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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
五章 白き竜
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正常化

 平均気温42度。24時間微かな緑色の明かりに照らされる。所々溶岩があり、前後左右上下、いつどこから降り注ぐか吹き出すか溜まっているかわからないのが、16階層からの火山エリアである。


 17階層も全く同じだが、俺達が現在いる『迷賊』のアジトである、隠し通路の先の広場は溶岩がなく、気温も適温。運がよく住みやすい場所だった。

 問題は『迷賊』のアジトという部分だったが、それは解決した。

 『迷賊』達は、冒険者を襲い食料や金品を奪っていたが、俺達を狙ったことで、返り討ちにし壊滅させたからだ。

 本来であれば街に連れていき投獄させた上でその後死刑になるか、俺達に手を出したことで皆殺しになるかのどちらかだが、俺に考えがあり償うチャンスを与えることにした。

 俺がチャンスを与えるなど烏滸がましいが、この世界ではチャンスなんてものは一切ない。もしこれから先、罪を犯さず誰かの役に立つなら、許されてもいいのではないかと思ったのだ。

 俺の話を聞き、『迷賊』達は理解し、従うと言ってくれた。首領のクリーク以外は。


 俺は異世界に召喚された元地球人、朱瓶あかめ きり。この世界ではギルという名前だ。召喚された時に若返り、更に余計なスキルを付加された。

 そのおかげで、少し、多少、いやだいぶ乱暴な性格になってしまったが俺は元気です。


 そんな俺だが今は、『迷賊』の首領クリークを叩き起こして、二人っきりで向かい合っている。別にこれから俺が処刑をするというわけではない。


 「……俺に従えと言っているのか、小僧?」


 ずいぶんとご機嫌斜めのようです。


 「ふむ、ではこの場で処刑しよう」


 俺は無数の魔法陣を展開した。前言撤回して処刑しましょう。


 「ちょっとまて!冗談だよ!ったく、堅物かよ」


 「言っておくが、お前に拒否権はない。だがいいだろう、選ばせてやる。街に行って死刑になるか、俺の命令に従って生き延びるかだ。今決断しろ」


 クリークは苦虫を噛み潰したよな顔をした後、汚い頭をボリボリと掻きながらため息を吐く。地球で部下がこんな態度だったら、即刻リストラ候補になると思う。


 「はぁ、まあ死にたくはないな。俺だって元々は夢を見て冒険者になったんだ。悪党に襲われてなけりゃ、今だって冒険者を続けてただろうよ」


 クリークは『迷賊』をやる前、冒険者としてそれなりの成果を上げていたらしいが、ある時街へ戻る時に襲われて全てを奪われたみたいだ。

 ただ奪われたぐらいで、自分も同じように冒険者を襲おうとは思わない。その時にクリークと一緒にダンジョンに潜った仲間が怪我と食糧不足で街へ戻ることができなかったらしい。それで心が折れてしまったようだった。

 その気持ちはよく分かる。もし俺も仲間を失ってしまったら、この世界を滅ぼすことも考えるだろう。

 だけど。


 「それは理由にならない。襲う側でなく、守る側の道もあっただろう?そっちのほうがお前の心も癒えるのが早かった」


 「そんなことはわかってる!だけどな、俺はお前のように力も心も強くない!」


 クリークは床に拳を叩きつけて、怒りを顕にしている。叩きつけた拳から血が出るほど。

 そうか、まだ癒えていないのか。


 「なら、これから強くなれ。お前が村人を守るんだ」


 「村人?おまえ、なに言って……」


 「この賢者ギルがこの広場に村を作る。冒険者を呼ぶ村をな。そしてお前はその村の代理村長をやって村人を守れ。手段は問わん」


 これが俺の計画だ。この広場に村を作り、冒険者が安心してダンジョン深層へ挑めるようにすることだ。それには『迷賊』達の助けが必要不可欠だ。

 そしてなにより、罪を償うことができる奉仕だと思う。何年も、何十年も、もしかしたら死ぬまでかかる償いになるだろう。

 だが、いつか必ず感謝される日が来る。それに夢もある。


 「お前に償うチャンスをやる。それにチャンスは償うだけじゃない。後ろめたくない商売で儲けられる」


 クリークは一瞬だけ呆けて、すぐに考えるように顎に手をやる。そしてすぐに顔を上げた。


 「俺は、何をやればいい?」


 さすがは首領をしてた男だ。ただの筋肉馬鹿ではないらしい。


 「理解したか。お前は何もするな。村が出来てからがお前の仕事だ」


 「は?!それじゃ部下に示しがつかねぇ!」


 「わかってる。だが、お前は俺の考えを理解することだけに集中しろ。奴らもお前におんぶにだっこだけじゃ、駄目だ。自分で儲けのこと、償いのことを考える必要がある。相談された時だけ手を貸してやれ。そして、守れ。もう二度と仲間を死なすな」


