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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
三章 迷宮都市の光と闇
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同郷のヤベー奴  阿一 佐一

 6階層でエステル法国と一悶着あってから3日が経っていた。

 6階層から10階層突破まで1週間はかかると言われているが、俺達は3日で9階層まで辿り着くことが出来た。


 「さすがギルさまです。3日で9階層まで来れるとは思いませんでした」


 「この洞窟エリアを突破した冒険者の目印を見つけられたのは運が良かったな」


 俺達は通路や広間の無数に付けられていた目印から、この洞窟エリアを突破した冒険者の目印を発見していた。

 運が良かったと謙虚な事を言っているが、実はかなり強引な方法だった。

 6階層についてから2日目で下へ降りる階段を見つけることが出来たが、ここで7階層に降りることはなく一度戻り、全ての目印をチェックして正解の道についている目印をピックアップした。

 その後7階層に降りるとピックアップした目印と同じものを見つけ、辿って行き8階層へ降りる階段を発見すると、また目印を選別した。

 最後には3組の目印が残った。この3組はこの洞窟エリアを突破して正解の道に目印をつけた冒険者達だと仮定し進んでいくと、予想通り10階層へ降りる階段まで辿り着くことが出来たのだ。


 「目標はここまでッスよね?」


 「そうだな、目標は達したが……」


 「でも、10階層が気になる、です」


 確かにどんなボスか気になる。それに洞窟エリアの6から10階層の出現する魔物は、アンデッドばかりで消耗が激しく儲けがないエリアだ。

 ダンジョンのアンデッドは倒しても死体が残らず灰になって消えてしまうし、ダンジョンで生成される魔物だから、生前から身につけていた装備等がドロップされることはない。

 だからか、エリアボスの宝箱に期待が膨らんでいたのもあり、10階層の様子が気になっていた。


 「どんなボスが知っておきたいし覗いてみるか?」


 俺がそう言うと三人も興味あるのか考える素振りを見せることなく頷いた。

 そうして俺達は10階層への階段へ足を踏み入れた。



 階段を降りきると様子がおかしいことに気がついた。

 扉が開いていて、中から金属を殴る音が聞こえた。

 もう既にボスと戦っている冒険者がいるのかと思い覗いて見ることにした。

 中を見てみるとエステル法国の二人が倒れているエリーに近付こうとしていた。

 俺達はこの3日間、ちょっかいを出されることなく無事に過ごすことが出来たが、俺ではなくエリーを追っていたのか。


 (異世界から召喚された俺より、エリーを優先するとはどういうことだ?聖王の命令が大事だというのはわかるが……)


 「お兄ちゃん……!」


 俺が考えに沈みそうになると、エルが小声で俺を呼び戻してくれた。

 そうだ、まずはどうするか決めないと。


 「助けるか?」


 どちらにしろ道は2つ。助けるか見捨てるかしかない。


 「「「助け(るです)(ます)(ッス)」」」


 まあ分かっていたことだけどな。

 三人の答えを聞くと俺は魔法陣を展開した。使う魔法は土属性『石礫』だ。

 クレストが倒れているエリーに触れようとしていたから、彼に向け『石礫』を飛ばした。

 体のどこかに当たれば良いなぁと考えていたが、見事後頭部に当たり気絶したらしく倒れてしまった。


 「「弱っ!」」


 アーサーとハモってしまった。っていうかお前が上司を罵倒してんじゃねーよ。

 アーサーとエリーが俺達を見て驚いている。

 エリーは無事なようで、皆ほっと胸をなでおろしていた。

 アーサーはすぐに驚きから立ち直ると、俺を見て笑い出す。


 「何奴?!」


 「いやお前今、俺達の姿見てんだろ」


 アーサーはひとしきり笑うと変な事を言い出したから、思わずツッコミを入れてしまった。

 ギャグが好きなのか、天然なのかわからないがAランク冒険者のエリーを倒すとしたら奴だろう。油断できない。


 「む?もしかして君は僕に突っ込むのがお好き?」


 いやいや、お前にツッコミを入れたのは初めてだし、その言い方だと聞きようによってはヤバいから気をつけて?

