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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
七章 神の国 上
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聖王謁見

 個室に案内され、俺とリディアは椅子に座りながら、呼ばれるのを待っていた。

 リディアと他愛のない会話をしながら何十分かが過ぎていた。すると、扉がノックされ、俺の許可を待たずにドアが開かれた。


 「失礼」


 部屋に入って来た人物は、見たことがある。

 6階層で初めて出会い、10階層で同じ地球から来たアーサーと一緒に、俺と敵対した男、クレストだった。


 「久しぶりじゃないか。クレストだったか?」


 「はい、お久しぶりです、ギル殿」


 名乗った覚えはないが、どうやら名前を知ったようだな。あの時は『聖騎士』の世話になった下級冒険者だと思われていたからな。

 それが俺に脅されてからというもの、随分と態度が変化した。

 まあ、そんなことはどうでもいいか。丁度良いし、少し探ってみるか。


 「それで、俺達はどうして呼ばれたんだ?」


 「私にはわかりかねます。聖王様の御心は私程度では理解できませんので。ですが、私はあなたを危険視していて、個人的にはかかわらない方が良いと思っています」


 この発言は予防線だろうか?俺に敵視されないように。


 「保険をかけるのはやめろ。はっきり言うが、俺の味方以外は全て敵だと知れ」


 そう答えるとクレストは、少しだけ怯む。それも一瞬で元の表情に戻るが。


 「理解、しております」


 「それで?何を言いに来たんだ?」


 クレストの言い訳を聞くのは時間の無駄だ。話を先に進めよう。


 「私が会いに来るのは、()()()()もう少し後のはずです。ですが、ギル殿を少々手助けしようかと思いまして。そしてこれは、私にとっては危険な行為です」


 つまり、危険を冒してまで、俺にアドバイスしに来たということか。随分と俺を恐れているじゃないか。まあ、それも保険だろうが。


 「信仰心より恐怖心が上回ったか?」


 「そのようです」


 「つづけろ」


 話を進めろと促す。


 「といっても、あなたの予定を話すだけですが。ギル殿はもう少ししてから、聖王様と謁見されます。そして、その会話次第ですが、聖王様はあなたにとある依頼をするでしょう。その場合、あなたは依頼を受けるはずですが、その時の案内を私がすることになりました」


 一瞬、なんの話をしているんだと思った。まるで予言じみた話だったからだ。

 というよりは、クレストには確信があるのだろう。俺がクレストの話す通りに選択すると。いや、予想しているのはクレストだけじゃあないのか?


 「俺がお前の予想を嫌がり、選択を変えるとは考えないのか?」


 「それならそれで私は構いません」


 それだと、案内するときはよろしくと伝えに来ただけだが、それだけのために命がけで来たのか。


 「わかった、その時は案内になるぞ。ご苦労だったな。それとは別に聞きたいことがあるんだが」


 「何でしょう?」


 クレストは言いたいことを言い、そして俺に労いの言葉をかけられたおかげで安心したのか、少しだけ顔色が良くなった。

 だが、クレストのことも、そんな先の予言も今はどうでもいい。それより俺には聞きたいことがあった。


 「後どれだけ待たされるんだ?」


 「もう少しです。ギル殿より先に会われる方は二組おりますので」


 あぁ、もう少しだ。20分程か?


