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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
六章 賢者の資格
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法国の宿にて

 宿にチェックインし、その後、リディアとエルを連れ街を見て回った。

 第一目的であるミスリルを探すためでもあるが、なにより街に興味があったのだ。

 旅行した時に、意味もなくそのへんをぶらぶらと散策にでるのと同じだが、それが醍醐味でもあるしな。しかし、それにより色々なこともわかった。

 宗教国であるエステルだが、一日一度の祈り以外は自由だと。

 特定の性別に対し小うるさい法もなく、食のタブーもない。

 迷宮都市オーセブルクと同じように生活していても問題はなさそうだ。

 そして、街で散策を終え宿へ戻ってくると、ようやくスパール達と合流することができた。

 それで今は皆で食事をとっている真っ最中だった。


 「賢者スパールは今までどちらに?」


 リディアがスパールに尋ねる。これが皮肉や嫌味が含まれた質問ではないことは、リディアの性格上明白だろう。

 俺ならば、俺達を置いてどこへ行ってたと、尋問じみた言葉を投げかけるが。


 「ふぉふぉ、置いていってしまってすまんかったのぉ。わしらは今回の旅の目的である勧誘に行っていたのじゃよ」


 あぁ、そういえばそれが目的だったな。着いた早々、仕事を済ませようとしたのか。


 「あ、いえ、嫌味で聞いたのでは……」


 「わかっておるわ、ギルに聞かれたわけでもないしの」


 さすが賢者。わかってるじゃねーか。


 「それで?勧誘はどうだった?」


 「いや、失敗したわい。その一人だけを勧誘しに来たわけではないのじゃが、さすがに無謀だったかのぉ」


 三賢人とも言われたスパールが誘うのを無謀だと思うのは、いったいどんな大物だったんだ?


 「まさか、賢者を誘ったとか言うんじゃないだろうな?」


 賢者の誘いを鮸膠も無く断ることができる人物は、そういないだろう。だとすれば、同じ魔法学会の賢者ぐらいか?


 「ふむ、この国の英雄じゃよ」


 「は?」


 この爺はボケてんじゃねーだろうな?

