表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
四章 迷宮の賊
41/286

異世界召喚の秘密

 夜の街。月明かりの下、古めかしい建造物は幻想的な雰囲気を醸し出す。

 石畳の道には宿無しが寝転んでいたり、酒場からの帰りなのか、酒瓶を持った男達が歩いているだけ。平和な街だとすぐに理解できる。

 だが、ここはこの世界でもっとも危険なダンジョンの中。

 この街は、迷宮都市オーセブルク。もっとも危険でもっとも夢のある街だ。

 町並みは中世時代に酷似しているが、ここは地球のヨーロッパではなく、異世界だった。

 物や人の格好も、中世ならこんなものだろうなと思うものばかりだ。魔法が発達しているためか、科学技術が進化しておらず、電気を使った街灯や、機械など皆無である。

 電灯がないから、人々は寝るのが早い。夜は夜更かししている家から漏れる明かりか、街で設置しているランタンぐらいしか道を照らす物はない。

 その中で目立つのは酒場である。もちろん店にもよるが、殆どの店が夜遅くまで開いている。

 俺は今、ある男と二人でその酒場に来ていた。

 そのある男とは……。


 「どうしたんだぃ?ギル君、飲みねぇ!」


 この落ち着いた雰囲気から急にテンションが変わる、いや、激変する男はアーサーだ。

 俺と同じ地球人。この世界からすれば、異世界人と言ったところか。

 俺は、ギル。地球では『朱瓶 桐(あかめ きり)』という名前だったが、この世界に来てからはギルと名乗っている。

 ある日、一日の仕事を終え、家で晩酌をしていたところで、急にこの世界へ召喚されたのだ。

 召喚の影響で、若返っているが年齢はわからない。見た目が16歳程に見えるらしいが、日本人は元々幼く見えるから、判断に困るところだ。

 そして、目の前でグビグビとエールを美味しそうに飲んでいる男。

 アーサーとこの世界で名乗っているが、地球では『阿一 佐一(あいち よしかず)』という名前だったらしい。単純に読んで、あーさーと読めるから、今はアーサーと名乗っている。

 こいつとはこのオーセブルクダンジョンの10階層で戦って、ギリギリではあるが俺が勝利した。

 アーサーは戦闘狂なのか、戦えば情報を教えてやると言い出した。そして俺は戦い勝利して、一度ダンジョンの街へ戻ってきたのだが、これから寝ようとしたところにアーサーがやってきたのだ。

 色々と疑問があるが、まずは聞かなければならないことがある。


 「……どうやって俺達の居場所を知った?」


 これが一番の疑問だろう。俺達が街へ戻ってきたのは今日で、宿を替えることになったのは数時間前。俺達が戻ってきたことを知り、そして宿の場所まで調べて訪ねてくるなど不可能に近い。


 「そんなことが知りたいのかぃ?僕達、法国はこの世界最大の宗教団体さ。信徒ならこの国にも腐るほどいるよ」


 アーサーは現在、エステル法国という宗教国で世話になっている。

 恐るべし、法国というべきか。信徒達が俺達を見張っていたというわけだ。情報は筒抜けということは俺達の事を更に調べ上げているかもしれない。


 「色々聞きたいだろうけど、他の事を話している時間はないよ。僕も暇ではないのでね。すみませーん、エールとこの焼鳥おかわりくださーい」


 嘘をつくな、もう飲む気満々じゃないか。しかしアーサーの言う通りだ、本題に入ろう。


 「それでアーサー、どんな情報を持っている?」


 俺が一番知りたいのは、地球からこの世界に来た理由。またはそれに関する情報だ。

 ヴィシュメールの街で、旅商人ヴァジと知り合って噂話だけは聞いた。それに俺の状況を合わせるとオーセリアン王国が俺達を召喚し、なんらかのミスで召喚が失敗した。それによって俺は王都オーセリアンから離れた山に召喚したということだけだ。


 「まずは、僕達の召喚は失敗していると思うよ」


 「だろうな」


 「おや、その情報は知っているのかぃ?おかしいなぁ、情報が漏れているのかな?」


 アーサーは首を傾げながらエールを口に含み飲み込むと、続きを話し始めた。


 「それでだよ、ギル君。自分のステータスやスキルを見ることができるのは知っているね?」


 「ああ、それは知っている」


 「うん、誰でも試すからね、そのぐらいは知っているだろうね。でもね、隠されたスキルがあるのは知っているかぃ?」


 「ユニークスキルのことか?」


 アーサーが言う隠されたスキルは、ユニークスキルのことなのではないだろうか。初めてステータスを確認した時は、『????』という意味不明な文字で表示されていたからだ。


