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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
三章 迷宮都市の光と闇
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6階層の困難

 俺は自分が異世界から来た事を三人に話した。地球からどのようにして召喚されたか、そして俺と一緒にいるとどのような危険があるかも。

 異世界から召喚されると特殊な力を持っていて、戦争や魔物の討伐等に巻き込まれる可能性がある。俺はそれを望んでいないし、彼女達を巻き込むつもりもない。

 ヴィシュメールの街で旅商人ヴァジから、最近オーセリアン王国が召喚をしたという話を聞いて、オーセリアン王国が元凶だと予想していることも話した。

 そして何故か召喚が失敗し、俺は王都オーセリアンではなく、エルの故郷の亜人の村付近に召喚された。

 召喚された者は、英雄になれる可能性があり、他の国にオーセリアンの()()()ではないと知られると、どんな手を使ってでも俺を奪いに来ると推測していた。これがただの杞憂であれば良いのだが、あながち間違いではないだろう。

 だから今まで各国のパワーバランスや情勢を見て、俺達が彼らに屈さない力を手に入れてから三人に話そうと思っていたことを話した。

 三人は俺の話しが終わるまで、黙って聞いていた。


 「お兄ちゃん、格好いい、です」


 何故にその感想?!


 「そうですね。何故かギルさまは包容力があると思っていましたがそういう事でしたか」


 俺は包容力を見せた覚えはないんだが。


 「旦那は見た目は少年ッスからね。騙されたッス」


 おめーにだけは言われたくねーよ。


 彼女達には丁寧に危険性について話したつもりだがそんな事は興味もなく、俺のことばかり話している。本当に危険性なんてどうでもいいと考えているのか、ただ暢気なだけかわからないが明るく話してくれるのは有り難いことだ。


 「ですがギルさま。もし、帰る方法が見つかったら、やはり戻ってしまうのですか?」


 リディアの言葉に他の二人も俺の表情を真剣に見つめる。全員がそれを一番に聞きたかったみたいだ。


 「いや、ひとっつも考えてねーな」


 「「「え?」」」


 三人は驚いた表情だ。それはそうだろうな、三人共故郷を大事にしている。俺の考えが理解できないのも無理はない。

 戻りたいという感情はこの世界に召喚された時点で捨てた。いつ戻れるかもわからなかったし、会社を無断欠席しているのだ。さすがにクビだろう。社会的に死んでしまったのだから帰りたくないと考えるのは自然だろ?

 今の会社をクビにされたら、俺の年齢では再就職は難しいし、また新人からやり直す気概もない。なら、若返ってもう一度人生をやり直せるこの世界で生きようと思ったのだ。

 俺の答えを聞くと三人は顔を見合わせて喜んでいる。

 ここまで素直に喜ばれると嬉しいものだな。


 俺達全員で色々と今後の事を話し合い、やはり俺が召喚された異世界人だということは隠す事にした。しかし、エステル法国にはバレてしまっただろうな。

 一番バレたくなかった国だったのだが、仕方ないだろう。

 本当は宗教の国なんて知りたくもなかったが、皆からエステル法国の情報を教えてもらうことにした。

 何故知りたくもなかったかは、地球の歴史を見てわかるだろう。魔女裁判、聖戦。ほんの一瞬考えただけで、虫唾が走る。神をかたり、民衆を煽動し残虐な行為をさせることが出来るのが宗教だ。もちろん全ての宗教が悪いわけではない。人々が心の拠り所にし、人生を穏やかに過ごすために必要なものとなっていることも事実だし、それで救われている人もいるだろう。

 別に神を信じていないわけではない。俺、いや、日本人程信心深い人種もいないだろう。毎年初詣をし、受験には神に祈願、会社では神棚を作り、何かあるごとに神へ願い事をする。

