表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
一章 賢者の片鱗
5/286

再出発、そして異世界サバイバル

 朝、惰眠を貪っていると何故か虎男のハルガルに叩き起こされた。幼馴染みたいなことをおまえのようなゴツい奴にされても嬉しくないのだが。

 

 「ほら、起きろ。もう店開いてるぞ」


 おぬし、俺のこと気に入ってるな?しょうがない、後で飴ちゃんをやろう。

 この村で唯一の雑貨屋が営業を開始したらしい。だったら起きるしかないな。



 村の中をハルガルと歩いていると色々な人たちから奇異の目で見られる。靴下に黒スーツ上下という怪しい格好だからか、ヒト種の奴隷商人に襲われた経験があるからかはわからないが、居心地が悪い。


 「おまえだけで村を歩くと襲われるかもしれないからな。俺が一緒にまわっているのだ」


 マジか。虎男、意外と気遣いのできるやつ。後で飴ちゃんをやろう。

 歩いて5分もしないうちに犬耳の老婦人が経営している雑貨屋についた。

 犬耳の老婦人は、俺を見てあからさまに嫌な顔をする。

 俺の鉄拳で制裁してやってもよかったが、ここはぐっと我慢し、売る商品の営業も兼ねて飴ちゃんを握らせてやった。

 ハルガルの勧めもあって、食べさせてみたら尻尾をブンブン振りながら目を輝かせている。イヌ科め、喜んでおるわ。


 「この甘味を売りたい。買ってくれるか?もしくは物々交換でもいい」


 そう言うと犬耳老婦人は快諾してくれたので、商品を物色してみる。

 まずは、食料。5日ほどの食料として、干し肉とパン、そして少しだが野菜を購入。あとは、20メートル程のロープ。鍋と毛皮で作られた寝袋、最後は少し大きめな布を選んだ。というより、これぐらいしかめぼしいものがなかった。

 こちらの世界でしか手に入らないものも欲しかった。だがまあ、無いものは仕方ない。

 しかし、この量をなんと、飴20個ほどで交換してもらった上に、銀貨20枚ももらえた。

 え?このいちごみるく飴ってそんなに高いの?ネットで千円ぐらいだよ?

 とりあえず、最低限の物は揃った。武器やスコップを入手できれば言うことなしだったが。

 手に入れたものをリュックに無理矢理詰め込んだがそれでも入り切らなかったから、飴をもう5個と、革のバッグを交換してもらった。飴の残りは10個になってしまった。

 はじめてのおかいもの、完了。



 買い物を終え、村長の家まで戻ってきた。村を出る前にマーデイルに挨拶したかったからだ。ハルガルが扉をノックすると、すぐにマーデイルとエルミリアが出てきてくれた。


 「おや、ギルさん。もう買い物は済まされたみたいですね。すぐに出ていかれるのですか?」


 「えぇ。これ以上は迷惑かけられませんし、ね。大変お世話になりました」


 俺はそう言うと、マーデイル、ハルガル、エルミリアにそれぞれ飴を2個ずつあげた。残りは4個だ。大事に食べよう。


 「こんな高価なものいただけませんよ!」


 喜んでいたエルミリアと尻尾をピーンとしている猫科が、マーデイルの言葉でしょんぼりする。


 「いえ、良いのです。それで相談なのですが、もしよろしければ、また寄った時にでも一泊させていただければと思いまして」


 あからさまに落ち込んでいる二人に目をやってからそう言うと、マーデイルは苦笑しながら受け取ってくれた。


 「なるほど、前金というわけですね。わかりました。有り難く頂戴します。あ、でしたら、お古で申し訳ないが、私の靴をもらっていってください」


 雑貨屋に靴が売っていなかったから、これは嬉しい申し出だ。


 「ありがとうございます。大事に使わせてもらいます。では、そろそろ行きます」


 「えぇ、お気を付けて」


 「ギルお兄ちゃん、またくるです」


 エルミリアが小さな手をふってくれた。これは少し嬉しかった。

 エルミリアとマーデイルに手を振りながらハルガルと一緒に村の入口まで歩いていく。


 「それじゃあ、気をつけていけよ。まぁ、おまえならまた村に来てもいれてやる」


 「そりゃぁ、ありがとよ。また来たときはよろしくな」


 そう言って俺は村を出た。

 目的地は決まっている、俺の大事な椅子が置いてある山だ。ただ、今日は山には入らずに手前の川の近くで、キャンプの準備をすることが目標だ。

 村を探していた時とは違い、今はどのくらいの距離かを知っている。ゆっくり歩いて行くとしよう。



 荷物が増えたのと、今回は走らなかったのもあってか、目印の積み上げた石まで、一時間ぐらいかかってしまった。ちなみに、スマホの電源は昨日寝る前に切っておいた。何かに使えるかもしれないから、電池を消費したくなかったのだ。では、なぜ時間がわかるのか。ただの勘です。