 「それもその一つだよ。でも、最上級鑑定スキル持ちで、更にその派生の『隠蔽透視』という、かなり珍しいスキルの持ち主でなければ見ることが出来ないスキルが、僕達に埋め込まれている」


 「なんでそんなことを知っているんだよ」


 「それはそうでしょう。僕、普段はこんな感じの性格なんだけどね、明らかに戦闘中おかしいでしょ?」


 確かにその通りだと思う。アーサーと戦ったことがあり、こうやって普通に話している両方のアーサーを知っているからこそ、不思議に感じていたのだ。

 なによりアーサー本人が一番疑問だっただろう。だから、法国で『隠蔽透視』を持つ人に鑑定してもらったわけだ。


 「それは隠されたスキルのせいなんだ。そのスキルの名は『反転』と『狂化』」


 アーサーはエールの入ったカップを両手で握り、それを見つめながら淡々と話す。怒りを抑えているようにも見える表情が、このスキルが悪質であると語っていた。

 アーサーが話す隠されたスキルの内容はこうだ。


 『反転』……ある感情に関して真逆にする

 『狂化』……狂人化させる


 「簡単に言えばこういう説明になるけど、それだけじゃないんだよ」


 まずは『狂化』だが、レベルがあるのだそうだ。それも召喚された順でレベルが下がっていくらしい。

 アーサーは『狂化』レベル2だから、二番目に召喚されたということがわかる。

 レベル1は、戦闘中に恐れなくなり、多少の興奮状態になる程度。レベル2は、戦闘狂になる。レベル3は、常に狂人だと説明された。

 そういうことなら俺は3番目に召喚されたことになるだろう。確かに地球で争いとは無関係だった俺が、恐れずに戦うことが出来るのはこの『狂化』のおかげだろう。何故恐怖を抱かず戦うことが出来るのか不思議に思っていたがそういうことだったのか。

 そして、アーサーがレベル2か。確かに戦闘した時は別人のようだった。


 「なるほどな、それなら俺が三番目か」


 「僕もそう思ったんだけど、ギル君は一番目じゃないのかぃ?」


 「今俺が狂っているとでも言うつもりか?殴るよ?」


 「いや、そうじゃなくて!」


 アーサーは慌てて否定する。本当に戦闘以外は普通だな、アーサーは。


 「召喚された順で強いらしいんだよ!ギル君、僕よりも強かっただろ?!」


 「……それは戦闘の結果だろ?聞きたかったんだが、召喚された時はどのくらいの強さだった?」


 「召喚された時かぃ?僕は弱いと感じたよ。召喚されたんだから、もっとチートでも良かったんじゃないかって思ったぐらいだ」


 やはりアーサーも同じか……。


 「レベルは20ぐらいしかなくてね、ユニークスキルも2個しかなかったんだよ!」


 強いじゃねーか。なに我儘言ってんだ、この坊っちゃんは。

 ちなみにアーサーも若返っていて、俺と同い年ぐらいに見える。だが、話し方からすると、地球では俺より若そうだ。


 「……俺はレベル1だったし、ユニークスキルも1個だったぞ」


 「え?!それでその強さかぃ?!」


 アーサーは驚いているが、俺はやっと納得した。アーサーの馬鹿力と速さが異常だったからだ。あれは、レベルとステータスによる力量の差というものだ。

 つまりアーサーは俺より地力が上だったのだ。

 たぶんだが、『狂化』スキルも関係していると思う。両手がボロボロになっても痛がる素振りを見せず、戦闘を続行することは常人には無理だ。

 初期レベルが強くても、体を大事に出来ない『狂化』スキルの影響が強いのと、初期レベルが低いが、ある程度普通に戦える事が出来るのと、どっちが良いかということか。

 

 「アーサーの方が強かったじゃないか」


 「僕は負けたよ!」


 「……ま、それは努力が勝ったということにしておいてくれ」


 「むー……」


 俺は真実を言っている。実は、アーサーと戦った時、近接戦ではアーサーにダメージを与える事ができなかったのだ。魔法をわざと当てなかったが、結局アーサーに俺がダメージを与えることはなかった。