 だからこそ、この世界の宗教を好きになることは出来ないし、知りたくもなかった。だが、そうも言っていられない。


 三人にエステル法国の事を聞いてみて、俺なりに要約すると、エステル法国のトップは『聖王』というらしい。

 『聖王』は王政と同じで君主制。そして世襲君主制でもある。独りの人間が終身持ち受け、その一族が世襲するシステムだ。

 だが、王政と違うところは宗教国であるという点だ。

 例えば、現在の聖王が亡くなるとする。その聖王は『神』になるとされ、今まで『神』だった前聖王は、新たに『神』になった者に全てを任せ天に昇るとされている。

 『神』が君主であり、現『聖王』がその声を聞くことが出来ると言われているが、実質ただの王政と同じだと俺は思う。一番違う所は貴族という文化が一切ないところか。

 もちろん聖騎士という兵士達がいて、宗教戦争すらする。

 何より恐ろしいのは、エステル教と呼ばれる世界宗教であることだ。世界宗教とは人種や民族、文化圏を超えて信者がいる事だが、つまりは各国に信者がいて、エステル法国と争いがあった場合は、内面から自国の民による攻撃があることだろう。

 『神』という絶対的な存在の言葉で何をしても許されるという考えが、地球でもあった残酷な行為を生む可能性あるのだ。

 やはり日本人の俺には理解できない。俺は日本の神道(しんとう)が好きだからな。森羅万象に神が宿るという考えは、全ての物を大事にする日本人には合っていると思う。何より神の名を借りた戦争が起きない所が一番素晴らしいだろう。


 エステル法国の話を聞き終わると、三人は心配そうに俺の顔を見ていた。俺が苦渋の顔をしていたからだろう。

 厄介な奴らにバレてしまったと考えていれば、こんな顔にもなる。

 だが、不安はあっても俺達のやることは変わらないのも確かだ。今はダンジョン探索に集中し、少しでも力をつけるしか、出来ることがないのだから。


 「お兄ちゃん、大丈夫、です?」


 「ああ、問題ないぞ。俺達のやることは変わらない」


 一人一人が強くなればいいのだ。


 「無駄な時間を過ごさせたな。さて、俺達もそろそろこの洞窟エリアの探索をするか」


 俺が不安を振り払いながら言うと、三人は笑顔で頷いてくれた。



 テントを片付けると俺達は6階層の探索を始めた。

 6階層は、俺達がキャンプをしていた広間から3本の通路があり、先へ進むとまた広間へとつながっている。その広間からまた何本かの通路といった感じのエリアで、熟練の冒険者でも迷う構造をしている。

 冒険者ギルドマスターのアンリや、エリーからも6階層以降の詳しい情報は聞けていない。階層を降りるのも競争であり、他の冒険者がその情報を渡すわけがないから当然だろう。エリーに関しては、勘で進んでるらしくメモすら取っていない始末だ。

