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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
六章 賢者の資格
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舌戦

 ……言い過ぎたか?台本通りとは言え、やりすぎたんじゃないかなぁ?

 ペールの演出は、基本相手がどのように動くか、発言するかを予想して作成したものだ。それも一瞬で。

 彼ら賢者達が、受験者残り一人だというのに休憩をとることや、俺の不遜な態度に対してどのように憤るかが、台本通りなのは驚くが、『お前達に賢者は不合格だ』なんて発言をしてしまえば、即刻退場だろう。

 ペールの台本に『この反応にはこのセリフで』なんてものはない。つまりは予備の計画などないのだ。もちろん、ペールなりに無理矢理演技を続けさせる手段が演出に組み込まれているが。


 「この火の賢人に対して、賢者不合格だと言いに来たのか?!ええぃ!兵士!この無礼な奴を即刻退出させろ!」


 恐ろしいことにペールの台本はこのことまで書かれている。まるで未来予知をしているかのように。


 「無駄だ。俺の話を聞き終わるまでは誰もこの会場に入ってはこれない」


 俺が今言った通り、扉は叩かれるが兵士達が一向に入ってこない。


 「何故入ってこない!いや、それよりもそやつの近くにいる兵士は何故動かない?!わしの命令が聞けんのか?!」


 「無駄だと言ったろ?扉は氷で塞ぎ、兵士に至っては足が凍りついて一歩も動けない。脱ぎづらい金属の鎧を着ていたのは、運がなかったな」


 この会場内にいる兵士は二人だけである。賢者をいつでも護ることができるように両脇に控えているが、その兵士二人は足を手で引っ張ったり、剣の柄で足を叩いたりしている。

 膝近くまで氷で固まっていて、それを引っこ抜こうとしたり、割ろうとしているのだ。

 俺が『アイスフィールド』を使って登場した時からじわじわと凍っていたのだ。そして、この魔法は強化されているから叩いたぐらいでは砕けない。

 『アイスフィールド』は、氷属性の強化も効果のひとつだ。ただインパクトのある登場をしたかったからという理由だけで使ったのではない。扉や凍った足を、馬鹿力だけで突破されたくなかったからだ。

 考えたのはペールだが……。

 俺はそういう使い方もあるのかと感心したぐらいだ。もうあいつが賢者でいいんじゃねーか?

 だが、ペールの台本はここまでだ。本当は最後までこの未来予知じみた台本を書きたかったらしいのだが、さすがに全ての属性の魔法を説明するには時間がなかったのだ。だけど、ペールは依頼通り『インパクトのある登場』を見事に演出したのだから感謝しかない。

 後はアドリブでやるしかない。ペールの演出を壊さないように話し方に気をつけて……。


 「こうなったらわしの火の魔法でっ!」


 「やめておけ。お前の遅い詠唱速度では何回死んでいるかわからんぞ?」


 これは事実だ。彼が上級魔法を使うまで10秒で、下級魔法でもそれほど時間が変わることはない。

 一瞬で50もの魔法陣を展開できる俺なら50回は殺せる。それを10セットすると……、計算する必要はないな。


 「貴様の魔法は氷属性!わしは火の賢人だ!わしだけが貴様に対抗できるのだ!」


 「なんもわかってないな、あんた……」


 俺は溜息を吐くと10メートル程離れた場所に魔法陣を展開した。そこから石で出来た人形がせり上がってくる。全部で10体の石人形が出来上がった。

 実はこの魔法もかなり高度な技術なのだが、これに気づいた賢者は……、やはり3人か。


 「な、なにを……」


 「黙ってみておけ」


 ラルヴァはまだ何をするかわかっていないようだ。あいつ本当に賢者か?

