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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
六章 賢者の資格
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エステルの街

 ……は?聖王の子?

 ということは、王子ってことか?いや、それだと語弊があるか。

 それよりも、まだ入り口を通っただけで、こんな不運があるか?街の中心部でもないのに。詐称か……?


 「ルカ様ー!」


 本当かもしれない。

 詐欺まがいの行為ではと疑っていると、護衛だろうと思われる男が走ってきた。

 ……見失ってんじゃねぇよ。

 そして、俺も仲間達を見失った……。全員が建物を見上げていたから、お互いに認識できていなかったのだろう。


 「はぁはぁ、ルカ様!ご無事でしたか!」


 「……追いついたか。ふむ、こやつが無礼を働いた」


 ルカと呼ばれる少年が、俺を指さしながらに言う。


 「無礼?どこが?」


 「何を言っておるのだ!ぶつかったであろう?!」


 素直に認めてもいいが、ここはごまかしたほうが無難だろう。


 「何を言っている?詐欺か?」


 「貴様っ!」


 子供をからかう趣味はないが、世の中の厳しさを教えなければならない。性格が悪いかもしれないけれど、やる時はとことんだ。


 「おまえがそう言っているだけで、証拠がないじゃないか。それに、ぶつかったと仮定しても、無礼ということはないだろう?ぶつかったのはお互い様じゃないか」


 「ぐぬぬ!」


 俺は今最高に悪い顔をしているだろう。

 いや、よそ見しながら歩いた俺が悪いのはわかっているが、それでも俺が言っているのは間違いではない。

 偉いから避けないというのは、間抜けのすることだ。車が突っ込んできても、『俺は社長だから避けん!』というバカはいないだろう。


 「おい、貴様!その言葉遣いが無礼だぞ。この御方は聖王様のご子息だ!」


 「だから?俺はその聖王に呼ばれてるんだが、そちらは俺に対し礼儀はないと?」


 「なに?はは、それこそ大嘘ではないか!」


 埒が明かないな。

 俺は召喚状を護衛に渡す。


 「………なんだこれは?」


 護衛は俺の言っていることを嘘だと決めつけているのか、召喚状を乱暴に受け取ると、ため息をつきながら読み始める。

 だが、読み進めていくと、段々目が見開いていった。


 「し、失礼しました。確かに聖王様のご客人ですな」


 先程とは打って変わり丁寧に召喚状を返す。心なしか背筋が伸びているようにも見える。

 俺が今回の召喚状に、それほど腹が立たない理由がこれだ。魔法学会とは違い、客人として招くようなニュアンスだったのだ。俺は読めないけどな。

 聖王の子といえば、王子と同等のはずだ。王国であれば、王子にぶつかったとなればそれなりの罰を与えられる。

 しかし、ここエステル法国では罰どころか、この護衛の態度の変わり様。

 それは法国では聖王が唯一のトップだからだろうか?


 「そ、それでも、こやつはぶつかったのだ!無礼をしたのだから、捕らえよ!」


 「ルカ様、さすがにそれはできません」


 「何をいっておる!」


 ルカは今にも地団駄を踏みそうな勢いだ。

 護衛もさすがにこの国のトップの客に無礼できまい。

 ふははは、どうだぁ、ガキぃ?

 と、そろそろ真面目に教えなければな。


 「おい、ガキ。言っておくが、王の子は、ただの子供だ。俺からしたら、そこらで遊んでいる子供と差はないんだよ。力があるのは王だけだ」


 「が、ガキ?!とことん無礼な奴だ!それにいずれ王になる!」


 「明日死ぬかもしれないのに?俺が暗殺者だったら、おまえはさっき死んでいた。王になりたいなら、護衛を大事にし、自分でも身を守る術を身に付けろ」


 「くっ!」


 「ご客人、そのへんで……」


 ある意味、助言をしていると、さすがに言い過ぎだと判断した護衛が俺を止める。


 「……わかった、言いたいことは言ったしな。それじゃあ、俺は行っても問題ないな?」


 「はい、あの、ありがとうございます」


 「………気にするな」


 護衛の最後の礼は小声だった。ルカに聞こえないようにするためだろう。

 俺が言いたかったのは、「自分を大事にしろ」と「護衛に迷惑かけるな」だ。

 どうせ、常に近くに張り付いている護衛に嫌気が差し、自分で撒いたのだろう。俺が言ったように、今死んでいたかもしれないし、今日でなくとも、こんなことを繰り返していたら、いつかは危ない目にあう。

