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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
三章 迷宮都市の光と闇
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狙われた理由

 しばらく花畑に腰を下ろしてまったりとしていると、すぐ後ろにある11階層への階段から足音が響いてきた。

 冒険者が戻るために階段をあがる音だと思いすぐに立ち上がると、階段から顔を出したのは俺の仲間達だった。


 「お兄ちゃん!大丈夫、です?!」


 エルが辺りを見渡して安全を確認すると、俺に向かって走り出す。そして俺の胸に抱きついた。

 エルがどれだけ心配し、どれだけ一緒に戦いたかったかが伝わる。


 「ごめんな、エル。あいつは俺が相手をしなきゃいけない気がしたんだ」


 頭を撫でながら優しく言うとエルは小さく頷いて、俺から離れた。

 離れた事に少し残念がっていると他の仲間達も階段を登りきり、無事な姿を見せてくれた。


 「ギルさま!お怪我はありませんか?!」


 リディアは俺に急いで近づき、さわさわと色んな所に触れ始めた。そして、見えるところには大きい怪我がないと分かると、一瞬だけ下腹部を見てから顔を赤くする。


 「大丈夫、元気だ」


 ナニがですか?と俺も思う程の言葉のチョイスだったが、リディアは勘違いしなかったらしくほっと胸を撫で下ろすと優しく微笑んでくれた。

 綺麗な微笑みに見惚れているとすぐ下から何かに引っ張られる感覚と共に元気な声がした。


 「ほら、旦那なら大丈夫だって言ったじゃないッスかー」


 シギルは俺の心配はいらないと皆を元気づけてくれていたみたいだな。

 だけど、俺の服を小さな手で掴んでいるのを見ると、シギルも少しは心配してくれていたらしい。

 そして最後に姿を見せたのは、鎧の上から力任せに殴られて、立つことも出来なかったエリーだ。決してエリーは弱くないと思う。

 アーサーは馬鹿だが、弱くはない。自分で勝手にテンションを上げ、痛みを感じていないのかと思うほどのめちゃくちゃな攻撃は予想出来ないし、何より素早すぎて重騎士のエリーとは相性が悪いだろう。


 「ギル、大丈夫?」


 「ああ、クレストとアーサーはエリーに手を出さない」


 「ちがう、ギルの体」


 俺の体の事を心配してくれていたのか。


 「魔力以外は問題ないよ」


 「良かった……、ギル、助けてくれてありがとう」


 エリーは、その無表情と言葉が少ないせいで外見からは分からないが、実は感情的な性格なのかもしれない。その証拠に手が震えている。

 俺を心配してか、それとも負けた悔しさかまではわからないが、何か思うところがあるのだろう。


 「それでどうなったんスか?エステル法国は」


 「ああ、まあ色々分かったから後で色々話すけど、その前にエリーに聞いておかなければならないことがある」


 エリーの答え次第では、ここで話すわけにはいかない内容が多すぎる。


 「なに?」


 エリーはいつもの通り無表情のままだ。


 「さっきの奴ら、クレストとアーサーの事だが、あいつらは手を出さないが他の使者が来る可能性がある」


 「なんとなくわかってた」


 エリーも覚悟していたみたいだな。


 「アーサーより強い奴がいるかはわからないが、ずっと追ってくると思うぞ」


 「うん、わかってる」


 「エリーはソロでやっていくのか?」


 ここからが本題だ。


 「なぜ?」


 エリーが首を傾げる。綺麗な人がすると、何故か色っぽくみえてしまうから不思議だ。


 「俺達のパーティに入らないか?俺達は盾役がいないんだ」


 そう俺はエリーを勧誘している。俺達には壁役と言われる存在がいないので、今は攻撃役であるリディアがその役を担っている。

 だが本来リディアの武器の性質上、防御には向いていない。これはリディアが悪いわけではなく、刀を使っているからだ。

 刀は技術があれば、刃こぼれさせずに防御もできるが、隙を突いて一撃で部位を切り落とす方が向いている。元々真正面から打ち合うような武器ではないのだ。

 もちろんリディアにはその事を教えてあるから体捌きだけでなんとかしているが、いつか必ず敵の攻撃を受け止め、足止めしてもらわなければならない日が来る。そしてそれは、本職の盾使いの方が上手くこなせるし、戦闘のリズムも良いのだ。

 エリーは無表情のまま、リディアやエル、そしてシギルを見てから、俺に視線を戻す。

 こうエリーのように無表情のまま考え込まれるのが、相手の心を読めなくて一番困るな。


 「ギルと皆には助けられたけど、パーティに入るのはことわ……」


 「旦那の作るご飯、うまいッスよ?」


 「?!」


 エリーの鎧が音を鳴らすほどビクリとする。

 何故、それに反応する?

