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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
六章 賢者の資格
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魔法都市計画3

 会議はまだ続いていたが、さすがに疲れてきたからとスパールの提案で休憩をしていた。

 ここでアンリがこの部屋から退室する。聞きたいことを聞いたからだ。

 部屋から出る時に、名残惜しそうに俺を見ていたが、あれはなんだったのだろうか。まあ、いいか。

 そして、数分の休憩後、4人で会議を再開した。


 「さて、これまで大まかなスケジュールのことしか話していなかったから、これからは細かいことを話そうと思う」


 大まかといっても、内容は重要だったが。それでも、キオル以外は何をしていいかわからないだろう。それどころか、スパールとタザールは学校が建つまで何もすることがない。

 この元大賢者を使わないのは非常に勿体無い。


 「ふむ、確かにのぉ。このままでは数ヶ月は暇を持て余していたところじゃ」


 「その通りです。それに、俺も聞きたいことがあったのだ」


 タザールは休憩中もずっと何か考え事をしていたみたいだが、それに関係あるのだろうか?


 「聞きたいこと?」


 「ああ、だが先にギルの話を聞こう。それによってはこの話自体無用になる」


 気になるが、たしかにタザールの話と俺がこれから話す内容が同じということもある。


 「そうだな、続けよう。スパールの言っていた通り、学校が建つまで二人は暇だ。その間、魔法の練習と魔法都市に引き込む人間を集めてもらいたい」


 「ふぉっふぉ、大賢者二人に対し、魔法の練習をしろとな?」


 「スパール老、現に我々ではギルの魔法の足元にも及びません」


 「わかっておる、冗談じゃ」


 これが例えば、あの火の賢者なら激怒していたところだが、さすがは三賢人というところか。


 「あぁ、ギル君?僕は?」


 「わかってるって。とりあえずはこの場で軽く説明するから、各自練習しながら仕事をしてほしい」


 「軽く説明するだけで、僕達にできるのかぃ?」


 「おそらく。魔法初心者ってわけでもないし、ある程度は使えるんだろ?なら理論を知るだけで使えるようになるだろう」


 三人は頷くと、俺の話すことを一言一句聞き逃さないというように身を乗り出す。


 「三人は合成魔法は知っているか?」


 「合成魔法?」


 キオルが二人の顔を見ながら俺の言った言葉を繰り返す。スパールとタザールに知っているかと聞いているのだ。

 その二人も聞いたことがないと首を横に振る。


 「試験で俺の氷属性魔法を見たよな?あれが合成魔法だ」


 「おぉ、あれは氷属性という特別な魔法ではなかったのじゃな?」


 「あれの他にもこんなことができる」


 俺は指を上に向けると、指先に魔法陣を展開した。まもなく、その魔法陣から『バチバチッ』という音とともに静電気程度の雷電が現れる。


 「「「おぉ!」」」


 三人が同時に驚く。そして、キオルが興味があるのか指を伸ばし触れようとした。


 「キオル、触れたら死ぬかもしれないぞ」


 「えぇ?!ほ、本当かぃ?!」


 「それは雷なのか?」


 タザールが冷静に判断しその正体を言い当てる。


 「その通り。といっても、あの自然現象ほど威力があるわけではないけどな」


 電気だとか説明してもこの世界では意味がない。故にこの魔法は……。


 「雷属性魔法だ。氷属性魔法と同じく合成魔法」


 三人は同時に感嘆するような息を漏らす。


 「少なくとも三人にはこの合成魔法のどれかを覚えてもらう」


 「全部教えてもらうわけにはいかないのかぃ?」


 「できれば得意分野は分けたほうがいいだろ?」


 もう三賢人とは名乗れないのだから、得意魔法がそのまま称号のようになれば良いという目論見もある。


 「その合成魔法も凄いけど、あの一瞬で魔法を出せる技術の秘密も知りたいね」


 「『無詠無手陣構成』か?理論は教えるけど、おそらく使えるようになるまでかなりの時間を費やすぞ?」