 それだけではなく、護衛も死刑になるだろう。

 子供の死は見たくないものだが、それに巻き込まれて死ぬ護衛も憐れすぎる。

 これをあの子供が理解するのはもっと後になるだろうな。

 ルカはまだ許せないのか、俺を睨みながら離れていった。

 まったく、これだから権力がある子供ってやつは……。

 さて、そろそろ街を見て回りたいが、まずは仲間達を探さないといけないな。


 「みんな、上見ながら歩いていたからなぁ……。だけど、あれは何だったんだろう……」


 高層建造物だけを見ていたわけではない。あるものが空を飛んでいたのだが、それを凝視していたらぶつかってしまったのだ。

 今空を見ても、既に何もいない。

 スパールあたりなら知っているだろうか?後で聞いてみるか。

 しかし、どこに行ったんだろうか?……探すかぁ。



 知らない街にいると、大きく分けて2種類の感情に二分(にぶん)する。

 恐らく、興味か不安のどちらかだろう。

 どちらかといえば、俺は興味が強い。

 宗教国となれば、誰もが四六時中祈りを捧げていて、街全体が静かというイメージがあった。まあ、偏見ではあるが。

 しかし、その考えが間違っていたことに気付かされた。

 エステル法国は、街の入口こそ静かな雰囲気だったが、中心部に行くにつれ賑わっていた。

 それこそ、今本拠地にしている、迷宮都市オーセブルクに匹敵するほどだ。それに、まあ、俺の見た感じで実際は不明だが、住人や商人から宗教にどっぷりハマっているという感じもしなかった。

 これはおそらく、24時間営業の教会の影響だろうか。

 この世界の住人は、寝るのが早い。だから、夜に祈りを捧げることは少ないのではとスパールに聞いてみた。

 しかし、答えは意外にも夜の方が多いとのこと。

 ここからは勘になるが、日中は仕事や家事に集中させるために、教会を24時間開かせているのではと考えた。

 日本では、夜中の神社参拝はダメだという意見が多い。

 これには色々な理由があって、神様が神社にいらっしゃらない時間帯であるからとか、神様が寝ていらっしゃるから失礼だとか、ただ単に危ないからとかだ。

 俺からすれば、神という存在がいるならば、俺達人間に、その神という未知の存在のことが何故わかるんだと疑問を覚える。

 夜更かしして、ポップコーン食べながら洋ドラを見ている神様も、いらっしゃるかもしれんだろ?別に深夜アニメでもいいが。

 さて、そんなことより街を詳しく見ようか。

 まず、やはりどうしても空を見上げてしまう。空が当然あると見上げれば、そこには石の天井がある。

 どういう現象なのか、それでも町中明るいし、寒くない。

 そして、その天井まで届くほどの高層ビルだ。一部、天井に届いているが、これはおそらく柱にしているのだろう。

 地球の都会にいたから、こういう光景は見慣れているが、それでも驚嘆する。地球人より体が丈夫なだけで、重機がないのにどうやってこれだけのビル群を建てたのか。そして、それに費やした年月や費用も、考えたくない数字だろう。

 今度は下を見る。

 町並みは、巨大な木が立ち並ぶ森にいる感覚だ。

 そして、今俺が歩いている道がメインストリートだろうか。道は石畳みたいにおしゃれではないが、しっかりと舗装され、ここが道だと理解できる。

 どこかで見た光景だと思い返せば、地球で見た光景だった。

 大きめな神社にそっくりだ。

 鳥居を潜り、樹齢何年かもわからない太く高い木々の森を突っ切る道。緑の香りを肺いっぱいに吸いながら歩いていき、少し体が温まると、ちょうど目の前に現れる本殿へ続く長い階段。