 そしてうちの子達は畳み掛ける。


 「お兄ちゃんが作ってくれた、はんばーぐ?は肉汁がすごかった、です」


 「はんば?!」


 「そういえば、ギルさまは美味しいけれど今現在は作れない幻のレシピを、まだまだ隠し持っているらしいですね」


 「まぼろし……?!」


 そう言えば、エリーはエルと同じく食いしん坊さんだったな。


 「……汚い。ちょっと考える」


 いやいや、大事な所そこ?

 エリーは少し考えたいから、また後日に話すと言ってこの話は終わった。

 俺も無理に勧誘したくないし、断られたらそれはそれで別に良いと思っていたから、エリーが考えてくれるならそれだけでも嬉しい。


 「そういえばエリーがここのボスを倒したそうですよ、ギルさま」


 「やっぱりそうか、それで宝箱は調べたのか?」


 「まだ」


 どうやら宝箱を調べる前に、クレストとアーサーに絡まれたみたいだった。ボスと戦った後にアーサー達と連戦したのは運がなかったな。いや、クレスト辺りの策だろうか。

 エリーは一人で歩いていくと、宝箱を見つけ開いた。

 中身は中級治癒ポーションだった。売ってもよし、使ってもよしで当たりだろう。

 そしてこれからどうしようかと言う話になった。元々俺達はこのエリアボスがどんな敵か知りたくて偵察しに降りてきただけで、10階層へ降りる階段を見つけた時点で引き返そうとしていたのだ。

 エリーがボスを倒してくれていたとしても、さすがにそろそろ街に戻りたくなっていた。


 「街に戻るか。エリーもしばらくは襲われないから、街でのんびりできるぞ?一緒に行くか?」


 「いいの?」


 「気にするなよ」


 「ありがと」


 エリーは美しい銀の髪を揺らしながら俺に礼をする。エリーは表情からはわからないが、かなりダメージを負っているはずだ。エリーも安全な街に戻りたかったのだろう。


 「皆もいいよな?」


 三人もそろそろベッドが恋しかったらしく、考える間もなく頷いた。でも、5階層でもう一泊しないと戻れないんだけどね。

 そして、俺達は街に戻る為に9階層へ登っていった。



 俺の魔力がなくても、頼りになる仲間達が殆どの敵を倒してくれて無事に6階層のキャンプ場まで戻ってくる事が出来た。

 途中、リディアの刀『劫火焦熱』の魔法剣を見て、エリーが驚きリディアを質問攻めにしていたが、シギルが「キャンプ場に着いたら少しだけ秘密を教える」と言っていた。

 別にエリーには教えてもいいと思ったが、シギルに考えがあるらしいから任せることにした。

 キャンプ場に着いたらエリーは、俺達と離れてテントを設置するつもりだったが、シギルの秘密が気になったみたいで俺達の近くにテントを設置した。

 そしてエルがハンバーグの話題を出したせいで、いつの間にか俺がハンバーグを作る流れになっていたから、渋々だが料理することにした。

 作っている最中、ずっと隣で皿とフォークを持ったエリーが待っていたのには驚いた。というか、やりづらかった。

 出来上がったから皆で焚き火を囲んで食事にする。


 「よし、いただきます!」


 「「「「いただきます」」」」


 ハンバーグを割ると中から肉汁が溢れ出て、ケチャップとソースを混ぜて作ったソースと絡む。微かに残るトマトの香りと肉の焼けた香りが食欲をそそった。

 そしてそれを口に含み噛むと、挽肉ほどではないが丁寧に細かくした肉が、自分の柔らかさをアピールする。

 数回も噛めばすぐに飲め込めてしまうほど柔らかいが、よく噛めば更に肉汁を口内で出し、肉を食べているのだと満足出来た。


 「うん、今回も良く出来てる」


 俺は焼き肉も好きだが、ハンバーグの方が好きだ。好みの問題だと思うが、何も考えずに食べられるのが良い。焼き肉は焼き加減を見たり、「それは俺が育てた肉だ!」と心の中で思ったりしてしまうのが、疲れるのだ。


