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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
四章 迷宮の賊
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合成魔法『凍掌』

 オーセブルクダンジョン12階層、湿地帯マングローブ。その大部分が泥水のエリアで、水中には何が潜んでいるか目視できない。

 更に視界を悪くしているのは、ずっと降り続く雨。

 状況としてはかなり最悪だが、そんな中リディアが腰にある刀の柄に軽く触れながら、一人で佇む。

 別に疲れ果ててしまい立ち止まったわけではない。リディアにとってこれはリベンジなのだ。

 リディアの集中力は凄まじく、身じろぎ一つしないから水面に波紋は一切無い。もし、波紋が広がればそれは、リディア以外の存在だ。

 そして待つ事数分、リディアのすぐ近くで何かが動く。もちろん目視で確認はできないが、その場所から波紋が広がったのだ。

 刹那、水中から白い大蛇がリディアに飛びつく。

 異常な程速い噛みつきは、コンマ数秒でリディアに辿り着く。だが、もうその場にリディアはいない。

 リディアは神速で鞘から刀を抜き、飛びついた大蛇を真横から見る形で上段の構えをとっていた。


 「シッ!」


 勢いよく吐く息とともに、刀を振り下ろすと、大蛇の胴体と首が別々の所へと飛んでいった。大蛇は自分の体がどのようになっているか、わかっていないかのように胴体だけが水中で暴れまわっている。


 「ふぅ……、なんとか倒せるようになりました」


 リディアは刀を一振りしてから鞘に収めると、少し遠くにいる俺達に柔らかい笑みを浮かべて話しかける。


 「あっという間だったじゃないか、よくがんばったなリディア」


 俺はリディアを労うが、別に誇張ではなく、事実を言っただけだ。

 20分前にリディアは、リザードマンを倒した隙を突かれ、大蛇に奇襲を受けてしまい、ギリギリの所で俺に助けられたのだ。

 それを酷く悔しがり、一人で倒せるようになると言い、今の状況になったのだ。

 この大蛇を倒すのはこれで4体目で、その殆どをリディアが倒していた。

 白い大蛇。この魔物を初めて倒し、死体を調べてみると、色々と不思議なことがあった。まず、蛇であるのに鱗がなく、水中に生息しているのだ。

 そして解剖しようとしたが、皮が異常に厚く短刀を通さないほどで、更に伸縮するためにかなりやりづらかった。


 「よし、じゃあ死体を回収するッスよ」


 「頼む」


 今まで暴れていた蛇の胴体が静かになると、シギルが駆け寄り担ぎ上げ、俺のマジックバッグへとしまう。

 何故、剥ぎ取るのが面倒な大蛇を回収するのか。まず、一応は食料であることと、厚く伸縮性のある皮がゴムの代わりになると判断したからだ。

 まだこの世界でゴムに近い物を見つけておらず、ようやくそれっぽい魔物の素材を発見したから、多く狩っていたのだ。


 「ギル、もう大丈夫?」


 「おう、そろそろ次の階層へ向かおう」


 「リザードマンはいいの、です?」


 「まあ、見つかったら狩るぐらいでいいんじゃないか?儲けもないし」


 リザードマンの皮を剥げば儲けが出るのではと思いエリーに聞いてみたら、全く売れないそうだ。それほど強い魔物でもないし、戦うメリットが無いから無視して次の階層へ向かうことにした。