 この5メートル以上離れた場所に魔法陣を展開しても、疑問を持たないとはな。

 まあ、地味だからこれだけで納得してもらっても困る。俺の本当の目的は観客に見てもらうことなんだからな。

 俺は腕を組んだまま目の前に50の魔法陣を展開した。

 観客席と賢者達から驚きの声が上がる。

 そして魔法陣に魔力を流すと魔法が石人形に向かって飛び出した。

 火の槍、石の槍、氷の槍、水鉄砲、かまいたちが石人形を粉々に吹き飛ばす。残ったのは1体の石人形だけだ。

 残ったのではなく、意図的に残したものだが。

 俺はその石人形を囲むように闇魔法で、黒い霧を作った。そして腕を組んだ姿勢を解くとその人形に向かって走り出す。

 黒い霧の中に入ると、霧の中をぐるぐると回る。どこから出てくるかわからないように。

 そして黒い霧から飛び出すと更に魔法陣を展開して石人形の目があるところに光を当て目眩まし。

 最後は手元から氷の剣を出すと石人形の首をはねた。

 俺はすべての魔法を解くと、立っていた場所へゆっくりと戻る。

 ここで観客席から大歓声が起こった。


 「うぉおおおおおおお!なんっ、なんなんだ!」

 「すげぇ!すげぇよ!あの人!」

 「は?今、何属性つかった?」

 「全属性だろ!こんな魔法士見たこともねぇ!」

 「弟子はとってないのだろうか……」


 ラルヴァを含め、賢者の全員が呆然としていた。その反応が見たかった。

 ラルヴァも悟ったことだろう。氷だけじゃなく、全属性をこの速度で使える俺を倒すことはできないと。

 俺は観客を静かにさせるように手を上げた。俺に気づいた観客が段々と口を閉じ、静かになっていく。

 全員が黙ったところで俺は腕を組み、口を開いた。


 「わかっただろう?これでわからなければ、あんたはここにいる一般見学者以下の魔法士になるが?」


 「くっ……」


 ラルヴァが歯噛みしながら悔しそうにするが、何も言い返せない。

 これで賢者達全員が俺に何も言えなければ、それはそれでやりすぎなんだが大丈夫だよな?


 「さすがじゃ!噂通りじゃったな!」


 老賢人スパールは違っていた。いや……。


 「ふむ、速度だけはこの賢者の中でも圧倒的だと言わざる得ないな」


 「だとしたら、僕の存在価値はなくなってしまいますね!やられたなぁ……」


 さすがは三賢人ということか。精神的ダメージの回復が早い上に、強がりまで言ってきたか。

 だが、噂?そっちのほうが気になるな。


 「実技は問題ないとわしは思う。だが、それだけでわしらを賢者失格だと言うのには度が過ぎるのではないかのぅ?」


 「そう、魔法が強いだけなら賢者になっていた者はもっと多いのだ」


 「そうですねぇ、結局は世界に貢献出来る魔法士でないと賢者とはとてもとても」


 なるほど、それが自信の源か。それに関しては俺も彼らに言いたいことがある。


 「ふむ、だが賢者達よ。あなた達が賢者になってから革新的な技術が世に出ているとは到底言えないのでは?」


 俺が疑問を口にすると、何故か三賢人ではなく、精神的ダメージからやっと回復したラルヴァが答えた。


 「それは魔法学会で秘匿している部分もある!世界が混乱しないために出す情報を選んでいるのだ」


 それを鵜呑みにするほど俺はお人好しではない。地球が科学を中心に成長しているのならば、この世界では魔法を中心に成長しているはずだ。

 なのに、俺がこの世界に来てから感じたことは、地球の中世にタイムスリップしたような感覚だ。魔法という不思議な力を使え、魔物という化物が存在しているだけだ。

 地球でも猛獣はいるし、科学がある。つまりは驚きが少ないのだ。

 俺ならば、魔法が使えずとも生活するだけなら苦労せずにできるだろう。だけどそうじゃないだろ?異世界ってさ。もっと不思議な道具で溢れているべきだ。

 今の所、地球の科学を超える物は、切断した肉体すらも元に戻す中級以上の治癒ポーションぐらいだ。


 「それが世のため?」


 「だから言っておるだろう!混乱しないためだ」


 「それなら、あんた達がいる意味あるのか?」


 「は?」


 もしかしたら本当に革新的な技術を持っているのかもしれない。けれど、約20年程変化はないと仲間達から聞いている。

 エルは70年生きているから、もしかしたら100年以上は変化していないかもしれない。


 「ここ20年間で、革新的な技術を発表したことは?」


 俺が聞くと、ここぞとばかりにラルヴァが胸を張る。


 「ふんっ!貴様のような奴にはわからないとは思うが、杖を発表したではないか!昔より魔法士の数が跳ね上がったのだから革新的ではないか?」


 今でも強い魔法士は貴重だと聞くか、昔は魔法士自体が少なかったのか。それなら、この火の賢人が賢者になれた事も頷ける。納得はしていないがね。


 「そうだな。だが、今の魔法士の殆どが杖を使うのは何故だ?」


 「貴様に知能はないのか?杖を使ったほうが簡単に、そして速く魔法陣を描けるからだと何故わからん?」


 「俺より圧倒的に遅いのにか?」


 これはずるい返しだった。だけど、俺の『無詠無手陣構成』は技術だ。やり続ければ誰でもすることができる。


 「俺の魔法陣構成は技術に過ぎない。誰でも使うことが可能だ。だとすれば、あんた達が発表したその技術のせいで魔法士達が弱くなったと、思うのだがな?」


 魔法士自体の数を増やすのは大事なことだ。だが問題はそれを基本としていることだ。さっき試験を受けた魔法士の一人が杖なし詠唱をしていたが、このラルヴァに酷く怒られていた。

