみつく。何も言わないが心配してくれていたのだろう。俺は優しく頭を撫でてやる。


 「それでギル殿、どうしますか?」


 遅れて近づいてくるクレストが、どこでキャンプするかのかと俺に聞く。

 もう殆ど日が暮れ、どちらかと言えば夜になっていた。クレストも焦っているのだろう。

 俺は見たことをそのまま説明した。


 「ということで、横穴の中は安全だ。ただ、魔物から近いことだけが問題だな」


 それだけ遭遇率が上がるということだ。猛吹雪の中でキャンプするのも、雪はないが魔物が襲ってくる可能性が上がる横穴も危険はある。俺が決めるわけにはいかないから、皆に判断してもらう。

 だが、どっちで一夜を過ごすかの議論は時間がかかった。

 それは暖を取る方法で悩んだからだ。

 外の場合、雪に邪魔されるがテントの近くに焚き火を設置できる。だが、洞窟の場合は焚き火を設置できないからだ。

 この議論にはクレストも参加し、更にややこしくなって決定ができないでいた。


 「ですから、多少寒くとも魔物に襲われる可能性の低い外で過ごすべきだと私は思う。そうでしょう、ギル殿?」


 「いいえ、クレストさん。雪で焚き火が消されてしまうのです。外では凍死してしまいますよ」


 「どっちも、焚き火できない、です?」


 こんな会話が長時間続いている。どっちが良いとかではなく、どっちも嫌なのだ。

 この議論の間に辺りはすっかり暗くなっている。そろそろ決めないと外でキャンプをする場合、テントを張るのさえ面倒になる。

 もうこれは夜通し議論しかねないと思った矢先、まったく予想もしていないところから声を張り上げる者がいた。


 「貴様らいい加減にせぃ!さっさと決めんか!」


 全員がぽかんとしている。知らない声だからだ。いや、俺は聞いたことがある。

 声がした方向を見てみると、クレストが乗っていたソリがあった。ソリに乗せていた荷物の一部から声が聞こえたはずだ。

 ソリの荷物はクレストが数日間過ごす食料や衣類、その他の雑貨。そして、ソリを引く狼の餌載せていたらしい。

 その声は食料が入っているとクレストが言っていた木箱から聞こえたのだ。


 「だ、誰だ?!私の荷物にいる者は!」


 クレストは短剣を構えながら近づいていき、木箱の蓋を恐る恐る開いてみる。

 開いた瞬間、中から人が立ち上がった。

 その人物を見てクレストは驚きの声を上げる。


 「ル、ルカ様?!どうしてこの中に?!」


 やはりそうか。最近聞いたことがある声だと思った。

 聖王の息子と自称する子供だ。まあ、恐らくそれは真実なのだろう。

 ルカはクレストの質問に答えず、木箱から上半身を出し腕を組みながら不敵に微笑んでいる。

 どうせ悪ガキは冒険をしたいが為に、どこからか俺達のことを聞き潜り込んだのだろう。

 クレストはルカがどうして木箱に入っていたことより、もっと大事な事に気がついたようだ。


 「その、ルカ様?その木箱に入っていた私の食料はいったいどこに……」


 「む、それを気にするか。もちろん、余が入るのに邪魔だったから出した。安心せぃ、民に配っておいたから無駄にはなっておらん」


 クレストは呆然としながら、ルカの下半身が未だに入っている木箱を見ている。

 恐らく、クレストは「何を言っているんだ、こいつは」と思っていることだろう。


 「つまり、お前達の食料はないということだな。馬鹿め」


 「おい貴様、何度も言っているであろう?余は王の子だ。無礼な言葉は控えよ」


 「この過酷な状況下で、食料がないんじゃ2日は生きていけないぞ。馬鹿でなくてなんだ?」


 「む、クレスト。食料はあれの他にまだあるのだろう?」


 「………いいえ、ルカ様。あれが全てでした」


 「なに?!ならばどうするのだ!?」


 こいつ本当に王の子か?普通の子供の方が賢いんじゃないか?

 クレストは王子には何も言えないのか、ただただ頭を抱えるばかり。

 こんなことをしていたら、本当に夜通し猛吹雪の中で話をすることになる。


 「ったくわかったよ、食料は俺達が分けてやるから今はどこで夜を過ごすか、さっさと決めよう。このままじゃ、会話したまま凍死しちまう」


 本当は分けたくないが、そういうわけにもいかないだろう。文句は後でグチグチ言うとして、今はさっさと決めて落ち着きたい。

 だが、さっきの議論の状態だとずっと平行線だろう。どうにかどちらかに決めないといけないが、どうするか。

 そう悩んでいたら、ルカが議論を左右する発言をしてくれた。


 「余は今まで何重もの毛布に包まれて木箱の中で寝ていたが、それでも寒くて起きたのだ。それに吹雪の音で何も聞こえなくなるテントより、洞窟の方が幾分かマシだと思うが?」


 おそらく、少し前から起きていて俺達の話を聞いていたのだろう。その上、経験から学んだ貴重な意見を言ってくれた。

 つまり、毛布に包まれた狭い空間でさえ安眠出来ないのでは、テントで寝ることは到底無理だと。そして、吹雪の音に邪魔されて音による索敵が困難になると言っているのだ。

 これで議論は洞窟へ傾くだろう。それを後押しすれば決定するはずだ。


 「そうだな。焚き火は出来ないとはいえ、洞窟の方が良いかもしれない。皆もそれで良いな?」


 皆もうんざりしていたのだろう。俺の言葉に大人しく頷いた。

 これでようやく移動することが出来る。

 移動の為に準備をしていると、リディアが俺に話しかけてきた。その内容が俺には驚きを隠せない想定外のものだったが……。


 「ところでギル様。あの()()とは初対面ではないようですが、いったいどこで?」


 俺は一瞬固まり、空を見上げ首を捻って考えてからリディアに「少女?」と答えたのだった。

投稿が遅れました。

度々申し訳ないのですが、3、4月は多忙のため

遅れることが多々あります。どうかご了承ください。

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