 まぁ、太陽の傾きや影、あとは経験則としか言いようがない。

 さて、目的地についたが、やることは多い。まずは周りを確認し、索敵。

 魔物がいないことを確認し、今夜のキャンプ地を決める。

 次は焚き火をするために、よく乾いた木、枝、枯れ葉などを用意した。

 いよいよ火を起こす。だが、どうやって火をつけるか。安心してほしい俺には秘密兵器がある。

 実は愛用しているこのナイフカバー、というよりは手作りナイフケースなのだが、ケースの横に細長い棒がささっている。これはファイヤースターター。火打ち石だ。これとナイフだけでどこでも火が起こせるということだ。

 火口はメモ帳の紙を利用し、無事焚き火をすることができた。

 長く火を絶やさないために色々しているのだが、ここでは割愛する。

 火をきっちり育てたことを確認したら、次は寝床を作らなければならない。長い木を何本かと、蔓を拾ってきて焚き火の場所まで運んできた。

 そして、村で買った布を合わせて簡易テントを作成した。

 雨がふらなければ、快適な空間だろう。中に毛皮の寝袋を置き完成だ。まだまだやることはある。

 飲水の確保。幸い、川がある。買った鍋に水を汲んでくる。鍋を吊り下げる台を設置し、火で沸騰させる。沸騰したら、少し冷まし明日の分として水筒に確保。残りは今日の飲水だ。

 ここまで準備するとあたりは夕方になっていた。暗くなってしまったから今日の探索は諦め、焚き火の近くに腰を下ろす。

 辺りは漆黒の闇だ。だが、火があるだけで安心感が半端ない。

 ぼーっと火を見つめながら思考する。


 「なんとか、サバイバル一日目は終わりそうだ」


 明日は森に入り、椅子を回収せねばならない。なんでこんなにも執着してるのかわからないが、オーダーメイドで十万以上した椅子だ。それにあの椅子は俺が出座った中でも最高の座り心地でもある。貧乏臭いが簡単には手放したくない。