 そう、エステル法国は地球の神社に似ていた。

 まあ、木々ではなく石の建造物だけどな。看板も店もなく、とてもつまらないがこれだけでは終わらないだろう。

 そのビル群のせいで、周りの景色は見にくいが、メインストリートを歩いていると、急にそのビルの森を抜ける。そして、その光景に驚く。

 広場に、大勢の人混み。数えきれない露店や商店、料理屋や宿屋まである。どうやらここが、街の中心か。

 今までは、ひっそりとした森を歩いていた気持ちだったが、ようやくここが一つの国の首都である光景が見れた。

 しかし、問題はほぼ一本道だったのに、仲間達と再会できなかったことだ。この広場にいるのだろうが、見つけるのは結構な仕事になりそうだ。

 そう思っていたが、仲間はすぐに見つかった。

 仲間というより馬車だが、馬2頭も立派な仲間だ。そして、その御者をしているのは、間違いなく俺の愛すべき仲間だろう。

 俺はすぐに馬車へ向かうことにした。




 「ギル様!良かった、ようやく追いついたのですね!」


 御者役はリディアだったか。

 リディアは見るからに色々な感情が入り混じった表情をしていた。


 「やっと追いついた。俺を置いて行かないでくれよ」


 楽しみながら今まで見物していたと思ったのに、どうやら俺も少し不安があったようだ。リディアの顔を見て少し安心した。


 「す、すみません。空を見上げていて、気づいたらギル様がいらっしゃらなかったので……」


 「まあ、そうだろうなとは思ったよ。でも、待っていてくれても良かったじゃないか」


 「そうなんですが、賢者スパールがギル様ならば心配無用だろう、と……」


 これだから賢い奴は困る。感情より論理的思考を重視するから。俺もよく部下に言われたけど……。

 ん?そういえば、もうひとりの愛すべき少女の姿が見えないな。他にもスパールの爺さんチームも。まあ、髭爺はどうでもいいか。


 「エルは?」


 「ああ!そうなのです!エルが迷子ですよ、どうしましょう!」


 あぁ、リディアの表情に色々な感情が見えてたのは、こういうことか。だけど、エルも子供じゃないんだし………、いや、子供か?


 「まあ、落ち着いて。迷子も親も基本的に、焦って見つからないパターンが多いんだよ。こういうのは冷静に周りを見渡せば……」


 いた。普通にいた。

 正面30メートル程先に、見覚えのある愛らしい少女エルが。

 エルは今にも泣きそうに周りをキョロキョロと見渡している。どうやら、親(二頭立て馬車)を探しているのだろう。

 だが、明らかに俺達を見てもエルは気づかない。かなり、焦っているようで周りが見えていない。俺達の中で一番目が良いのに……。

 小動物のように怯える姿をずっと眺めていたい衝動に駆られるが、大事な仲間の精神的にも、これからの関係的にも早めに声をかけねばなるまい。


 「エル!こっちだ!」


 俺が叫びながら大きく手を振る。

 エルは一瞬、むち打ちしそうなほどビクリと跳ね、声が俺だと理解すると更に慌てたように周りを見渡す。

 そして、ようやく俺を発見できると、馬車まで猛ダッシュ。

 馬車まで辿り着くと飛び乗って、俺に抱きつく。


 「お兄ちゃん!お兄ちゃん!」


 俺は優しく抱きしめながら頭を撫でる。思いの外怖かったんだろうなぁ。

 俺の胸に顔をグリグリっとすると離れてくれた。そして、今度はリディアに抱きついた。


 「リディア~……」


 リディアは優しく抱きながら、背中をポンポンと叩く。本当の姉妹のようだ。

 だが、姉的存在のリディアは優しいだけじゃ済まさない。


 「エル、私は言いましたよ。馬車から降りたら迷子になりますよって」


 ここからリディアの説教が数分間続いた。




 「それで、スパールの爺さん達は?」


 さすがに道のど真ん中で何分も馬車を停め、リディアに説教させると渋滞してしまう。切りの良いところで止め、馬車を端に移動させてから、俺はもう一組の同行人達の事を訪ねた。


 「それが……、はぐれてしまいまして」


 この人混みだ。馬車が通行人に止められてしまうことも多いだろう。御者をしていたリディアにはわからないのも当然だ。


 「エルも、わからない、です……」


 リディアに怒られて、すっかり元気が更になくなったエルも、スパールの行方はわからいようだ。

 うん、まあ、わかってた。ほぼ、目の前にいたリディアを見つけることができないほど焦っていたようだし、仕方がないだろう。


 「まあ、いいさ。あの爺さんなら大丈夫だろう。偏屈な爺さんでも賢者だし。俺達は宿を探そうか」


 幸い、馬車での旅の最中に、安心して泊まることができる宿の名前を聞いていたからな。スパール達が無事ならそこで合流できるだろう。

 とにかく、日が落ちる前に宿を見つけなければならない。


 「エル、仕事だ。スパールの爺さんから聞いた宿を探してくれるか?」


 今まで元気がなかったエルも、俺に頼まれると力強く頷いて立ち上がる。たぶんだけど、迷子になって信頼を失ったとでも思ったのだろう。そんなことはありえないのに。

 エルは御者の席まで行くと、座らず立ったまま辺りを見渡した。今度は焦っておらず、冷静なまま。

 もちろん、宿はすぐに見つかった。

 さて、爺さんといつ合流できるかな?俺達も街を見て回りたいし、夜には合流できればいいか。


 そして、俺達はエルが指差す方角へ、馬車を走らせるのだった。

大変遅くなりました。

忙しいのもあったのですが、PCの具合が良くなくて。

ネカフェで頑張るのも限界があり、かなり更新が遅れてしまいました。

1月は、まだ忙しく、更新が遅くなることがまだ続きますが、

2月頃には元通りになると思いますので、どうかご了承ください。

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