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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
六章 賢者の資格
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魔法都市計画2

 俺は今冒険者ギルドにいる。いつもアンリと話をする応接室の途中にある個室だ。

 ここはギルドがわずかな料金で貸し出している部屋で、冒険者同士の依頼及び商談、またはギルドと冒険者の依頼契約によく使われているのだそうだ。

 この世界では盗み聞きなんてものは日常茶飯事で、安全に秘密の話ができる場所なんてものはない。宿の部屋なんかですれば、聞きたくなくとも壁の薄さで耳に入ってしまうほどだ。

 だが、冒険者ギルドのこの部屋ならば音が漏れないぐらい壁が厚く、ドアも頑丈。金がかかるから人気がないと思いきや、それなりの利用者がいるみたいだ。

 聞かれたくない話は、誰にでもあるということだな。今日の俺達みたいに……。

 クリークが俺を悩ませる発言をしてから2日が経っていた。

 あの後、クリークと5時間にわたって対策を考えることになった。新たに発見された広間は、今開発が進んでいる村の最奥から行けた。

 元々亀裂が入っていたらしいのだが、見回りをしていた元『迷賊』が休憩しようと寄りかかったら、壁が崩れ、道が現れたそうだ。

 クリークに案内してもらい、俺も中の様子を確かめてみた。

 明かりのない坑道のような細い道を、20メートルほど進むと、そこには何もない空間があったのだ。

 広さは村と同じぐらいで、魔物もいなかった。ここまでは土地が広がったのだから良い話と感じるだろうが、問題があったのだ。

 ダンジョンは元々淡い光を放っていて、暗さに目が慣れれば不自由なく動けるのだが、この空間は完全な闇だった。

 松明を持っていても数メートルしか明かりが届かず、奥が見えない。ホラーゲームならば、間違いなく化物が出てきただろう。いや、この世界にはゾンビやゴーストといった類が存在するのだから、あそこで出てこられたら、それこそ心臓が飛び出ること間違いない。

 まあ、つまりあの空間は常に明かりが必要で、今の所全く役に立たないということだ。今の処はな。

 そしてクリークと話を終わらせると、二時間仮眠をとってからまたオーセブルクの街へ戻ってきた。

 この話をみんなにも聞かせた後、なぜか同じ宿に泊っているキオルと打ち合わせの約束をすると、この冒険者ギルドの会議室を教えてもらった。

 眠かったが早く終わらせたかった俺は、すぐに始めようとするが、キオルが「明日でいいかぃ?予約も必要だからね」と言われ、今に至る。


 「キオル遅いな。金貨でも落としたか?」


 「もしかしたら、最高の槌を見つけたとかじゃないッスか……!?」


 ねーよ。

 この会議室でキオルを待つのは、俺とシギルだった。いや、なぜかもうひとりいるが……。


 「もしかしら劇を見に言っているかもしれないよ?」


 それも、ねーよ。

 そのもうひとりとは冒険者ギルド本店、ギルドマスターアンリだ。

 部屋が小さいという話を聞いていたから、俺とシギルだけで行くというのは予定通り。

 しかし、いざ冒険者ギルドに来て受付嬢のマリアに、今日会議室を予約したと話すと「あ、聞いてますよ。ちょっと待っててくださいね。マスター呼んできます」と意味不明な事を言い残し奥へ消えたのだ。

