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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
一章 賢者の片鱗
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戦利品とはじめての鍛冶

 ダンジョンと言っていいものだろうか。だが、ダンジョンだと確信した。

 中はかなり広く、薄っすらと壁自体が光を発している不思議な空間だった。この世界の岩が光を発するのでなければ、これはダンジョンの効果だろう。

 それはさておき、一番はじめに目についたのが、目的としていた鍛冶場である。かなり立派で道具が一式揃っていた。ついさっきまで作業をしていたのだろう。炉に火が入っていて、鍛えかけの剣が金床に乗っかっている。

 次に、そこらじゅうが穴だらけなのが目についた。コボルト達が採掘していたのだろう。つるはしと鉱石が色々な場所に置いてある。

 そして最後に、最奥に一本だけ柱があり、宝石みたいなのがはめ込まれている。

 それを鑑定スキルで鑑定してみた。


 ダンジョンストーン……魔石の一種。設置されている限りダンジョンは広がり、魔物が生まれる。


 マジか!すぐに取り出そう。

 魔石は簡単に外すことが出来た。大きさは15センチ程。どれほど価値があるかわからないが、貴重なものだろう。大事に取っておこう。

 そして、やはりと言うべきか、魔石を取った瞬間に壁の光が消えた。

 どうやら俺の予想は間違ってなかったようだ。

 さらに、柱の裏側に宝箱があるのを発見した。


 「きたコレ!ダンジョンといえば宝箱!」


 急いで駆け寄り開けようとして、思いとどまる。罠とかあるかも。

 色々考えた結果、正面からではなく横から、さらに剣で開けることにした。

 苦労しながら、ようやく宝箱が開く。罠はなし。

 早速、中を確認してみよう。


 宝箱に入っていたのは、バッグと瓶が2本だった。鑑定してみる。


 マジックバッグ(中)……バッグの口に入る大きさの物ならば、数多く収納可能。

 中級治癒のポーション……ある程度の外傷であれば瞬時に治す。


 「マジックバッグ!こういうのが欲しかったんだよ!そして地味だけどポーションも嬉しい」


 マジックバッグは腰につけるタイプでかなり便利だった。

 タダチニ ソウビ シタマエ と心の中で誰かが言うので、すぐに着用する。

 そして、ポーションと魔石をしまっておく。重さも軽減されるみたいでバッグの重さしか感じない。良い物を手に入れた。

 その後も意外なところで嬉しいものを手に入れた。ダンジョンの端にボロボロの革のバッグが置いてあった。多分これはコボルトが倒した冒険者のだと思う。コボルトリーダーが持っていた剣の説明がつくからな。

 中身は本が一冊だけ入っていた。他はボロ布ばかりだ。しかし、この本が俺が驚く物だった。

 字は地球のものではないが、不思議と読める。表紙のタイトルを読んでみた。


 賢者ダンデリオンの魔法理論 初級編


 魔法の書だったのだ。これを見た瞬間すぐに読みたくなったが、我慢してマジックバッグにしまっておくことにした。

 まだまだ回収するものがある。コボルトが採掘していた鉱石だ。鉄鉱石がほとんどだったが、他にも様々な金属鉱石があった。中には金鉱石もあった。それをマジックバッグにしまう。

 そして、驚くことにコボルトは製錬もすることができるらしい。インゴットと呼ばれているらしいが、鉄のインゴットと金のインゴットが一本ずつ置いてあった。これも回収して街に行った時にでも売ろう。