 理由としては、この世界の文字が漢字ではないからだ。俺が『無詠無手陣構成』を使えるのは、一文字で属性を表現できるのが大きい。

 とりあえず、俺は三賢人に合成魔法の理論と『無詠無手陣構成』のやり方を説明してみた。


 「なるほどのぉ、これはすぐに使えるものではないの」


 「印璽のように魔法陣を貼り付けるのか……」


 「むむむ、僕は練習するよ!」


 「まずは合成魔法が優先だぞ?学校が建っても教えることがないのでは、意味がないからな」


 魔法都市で作る魔法学校では、最終的に合成魔法を卒業の試験にしようと考えていたのだ。なのに、教師や学園長が使えないとなっては笑いものになる。


 「うむ、だがギルよ。キオルは都市建設、スパール老は人集めはわかったが、俺はどうするのだ?」


 「タザールはそのまま合成魔法の練習と研究してもらってかまわない。だが、やってほしくない研究が一つあるんだ。シギル、武器出してくれ」


 「ッス」


 シギルは部屋の隅に立てかけておいた、ウォーハンマーを持ってくる。


 「シギルさん、その槌は?」


 キオルの質問にシギルは何も答えず、微かに微笑むと魔力をウォーハンマーに流し込む。

 すると、ウォーハンマーの先が次第に熱したように真っ赤になり、そして発火した。


 「おぉ!魔剣か?!」


 「タザール、魔剣じゃない。魔法剣、魔法武器だ」


 「何?これが試験の時、お前が言っていた?」


 「そう、シギルありがとう、もういいよ」


 シギルが魔力を流すのをやめると、ウォーハンマーの火が消える。


 「俺の仲間の武器は、全部魔法武器だ」


 「魔剣とは何がちがう?」


 「魔剣は常時発動に対し、こっちは使い手の意思で発動する」


 地球的に言えば、アクティブスキルかパッシブスキルの違い、とでも言えばいいのか。


 「魔剣は非常に強力だ。魔法が使えない純粋な剣士ですら、魔法効果を剣に宿すことができる。だが、欠点は使い手の意思とは関係なく魔力を吸い上げ続けるという点だ」


 それに、魔剣は6属性以外の不思議な現象を引き起こす種類もある。クリークが使っていた、魔法を無効化する魔剣がそうだ。

 これは説明しなくてもいいだろう。三賢人なら俺より詳しいはずだし。


 「なるほど、その武器は自分の意思で魔法効果を得ることができるが、基本的な魔法技術がないと使うことが出来ないのか」


 さすがはタザール。魔法武器の欠点にも気がついたな。


 「口を挟んで申し訳ないんですが、それはどこで手にいれたんだぃ?」


 「このシギルが作った」


 「シギルさんが?!」


 キオルが目を見開いてシギルを見る。

 シギルは注目を浴びて少し照れたのか、顔を赤くしながら頷く。


 「つ、作ったのはあたしッスけど、考えたのはギルの旦那ッスから」


 「それでも魔剣に似た力を持つ武器を作れるとなれば、最高の鍛冶屋ですよ!」


 そうそう、シギルも謙虚にならず自慢していいのに。


 「たしかにその武器は凄いが、それが俺の研究と関係が?」


 「あぁ、そうだった。この技術に関してはタザールだけに教える。だから、これ以上の研究はしないでくれ」


 「なるほど、知ってしまえば研究をしなくなるからだな。ちょうど良い、俺が聞きたかったのもそれだ。どんな研究をしてはいけないか。……だが、なぜだ?」


 「世界のパワーバランスを崩しかねない」


 俺がこの言葉を口にすると、三人は一瞬だけ考えこむ。そして、頷くと魔法武器の質問はしなくなった。

 さすがは三賢人だ。危険性に気がついたようだ。

 魔法武器はいずれ表に出す予定だ。でなければ、魔法剣士という試験が無意味になってしまう。

 魔法武器はシギルが専門的に作り、売る。だが、属性は火だけにするつもりだ。

 いずれはこの魔法武器の模倣品が出回るだろうが、世界に急激な変化はないだろう。そのためにも()()魔法武器を進化させるような研究をしてほしくないのだ。


 「よし、理解したな。いずれは魔法都市のシギル魔法武器店で売り出す。だが、できる限り真似できないように工夫し、そして1属性のみ限定で売るようにして、世界に馴染ませる」