 魔物に注意しながらしばらく進むと、小さな島があった。どうやらそこが下層へ降りる階段がある場所のようだ。

 12階層は俺達の中でかなり嫌なエリアだったためか、すぐに階段を降りる。



 13階層。このエリアに入った瞬間に誰もが驚くという。俺達もその言葉通り、非常に驚いた。

 エリアに入ると目の前に100メートルはあるのではないかと思うほどの高さから大量の水が降り注いでいた。

 滝だった。どうやらこのエリアは川の上流みたいだ。


 「はー、ナイアガラよりすげーな」


 「え?ナイア?なんですかギルさま」


 「いや、気にしないでくれ」


 地球のナイアガラも写真でしか見たこと無いが、とても美しい滝だった。だけど、この13階層の滝は高さが尋常ではない。滝行なんてしたら、首の骨が折れそうだ。

 だがこの13階層と、次の14階層は俺にとって嬉しいことがある。今回のダンジョン攻略の目標の一つと言っても過言ではない。


 「エリー、ここと次の階層だな?」


 「そう」


 「よし、皆気を引き締めていくぞ!」


 13階層と14階層はただ進むだけなら、魔物と出会うことがない。両階層とも一本道で、エリアの中央に大きな川が流れている。

 魔物の殆どが水棲で、陸地を進むだけならば襲われることがないのだ。

 ではなぜ、気を引き締める必要があるのか。それは13、14階層の魔物が魚だからだ。

 もうね、お魚が食べたいの。日本人なら分かるでしょう?

 だが、うちの子達は何故かテンションが上がらないようだ。


 「おやおやぁ?どうしたのかな?」


 「肉の方が良いッス」


 「……です」


 「そう」


 「ギルさま、私は楽しみにしています!」


 なるほどなるほど、魚を捕るより先に進めと言っているみたいだねぇ。「ばかやろう!」と叫びたいが、ここはぐっと我慢して味で勝負しようではないか。

 数々のマンガと動画で勉強した寿司を彼女達にごちそうしようではないかっ!

 生魚を食べるのに心配は、寄生虫だろう。だが、でぇじょうぶだ、魔法がある。……ちょっとアーサーに影響されたか?

 彼女達が乗り気でなくともお魚さんは捕りますよ?


 さて、川にいる魚をどうやってとるのかという問題がでてくる。

 だが、ここは地球ではなくダンジョンであり、魚といっても魔物。人を襲うのだから、その心配はない。

 水辺ギリギリに歩くだけで、魔物が川から飛び出してくるのだ。


 「まぁいいや、俺がやるから回収だけ頼むよ」


 俺は一人で水辺ギリギリを歩いていく。

 実は元々一人で13、14階層の魔物は相手にしようとしていたのだ。経験値を稼ぐのもあるが、新魔法を試すためだ。

 かなり集中しなければならないが、戦闘で使えなければ意味がないから、ここで試す必要がある。それに一石二鳥になるからな。


 俺は、勢いよく合掌する。小気味良い音が辺りに響くと、4人も俺の魔法を見逃さまいと注目する。

 そして、胸の前で☓を作り、すぐに腕を広げながら下げる。

 なんとも厨ニ病っぽいが、魔法陣を作るのにルーチンワークが必要なほど難易度が高いのだから仕方ない。

 手のひらに小さな魔法陣が浮かんでいた。

 よし、魔法陣構成は出来た。後は上手く発動するかだが。

 そんなことを考えていると、魔物が川から飛び出してきた。

 60センチはある魚の魔物だ。そして特徴的なのが角があるところだ。あれに突き刺されたらひとたまりもない。

 突撃魚といったところか?

 それに危険なのは角だけではなく、数なのだ。

 はじめの一匹が飛び出すと、後から何匹も続いて飛び出してきた。


 「さあはじめるか」


 俺の心臓目掛けて飛んでくる突撃魚を、体を回転させながら横に避けると、手のひらで触る。

 次々飛んでくる突撃魚も同じように避けながら手のひらで触る事を繰り返す。

 その様子を見ていた四人は感嘆していた。


 「まるで踊っているみたいですね」


 「お兄ちゃん格好いい、です」


 「あんなにくるくると回って、よく魔物に触れることが出来るッスね」


 「……これが、ギルの魔法」


 魚の魔物はどうなったのか?