 英雄といえば、この爺さん、賢者スパールより上位の存在じゃないか。


 「とはいっても、この国でも他国でも英雄とはおおっぴらに認められてないんじゃがな」


 「なら、勇者とか賢者と呼ばれる存在だと?」


 英雄と認められていないなら、そうぐらいしか思い当たらない。


 「いや、そのどちらでもない。じゃが、わしは実力があると見込んでおるし、この国のお偉方もそう理解しておるじゃろう」


 「だったらなおさら、靡くわけないだろ?」


 「ふぉふぉ、誘うだけなら問題ないじゃろう?」


 そういうとワインを口に含み、ニヤリと笑う。

 口髭を赤く染めながら笑う姿を見ると、到底賢者とは見えない。

 確かに言うのはタダだ。だけど……。


 「それを言ったことにより、厄介なことにはならないだろうな?」


 「それは大丈夫じゃ」


 「ならいいが……、知り合ってわかると思うが、俺はあまり厄介を好まない」


 「わかっておるし、皆そうじゃ」


 スパールは頷いた後、ワインを呷る。

 たしかに、こう見えても賢者だ。俺が何かを言うまでもないか。


 「わかった、任せる」


 「うむ」


 話が一区切りすると、スパールはウェイトレスを呼び、さらにワインの注文をする。

 俺も食事の手が止まっていたことに気付き、目の前にある皿から料理を自分の小皿に移していると、リディアがエルに話しかけているのが聞こえた。

 小難しい話を好まないエルに気遣って、違う話題を話しているのだろうか。


 「どうしたのです、エル?ずっとニコニコしていますけど」


 その言葉に俺もエルの顔を見る。たしかにニコニコしながら、口いっぱいに食べ物を頬張っている。

 もにゅもにゅと、数度噛み飲み込むと、エルが食事をしてから初めて口を開いた。


 「久しぶりに、お兄ちゃんとお散歩できて、楽しかった、です」


 俺は手で自分の頬をガッと掴む。頬が緩むのを抑えるためだ。可愛すぎだろ、この子。


 「そうですね、久しぶりでしたから」


 たしかにその通りだ。魔法学会に召喚されてから、殆ど皆と行動できていない。

 忙しいとはいえ、愛想を尽かされないように気をつけねば。


 「そういえば、です。さっき、お散歩している時、お空に何か、飛んでいたです」


 そうだった、それをスパールに聞こうとしていたんだった。エルが飛んでいたというなら、間違いないだろう。


 「そうだ、スパール。この街は魔物か何かが空を飛んでいないか?」


 「うむ、飛んでおるぞ」


 ウェイトレスがワインを届けに来たから、それを受け取るために言葉を区切る。

 ワインを机に置くと、口元を手で隠し小声で続きを話した。


 「あまり大きな声で話せん内容じゃが、小さなドラゴンが飛んでおる」


 聞かれたくない内容なら、俺も従ったほうがいいだろう。俺も小声で話す。


 「危険はないのか?」


 「それは全く心配なくていいわぃ。子供でも倒せる程小さいしの」


 「全然意味がわからない。危険性がないから魔物を自由にさせてるのか?」


 「いや、わしも確信しているわけではないが、おそらく、連絡手段にしているのではと考えておる」


 そういうことか。アーサーが速い魔物に手紙を送らせていると言っていたな。

 アーサーは絶対にありえない日数で、この法国とオーセブルクの距離を手紙でやり取りしていた。その正体があの魔物ということか。


 「ふむ、どうやら思い当たる節があるようじゃの」


 「ああ。だけど、王国でもオーセブルクでも見たことないぞ、そんな魔物」


 「わしもこの法国でしか見たことないわぃ」


 「つまり、この法国が生息地だと?」


 「おそらく。それに関しては、タザールやキオルとワインを片手に議論したことがあった」


 タザールもキオルも三賢人だ。飲んでいる時にふと話題に上がり、そこから議論に発展でもしたのだろう。酔っぱらいの議論程、厄介なものはないが、本人達は時間も忘れて楽しいひとときだったことだろうな。


 「それは白熱しただろうな。それで?」


 「ふぉふぉ、そのとおりじゃ。その時に連絡手段だと結論づけたのじゃ」


 スパールはここで区切り、ワインを呷り盛大にゲップをする。


 「スパール爺、汚い、です」


 「おぉ!すまんのぅ、レディ達がいるのを忘れておったわぃ、ふぉっふぉ」


 意外とエルはスパールと仲が良い。なぜだろうか?同年代とか?


 「それで?どうして巨大で伝説的な強さのドラゴンが、この法国では小さく弱い生物なんだ?」


 「ん?おぉ、そうだったわぃ。わしらの議論では、これは進化ではないかと推論した」


 進化?どうもしっくりこない。

 俺の顔を見たスパールは、微笑みながら頷く。


 「さすがのギルでも、進化という言葉はしらんか」


 「そこじゃねーよ。何故、進化する必要があるのかってことだ」


 スパールは俺が進化という言葉を知っていることに、少しだけ残念そうな表情を浮かべる。


 「うむ、生き残るためじゃ。もちろん推測の域は出ないが、この法国は気温が低く生物が少ない。ドラゴンのような巨大な生物は、食料が間に合わなくなったのじゃ」


 「なるほど、強さや大きさより、生き残るために小さく進化したということか?」


 「そのとおりじゃ」


 スパールは少しだけ残ったワインを一気に呷った。

 んー、なんだか間違っているような気もする。

 それはオーセブルクダンジョンのホワイトドラゴンと会っているから浮かぶ疑問だ。

 あのドラゴンは、ずいぶんと長い間25階層にいるみたいだが、食べているのだろうか?24階層や、26階層から迷い込んで来たものを食べているのか?

 ダンジョン内にいるドラゴンと地上の生物は、全く違うみたいだしそういうこともあるのか?