 「わかった。言いたいことが終わったのなら、さっさと出て行け」


 俺がそう言うと、クレストは何も言わず頷くと、静かに出ていった。

 口を挟まず静かに聞いていたリディアが小さく息を吐く。


 「冷たく接したと思うか?」


 あれだけ俺を恐れている人間に優しくすることもなく、逆にその恐怖心を維持させるような話し方をしたことに、リディアが疑問を覚えているんじゃないかと感じ聞いてみた。


 「いえ、あれがギル様の優しさですので」


 さすがはリディアだ。俺のことをよく知っているな。

 もし誰かに聞かれていたとしても、クレストが「案内は私がします」と言いに来ただけのように、聞き取れるのだ。

 もし俺が心配して優しく声をかければ、クレストが俺にすり寄っているようにも聞こえてしまう。だからこそ、冷たく接した。

 クレストはあの時、エリーを連れて帰ることができないと命が危ういと言っていた。ということは、俺の情報を話し生き延びることができたということだ。

 クレストが俺に敵視されないために会いに来ただけで、命の危険がある綱渡りをさせるのは馬鹿らしいと思ってしまったのだ。

 明確に俺の敵だと判断することができれば、俺は容赦しないんだがな。

 まあ、どうでもいいことだ。今はそんなことより、自分のことを神の子と嘯く自信過剰野郎との、興味のない話をさっさと終わらせたい。……男か女か知らんけど。



 クレストが部屋を出ていってから、約20分が経った。

 俺の予想通りに扉をノックする音がした。


 「入れ」


 賢者試験以降、俺は「不躾な人間」というイメージを損なわないようにと注意されている。それも数人から………。

 「ギルよ、他国に行く場合は賢者試験での振る舞いをするのじゃぞ」

 「あぁ、そうですね。ギル君には一番似合ってます」

 「それはそうだ。お前は既にそのように見られているのだからな」

 という三賢人の有り難い助言があり、さらに。

 「はー~。お兄ちゃんかっこいい、です」

 「旦那、大丈夫ッスよ。いつもと変わらないッスから」

 などという、一部から心無い言葉を浴びせられたのだ。

 まあ、言いたいことは分かる。分かりたくはないが。

 魔法都市計画のメンバーの一人である俺が、他国に甘く見られたらそれこそ、乗っ取られたり潰されたりするだろう。

 ならば、恐れられていたほうがまだいい。恐れられすぎても駄目だが、そこは上手くやるしかないな。


 「失礼します。聖王様との謁見の準備が整いました。只今よりご案内いたします」


 部屋に入ってきてそう告げたのは、この部屋に案内してくれたフードを被った女性だった。

 俺とリディアは、椅子から立ち上がる。


 「ああ、頼む」



 俺達が部屋を出て、城の中をかなり長い距離歩いた。侵入者や暗殺者対策か、それとも城を広く見せるための見栄か、恐らく前者だろうがうんざりする。

 そして、ようやくそれらしき扉の前まで案内された。

 兵士が二人、扉の前に立っているし間違いないだろう。


 「こちらです」


 だろうな。これでここがトイレだったら、逆に腰を抜かすよ。

 扉を開けようとすると、兵士に止められる。


 「武器はこちらで預からせてもらう」


 まあ、自称でも王だしな、仕方ないか。だが。


 「断る」


 「…………………………………は?」


 兵士は長い長い沈黙の後、素っ頓狂な声を上げる。


 「断ると言ったんだ」


 「そ、それならば謁見することはできない!」


 「そうか、なら帰るから案内しろ」


 「は?」


 「お前、耳腐ってんのか?何度も聞き直すな」


 この俺の発言で、さすがに頭にきた兵士達は槍を構える。


 「貴様!」


 俺は靴底に魔法陣を描く。誰にも魔法を使っているとわからないように。

 瞬く間に周囲の温度が下がり、兵士達は白い息を吐きはじめた。


 「俺に槍を向けるのはいいけど、果たして突き刺すことはできるのかね?」


 「な、なにを………、え、動かない」


 「くそっ!鎧の関節部分に氷がっ!」


 氷魔法だ。

 アイスフィールドで氷属性魔法の効果を上げつつ、足首、手首、膝、肘、肩の部分を氷漬けにしたのだ。

 俺はリディアの腰にある刀を指差す。


 「まず第一に、この武器は魔法都市でも機密扱いだ。一瞬でもお前達に渡すわけにはいかない」


 そして、自分を親指で指す。


 「第二に、武器を預かったぐらいでは、俺は阻止できない」


 指を鳴らすと、兵士達の氷が砕け散る。


 「わかったら、責任者に許可を取ってこい。それでも駄目だと言うなら、俺は聖王に会わなくても一向に構わんから、帰ると言っているんだ」


 「こ、このっ!」


 「馬鹿、やめろ!」


 血気盛んな若い騎士は、脅しに負けず俺に立ち向かおうとする。だが、もう一方の中年騎士に止められる。

 兵士二人は暫く言い合っていたが、どうにか話がまとまったみたいだ。


 「今、大司祭に許可を取ってくる。ここで待て」


 中年騎士がそう言うと、扉の中へと入っていく。

 さすがだなぁ、あれだけの実力差を見せつけて態度を変えないのは。あの兵士に免じて、おとなしく待っていよう。

 ここでの出来事を事細かに説明しているのか、5分ほど待たされると扉が開いた。


 「中に入れ。謁見の許可が出た」


 「ようやくか」


 そうしてついに、謁見の間に足を踏み入れた。



 謁見の間を見た感想としては、非常に広く質素としか言えない。

 いや、実際にはかなり金のかかった作りなのだろう。

 まず、柱や床、天井に至るまで白一色。正確に言えば、真っ白ではなく白が殆どのマーブル模様だ。地球の大理石によく似ている。

 もし大理石のように高価な素材ならば、金を湯水のように使った贅沢だろう。それこそ、大富豪でなければ無理だ。

 それをバスケットコートのような広さと、棒高跳びしてもまだまだ余裕がある高さの天井まで、全てその素材だ。

 ただ、柱も天井も彫刻は一切なく、金箔でビカビカするような、目が痛くなる装飾もない。それが質素と感じたのだろう。

 両端には、真っ白な重鎧を着た兵士が10人ずつ整列している。

 これだけの護衛を配置していれば、安心して謁見もできるだろう。俺には無意味だが。

 最奥は数段高くなっていて、その場所に簾で目隠しされた場所がある。どうやらそこに聖王がいるみたいだ。


 「こちらへ」


 聖王がいると思われる場所のすぐ近くに立っている男が話す。見るからに司祭といった服装をしているが、あれがおそらくスパールの話していた、ホーライ大司祭か?