 これがこのダンジョンの戦利品である。

 かなり良いものが手に入ったのでないだろうか。

 粗方回収し終わり、コボルトのゴミ捨て場だったであろう場所を見た時、また驚くことになる。

 骨や食べ残しがあるが、そこにも鉄のようなものがあった。鑑定し内容を確認する。


 くず鉄……砂鉄から製錬したものや製錬の失敗したもの。価値はない。


 このように表示された。ふざけるな。くず鉄と表示されているが、俺はこれを日本で見たことがある。

 手作りナイフと同じ素材。玉鋼だ。日本刀を作るのに必要なものだ。

 玉鋼を見た瞬間に作成する武器を決めた。刀を作ってみよう。

 マジックバッグにあるだけの玉鋼を回収し、ダンジョンから出て全速力でテントまで戻ってきた。

 引っ越しの準備だ。全てをマジックバッグとリュックに詰め、椅子を担ぎ、机を持ってダンジョン内に移動した。

 荷物を置くと急いで鍛冶場へ向かう。炉の温度が下がる前に作業をしたかったのだ。

 マジックバッグから玉鋼を取り出すと、服を脱ぎパンツ一丁になって作業を開始した。

 昔体験した刀鍛冶体験コースを思い出し、さらにネットや本で調べた知識を合わせて、刀を鍛えていく。

 折返し鍛錬もきっちりやり、素延べ工程まで進む頃には夜中になっていた。

 鍛えている間は寝ることも、食べることも出来ない。汗もびっちょりで、顔色も酷いことになっているはずだ。

 でもまだ休めない。

 火造り、荒仕上げ、土置き、そして焼入れを終わらせた。

 刃紋を確認しつつ荒く研ぎながら形を整え、終わった瞬間力尽きて倒れた。

 目を覚ました時には夕方になっていた。


 「あぁ、この休日に夕方まで寝てしまった時みたいな脱力感は久しぶりだな。でも、もう少しだ。がんばろう」


 時間がもったいないので、食事は作業をしながら干し肉で済ませることにした。

 外に行き、暗くなる前に木を集めてくる。

 その木をダンジョンまで持ってきて放り投げたら、ひとまずそれは放置し、刀の研磨をする。

 研磨が終わり、刀を持ち上げてみた。光に反射し美しい輝きを放っている。

 うっとりと5分ほど眺めてしまった。

 それからは、ナイフで木を削り鞘と握りを作った。両方共大工道具がなかったから適当になってしまったが、今はこんなものだろう。街で道具を集めたら、ちゃんと作ってあげよう。

 ナイフの握りに巻いていたパラコードを外し、刀の握りに巻いて完成だ。

 手作りナイフは刃と握りがそのまま繋がっていて、金属が剥き出しだったからパラコード、パラシュートに使われる紐を巻いて握りとしていたのだ。

 パラコードはものによるが、その細い紐一本で約250キログラムを耐えることができる。ナイフに巻いてあった紐は一本で約150キログラム耐えることができるものを使用した。緊急にロープが必要な時に使用するためだ。 

 ナイフはそのままでも充分に完成度の高い見た目と使いやすさがあるので、刀の握りとしてパラコードを使うことに決めた。

 この刀が俺のメイン武器になるだろうし、少しでも持ちやすくした方が良いだろう。


 「(つば)がないと刀って感じはしないが、とりあえずこれで妥協するか。はぁ、疲れた」


 完成した刀を眺めたあと、水を一気飲みしてからそのまま眠る。

 目を覚ました時、外が明るくなっていた。


 「今、何日の何時だろ?」


 外に出てみると少し肌寒い。村を出てから4日目の朝だった。


        ○◆●


 その頃、とある商人とその護衛たちが、亜人の村へと向けて出発しようとしていた。

 商人は下品なアクセサリーを着用していて、服装も派手だった。稼いでいることを誇示したいのだ。

 商人は欠伸を噛み殺しながら、二頭立て幌馬車の御者席へと座ると、ムチを勢いよく叩く。


 「行くぞ」


 馬が(いなな)き、幌馬車がゆっくりと進み出す。

 商人の号令に護衛たちは頷いてから、馬車に歩いて付いて行く。その護衛たちは「だりー」などと喋りつつ進んでいく。魔物が出る可能性があるのに、なんとも緊張感がない。

 ただ、全員が金属製の防具を着用していた。防具の所々には傷があり、戦闘経験が豊富だと分かる。彼らはベテランだった。

 緊張感がないのではなく余裕なのだ。

 その護衛たち中でも、一人だけは馬車の荷台に乗っていた。装備もフルプレートアーマーで明らかに格上である。

 彼は護衛隊のリーダーだった。

 リーダーが御者をする商人へと話しかける。


 「旦那、噂は本当なんですかぃ?」


 「ん?ああ、酒場で会った亜人の商人に酒をたんまりと奢ってやったら、ぺらぺらと話していたからな」


 「この先に亜人の村があると?」


 「らしい。だが、信頼できる」


 「商人の勘ですかぃ?」


 「それもあるが、亜人の商人は亜人に商品を売る」


 その通りで、亜人と呼ばれる獣人やエルフたちは、同種族から物を手に入れたがる。理由はヒト種だと襲われる危険があるからだ。


 「ですが、村でしょ?辺鄙な場所に亜人だけの村なんて……」


 「辺鄙だから、亜人たちがいると言っていい。それに帝国との国境近くらしいからな」


 帝国と聞いて護衛のリーダーは得心がいったと頷く。


 「じゃあ、襲われたら逃げ込もうってことですかぃ」


 「帝国に逃げる方が命がけだから、あくまで保険だろうがな」


 「同じように考えた亜人が集まって村になった、か」


 「そういうことだ。どうだ?可能性は高いと思わんか?」


 護衛のリーダーは少し考えてから、ニヤリと笑う。商人の言う通りだと納得したのだ。


 「稼げそうですな」


 「そうでなければ困る。馬車で遠征するだけでも金はかかるしな。だが、侮って返り討ちはこっちが困るぞ」


 「そのために俺たちがいるんですよ」


 「頼りにしているとも。皮算用はどうかとも思うが……、できれば力の強い獣人がいると良いな。値が高い」


 「エルフの女も高いですぜ」


 「人気が高いから滅多にお目にかかれないがな。冒険者や兵士でもなければ、真っ先に奴隷商の標的になる」


 「まあまあ、希望を持つことは良いことじゃないですか」


 「そうだな。なら、張り切って商品を確保しに行くか」


 商人と護衛のリーダーは笑い合う。

 彼らは奴隷商だった。

 そして、この奴隷商と護衛たちは、もうすぐエルミリアのいる村へと辿り着く。

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