 「どうだ、エリー」


 「ん!」


 口いっぱいに頬張り、持っているフォークを上げて答えた。まずいと思って食べてるようには見えないから、満足してくれたのだろう。


 「皆はどう……」


 皆は既に3個目のおかわりをしているから満足していそうだ。そこまで美味しそうに食べてくれたら、料理のしがいがあるってもんだ。

 もの凄い勢いで食べているから、会話して邪魔するのも無粋だ。俺も食事に集中するとしよう。



 皆が食べ終わると、食後のコーヒーを出してやった。

 エルとエリーは砂糖とミルク入り。

 リディアは砂糖だけで、俺と意外にもシギルはブラックだ。

 コーヒーを飲みながら一息ついていると、エリーが口を開く。


 「シギル、それであの武器は?」


 エリーは魔法剣にかなり興味を持っているようだ。エリーは魔剣を買うために金を貯めていると言っていたから、魔法剣に惹かれたのだろう。

 そしてその事をシギル達にも話してある。


 「ここから話す内容は、あたし達パーティの生命線ッス。少ししか話せないけど良いッスか?ケプ」


 おい、パーティの生命線の話をしている最中にゲップすんな。

 エリーは真面目な顔をして頷き、シギルがそれを見ると、少し声を潜めて話しだした。 


 「リディアが使っている剣『劫火焦熱』は、賢者ギルが考え出し、このあたし、未来の大鍛冶屋になるシギルがお手伝いをして出来上がった魔法剣ッス」


 ほぼ全て話しちゃってるから、それ。


 「……魔法剣」


 エリーの表情を見てみると、わかりづらいが何かを考えているみたいだ。


 「今は鍛冶場がないから作れないッスけど、パーティメンバー全員に作ったんスよ」


 「皆持っているの?」


 エリーは声に抑揚がないが、驚いているみたいだ。まあ、シギルも見たことがない技術と言っていたから珍しいんだろうけど。


 「そうッス。エリーは、こう考えているんじゃないッスか?槍は作れるのか?、と」


 「! そう、その通り」


 シギルは考えていることを読み、そして更にその答えまで予想していた。


 「結果から言えば、作れるッス」


 「!」


 エリーは目に見えて驚き俺を見たから、俺も「作れる」と頷いた。

 シギルがエリーを勧誘するためにこの話をもったいぶったのだと、ようやく俺は理解した。


 「エリーは魔剣が欲しいみたいッスね。でもあれは高価っすよねぇ」


 「うん、お金全然足りない」


 そしてシギルは更に声を小さくして言う。


 「魔法剣を作るのに必要な資金は、魔石と武器の素材費ぐらいッスよ」


 「………ぜひ、作って欲しい」


 エリーは長考の末、シギルに作成依頼をしたが、シギルは首を縦に振らなかった。


 「さっきも言ったッスけど、これはパーティの生命線ッス。エリーが仲間になるなら、あたしとギルの旦那は協力を惜しまないッス」


 そして最後にシギルは「だから真面目に考えて欲しいッス」と話を終わらせた。

 エリーはやはりすぐには決断せず、「考える」と言っただけだったが、かなり惹かれている様子だ。

 これで無理ならすっぱりと諦めるしか無いだろう。エリーにはメリットしか無いと思うが、エリーにはエリーの考えがあるのだ。

 そういえば、俺もエリーに聞きたかったことがあったんだった。


 「ところでエステル法国は、どうしてエリーを勧誘したんだ?」


 やはりオーセリアン王国が関わっているんだろうか。エステル法国も攻撃的なオーセリアンを警戒して、質の良い兵士を集めまわっているのかも知れない。

 エリーは少し言いづらそうにしていた。


 「別に言いづらいなら話さなくてもいいんだが……」


 「んーん、既に巻き込んでしまったから……」


 巻き込んだと言っても、エステル法国に同じ異世界人のアーサーがいるのだ。法国の連中にバラす気はないだろうが、いつかはアーサーと戦うことになったはずだから気にしなくていいんだけどね。

 エリーには俺とアーサーが異世界人だとは話していないから、逆に申し訳ない気分になる。もちろんエリーが仲間になってくれたら、ちゃんと話すつもりだけど。

 そして、エリーの口から驚くべき内容を聞くことになった。


 「エステル法国の聖王は、嫁にしたいと言っていたみたい」

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