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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
四章 迷宮の賊
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壊滅と解決

 多人数の時に調子に乗る奴ってのは、どこの世界でもいるみたいだ。

 この『迷賊』達も同じみたいだが、こいつらはもっと悪い。命がけで手に入れたダンジョンの戦利品や、食料を、多人数で囲み、暴力で奪う。

 その際に死んだものはいないというが、食料を奪われ、時には怪我しているであろう冒険者が、無事に帰れるとは到底思えない。

 更に、女性冒険者の行方不明者が多いと聞く。これは『迷賊』が俺達にした発言を参考にすると、拐っている可能性が高い。

 そしてそのボスであるクリークは今、死にかけている。

 俺の魔法を魔剣で無効化し続けた結果、魔力だか生命力を失い続けて確実に弱り、立つことも出来ないほど斬られた。そのクリークは、あろうことか俺に命乞いをしている。

 「許してください」と。

 まあ、許さないんだけどね。

 個人的にこういう奴ら嫌いなので。


 ということで、俺は立ち上がると刀を抜き、魔剣を持っている腕の手首を斬る。

 握力が失われ魔剣を手放すと魔剣はゆっくりと倒れていった。隠し武器がないなら、クリークは無防備のはずだ。

 だから、もっと刺す。

 肩、肘、腿と死なないように丁寧に。


 「がっ、あぁあああ!」


 耳障りな声だな。声帯を斬って声を出せなくしたいところだ。

 俺は刀を収めるとクリークの上半身を蹴り、仰向けにするとマウントポジションを取るように馬乗りになった。

 そして顔を殴る。意識を失うまで殴り続ける。

 その間も命乞いを続けるクリークを無視し続けながら。

 5分ほど殴り続けただろうか。クリークは意識を失った。

 なんだよ、もうちょっと殴りたかったな。

 だがここまでだな。本当に死んでしまう。

 こうして数日に渡る、『迷賊』との戦いは終わったのだ。



 だが、戦いが終わっただけで、全ては終わっていない。

 というか、俺のせいで問題が多くなった。

 辺り一面血の海。腕や足が無数に転がり、排泄物と血の匂いが充満している。精神崩壊を起こしかけている者や、泣き崩れて母親を呼ぶ者達。

 この後始末をどうするかなのだが……。

 仲間達の安否だが、とっくに解毒し俺とクリークの戦いを観戦していたみたいだ。

 クリークをボッコボコにして気絶させた後、走って近寄ってきて各々感想を言った。


 「ギルさま……、その、お役にたてなくて……」


 リディアは今回の件では、戦いに参加させなかった。リディアはエルを助ける際、対人戦を経験しているからだ。だからか、今回は戦闘をせず、毒針を打ち込まれてしまい戦闘不能になってしまった。