 クリークはじっくり考え頷いた。


 「部下達にはどうやってそれを教える?」


 「それは俺の仲間達が奴らに教える」


 「はっ、あの小娘共に?心配だな」


 「おいおい、賢者の仲間だぞ?おまえらの知らない知識を教え込んでいるし、何より強い。お前らは強いものに従うだろ?大丈夫だ、心配ない」


 俺の仲間には指示した。そして俺のことを一番理解していると信じている。


 「わかった。部下達は任せる。お前の考えを教えてくれ」


 「いいだろう」


 俺はマジッグバッグからお手製のビールを出し、クリークと飲みながら話す。飲みニケーションで信頼を深めることにしよう。

 さて、俺の可愛い仲間達はしっかりとやってくれているだろうか?



 ギルはクリークが気絶をしている間に、『迷賊』の男達と一人一人面談をした。そして適正のある人材を振り分けた。

 少し幼い言葉遣いに美しい金髪のエルフの少女にも。

 彼女はエルミリア。少女の姿ではあるが70年を生きていて、見た目と内面は14歳程度。愛称はエル。

 エルがギルから与えられた役目は、料理。

 エルはギルが料理を作っている間、一番近くで見て学んでいた。地球の料理を。

 ただ残念なことにエルは人見知りが激しいという、弱点がある。それを克服するためにもこの仕事はやる価値がある。


 「それで、嬢ちゃん。あっし達は何をやりゃあいいんだよ」


 見た目だけでエルを下に見ている。ギルが恐ろしいから従っているだけだと言わんばかりだ。

 だが、今回のエルは一味違う。


 「おい、貴様らに質問をする許可を与えたか?クズ共。エル……、私の指示に従わなければ、今すぐ眉間を撃ち抜くぞ、豚野郎」


 エルは淡々と言いながら、エルの新武器であるマジックボウガン(ギルが作った連続発射可能なボウガン)を眉間に突きつける。ギルの渡したメモをチラチラと見ながら。

 ギルは『迷賊』達がエルを馬鹿にしないように、地球の伝統ある訓練法をメモに残したのだ。某軍曹式訓練法の効果は抜群だった。


 「いや、そんなマジになるなって、冗談だよ!」


 調子に乗っていた『迷賊』の男は後ろにのけぞる。だが、まだ足りないのだ。エルには続きを教えてある。


 「貴様、その口の聞き方はなんだ。私に意見を言うときは気をつけだ。そして言いたいことの前と後にサーをつけろ」


 エルはそう言いながらボウガンのボルトを連続発射するためのクランクを回しかける。


 「わ、わかりました、サー」


 「違う。全てサー・イエス・サーと答えろ。それ以外は処罰対象だ」


 そしてマジックボウガンを床に向けて、クランクを回す。ボルトが連続発射され、男の足型を作るようにボルトが刺さる。


 「サー・イエス・サー!」


 「それでよし」


 サーではなく、イエス・マムが正しいとは教えなかった。ギルは「だって、こっちの方がかっこいい」と呟いていたが、エルには意味がわからなかった。


 「では説明する、全員理解したら返事をしろ」


 「「「サー・イエス・サー!」」」


 エルに振り分けた人数は9人。三人一組で一軒ずつ料理屋を経営してもらうことになる。

 料理屋なんて一軒で十分だとエルは思ったが、ギルはそうではなかった。それぞれの店に名物料理を用意する。もちろん調味料の作成もしてもらう。

 味の好みは人それぞれだし、その日の気分でも好みは変化する。客を常連にするのは店の努力次第だが、一つの店に客が偏ることを避けるためだった。

 そう、集められた男達は料理の才能が少しでもある奴らだ。


 「で、では、やることを説明する」


 エルは既に作ってあった料理を食べさせた。

 料理はハンバーグ、シーフードフライ、そしてギル特製ビールとコーヒー。

 男達は恐る恐る口に含むと、目を見開き、取り合いしながら料理を平らげた。

 食べ終わっても、まだ夢の中にいるようにニヤけている。これで真面目にやるだろうと、エルに予言していた。そしてその予言は当たっていた。

 ギルが残したメモの最後にはこう締めくくってあった。


 「さて、貴様らにこの料理をモノにするチャンスを与えてやろう」


 彼らはエルの顔を見上げてから、大きく頷いた。



 リディアはヒト種の17歳。赤い髪をポニーテールにしている美少女である。

 彼女がギルから与えられた役目は重要だった。

 リディアに振り分けた男達は、戦闘員ではない。元々街で働いていた者達だ。だからか、エルのような脅すやり方は必要なかった。


 「あなた達にやってもらうことは、接客です」


 「せ、接客ですか?」


 リディアは元々王女だったが、色々あって冒険者となったのだ。言葉遣いが一番丁寧で、最もギルの考えを理解していた。


 「そうです。執事のように丁寧な接客を私から学んでもらいます」


 「接客なんて適当でいいのでは?」

 「そうですよ。今だって敬語ぐらいはできます」

