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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
四章 迷宮の賊
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迷賊の首領クリーク

 風呂に入り、『迷賊』のことを話した後はテントの前で、俺とシギルで見張りをしていた。

 11階層まではギルドの見張りがキャンプ場の安全を確保してくれていたが、この16階層からはギルドの援助がなくなり、キャンプ場でのビバーク時の安全は自分達で確保しなければならない。

 いつも見張りは立てているが、今回からは二人で見張りをすることにした。


 「しかし、暑いッスねぇ」


 「さすがは火山エリアだな、シギルは辛くないか?」


 「大丈夫ッス」


 普段は一人で見張りをしているせいか、二人で見張るのは心強いし色々話しながら出来るのは楽しい。それに、一人の時はやはりある程度気を張っているからか、作業にも集中できないことがある。

 俺は見張り時に、なんらかの作業をしている。作業とは言ってもそれは魔法の開発であったり、俺達の行動計画であったりで、主に考え事なのだが。


 「今日は何をしてるんスか?」


 シギルや皆にも、見張りの時の事は話題に出たときに話していたからか、今日俺がしていることが普段と違うことに疑問を抱いたみたいだ。


 「うん、そろそろ治癒ポーションぐらいは作っておこうと思ってね」


 「あー、そういえば街で錬金道具を買っていたッスね」


 シギルの言うとおりで、俺は街の露店で錬金道具を買っていた。今はその道具で治癒ポーションを作っている最中だった。

 一人で見張りをしている時は、こういう集中する作業は出来ないのだ。そして今は、すり鉢で薬草を擦っていた。


 「そう、シギルもいつもは作業しながら見張りしているんだろ?俺に気にせずしていいぞ」


 「いいんスか?だったら、旦那もいるしアドバイスをしてもらっていいッスか?」


 「ああ、何でも聞いてくれ」


 「キャー、嬉しいッス!」


 シギルが女の子のように喜ぶのは珍しい。見た目は少女だが、こんなんでもれっきとした大人の女性なのだ。シギルは羊皮紙を開くと鍛冶の設計図を描くようだった。

 本当はシギルも鍛冶をしたいのだろうが、炉がないと出来ないし、見張りにすることではない。だからか、どの様な武器を作るかを羊皮紙に描くことで、ストレスを発散させているのだろう。

 シギルは見た目と普段の話し方からは考えられないほど、鍛冶に対しては真面目で、仲間思いだ。どうやら今回はエリーの武器を設計しているようだった。

 さて俺も作業を続けるか。

 ポーション類を作るのには、錬金術をする必要がある。錬金術師は魔法使いの落ちこぼれがなる職業らしい。必要な職業ではあるが、魔法使いの方が需要が多いがゆえに、力の弱い魔法使いは雇われない。だからか、錬金術師を下に見る者や、影で悪く言う者も少なくない。

 人気がない職業の作る物は、出回る量も少ない。ということは高価なのだ。だから俺は自分で作って、出資を減らそうと思っているのだ。

 さてそのポーション作りの方だが、治癒ポーション、毒消しの薬であればそれほど難しくないから、今はその二つを作っている。

 作業には多少集中力がいるのだが。

 その作業は、()()()()()()()()()()()薬草をすり鉢で擦り、瓶に水と擦り潰した薬草を入れて混ぜるだけ。

 言うだけなら簡単だが、思いの外コツがいる。ずっと魔力を流しながら、道具を使うというのは、魔法使いでも難しいのだ。まぁ、俺は慣れているから別にどうということはないが。

 何故魔力を流さなければならないかは、考えればわかるだろう。薬草を水と混ぜただけで、傷が瞬時に塞がったり、毒を種類が分からないのに解毒できたりするはずがない。魔力を流し作成することで、効果を何倍にもしているのだろう。ある意味これもマジックアイテムだと俺は思う。それをこの世界の人間が理解しているかは知らないが。


 作業を続け、俺は試しに治癒ポーションと毒消しの薬を一本ず作成してみた。上手く出来たかどうかは、鑑定スキルで判断する。


 下級治癒ポーション……軽いキズであれば回復可能。

 下級毒消しポーション……弱い毒であれば解毒可能。


 むぅ、やはり初めて作った物だと下級ポーションか。


 「完成したんスか?どうだったスか?」


 「んー、下級だった。もう少し作り続ける必要がありそうだ」


 「下級?!普通は完成すらしないか、見習いポーションッスよ?!」


 そうなのか。やはり俺のユニークスキルは少し作業をしただけで、練度を上げやすいようだ。おそらくだが、魔力を流しながらすり鉢で擦っている段階で錬金術スキルが上がっていたのだろう。

 だが下級では意味がないのだ。せめて中級以上が作れるようにならなければ、役に立たない。


 「下級じゃあなぁ……」


 「何言ってんスか。下級も十分使えるポーションだし、中級以上は別の素材が必要ッスよ」


 「なに?そんなこと本には書いてなかったぞ」


 俺が街で錬金道具を買った時、作り方が書いてある本も買っていた。その本には今回の調合しか載っていなかった。


 「それはそうッスよ。彼らが飯のタネの秘密を他人に教えるはずないッス」


 なるほど、その通りだ。俺だって、魔法剣の作り方をシギル以外に教えるつもりはない。魔法剣の存在はこの世界でまだ誰も知らない。魔法剣を売れば、俺は億万長者にもなるだろうが、それをするつもりはない。

 パワーバランスを崩すし、まだ俺達の優位性を失うわけにはいかないというのが俺の考えだ。

 錬金術師達も同じだろう。いや、錬金術師達だけではない、鍛冶師も服屋も全ての職業に言えることだ。差別化し、より良い商品を作り出す為には必要なことだし、大金を手に入れるチャンスでもある。そんな自分達の飯のタネをタダで教えるわけがない。