 しばらくして戻ってきたマリアだが、そこにアンリの姿はなく、俺達をこの部屋へ案内した。

 そして、ドアを開けると、そこには既にアンリが居たのだ。

 どうやら俺の賢者試験を心配して観に来たらしく、少し興奮した様子で「良かったよ~。最高に良かったよ~」と言われた。

 演出家ペールの大ファンであるアンリならば、観に来るだろうなと思っていたが、やはり案の定だった。

 もちろん感想を言いに来ただけではなく、元『迷賊』の村の詳細を聞きたいのが、今一緒にいる理由だ。

 何度も話すのは面倒くさいのと、アンリであれば口を滑らせることもないから、今回の話に参加してもらい、キオルと一緒に聞いてもらうことにした。

 そこまではいい。

 だけどなぜ、俺はアンリとシギルに挟まれるように座らされているんだ。

 部屋は応接室より小さいものの、似ている作りだった。木の机を挟むように三人掛けのソファが二脚あった。

 その一脚に俺を潰すように、三人で座っている。

 アンリは俺の賢者試験を観てから、役者ギルのファンにもなったらしく、アピールするために腕に抱きついているのだ。

 しかし、なぜシギルも反対側から腕に抱きついているのか。

 それはアンリがご自慢の巨、いや、爆、ちがうな、そう魔乳を俺の腕に押し付けているからだと思われる。

 シギルも対抗して、ちっパイを俺に押し付けているのだ。

 今も大きさの違う柔らかいものが俺の腕を優しく癒やしている。

 やるねぇ……(アンリ)、いいねぇ……(シギル)と、某有名漫画の戸○呂弟みたいな感想を心の中で思っていると、ドアがノックされた。

 ドアが開くと三人の男が入ってきた。


 「うわっ!ギル君、すごいね!」


 俺の姿を観て驚いたのは賢者キオル。冷静に座っている俺が、実は一番驚いているんだけどな。賢者が入ってきたのに二人共離れないんだから、そりゃあ驚くよ。

 しかし、驚きはそれだけではない。


 「ふぉふぉ、若いというのは羨ましいものじゃ」


 「小僧、何をやっておるのだ」


 残りの三賢人、スパールとタザールもいたのだ。


 「ふぉふぉ、なるほどな。試験の件、アンリが糸を引いておったのか。してやられたわぃ」


 ここでようやくアンリが俺から離れた。さすがに賢者代表に話しかけられたらそうなるか。

 少し残念と思いつつも、俺も居住まいを正す。


 「いや、アンリは関係ない。俺が全て考え、実行したのだ。それよりも三賢人の残り二人が来るとは聞いてないぞ」


 キオルは顎を掻きながら申し訳なさそうな顔をする。


 「いやぁ、僕もそのつもりだったんだけど、ギル君と話したあの日、同じ宿に泊まっていたお二人に話してしまって……」


 試験の後、俺が裏祝勝会をした後だろう。

 どうやら三賢人は同じ宿だったようで、先に俺と話した事をキオルは自慢したようだ。

 そして、次に俺と打ち合わせをする時は、一緒に行くと言い出したそうだ。子供か。


 「まぁいいけど、賢者辞めたんだって?三賢人が揃って何してんだよ」


 「仕方あるまい。貴様が賢者にならなかった時点で、魔法学会は()()()()のだ」


 タザールは苦虫を噛み潰したような表情だ。

 俺が魔法学会に加わらなかったから、次の賢人会議で火の賢者ラルヴァの、『長を決める』という企みに対し、票決を同票で分けることができなくなったのだ。

 つまりは次回の賢人会議には、魔法学会がラルヴァの私有物と化す。


 「お前が言っていたように、変えていくのはどうなった?」


 ちょっと意地悪しすぎたか?

 タザールは何も言えない。しかし青筋を立てているところを見ると、泣く泣くだというのは伝わった。

 タザールに罵られる覚悟もあったのだが、意外にもそんなことはなかった。いや、無意味だと理解しているから責めないのか。


 「ふぉっふぉっふぉ。お主もわかっておろうに。あまり苛めんでくれるかのぉ」


 さすがは三賢人というところか。賢き者が故に、賢者であることをやめたのだ。

 しかしそれはそれだ。


 「で、何のために俺に会いに来た?」


 「……それも貴様ならわかるだろう?」


 ちがう、そうじゃない。


 「ちがうだろ、タザール」


 俺の言葉で、誰もが黙り込む。

 アンリは完全に聞くことだけに徹していて、空気を読まないシギルですら一言も話さない。

 三賢人は役に立つ。手を貸してもらいたいが、簡単に承諾するわけにはいかない。

 スパールとタザールの決意を聞いていないからだ。どの世界でも何かを成すには、何かしらの危険がつきまとう。極論、命を賭けなければならないかもしれない。


 「俺は、貴様の魔法都市側につく」


 「ふむ、わしもじゃ。賢者もやめたしのぉ」


 ちがう、それでもないんだ。


 「そうじゃない。……キオルはあの時なんて言ったかな?」


 「え?僕は、君の魔法を学びたいと言ったんだけど……、ダメだったかい?」


 「いいや、良い答えだ。二人共分かるだろ?お前たちは何がしたいんだ?」


 欲、それを知りたいのだ。

 危険な道を進むには欲望が必要だ。俺の魔法都市計画にどんな夢という名の欲望を抱いた?