 それを後悔して謝っていたから、頭を撫でて気にするなと言っておいた。


 「お兄ちゃん、やっぱり、すごいです」


 いや、今回はエルの凄さが際立っていた。腰だめ射撃で、狙いをつけるのが難しいボウガン、更に連射改造を施しているのに、狙ったところへ百発百中。

 俺は50人以上のクズに魔法をばら撒いただけだ。エルにも頭を撫でてあげた。


 「うわぁ……、ちょっとやりすぎじゃないッスか?」


 今回はシギルもがんばってくれた。新装備を作り、対人戦までこなしてくれた。

 そんなシギルに毒針を刺したのだから、やりすぎってことはないな。

 労うために頭をワシャワシャと撫でる。


 「む……、ギル、見せ場取った……」


 皆落ち込んでいるが、一番の活躍を見せたエリーが最も落ち込んでいた。


 「十分がんばってくれたよ。ありがとう、エリー」


 「もっと、ギルにみてほしかった」


 エリーの駄目なところは、美人なのに天然でこういうことをさらっと言ってしまうところだ。俺でなければ惚れてしまうだろう。いや、まあ、俺もちょっとは。

 とにかく、しっかりと見ていたという意味をこめて、髪を梳くように優しく頭を撫でて労った。


 と言った感じだった。

 皆本当に耐えてくれたから、褒めておく。俺には頭を撫でるぐらいしかできない。

 対人が初めてな娘もいただろうし、この惨憺たる様子を見てストレスがかかっているだろう。そのストレスを作ったのは俺のせいだけど。

 さて、そろそろこの広間の問題を解決しようか。



 最大の問題は『迷賊』達をどうするか。

 彼らを無感情に殺すことができれば、こんなことを考える必要がなかったのだが、運が悪いことに狂化スキルが低いみたいでね。

 だからこそ、退治したからそれで終わりとはいかない。しっかりと後処理のことも考えなければ。


 「おい!そこに隠れてるお前ら!」


 俺が呼んだ相手は、俺達と戦わなかった『迷賊』達だ。彼らの住処である建物の陰に隠れていて、30人ぐらいはいるかもしれない。

 おそらくだが、戦闘要員ではなく使いっ走りか、街で取引するメンバーだろう。


 「は、はい!」

 「な……なんでしょうか」

 「おい話さないほうがいいって!俺達も腕か足を切り取られる!」


 ずいぶんな言われようだが、実際俺達と戦った連中は無事ではないから仕方ない。そんなことよりこいつらに手伝ってもらわないとどうしようもない。

 そのためには恐れてもらっていた方が都合がいい。


 「お前らも四肢欠損したくなけりゃ、俺に従え。俺の言っている意味はわかるな?」


 脅すと全員が青ざめた顔で頷く。

 その様子をみて俺は口の端を上げた。



 まず一番にしたことといえば、死にかけている『迷賊』の手当てだ。

 『迷賊』は今まで強奪した物を倉庫にまとめて保管しているが、その中でも多いのは食料とポーション、それに薬草だった。

 治癒ポーションの凄いところは、切断された手足をくっつけて使用すると、つながるところだ。医者いらずというのはまさにチートだろう。

 まあ、中級ポーション以上という条件付きだが。

 それでも四肢欠損している『迷賊』達の治療をするだけの数があり、全員の傷を癒やすことができた。

 そうなると、また襲われる危険性があるとリディアに注意されたが、その心配がないことはわかっていた。

 あれだけの地獄を見た上に、治療をする余裕を見たらおとなしくもなる。そして最後に「武器に触れようとしたり、詠唱をしたりというのを見つけたら今度こそ皆殺しだ」と言われれば、当然だろう。

 そして、水魔法で血の池になりつつある広間を洗い流し、風魔法で乾かした後に全員座らせた。ちなみにクリークだけはロープで手足を縛ってから治療したが、今も気を失っている。

 さてさて、これからが本題だ。


 「おい、そこのお前。お前らがした強奪や襲撃は、街に戻るとどんな刑罰になる?」


 一番近くにいた男に質問するが、血が足りていないのか青ざめたまま反応がない。

 だから近づいて頬を叩いてやったら、声を震わせながら答えてくれた。うん、やっぱり、意識が朦朧としてたのかな。


 「す、すみません。あなたに声をかけるのが恐れ多くて……。え、えっと、街に戻るとですね?街に戻れば、長期間牢にいれられて、死刑になります」


 ん?今俺のことを恐いって言ったか?もう一回ぐらい腕をちぎったほうがいいかな?

 いやいや、話の腰を折るわけにはいかない。


 「そうかぁ、お前らは俺に殺されるか、街の連中に殺されるか、どちらにしろ死ぬんだな?」


 今でも青い顔を更に真っ青にする『迷賊』達。ざまぁ。


 「ふふん、さすがに一言も話せないか」


 俺がこう言っているのに、何かを話そうとしたから『迷賊』達を一喝した後、続きを話す。


 「さて、じゃあ俺からお前らに生き残れる道を一つ提示してやろう」


 このことは戦っている最中に思いついたから仲間達にも話していない。だからか、俺の仲間達も『迷賊』達と同じように呆然としていた。

 ではどうやって、彼らを死刑にさせないようにするか。

 答えは単純、彼らを街へ連れて行かない。

 単純に言ってしまうと、彼らを許すように聞こえるが、そうではない。

 償うチャンスを強要している。言葉が変に聞こえるが、正しい表現だ。


 「おまえらにこの広場で働いてもらう。それも冒険者に役に立つように働くんだ。もちろん、それより街に連れて行かれる方が良いなんて奴はいないよね?」


 俺以外の全員が不思議そうな顔をしている。キョロキョロしていたり、喜んでいいのか、悲しんでいいのか。

 そして、俺に質問をしたいらしいが、声を出して俺に一喝されたばかりだからできないみたいだ。だが、一人の勇気ある名もなき勇者が俺へ恐る恐る、手をあげた。いや、俺がただ名前を知らないだけだけど。