 どの世界でも同じなのだ。


 「まったく、予定が狂ったな」


 「いやいや、見習いポーションを下級ポーションまで引き上げたことを喜ぶべきだと思うッスよ?相変わらず、旦那はぶっ飛んでいるッスね」


 劇的な変化なら大いに喜んだが、一段階上がっただけでは喜べない。と、思ったが、素材が見習いポーション用なのに、下級ポーションになったのなら、それはそれで凄いことなのかもしれない。

 今はこれ以上のポーションを作り出すのは無理か。自分で色々探っていくしかないか。


 「ふぅ、まあとりあえずはこれを何本も作っておくか」


 「そうッスね。さっきも話したけど、下級も十分に役に立つッス。邪魔になったら売ってもいいし作っておいて損はないッス」


 「そうだな、その通りだ」


 「それでッスね、こっちの助言もしてほしいんッスけど、良いッスか?」


 「もちろんだ。俺もシギルに作ってほしいものがあるんだ。相談にのってくれるか?」


 「ッス!」


 こうして見張りの時間は過ぎていった。この時に二人で話し合ったことが素晴らしい武器になるのだが、それはもう少し先の話。




 ギルとシギルが見張りをしている頃、ギル達がいる次の階層、17階層の奥。冒険者達でさえ足を運ばない場所に、隠し通路がある。通路の先に進むと、魔物が出没しない大きな広間が現れる。

 そこにはどうやって建てたのか、木造の建築物が何軒も建っていた。

 人種は様々で、ヒト種はもちろん、エルフや獣人、ドワーフなどの亜人達がそこで生活をしている。

 ここは『迷賊ルールブレイカー』のアジトだった。この建物の中で一際大きな建物に、今幹部達が集まっている。


 「というのが、今回冒険者に返り討ちにあった内容でした」


 「まさか5人が1人にやられたとはなぁ」


 彼らはギルに返り討ちにあったことについて話し合っていた。


 「それで、5人の無能共はどうすんだ?始末するか?」


 「いや、やられはしたがその冒険者の情報を持って帰ってきたからな」


 「情報?それはどんなものだよ」


 「それは首領が来てから話す」


 そこまで話すとタイミング良くドアが開かれ、一人の男が入ってきた。

 服から見えている部分には無数の傷跡があり、服の下にも傷があるのは明らかだ。筋骨隆々で誰よりも巨漢、歴戦の戦士といえばまさしくそのように見える。


 「それでどうなった?」


 一つだけ空いていた席に座り、口を開くと場の空気が引き締まる。


 「首領」


 「首領クリーク」


 彼こそが『迷賊ルールブレイカー』の首領クリーク。


 「それで?」


 「は、はい。5人の野郎共に襲わせたんですが返り討ちにあい、4人が重症です」


 「5人組の冒険者だと聞いたが、同じ人数で襲わせたのか」


 「そ、その、4人は女と聞いたもので……」


 「馬鹿が。女が弱いと思っているのか?」


 「す、すみません。まだ続きがあって、その、言いにくいんですが、1人にやられたそうです」


 「笑えねぇなぁ?おい」


 クリークの言葉に緊張が走る。


 「そ、それでどうしましょう、首領」


 「返り討ちにあった無能共は始末したか?」


 机の上に用意されていたワインを口に含むと、どうでも良いことのように話す。


 「……いえ、情報を持ってきたそうで」


 「ほぉ?続けろ」


 クリークはニヤリと笑うと話を続けさせた。


 「は、はい。その冒険者の一人は……」




 情報を聞き終わると、そこに集まっている者達の表情は様々だった。


 「け、賢者か」


 「無詠唱魔法なんて聞いたことがねぇ」


 「それもだが、氷魔法もだぞ」


 殆どが恐怖や、焦りだった。


 「黙れ!」


 クリークが一喝すると、恐怖や焦りが緩和される。それは信頼なのかクリークへの恐怖なのか。


 「賢者だろうが関係ねぇ。数で攻めろ」


 「首領に逆らうわけではありませんが、その、今回は諦めた方がいいのでは?」


 クリークが発言した部下を睨む。


 「あ、いえ、その」


 クリークがおもむろに腰からナイフを引き抜き投げた。

 諦めたほうが良いと発言した部下の喉に刺さり、机に突っ伏す。しばらくもがき苦しんだ後、動かなくなった。


 「反逆者だ。捨てておけ」


 「は、はい」


 二人立ち上がると、絶命した男を引きずって連れて行き、しばらくすると二人が戻ってきた。

 二人が席に着くとクリークは話し始めた。


 「聞けば、その賢者の連れは美女が揃ってるみたいじゃないか。お前ら、女に飢えてるんじゃねーか?」


 その言葉でその場所に集まっていた全員がニヤニヤした表情になる。


 「そうだ、俺たちはルールに縛られねぇ。奪え、犯せ、逆らう奴は殺せ」


 「「「おう!」」」


 「俺たちも同じことをやられた。なら俺たちがやっても許される!」


 「「「おう!」」」


 「殺れ!犯れ!やれ!ヤレ!」


 「「「おう!」」」


 もうその場に恐怖はなく、高揚感で包まれていた。


 「俺たちに逆らった賢者を殺りにいくぞ!」


 「「「おぉおおおお!」」」


 部屋に叫び声が響き渡る。

 ギル達はこれから彼らに襲われることになるだろう。だが、彼らはまだわかっていなかった。

 ギルが逃した男たちは、ギルの言った通り処刑されず、今も無事なことに。

 この部屋で起きた出来事がほぼギルの想像通りだったことにも。

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