 明日の朝一には魔物との遭遇を考え、武器を作っておこう。大したものは作れないが少しでも距離を稼げる武器がいる。

 不安で食欲が湧かないから、水だけ飲んで今日は寝ることにする。

 しかし魔物が出るとわかって、今日は寝れるんだろうか……。

 だがその心配はなく、ぐっすりと眠れた。


        ○◆●


 ギルが野営する場所から北西に位置する街、ヴィシュメール。

 ヴィシュメールのとある酒場に、赤い髪の若く美しい女性がいた。

 酒場は日が沈みかけているのもあってか、喧騒に包まれている。

 仕事の達成感で木のコップを打ち合って喜ぶ者たち、話が拗れたのか喧嘩に発展して胸ぐらを掴み合う者たち、それを見て笑う者たちで席の多くが埋まっていた。

 ただ、赤い髪の女性の席だけは、彼女しか座っていなかった。

 外の暗さで今がどのくらいの時間かを確かめると、彼女は小さく「遅い」と呟く。


 「待たせたな」


 呟いた数秒後に男三人が彼女の席に現れ、太った男がこう言ってから空いていた席にどかりと座る。

 男三人は印象的で、一人は太っていて、一人は背が小さく、最後の一人は痩せていて背が高かった。ただ全員が武器を持っていて、革の鎧をお揃いで着ている。

 彼らは冒険者だった。依頼のため待ち合わせをしていたのだ。


 「……それで依頼は魔物討伐と書いていたが、内容は?」


 女性が無駄な話をするつもりはないと、早速依頼内容を聞く。

 依頼者は女性ではなく、男たちだった。


 「あんた、リディアさんって名前だろ?最近ここらで有名な、赤い髪の女剣士」


 太った男がテーブルに乗り出して聞く。酒臭い息がかかったのか、またはさっさと依頼内容を話さないことにか、リディアと呼ばれた赤い髪の女性が僅かに嫌な顔をした。


 「その名で間違いはない」


 リディアはため息を吐きながら、仕方ないといった様子で頷く。


 「やっぱりそうか!待ち合わせで分からなかったらどうしようかと思ったが、目立つ髪で良かった!だけどそれ以上に、美人さんで良かった」


 わざとらしい会話の引き伸ばし。リディアが美人だったから気に入られようとしているのがわかる。

 だからか、リディアは素っ気なく話を進めることにした。


 「依頼内容は?」


 依頼内容の話しかするつもりのないリディアに、太った男は舌打ちし、小さい声で「愛想ぐらいよくしろよな」と吐き捨てる。

 だが、すぐに元の気に食わないニヤケ顔に戻ると本題に入った。


 「ダンジョン攻略だ」


 「ダンジョン?この人数でか?」


 リディアは改めて男たちの顔を見渡す。全員で四人だ。

 ダンジョンはこの世界にもあり、当然危険だ。場所によっては地下の奥深くまであり広大。倒すのも苦労する魔物が数多く徘徊している。

 それを4人だけで攻略するなど不可能だと、リディアは言いたいのだ。


 「出来たばかりのダンジョンだから、少数で問題ない」


 「だったら、私など雇わず三人だけで攻略した方が儲けが良い」


 「いや、ダンジョンを発見した時にコボルトを見たんだ。俺たちのレベルだと、ちょっと心細い」


 冒険者パーティが倒せない魔物を倒すために、他の冒険者を雇うことは珍しくない。依頼料は余計に掛かるが、それ以上に儲ける算段があれば危険も減って賢い選択と言える。


 「ダンジョンの魔石が目的か」


 「そう、それさえ手に入れば、リディアさんの依頼料を払っても十分な儲けだ」


 「場所は?」


 「それは言えないぜ。そうだろ?俺たちの依頼を断って、一人で行っちまうかもしれないじゃねーか」


 その通りだった。だが、リディアが場所を聞いた理由は、そんな低俗なことを考えていたからではない。

 依頼を受けた場合、数日、場所によっては数十日を彼らと行動を共にしなければならない。人里離れた場所に連れて行かれ、大勢に襲われることだってあり得るのだから、その心配をするのは当たり前だ。

 だから、なんとしてもどのくらい行動を共にするかを知る必要がある。


 「魔物ではなく、お前たちに襲われては困る」


 そう言われて、ようやくリディアが何を心配しているかを男たちも理解する。


 「そういうことかよ。馬を借りて行くから4日程度だ。それから森に入り山を登るけど目的地は遠くない。俺たちも変な道を通って余計な戦闘はしたくないから、街道を行くつもりだ。これで安心したか?」


 それでも危険は少なからずあるが、目の前にいる男たちなら、寝込みを襲われたとしても対処可能だとリディアは判断した。さらに街道を行くということはほぼ平原だ。彼ら以外の男たちが潜み隠れる場所はない。

 だからか、リディアはそれならば道中に危険はないと頷いた。


 「ダンジョンは?出来たばかりと言っていたが、本当か?」


 「それも本当だ。自分の目で確かめたからな。ダンジョンは1階層だった。ただ、発見してから一月(ひとつき)は経っているから、もしかしたら2階層に成長している可能性はある」


 それを聞いたリディアは達成できるか、危険がないかを考えるために黙り込む。

 男たちは美人が考え耽っている姿を、ニヤけながら見ていた。

 リディアはその視線にも気づいていた。

 本当は断りたい。だが、リディアにも生活がある。彼らと話をするために今日一日は無駄にしたし、明日に良い依頼があるとも限らない。何より、報酬が良い。

 そう考えると、リディアは受けることを決断する。


 「わかった、受けよう」


 「それは助かる。噂の赤い髪の女剣士が同行してくれるなら、コボルトだって怖くない」


 太った男はそう言いながら仲間たちと視線を見交わしてニヤリと笑う。


 「出発は」


 「明朝だ」


 「わかった」


 リディアは席を立つと出口へと歩いていく。


 「良い旅になりそうだ。なぁ?はっはっは」


 男たちの笑い声を聞き、リディアはため息を吐いてから酒場を出たのだった。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 「犬耳の老婦人は、俺を見てあからさまに嫌な顔をする。  俺の鉄拳で制裁してやってもよかったが、ここはぐっと我慢し、売る商品の営業も兼ねて飴ちゃんを握らせてやった」 自分のことを賢者かもしれ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