 あいつは思いの外ヤベー奴だ。うちの子達が毒される前に何とかしよう。


 「俺が惹きつけるから三人はエリーを助けて11階層に向かってくれ」


 「ですがギルさまだけでは危険です」


 「俺を信じろ」


 俺にそう言われると従わざるを得ない三人は、渋々ながら頷いてくれた。

 三人が了解するのを見ると俺は魔法陣を展開した。使う魔法は『石礫』。

 何故連続魔法を使わないのか?それは、まだ手の内を明かしたくないからだ。

 『石礫』をアーサーに向かって放つと同時に俺達は動き出した。


 「おっぶぇ!」


 アーサーは飛んできた石を奇声を発しながら避ける。避けた方向はエリーとは逆側だ。偶然ではなく、そう避けるように仕向けた。

 俺はアーサーに向かって走り出し、『土壁』の魔法陣を展開した。

 アーサーとエリーを隔てるように土壁が構築され、エリーと仲間達の姿を隠す。



 三人がエリーに辿り着くと立ち上がらせる。


 「……どうやってここへ?」


 エリーが疑問を口にする。


 「そんなことは後ッス」


 「どこが下に降りる場所、です?」


 リディアがエリーに肩を貸し、エルとシギルが護衛しながら降りる階段を聞き出す。


 「花畑の石碑の裏」


 エリーに教えてもらうと三人は素早く行動する。リディアがちらりとアーサーを見ると、ギルと何かを話していた。


 「こちらを全く気にしていませんね。さっさと降りてしまいましょう」


 自分達が全く気にしないわけにもいかず、出来る限りアーサーを警戒しながら急いで花畑の墓石に近づく。

 墓石に辿り着き裏を見ると墓石の下へ続く穴があった。

 そして4人は無事に下へ降りて行くことが出来た。



 4人が下へ降りていくのを確認すると、俺は石壁の魔法を解いた。

 石壁が砂になって崩れていき、アーサーは気絶しているクレストだけが残っているのを見ても何の反応を示さない。


 「わざと逃したな?」


 それしか考えられない。


 「僕は元々『聖騎士』なんてどうでもいいんだよ」


 アーサーは気にした様子もなく、肩を竦めるだけだった。

 無理矢理拐って行こうと言い出したのはアーサーだったはずなのに、どうでもいいとはどういうことだ?


 「疑問に思うだろうけどね、命令に従っていたのは怪しまれない為と情報をを集める為」


 「つまりはお前も向こうの人間だとはバレてないってことか」


 「そういうことだね。さて、それじゃあさっきの話の続きだ。君の名前は?」


 4人が下へ降りる前にアーサーは俺の名前を聞いてきた。それに対し俺はギルと答えたが、「違う。向こうのだ」と言った。


 「そんなに警戒しないでよ。僕は『阿一 佐一(あいち よしかず)』。単純に読むとアーサーって読めるだろ?だから、アーサーだ。君は?」


 「……朱瓶 桐。きりをギルと変えて読んでいるだけだ」


 俺が答えるとアーサーは笑う。


 「やっぱり偽名なんて、ある程度テキトーだよね。うんうん、同じ日本人だと分かって安心したよ。それじゃあ、これからはこっちの世界での名前で呼びあおう」


 「それじゃあアーサー、どこまで知っている?」


 「それは僕たちの状況をかぃ?」


 そう、俺はまだ俺達を召喚したのがオーセリアン王国であると知っているだけだ。情報がほしい。


 「俺はオーセリアン王国が関わっているとしか知らない。お前は何を知っている?」


 「そうだね、オーセリアン王国が関わっているのは正しい。だけど、簡単に教えるわけにはいかないな」


 アーサーの雰囲気が変わる。


 「まずは戦ってみようよ!君もうずうずしているだろ?!」


 殺気が俺へと向けられる。

 雰囲気が変わるなんてもんじゃねーぞ。口調まで変わって別人じゃねーか。


 「なんでだよ?別にエリー、『聖騎士』の事がどうでもいいなら戦う必要はない」


 「そうかぁ……、君は一番最後に召喚されたんだね?でもね僕は我慢できないんだよ!さぁ!やろうじゃないかぁ!」


 最後に召喚?攻撃的な事となにか関係があるのか?

 アーサーは俺より詳しい情報を持っていそうだが、それどころでないな。アーサーが俺に向かって走って来やがった。

 俺はアーサーがどのような攻撃をしてこようと対処出来るように身構えた。だが、予想もつかない事が起きた。

 アーサーの速度が異常な程速くなり、いつの間にか俺の目の前まで来ていたのだ。

 アーサーは右拳を振りかぶり俺に右ストレートを繰り出した。攻撃速度すらギリギリ目で追えるレベルだ。


 「くっ!」


 俺は何とか左腕を上げ、右ストレートを弾く。が、逆に吹っ飛びそうになる。

 足に力を入れ何とか踏ん張ると、アーサーをいなしながら逆に右ストレートをアーサーの顔面に叩き込もうとする。

 だが、アーサーは俺にいなされて体制を崩しているにもかかわらず、右ストレートを避けた。いや、避けたなんて可愛らしい表現ではなく、消えるように避けたと言ったほうがいい。

 こいつは俺よりも力が強くて、俺よりも速い。本当に俺と同時期に召喚されたのか?いやそんなことよりどこに行った?!


 「ほら、ギル君もいやだいやだと口では言って、体は正直じゃないかぁ!」


 俺の背後から声がした。一瞬で移動したのか?!

 いや、それより言い方に気をつけて?色々勘違いされちゃうから!