 まあ、考えてもわからないものはわからないか。

 他にも聞きたいことはあるし、ドラゴンの話は置いておくか。危険はないと、賢者が言っているしな。


 「聖王はどうだ?」


 「聖王?」


 「俺もバカじゃない。なんの知識もなく会うつもりはない。さっきも皆で街を見て回った時、軽く聞き込みしてみたしな」


 だけど収穫なし。いや、聖王の話は聞けた。だが、顔を見たことも声も聞いたこともない。それどころか、会ったことすらない。

 なのに、讃えるような言葉しか言わないのだ。宗教の本拠地に来ているのだから、当たり前といえばそうなのだが。


 「さて、その情報は話せんわぃ。なぜなら、わしも直に話したことはないからのぅ」


 聞けば、三賢人で聖王に謁見したことがあったようだが、その時ですら聖王の声を聞くことはなかったそうだ。

 話すのはこの国の英雄であり、大司祭でもあるホーライという男だとか。

 聖王の姿は簾で隠れて全く見えず、結局ホーライと会談したという感想だった。


 「……それは本当に聖王はいたのか?」


 「どうだかのぅ?ただ、簾の奥に気配はあった。それが聖王本人かは不明じゃがな」


 日本でも大昔は高貴な人物の姿を見ないように、御簾越しの会話をしていたが、代弁はしてなかったと思う。

 なぜ徹底して、姿や声まで隠すのかがわからない。

 考えられるのは聖王が子供だとか、醜い姿だとか、もしくは本当は聖王なんて存在せず、大司祭の操り人形しかいないか。

 子供というのは除外できる。街の入口で会った子供が本当に聖王の子息ならば、どう計算しても二十歳以上だろう。

 残るは醜い姿か、聖王不在。しかし、これはあくまで勘繰っただけ。もしかしたら、本当に聖王が存在し、尊い人物として声や姿を隠そうとしているのかもしれないが。

 駄目だな。どちらにしろ、憶測だ。ここで考えても意味がないか。


 「わかった、ありがとう、スパール」


 「うむ」


 どうせ明日になれば会えるしな。

 仲間をちらりと見ると、エルは既に涎を垂らしながら、こっくりこっくりと船を漕いでいる。リディアもどこか眠そうな表情だ。

 今までで一番長い旅だったからなぁ。

 


 「俺達はそろそろ部屋に戻るよ。スパール達はまだゆっくりしているんだろ?」


 「うむ、久しぶりのワインじゃ。弟子達ともう少しだけ飲んでから戻るわぃ」


 「そうか、それじゃあ、これで払っておいてくれ」


 俺は銀貨を数枚スパールに渡す。


 「む、これでは明らかに多いじゃろ」


 「いいさ、道案内と情報料として、ここは出すよ」


 「ふぉふぉ、さすがは魔法都市の代表じゃ」


 「やめろ、じゃあ行くわ、おやすみ」


 俺はエルをおぶって席を離れようとするが、スパールに呼び止められた。


 「おぉ、そうじゃ。大事なことを言い忘れたわぃ」


 スパールは俺の方を見ず、小声で話す。


 「ホーライ大司祭には気をつけよ。キレ者じゃぞ」


 「………わかった」


 そして俺達は部屋へ戻って行った。



 エルやリディアを部屋に送った後、自分の部屋へ戻ってすぐにベッドへ入った。

 あぁ、最高だ。

 地球のベッドには程遠いが、テントや馬車の中で寝るよりは数倍良い。

 なにより、安心感が違う。

 目を瞑ると、オーセブルクに残してきた仲間達のことを考える。


 「あいつら、元気かなぁ」


 シギルが元気なのは考える余地もないか。

 エリーは………、いや、大食いしている姿しか浮かんでこない。おそらく、元気だろう。

 どちらかといえば、俺達の方が心配されているだろうな。なんせ、聖王と謁見だしな。

 あぁ、駄目だ。これは考えすぎて眠れなくなるパターンだ。


 「はぁ、厄介なことに巻き込まれなきゃいいが……」


 そうして俺は寝ることに専念した。

 もちろん、眠れなくなることなどなく、一瞬で眠りに落ちるのだった。

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