 「で、『反転』スキルはどうなんだ?どうせ、これも悪質なんだろ?」


 「そう、これが厄介でね」


 『反転』の説明は、ある感情を真逆にするだったな。


 「ある感情とは、殺意だよ」


 「は?」


 「殺意という感情を真逆にしているんだ。地球では殺意は悪だから、僕達は殺意を込めたりしないよね?」


 もちろん人にもよるけど、とアーサーが肩を竦めながら話す。

 なるほど、そういうことか。個人差はあれど、俺は地球で殺意を抱いたことがない。それはムカつく事があったり、喧嘩になった時には少し殺意が湧くけど、本当に殺人を犯したりはしない。

 それが反転しているということは、なんの躊躇いもなく人を殺すことができるということ。


 「……召喚した奴は、とことん腐ってるみたいだな」


 そう呟く俺は殺意が湧いていた。ちっ、こういうことか。確かに、魔物も人も殺せないんじゃ、召喚しても役に立たないんだろうが、無理矢理かよ。


 「そう、オーセリアン王国が召喚したということは、指示したのは王様だろうね」


 「今すぐにオーセリアン王を殴りに行きたいわ」


 「やめたほうが良いよ。恐らく、一番目が側にいるから」


 その情報もヴァジから聞いていた。今現在、オーセリアン王国はナカン共和国と戦争していて、その最前線で戦果をあげ英雄と呼ばれているらしい。


 「英雄……らしいな。一番目は」


 「聞いたかぃ?そう英雄クラスらしいよ。僕も一度だけこの世界の英雄と会ったことあるけど、まだ勝てないよ」


 「この世界の英雄?」


 「知らないのかぃ?一応、ブレンブルク都市とシリウス帝国に一人ずついるみたいで、僕が会ったのはシリウス帝国のシリウス皇帝だけどね」


 なんでもシリウス皇帝の第一印象は、不遜な態度をする嫌な奴らしい。でも、強そうな人物を見ると、アーサーの『狂化』スキルの戦闘狂の部分が戦いたがるのだが、それが全くなかったほどだという。それは、弱いか、圧倒的に強いかのどちらかだとか。


 「強くなって戦えるようにならないとね」


 「そうだな。オーセリアン王をぶん殴れるぐらいにはなりたいもんだ」


 「『大賢者』のギル君なら倒せるんじゃないのかぃ?」


 「あれはハッタリだ。俺自身は賢者なんて思ってない」


 俺がゲンナリしながら答えるとアーサーは笑っていた。


 「称号なんてものは、他人が決めることだよ。本人がどう思っていようがね。ギル君の戦い方は賢者と呼ばれるに相応しかったと僕は思うよ」


 「確かに他人が決めることだな。だけど、賢者か……」


 「いいじゃないか、賢者。僕なんてエステル法国では『女神の闇』なんて呼ばれているんだよ?」


 そういえば、アーサーは闇魔法を瞬時発動していた。おそらくユニークスキルだろうけど、さすがに教えてはくれないだろうな。

 『女神の闇』と呼ばれているぐらいだから、闇魔法限定で瞬時発動できるんだろうな。ユニークスキルが二つあると言っていたし他にもまだありそうだが、どうだろうか?


 「とりあえず法国で上手くやれているようだな」


 「まあ、異世界から来た事を隠しているからね」


 「その方が良い」


 そしてお互い笑いあった。

 もしかしたら、また戦うことになるかもしれない。その時には本当に殺し合いになる可能性も。または、共闘するかもしれない。

 だけど、そんな未来の事を今考えても仕方がない。今日のところは、楽しく飲みながら話をしよう。


 この後も色々な話をした。

 彼の地球でのことや、逆に俺のことも。そして、俺達以外のもう一人の異世界人のこと。

 その他には俺達の事以外の情報も教えてもらった。思いがけない所で良い情報が仕入れたことは幸運だったかもしれない。

 そして、数時間二人でエールを飲みながら騒いでお開きになった。

 また、こんな機会があればいいなと思う。



 さて、明日一日ゆっくりして、本格的にダンジョン攻略に乗り出そうかね。

 そんなことを考えながら、夜の街を歩いて皆が寝ている宿へ帰ったのだった。

 ちなみにアーサーはやっぱり2525動画中毒者だったよ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