 ただ杖なしでも詠唱できますよと、アピールしただけなのに。それを杖を使っていないから、魔法発動が遅いのだと、まるで杖を義務付けているような言い方だった。


 「昔は杖なしが基本だった。だが、わしが発表したこの新技術のおかげで圧倒的に魔法士の数が増えたのだ。貴様のように一瞬で発動できる奴にはわからんと思うが、魔法陣すら描くことができなかった奴らからすると目から鱗が落ちる思いだっただろう!」


 おまえか。お前が発案者だったのか。

 だからあれほど杖なしで詠唱した魔法士に怒鳴り散らしたのか。

 ラルヴァは自信満々に答える。そしてその発言に援護をするように老賢人スパールも口をはさむ。


 「81番目の魔法士よ。名を……なんと言ったかのぅ」


 今更か。まあ、ペールの台本も名乗る流れではなかったから仕方ないが。


 「ギル」


 「ふむ、ギルよ。残念ながらラルヴァの言う通りじゃ。これ以上革新的なことはないじゃろう。これが魔法士の格を下げるとしても、魔法士不足は解消されたのじゃから」


 落ち着いて諭すように話す老賢人スパール。

 その言い方だと、知っていたようだな。さすが賢者代表というべきか。一般見学者にも分かるように説明しているのは、賢い証拠だ。

 だが、俺にはそれに関しても言いたいことがある。


 「……俺の仲間に魔法が全く使えない娘がいてな」


 俺が話し出すと、老賢人スパールを含め全賢者が不思議そうな顔をする。


 「貴様なんの話を……」


 我慢強くないと思われるラルヴァは、俺を止めようと割り込もうとするが、まだ話は終わっていない。


 「最後まで聞け。その娘は杖を使っても、魔法陣を描くことができなかった」


 「ふん、それは才能がないだけだ。さっさと諦めて違うことに傾倒するべきだ」


 「まあ、あんた達のように魔法を使える奴はそう言うだろうな。だけど、その娘は俺のパーティで魔法剣士として戦っている」


 会場中から感嘆の吐息が漏れる音が聞こえる。

 が、ラルヴァは鼻で笑う。


 「魔法剣士?聞いたことがないな。その娘は杖ですら魔法が使えなかったのだろう?どうせ作り話だ」


 「レイスというのは、物理攻撃が効かない。その娘は剣でレイスを倒すのにか?」


 今度こそ会場から「おぉ!」という声がいたる所から聞こえる。

 だが、口で言っても真実であると証明することはできない。それに詳しく話すわけにもいかない。

 ラルヴァは嘘と決めつけてニヤついているが、おそらく真実であると感じている老賢人スパールは食いついた。


 「ほぉ、それは革新的じゃ。どれ証明してみせぃ」


 「すまないが、それは無理だ。この技術は発表するわけにはいかない。俺のパーティの鍛冶師だけにこの技術を教えたからな。その鍛冶師以外には教える気はない」


 「口だけでは証明にはならんのぉ」


 まあ、そうだろうな。それにしてもスパールか。食えない爺さんだ。


 「もちろん、それと同等の価値がある技術を用意してきている」


 そう、俺がここ数日がんばって完成させた技術。

 俺の圧倒的な魔法の登場で、縮み上がっていた他の賢者達も精神的ダメージが抜け、俺の話に聞き入っている。


 「それは当然証明できるんじゃろうな?」


 「もちろんだ。世界が注目するだろう」


 俺はごそごそとマジックバッグから小さな石を出し、それを会場中が見えるように天高く掲げた。


 「それはこのプールストーンだ」


 これからこの街を起点に世界中で利用されることになる技術の発表だ。

 しかしそれ以前に驚くべきことは、いつの間にか研究の発表になっている点だ。この立役者は間違いなく演出家ペールのおかげだろう。

 俺が望む通りの結果になっていることに感謝をしつつ、俺は研究の成果を発表するのだった。

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