 「街でも接客を毎日していましたし……」


 男達の言っていることは正しい。この世界で執事のような丁寧に接客をする店なんて存在しないだろう。


 「だからです。この村の全ての店では、どの街よりも最高峰の接客をしてもらいます。お客様に心地よい空間を提供するためです」


 日本式の接客をするのだ。村に人を呼ぶには、他の街と同じでは困る。全てにおいて最高を提供するからこそ発展するのだと、ギルは言う。


 「はっきり言います。今はまだ村程度ですが、ここを最高の街にするにはあなた方次第です。あなた方のボス、クリークのせいではなく、あなた達の責任です。心しなさい」


 その一言でようやく重要な役目だと理解したのだ。彼らはリディアの言葉を一言一句聞き逃さないだろう。



 シギルはドワーフの女性。20歳ではあるが、見た目は幼女そのものだ。紫色の髪をツインテールにしていて、人間のように成長することができれば、絶対に美女になっただろうと思わせる顔立ちだった。

 彼女がギルから与えられた役目は、建物をつくることの補助。

 役目としては重要ではないが、全ての基盤だ。『迷賊』達が住む家、客の泊まる家、商店、宿屋といった『衣食住』の、『住』を作ってもらう。つまり基盤だ。

 重要ではないが、大事な仕事だ。


 「あー、はっきり言ってい良いと聞いたから言うッスけど、あんた達の家は家じゃないッス」


 つまりはしっかりとした建物を作ることが目的なのだ。

 現在はただ丸太を組み立ててボロボロのログハウス風な掘っ立て小屋と言っていい程だったのだ。


 「ここまで言えばわかるッスね?とりあえずやってもらうことは、あんた達の家を作る所から始めて、客が来る店を作るところまでやってもらうッス」


 もちろん家だけではない。トイレ、風呂等、普通の街より良いものをだ。

 全てをシギルが面倒を見ることは出来ない。が、設計し、指示して作ってもらう。ノウハウさえ理解することができれば、後は自分達で作りたいものを作ることができる。それがギルの狙いだった。

 自分達で必要な家、物を見つけ、作ることが大事なのだ。

 『迷賊』達もなんとなく思うところがあったのか、大きく頷いて気を引き締めたのだった。



 最後は銀髪のセミロングの美女、エリー。街では『聖騎士』と呼ばれる冒険者だ。世界の女性が羨ましがる抜群なスタイルを、今は全身鎧を装備して隠している。その姿を『迷賊』達が見ることはないだろうけど。

 少々言葉が足らない為に、考えを理解するのに努力がいるが、戦闘面については説明すらいらない。実戦の強さも、経験も、名誉も持ち合わせている。

 彼女にはここを村にしたときの警護の仕方を教えてもらう。


 「ん」


 エリーは男を指差す。


 「は?俺っすか?」


 エリーは頷いてから、広場の入口である隠し通路前に歩いていき、指差す。


 「ここに門作って、門番二人、交代制」


 「わ、わかり、ました」


 このように必要なことだけを指示していく。

 門番だけではなく、櫓を作り見張りとか、見回りとかを指示していく。代理村長であるクリークも、警護班長として仕事をしてもらうことになっていた。


 「最後には必ずクリークに報告。自分が大したことないと思っても、報告。これは絶対」


 魔物だけではない、犯罪者の取締もしなければならない。

 これが集められた『迷賊』の戦闘員だった彼らの役目である。守りに特化したエリーにしか任せられない仕事だった。

 彼らにエリーから十分な説明がなくとも、彼らは理解した。これが村を発展させるために大事なことだと。



 これが皆に俺が指示したことだ。

 そして俺の可愛い仲間達は十分果たしてくれた。

 後は『迷賊』達の、いや、元『迷賊』達の努力次第だろう。

 俺が最後にしたことは、彼らの奪った金品を俺が奪った後、元『迷賊』達に分配した。給料として。

 そして残りをクリークに預け、働いた者達に給料を配るように指示した。迷賊仲間だろうと関係なく、何かを手に入れるためには、金を使うことを徹底させた。

 働き詰めではなく、休みも週休二日で、8時間労働の日本式。休みと物を手に入れる喜びを思い出させるために。

 最大の問題は女性がいないことだが、村から街へ成長していけば、自然と集まる。その際に『迷賊』の時のように襲ったら、俺が直々に処分すると伝えておいた。だが、口説くのは自由だ。


 これが三日間で俺達がしたことだった。俺達専用の家も作ってもらうことになっているから、完成すれば、ダンジョン攻略に大いに役立つだろう。

 だが、その完成を見届けることは出来ない。俺達は目標通り25階層突破を目指さなければならないからだ。

 さて、やることは終わった。

 俺達はクリークに挨拶をすませ、村建設予定地を後にしたのだった。

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