 「そうじゃのう、それならば緩やかに馴染んでいくじゃろう」


 「そうですね、これでギル君の話していた魔法剣士という試験の意味がわかりました」


 「わかった、俺は魔法武器以外の研究をすればいいんだな」


 三賢人は俺の考えを全て理解し、話を進めていく。だが、一人だけ驚いたままの人間が、いやドワーフがいた。


 「いやいや、魔法都市のシギル魔法武器店ってなんスか?聞いてないッス」


 「……さて、とりあえず言いたいことは終わった。明日から動くぞ。キオル、建設の細かい話はシギルと17階層の村の長と打ち合わせしてくれ。俺と連絡を取りたい場合は、この冒険者ギルドに伝言を。アンリには頼んでおいた」


 「え?!いや、旦那、ちょ、聞いてほし……」


 三賢人も満足げに頷くと、ソファから立ち上がり部屋から退出していく。すぐにでも動くつもりなのだろう。

 もしかしたら、早く魔法の練習がしたかったのかもしれない。

 この後、俺はシギルを上手く持ち上げて、その気にさせるのに更に数時間費やした。


 こうして、順調に魔法都市計画の会議は終了したのだった。



 だが、順調に進んでいる時ほど厄介事は舞い込んでくる。



 会議があった日から2日が経ち、クリークに会いにいくついでにダンジョン攻略でもと思っていた矢先、ある男が俺を訪ねてきた。


 「僕だよぅ!そう!君の心の友、アーサーだぁああああ!」


 バカが俺の部屋のドアを蹴破り、拳を天高く突き上げ叫んでいた。

 ……早朝に。

 穏やかな心の持ち主である俺でも、さすがに誰も起きていない時間にドアを蹴破られ、宿中に聞こえるほどの大声で叫ばれたら、怒りがこみ上げてくるというもの。

 ベッドから出て、何も話さずアーサーの目の前まで近づくと、目頭あたりに頭突きをしてやった。


 「ぐあぁああ!何をするだァーッ」


 のたうち回るアーサーを無視し、いつもの格好に着替えてから部屋を出た。



 5分後、宿屋1階の食堂で果実水を飲んでいると、アーサーが降りてきた。


 「酷いじゃないか、ギル君。危うく奥底に眠る力が暴走しそうになったよ!」


 思春期特有の病気的なことを言っているが、あながち冗談ではないところがアーサーの危ないところだ。

 だが、そんなことはどうでもいい。


 「それで何の用だよ。ただ会いに来ただけだったらもう一発頭突きな?」


 「ちがうよ。ちょっとヤバイことになったよ、ギル君」


 もう既に、ここ最近色々とヤバイんだが。

 アーサーは俺の向かい側に座ると、一枚の紙切れを机に置いた。


 「それは?」


 「召喚状」


 は?誰が誰に?死にたいの?


 「ちょ、ちょっと、ギル君、顔怖いよ。殺人を犯しそうな顔してるよ?気持ちは分かるけどね、賢者ではないことが法国にバレたよ」


 「法国?早すぎるだろ。賢者試験を受けてから数日だぞ」


 「速い魔物に運ばせてるのさ。それはいいとして、それは聖王からの呼び出しさ」


 聖王?エステル法国の王か。神の声を代弁する者。

 詐欺師だと決めつけるには、このファンタジーな世界では早計だ。妖精や精霊が存在する世界ならば、神に限りなく近い存在もいるのではと考えてしまう。

 そして、エリーを嫁にしたいと伝えるために、アーサー(バカ)を送り込んできたアホ。

 しかし、そんなこともどうでもいい。


 「その聖王、殺してもいいか?」


 「ダメに決まってるだろ、何言ってんの、ギル君。いや、それもありか……」


 おい、お前一応法国の人間だろ。相変わらず考えがぶっ飛んでるな。


 「で、なんで俺が呼ばれるんだ?」


 「さぁ?この世界の字はまだ読めないんだよね」


 「は?さっきお前賢者ではないことがバレたって言ってたよな?」


 「それはそうだよ。僕が報告したしね!法国に!報告したし!」


 どうしよう、まずはこいつから始末したほうがいいかもしれん。

 とりあえず、大体がこいつのせいだということはわかった。

 さて、鋭利な刃物はどこかな?もしくは、灰皿的な鈍器。


 「ちょちょ、武器的なもの探さないで!とにかく、渡したからね!僕はもう帰るから!」


 そう言うと、アーサーは一目散に宿を出ていった。


 「………マジか。また召喚状かよ」


 俺の仲間達が起きてくるまで呆然としていたのは言うまでもない。

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