 俺に触れられた突撃魚は凍りつき、既に活動を停止していた。一石二鳥とは、冷凍にすることだ。冷凍することによって、寄生虫も問題がなくなり、安心して魚を刺し身でいただけるというわけだ。

 氷漬けの魚が次々と仲間の近くへと落ちていく。

 30匹程凍らせると突撃魚は打ち止めとなった。



 「大漁大漁」


 俺達は冷凍された魚を回収していた。


 「ギル、あれはなに?」


 「あれ?」


 「あんな魔法みたことない」


 「合成魔法だ。名前はそうだな、『凍掌(とうしょう)』なんてのが上手いか」


 合成魔法は2つ以上の魔法陣を同時に展開し、科学的にそして化学的に現象を変化させている。水魔法だけでは、凍らせることはできない。今回の魔法だけで、3つの魔法陣を組みあわせているから合成なのだ。


 「合成?」


 「かなり難易度が高いし、消費魔力も凄いことになっているけど、効果は見た通りだ」


 「その魔法を使えば倒せない敵はいない?」


 「いや、残念ながらそうはいかないな。大きさに限度があるし、複雑な動きをする人間相手には使えないだろうな」


 「そう」


 エリーが少しがっかりしているようだ。だが、どうして残念がるのだろうか?

 巨大な敵でも部位なら凍らせることが出来るし、人間でもやり方次第だろう。


 「どうした?」


 「んーん、全ての敵に通用するなら教えて欲しいと思った、それだけ」


 「……そうか、期待に答えられなくてすまないな」


 「だいじょうぶ」


 エリーはそう言うといつもの無表情に戻った。

 おそらく俺しかこの魔法は使えない。だから、俺は謝って話を終わらせることにした。


 「お兄ちゃん、魚、マジックバッグに入れておいた、です」


 「おう、エル、ありがとな。みんなもご苦労さま」


 エルがモジモジしながらはにかんでいる。やっぱりエルは可愛いなぁ。


 「さて、この階層の魚は獲ったから次の階層に行こうか」


 そして俺達は奥へと進んでいった。



 エリーの情報の通り、水辺から離れて陸地を歩いていけば、魔物に襲われることはなかった。

 そしてあっという間に次の階層へ降りる階段へ着くと、そのまま降りていった。



 14階層は下流の川だった。といっても、海と川の境目、汽水域と呼ばれる場所だ。

 この階層も13階層と同じで水辺に近づかなければ、魔物に襲われることはなく、更に陸地が少ししか無いため、すぐに下の階へと降りることが出来る、ボーナスステージのような所だった。

 もちろん俺達は海の幸を手に入れるために一狩りする。やり方は、13階層と同じで俺が次々と凍らせていった。

 14階層の魔物は、カジキマグロのように上顎が剣みたいに鋭い魚が水中から飛び出してくる。更に貝の魔物が砂浜に埋まっていて、その上を歩くと足を挟まれ身動きが取れなくなる。

 身動きが取れなくなった所で、カジキマグロの突撃といった連携をされたら、かなり危険だ。

 まあ、そんなことは関係なく片っ端から冷凍にしてバッグパックにしまってやったけど。川と海、更に貝類まで大量に手に入れることが出来て、かなり満足することができた。

 そして水辺エリアのボスがいる15階層へ降りるのだった。



 15階層は、海と砂浜だった。周りは全て海で、入り口から砂の道が一本あり、そこを進んでいくと、海に浮かぶ小さな島があった。どうやらそこが、ボスと戦う場所のようだ。

 エリーの話ではこのボスにかなり苦戦したらしいから、より一層気を引き締めて挑まなくてはならない。


 砂浜を歩き、島へ辿り着くと、穏やかだった波がいきなり荒れ狂う。

 渦が出来、その中心から巨大な魔物が姿を現した。まずとんがった頭が姿を見せ、吸盤がついた足が何本か見えた。

 そう、この水辺エリアのボスはクラーケンなのだ。

 体長は10メートル以上あり、8本の足と、2本の腕を持つ、巨大なイカ。

 エリーが強くても、ソロでは苦戦するだろう。だが、今回は5人だ。


 「よし、じゃあイカ刺しになってもらおうかな」


 そして、とうとう水辺のエリアボスとの戦闘が始まったのだった。

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