 そういう事もあり、俺達はマッピングをしながらの探索になるから時間がかかるだろう。それでも今回の探索は10階層に降りる道を発見するまでが目標だった。


 メモ帳に簡単な地図を描きながら俺達は進んでいた。


 「いやぁ、もう迷ったッス」


 「同じような景色ですからね、仕方ありませんよ」


 シギルが頭を抱え、リディアが慰めている。

 俺もメモ帳に描いたマップを見ているが、方向を見失ったらあっという間に迷子になりそうだ。

 通路や、広間の入り口や出口には他の冒険者達がつけたであろう目印らしき傷が無数にあり、これも非常に厄介な物だった。

 考えることは同じらしく、似た考えを持った冒険者が同じ様な目印をつけるから混乱してしまうのだ。

 だから、俺は地球の言葉で、しかも日本の漢字でメモ帳のマップとダンジョンの壁に同じ目印をつけて、迷わないようにしていた。

 それに厄介なのは道だけではない。もちろん魔物がいる事が更に厄介なのだ。


 「前から魔物が、来る、です」


 「どんな魔物だ?」


 「骨、です」


 「……またかよ」


 つい口に出てしまったが、これはまた敵が現れたのかよという意味ではなく、またアンデッドと戦わなければいけないのかという意味だ。

 ヴィシュメールで大量のアンデッドと戦って、飽き飽きしていた。見た目、呻き声、そして匂いだ。

 このダンジョンの6階層から10階層はアンデッドが出現するみたいだった。これで得心が行った。どうしてこの6階層から挑戦する冒険者が激減したのか。

 行列するほどいた冒険者達が、あの広場でキャンプをしているのがたった20組みしかいなかったのは、このダンジョンが6階層から攻略難易度が跳ね上がるからだ。

 この階層はどうやらスケルトンが出現しているが、もっと下の階層は魔法を使える事が必須の条件になるだろう。

 スケルトンは比較的弱い魔物だと思うが、厄介ではある。何が厄介か?

 それは、スケルトンは武器を持つからだ。ゾンビ系は肉体を持っていて、更にリミッターが外れている分力が強い。だが、素手や噛みついてくる攻撃手段が殆どだ。遠距離魔法があれば対処しやすい。

 ところがスケルトンは、稀にアーチャーがいたりする。あちらも遠距離攻撃をしてくるから、これはこれで気が抜けない。

 そして一番の問題は怖いことだろう。

 この薄暗いダンジョンで急に骸骨が歩いてくるんだぞ。地球に居た頃なら腰を抜かしてた。だが今は、召喚の影響かあまり恐怖はない。それに心強い仲間がいるというのも大きいだろう。


 「武器は持っているんスか?」


 「剣だけ、です」


 「シギル、やれるか?」


 「ッス」


 スケルトンに有効な攻撃は打撃と魔法だ。刺突や斬撃はあまり効果がない。

 魔法剣を持っているリディアも対処可能だが、シギルか俺が適任だろう。

 シギルはただ走ってウォーハンマーを頭蓋骨へと振り下ろす。頭蓋骨が粉々になると体だった骨も灰になって消えていった。

 どういう理由かわからないが、どうやらスケルトンは頭が砕けたりすると機能を停止するみたいだ。俺がヴィシュメールの森で戦った時は、力任せにゴリラパンチして全身粉々にしていたから分からなかったが、アンリから弱点を教えてもらったから今はそのように対処している。



 6階層はシギルだけでも十分だった。魔物を見つけては砕くを繰り返させ、後の二人はシギルの援護をしてもらった。

 俺は戦闘に加わらなかった。戦闘で動き回り、方向感覚が狂うとマッピングに影響が出るからだ。

 だが既に5時間程歩き回っていた。


 「今日は初日だから、そろそろ戻ろう」


 「そうッスね。疲れたッス」


 「すみません。殆どシギルさんに相手してもらって……」


 「ごめんなさい、です」


 「いいッスよー。エルには魔物を発見してもらってるし、リディアには援護してもらってるから十分ッス」


 俺への労いがないぞ?それに俺は30時間以上起きているんだが……。


 「もう汗でベトベトッスよ」


 「ダンジョンはこれが嫌ですよね」


 「水浴びしたい、です」


 なるほど、確かに今日がんばってくれた彼女達へご褒美を上げてもいいだろう。


 「じゃあ、風呂入ろうぜ」



 俺は三人を連れて、通路の行き止まりまで来ていた。


 「ちょっと見張り頼む」


 俺は準備をする間、三人に見張りをお願いした。

 昨日の見張りの時に作った魔法陣で、風呂を作成しようとしているのだ。

 まずは、土魔法で石の壁を腰の高さで囲むように立てる。そして、中に水魔法で水を入れる。更に火魔法でお湯に変え完成。後は汗を流せるようにかけ湯場を設置。


 意外と簡単だったな。もっと早く作っても良かったが、町中ではさすがにな……。


 「す、凄いッスね!」


 「共同浴場以外に湯に入れるとは思いませんでした!」


 「たらいじゃないの初めて、です」


 地球の中世ヨーロッパに近いこの世界でも、大衆浴場は存在している。料金が少々かかることと、衛生管理があまりよろしくないので、俺達は行っていない。そのかわり宿でたらいを借り、井戸の水で体を洗っていた。