 「ふむ、簡単じゃ。お主という天才の末路を見せてほしい、それだけじゃ。それが栄光でも破滅でも、最後まで見届けたいと思ってしまったのじゃよ」


 スパールは髭を穏やかに撫でながらニッコリ笑う。

 その答えを聞いたタザールは一瞬驚くが、すぐに自分の心の中を探るように目を閉じる。そして、開くと同時に自分の欲をさらけ出した。


 「俺はしがらみや、賢人という肩書など忘れて研究に没頭したい。貴様の発見したような、世界が驚くような研究を」


 タザールはそう言うと、鼻を鳴らし俺から視線を外した。

 そうか、それがお前達の欲か。

 いいじゃないか。()()()()()()()()()()でしか達成出来ない夢のところが特に。


 「いいだろう。席につけ、会議だ」


 こうして魔法都市計画の創設メンバーが揃ったのだった。



 会議という名の説明会は、俺のパーティメンバーと、特に関係のないアンリの話題からだった。

 俺のパーティメンバーであるシギルと、この場に居ないメンバーの紹介。そしてアンリとの関係。

 あの試験が演技だと分かると、さすがの三賢人も苦笑いしていた。

 紹介が終わると、村の事を詳しく話した。いつものことだが、『迷賊』の部分は伏せて。


 「なるほど、それで17階層に村を作ることになったと。そこを魔法都市へ成長させるんだね、ギル君」


 頷きながらキオルが、これからのことを予想する。


 「ちがう。その村はこのまま街へと成長させる」


 「む、その村ではないのかのぉ?」


 「その奥にある、もうひとつの広間が、魔法都市の建設予定地だ」


 クリークに案内されて行った、あの光が一切ない空間のことだ。

 その広間のことを事前に聞いていたシギルが、疑問を感じたようだ。


 「でも旦那、さすがに不便じゃないッスか?真っ暗なんスよね?」


 「まあ、建築する時はある程度不便だが、完成した後はとても素晴らしい空間になっているはずだよ」


 これは俺なりに考えがあった。この世界の住人達にとっては、間違いなく幻想的な都市となるだろう。


 「ふむ、それは任せよう。しかし、建築はどうする?村人はその村を発展させるのに手一杯なのだろう?」


 「どうだ、キオル?」


 「あ、そこはやっぱり僕なんだね。そうだね、まあ人や資材は僕がなんとかするよ。これでも金持ちだからね。だけどね、散財はごめんだよ?やっぱり儲けがないと」


 キオルの発言にシギルが頷く。鍛冶屋をやっていただけあって、そういうところは同感らしい。


 「わかってる。プールストーンの技術提供と売却は一任する。ただ、税はきっちり払ってもらうし、売る場所は魔法都市のみだ」


 「それなら取り返せるよ。それにしても、プールストーンの秘密を教えてくれるなんて、ずいぶんと太っ腹だね」


 「まあ、試験で発表してしまったからな。今もどこかで研究されているんじゃないか?」


 「それでも、他より先に販売できるのだから、有利なのは変わらないけどね」


 それもそうだ。先にスタートしているのだから、新商品を早く出せる。クオリティも追求できる。つまり、後はキオルの努力次第だ。


 「また話がずれておるのぅ?それでギルの計画では、初めはどうするつもりなんじゃ?」


 「そうだった。最初は入り口から真っ直ぐ道をつくり、そこに沿って何件が建築してもらいたい。メインは学校を作ることだな。後はシギルに聞いてくれ」


 ここでシギルに投げる。別に面倒くさくなったとかではなく、元々シギルにお願いしていたことだ。

 シギルの頭の中には、既に魔法都市全体の構想があるようだ。鍛冶もだが、物創りは天才的だ。


 「試験でお前が話していた、魔法を学べる場所だな?」


 「そう、その学校をスパールとタザールに任せたい」


 俺の発言に、二人は目を見開く。まさか自分達が管理するとは、思ってもみなかったようだ。


 「俺達が?スパール老はともかく、俺は研究をしたいのだがな?」


 「そうだな。スパールは学園長として管理してもらい、タザールはその学校で研究チームの長をしてもらうが、構わないだろ?」


 二人は各々考え込み、そして頷いた。


 「それがわしの役目というなら、受けよう」


 「俺もそれでいい」


 「キオルもその魔法学校の手伝いはしてもらうが、基本は商売に徹してもらって構わない」


 「わかった、魔法を学べるなら僕は何でも良いよ」


 「それでキオル。今、ギルが言っておった建造物をどれぐらいで建築できるかの?」


 スパールの質問にキオルが顎に手をやって考え込む。

 メインストリート、それに沿って建築、そして最優先の学校。どれも時間がかかるだろう。俺の見積もりでは、2年以上、いやそれ以上か?

 だが、キオルの答えは驚くべきものだった。


 「2ヶ月ぐらいですかね」


 地球では一軒建てるのでさえそれ以上の日数が必要なのに、今言った建造物を全部建てて2ヶ月だと、キオルは言う。

 どうしてそんなことが可能か?

 それはこの世界のシステムによるらしい。

 レベルというシステムは、簡単に自分のステータスを上げることが可能だ。

 この世界の住人は、間違いなく地球人より力がある。建造物を建てるのに重機を必要とせず、たった数人で建材を運べる。

 そして、資材はダンジョンが無限に生成するとなれば、運ぶことに時間がかかるだけで、建てるのにはそれほど時間を必要としない。

 さらに、キオルはコネを使い数百人を雇うつもりらしい。キオルが魔法都市計画に参加してくれて良かったと改めて思った。


 これは思ったより早く魔法都市が完成するかもしれない。

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