 俺は振り返りながら裏拳を繰り出す。


 「ふっ!」


 息を吐きながら、体を回転させて裏拳をアーサーに当てようとする。

 だがやっぱり空を切る。アーサーは既に消えていた。


 「ところが、ぎっちょん!」


 また背後から声が聞こえ、振り返るとアーサーが回し蹴りをしてきていた。

 俺はまだ裏拳をした動作から回復できていない。だが裏拳をしたことは幸運だった。

 裏拳の回転の力を利用して振り返り、アーサーの回し蹴りを膝を上げて防御することにした。

 何とかギリギリで間に合うが、回し蹴りを受けると体ごと真後ろへふっ飛ばされた。


 (馬鹿力がぁ!)


 心の中で悪態をつきながら、倒れないようにバク転して勢いを殺す。

 上手く勢いを殺すことが出来たが、壁際まで追い詰められてしまった。


 「スーパーミラクルウルトラハイパーゲンコツ!」


 バク転で勢いを殺すと同時に距離を取ったはずが、既にアーサーは目の前にいて右拳を振りかぶっていた。

 だが、長い技名を叫んだおかげで気づくことができた。

 俺は体を捻りながら避けると、アーサーは思いっきり壁を殴る。

 岩が割れる音がし、拳がめり込んでいた。


 「痛いであります!」


 アーサーは拳を引き抜くと叫んだ。()()が既に血まみれだ。

 両拳?エリーと戦って怪我しているのか?っていうか、指の何本かが変な方向に曲がっているじゃねーか!


 「おい、もう手がボロボロじゃねーか!もうやめておけって!」


 「むむ!確かにこれは不利ですなぁ!奥の手を使わせてもらう!」


 おめーが勝手に不利になっただけじゃねーか。

 アーサーがボロボロの両拳を眺めながら叫ぶ。

 十分に強いというのにまだ奥の手があるのかよと、身構えるがアーサーは動かない。

 いや、何かが変だ。


 「……暗くなってきたのか?」


 そう段々と暗くなってきたのだ。いや、暗いというレベルではなく、月のない夜みたいに真っ暗になっていく。

 周りが見えなくなるほど暗いのはおかしい。ここはダンジョンでダンジョン内は微かに光を発しているからだ。

 完全に見えなくなる前に、アーサーを足元を見て気付いた。黒い靄が足から漏れるように出ていたのだ。


 「魔法か!」


 これはアーサーの魔法で、闇魔法の一つだろう。アーサーが『無詠無手陣構成魔法』を使うとは思っていなかったから油断していた。

 恐らくだが辺り一面か、俺の周りを闇で覆う魔法だろう。アーサーからは俺の姿が見えていると仮定して行動するべきだな。

 だが、かなりピンチなのではなかろうか?あんな馬鹿力の攻撃を受けたら、打ちどころが悪けりゃ一発でのされちまうぞ。どうすっか。

 そう言えばアーサーは背後から攻撃するのが癖だったから、また同じことをするかも知れない。試しにやってみるか?

 俺は背後に魔法陣を構築した。

 ダンジョン探索で役に立つと思ってこの3日間で作った魔法で、あまり慣れていないが使用魔力も少ない。アーサーが背後にいるかいないかを確かめるだけだから十分だろう。

 俺は戦いに影響が出ない程度に魔力を強め、魔法を使った。

 使用すると同時に背中の魔法陣から後ろに向かって眩い光が溢れた。


 「何の光ィ?!」


 やっぱ居たわ。

 急いで振り返るとアーサーは攻撃態勢に入っていた。

 アーサーは目が眩んでいたが、構わず大振りの右フックで引っ掛けるように殴ってきた。


 (やべぇ!避けきれない!)


 バックステップをして避けようとしたが、アーサーの攻撃が速く避けきれない。すぐに腕を胸元で十字に構える、クロスアームブロックをした。

 紙一重で間に合い、アーサーの右フックをガードすることができた。

 だが体が浮き、また後ろへと吹き飛ばされ壁に背中を打ち付けてしまった。


 「ぐぅ……!」


 背中とガードした腕に痛みが走る。後ろへ吹き飛ばなければ腕が折れていただろうから、この背中の痛みはマシな方か。

 すぐに追撃されるかもしれないから、痛みを我慢してアーサーから離れる。

 しかし追撃は来なかった。


 「目がぁ目がぁ!」


 とニヤニヤしながら目を押さえていた。

 こいつはネタに走る癖があるな。というか、2525動画の視聴者くせぇなこいつ。

 と、ここであることに気がついた。俺を覆っていた闇が消えていたのだ。


 「あ、魔力が無くなりそう……」


 どうやら魔力が尽きかけて魔法を維持できなかったみたいだ。

 アーサーは魔力は尽き、両手はボロボロなのにまだやる気がある顔をしている。


 「はぁ……、あいつと戦うのは何か疲れるな……」


 まだまだ馬鹿との戦いは終わりそうにない。

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[一言] 「はぁ……、あいつと戦うのは何か疲れるな……」  まだまだ馬鹿との戦いは終わりそうにない 命が掛かっているとは、考えていなくて、ゲームをしているつもりなのか?
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