 俺は言われるがまま前へ進む。

 横から兵士が二人出てきて、互いの槍を交差する。ここで止まれという意味だろう。

 その位置まで進むと、俺とリディアは足を止めた。


 「聖王の御前であるぞ、跪け」


 兵士の一人が俺達に言う。


 「なぜ?来たくもないのにわざわざ来たのだ。その上、跪けと?」


 「き、きさまっ!」


 「よせ!」


 謁見の間にいる兵士全員がガシャリと鎧を鳴らし戦闘態勢になるが、それをホーライ大司祭が止める。


 「構わん。若くとも一つの都市の代表だ。曲げられない信念もあるだろう」


 まあ、どうせ全員を氷漬けにして動けないようにするがな。それをホーライは分かっているのだろう。

 謁見の間の外での出来事を報告されているはずだが、随分と余裕そうだ。それだけの実力者ということか、それともブッダのような悟りを開いているのか。


 「ふむ、情報では三人でお越しと聞いているが、今日はお二人かな?」


 ちっ、やっぱり密偵を仕込んでやがった。


 「三人?俺達は二人で来ているが、密偵が間違ったようだな。そいつはクビにするべきだな」


 俺はできる限り無表情、且つ視線を一切動かさないように話す。嘘ぐらい見抜くだろうと考えての行動だ。


 「おや?気づいておられたか。我々は大所帯でね、目はいたるところにある。しかし、何人も三人と言っていたが、全員が見間違いをしたと?」


 いったいこの会話になんの益があるのか。戦力を知っておきたいということなら、こいつは既に喧嘩腰だな。

 しかし、三人ということはスパールのことを知らない?俺達が街でフラフラしていた時に密偵がいたのか?


 「賢者スパールも同行しているが、その奴隷では?俺がスパールと共に来ていることを知らないのなら、やはり全員をクビにすべきだな」


 俺がそう言うと、ホーライは微笑を浮かべた後、わざとらしく驚いた演技をする。


 「おぉ!あの三賢人の一人、スパール殿とご一緒か。たしかもうひとりは亜人だと聞いていたが、なるほど、亜人ならば奴隷に違いない」


 どうして亜人なら奴隷に違いないんだ?

 少しイラッとするが、話が進まない。


 「そんなことはどうでもいい。それで俺達はどうして呼ばれたんだ?というか、そっちから来いよ」


 この発言でさすがに兵士達がキレた。


 「黙って聞いていれば!」

 「大司祭!今すぐ神の裁き!」

 「無礼者め!」


 おー、怒っていらっしゃる。まあ、確かに無礼だよなぁ。


 「よしなさい。動けば氷漬けにされてしまうぞ。私がお守りできるのは聖王様のみで、お前達まで守ることはできない」


 ホーライはそう言って鎮めようとするが、それでも俺が許せないのか、まだ怒鳴り散らしている。

 しかし。


 チリーン。


 簾の奥から鈴の音がした。

 すると、兵士達は怒るのをやめ膝をつき黙る。

 聖王か?

 ホーライが簾の前まで行き、兵士達と同じように膝をつくと簾の中の音を聞くように耳を寄せる。聖王が何かをホーライに伝えているのだろうか?

 聞き終わったのか、立ち上がって元の位置まで戻る。


 「聖王様のお言葉だ。彼はこれでも街の代表、多少の無礼は許容せよ、と」


 ホーライが代弁すると、兵士達は戸惑うどころか聖王を讃えるような言葉を並べる。


 「おぉ、慈悲深い」

 「聖王様に習って、我らも心を広く持たねば」

 「例え信仰心がなくとも、聖王様の大きい御心は理解できるだろう」

 「うむ、例え蛮族だろうとな」


 酷い言われようだ。信仰心のない蛮族とな?

 まあいいや。このまま発言する度に罵声を浴びせられては、本当に話が進まない。


 「それで、どうして呼んだ?」


 「お主は無礼でも、頭は回る。既にわかっているのではないか?」


 やはりというべきか、聖王は答えずホーライが話す。


 「さてね、何個も思いつくがどれが正解かは、聞かなければ一生謎のままだ」


 シュレディンガーの猫のような謎掛けだが、別に量子力学的な話でも、哲学的な話でもない。出題者がいるならば、その出題者が答えを言わない限り、全てが正解で全てが不正解なのだ。

 物理や科学で理論的に100%に限りなく近づいても、正解を言わない限り99.9%止まり。99.9%の的中率でも主題者がハズレと言ってしまえば、その理論は結果0%なのだから。


 「面白いことを言う。だが、深い。……ならば早速、本題に入ろう」


 ホーライは周りの兵士、そして俺とリディアを順番に見てじっくりとためる。

 そして、十分な間をとってから、ついに口を開いた。


 「お主ら、聖王様の法国に属する気はないか?」

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