 俺がジェスチャーで、言ってみろと表現すると、話し始めた。


 「えと、その、賢者、様?あっし達はいったい何をすれば、許していただけるんでしょうか?」


 「おまえ勘違いしているようだな」


 「へ?あの、話が見えないんですが」


 「おまえらは一生俺の元で、今まで襲った人たちのために、懺悔し続けながら、奉仕するんだよ。意味わかるか?死ぬより辛いかもしれない」


 まだピンときてないみたいだ。先程より疑問が浮かんでいるみたいだ。頭を掻き毟ったり、こめかみを押さえたり、頭痛的なものを感じているようにみえる。馬鹿にでも理解できるように説明しているつもりなんだけどなぁ。

 おい、なんでエルとシギルまで頭を抱えてるんだ?


 「ふぅ、単純な質問に変更しよう。お前らは生きたいか、死にたいか、どっちだ?俺はどっちも尊重しよう。では、街で死刑になりたい奴、手をあげろ」


 誰も手をあげない。


 「じゃあ、俺の命令に従って働け。殺さないでやる、いいな?」


 全員が頷いて、俺の話の続きを聞きたがっている。このぐらい単純なほうがいいのか。


 「ならおまえらが生き残ることができる道を示そう」


 街に連れて行かれれば死に、俺の命令に従わなければ死ぬ。

 街で死刑になることは嫌がった。

 では何をさせるか。


 「お前達はこの広場で、街を作るんだ。第二のダンジョンの街をな」


 17階層に街を作ることができれば、攻略が楽になる。これは俺達のためでもあるのだが、16階層から安心してキャンプが出来ないことがネックだった。

 そこでこの広場に街をつくり、ゆっくりと休めるようにする。もちろん、店も作ってもらうつもりだ。

 幸い、ここには元商人もいるらしいからな。

 それに夢があると話したが、それはこの階層での物価は高くなる。オーセブルクの物価を倍にしても需要があるだろう。さらに地球でのノウハウを活かしサービスを向上させ、オーセブルクより良い接客を実現させる。

 入り口は一つだけだし、弱くとも戦闘経験があるから見張りもできる。それに人数だけはいるから、安心だし、この広場を知り尽くしている。

 こんな好条件はないだろう。


 「ただし、詐欺や、犯罪行為は無しだ。した奴は俺が、死ぬ以上の苦痛を与えてやる」


 「そんなこと言っても、犯罪行為をしていたんスよ?またやるッスよ絶対」


 今まで沈黙を貫いていた仲間達だったが、商人として生きてきたシギルが疑った。


 「そんなことはないよ。だって……」


 俺との契約を破れば、針千本飲ますとか、100回四肢を斬り落として治すを繰り返すとか、陰部を斬り落としてそれを食べさせるとか、くどくど説明したら『迷賊』の全員から「しません」と言質を取ったから大丈夫だろう。

 シギルも表情を歪めながら納得した。

 それからしっかりと説明をした。それこそ新入社員説明会のように。そうして全員に方針を共有し、納得させることができた。


 今回のダンジョン探索の目標は25階層のボスを突破し、次の階層の様子を見たら街に戻ることにしていた。

 これはエリーに俺達と一緒ならエリーの最高記録の22階層を超えて、25階層をも突破できると証明したかったからだ。

 後8階層もある。そろそろストレスが溜まってきている。これでもできる限り快適に過ごせるように努力しているが、それでもストレスや疲れが目立っていた。

 そこにこの問題だ。まだ数日は17階層にいる必要がある。


 この事を今日の夜、仲間達にも説明し、クリークを叩き起こしたらさっき『迷賊』達に話した内容をもう一度話さなければならない。


 「はぁ、先が長い……」


 俺の魔法が壊したであろう『迷賊』の建物の瓦礫を見ながら、嘆息したのだった。

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