 地球の中世でもまったく同じ状況で、コレラや性病などの温床であったらしいから、大衆浴場に行く気も起きない。


 「後は目隠しに壁を作るから、先に三人で入ってくれ。俺は見張りをするよ」


 「え、お兄ちゃんも一緒がいい、です」


 「「「え」」」


 俺も含めリディアとシギルが驚きの声を上げた。

 それは是非ともそうしたいが、見張りがいないと、いや、待て早まるな。わざわざ入り口がある壁でなく、行き止まりに見せかけるように壁で埋めてしまえばいいではないか。

 ちがうちがう、そうじゃそうじゃない!

 魔力を流し続けないとこの風呂場を維持することができないのだ。彼女達と一緒に入ってしまえば、一瞬で魔力操作が乱れてしまう。くっ、本当に、本当に残念ながら俺は独りで入るしかないようだ。


 「いや、魔力集中が出来なくなるから俺は外で待つよ。リディアとシギルは俺と入るのが嫌みたいだから、今度入る時はエルと二人で入るよ」


 「約束、です!」


 「「む」」


 くっく。エルと二人で入る事をちゃっかり約束しておいたぜぇ。危うく血の涙を流しそうになったが結果オーライだ。それに俺の軽い嫌味にリディアとシギルは難しい顔をしている。コレはワンチャンあるんじゃなかろうか。


 「わ、私も構いません!今度一緒にで良いです!」


 「あたしも、その、別に、良いッス」


 「わかったわかった。今度は皆で入ろうな。とりあえず、今日は三人で入ってくれ、魔力が持たない」


 俺はそう言い壁を作ると外で見張りをした。

 へっ。あまちゃん共め!俺に同情して一緒に入る約束をしやがったぜぇ。しめしめ。



 三人が風呂から出てくると、皆幸せそうな顔をしていた。各々俺に熱い感謝の言葉を言ってくれたが、俺も我慢が出来なくなったから、会話もそこそこに見張りを交代してもらった。

 そして俺も湯に入る。


 (あー……。やべぇなこれ。気持ちよすぎだろぅ)


 久しぶりに入る湯船は最高だった。寝不足も相まって寝てしまいそうになるが、寝た瞬間に風呂が崩壊するので我慢して目を閉じないように努力した。


 (しかし、エステル法国の奴ら来なかったな)


 ダンジョン探索中にちょっかいを出してくると思っていたが、その気配はなかった。まさか、暗殺者までは来ないだろうが、犯罪者を使って誘拐でもしてくると思ったのだが……。

 いや、まだ一日目だ気を抜かないでおくか。


 それからは考えるのをやめ、湯船にゆっくりと浸かり体を十分に温めてから風呂を出た。

 その後、俺達は6階層の入り口まで無事に戻ることが出来た。

 この日の食事はエルが作ってくれて美味しくいただいた。そして見張りもシギルとリディアがしてくれるそうで、俺は食事の後テントに入ると寝てしまった。

 俺が寝ている間も何事もなかったようで、無事に朝を迎えることが出来た。だが、さすがにテント生活は疲れが溜まる。

 なるべく早めに10階層の入り口を見つけて、街に戻りたいものだ。


 そのために今日もがんばってダンジョン探索をしようかね。

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― 新着の感想 ―
[一言] いつまでもスーツ着ておいて、バレたくなかったとか頭悪すぎるやね。
[良い点] とても面白いです [気になる点] なぜスーツを着続けるのか [一言] 召喚した国に狙われるリスクを考えて服くらい変えませんか?
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