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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
三章 迷宮都市の光と闇
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オーセブルクダンジョン一日目

 俺は()()()()()()()()、皆でダンジョンの更に地下へと降りるため、街を出て平原を歩いていた。

 ん?パンツに何があったのか?それは昨夜はエルが隣で寝ていたとだけ言っておこう。

 ここは迷宮都市オーセブルクダンジョン、地下一階の平原。街から出て1キロ程歩いたところだった。


 「広大だとは思っていたが、地下2階へ降りるのもこんなに時間がかかるとは甘く見ていたかな?」


 俺が想定していたより広く、時間がかかる。地下一階は平原エリアということもあり、危険な魔物は殆どいない。角兎が遠くで走っているぐらいだ。


 「でも、皆でお散歩、楽しい、です」


 エルは俺と手をつないでニコニコしている。あー、癒やされるわぁ。確かに、ピクニックと思えば素晴らしい天気と景色だな。これから戦闘もあるのだ。こういう時間も大事にしておこうか。


 「でも、そろそろッスよね?」


 「そうですね。ギルドマスターアンリに教えてもらった、地下2階へはもうすぐのはずです」


 冒険者ギルドのギルドマスター、アンリからの情報だと地下5階までは平原エリアだそうだ。主に食肉、野菜、薬草の類はこの5階までで色々手に入ると聞いた。残念ながら地下一階はあまりにも人口が多すぎて、発生した瞬間に他の冒険者に取られてしまう。経験のない俺達が手に入れるのは難しいだろう。

 そんなことを考えていると、ダンジョンの端が見えてきた。一体どうなっているのか、青空が途中で切れてダンジョンの岩のような壁が見えてきている。


 「あ、あそこではないでしょうか?ギルさま」


 「ん、どこ?……あれか」


 壁にぽっかりと穴が空いていて、そこから行列が伸びていた。

 また、待つのか。これは降りるのも一苦労だ。

 この情報もアンリから聞いていたが、これ程長い行列だとは思っていなかった。大人気遊園地のピークの待ち時間ぐらい並びそうだ。

 だが、面倒なのはここまでで、地下2階からは待つこともなくすんなり降りることが可能だと、『聖騎士』エリーから追加情報として教えてもらっていた。

 エリーの事は皆に話した。間接的にではあるが皆もルドルフを討伐するのに関わっているからだ。3人はエリーと話してみたいと言っていたが、次会うのはいつのことだか。


 長い行列を1時間ほど待つとようやく地下2階へ降りる横穴の前まで来た。思ったより早く進めたのは、遊園地のアトラクションの待ち時間と違い、ただ通るだけだからだろう。

 横穴に入ると急に暗くなった。いや、これが本当の明るさなんだろうけど。穴の中はダンジョン特有の不気味な明るさがある。だが、今まで擬似太陽の下を歩いていたのだ。殆ど真っ暗と言っていいだろう。

 横穴は緩やかなカーブを描きながら下っている。広さは人が3人が横に並べるかどうかという程度だった。

 高さは3メートル程か?これなら大型の魔物は上がってこれないだろうな。だが、その下る横穴の中も行列だった。一列に並び先に進むのを待っている。何故一列かは、もちろん登ってくる人もいるからだ。

 更にここは行列の名所だから、怪我や大事件が起きた時の為に、緊急用として一番端の道はロープで区切られ、一般の人は通れないように見張りまでいるのだから時間がかかるのもうなずける。

 なんでも大昔は区切られてなかったみたいで、大怪我をした人が行列に阻まれて街に戻れず、死に至ったという事件が起きてから、整備されたみたいだ。

 だけどそれも地下1階から地下2階への横穴だけだ。ここさえ終われば、すぐ地下3階へ降りることができるはずだ。

 皆と話しながら30分程待つといきなり明るくなった。地下2階へ抜けたのだ。


 「や、やっと抜けたッス」


 「もう、帰りたい、です」


 「エル、これからですよ」


 俺も含めて全員疲れている。

 地下2階もやはり平原だったが、少し寂しい感じがするし、心なしか肌寒い。


 「ああ、なるほど。これは秋か」


 地下2階に生えている木を見て理解した。見事に赤く染まっていたからだ。紅葉ではないが、それっぽい。

 地下2階へ降りた冒険者達の殆どがここで狩りをするのか、平原へと歩いていった。俺達はここでは狩らず4階まで目指す予定だった。

 今降りてきた横穴の隣に、もう一つ横穴があった。これが地下3階へ降りる道だ。すぐに降りられる理由はこれだった。

 俺達はすぐさまその穴に入り3階へと降りる。もちろん時間はかからずすんなりと降りることが出来た。

 流れでなんとなく分かると思うが、地下3階は冬の平原だった。ここから大型の魔物が出るらしい。俺達はここでは狩らない。寒いからだ。防寒着を買っていないのだから仕方がない。それに4階の方が都合が良い。

 また、すぐ横の穴に入り、目当ての地下4階へと降りる。

 穴を抜けるとそこは春の平原だった。

 美しい花が咲き、暖かい風が頬を撫でる。


 「綺麗な風景ですね!」


 その通りだ。地下2階も赤く染まり美しかったが、地下4階はカラフルだ。様々な色が溢れている。

 リディアがうっとりしているが、そろそろ俺達も冒険者として働かねばならない。


 「さて、今日の目標はこの階層で薬草集めと、魔物との戦闘訓練。そしてついでに食料集めだ」


 エリーから俺達の条件にあっている階層は地下4階だと聞いたのだ。今日はここで採取に勤しむ。


 「あ、なんか来たッス」


 「魔物、です」


 エルが言うからには間違いなく魔物だろう。丁度いいから練習相手になってもらおうか。


 「よし、最初は全員で狩るぞ。作戦は昨日話した通りだ」


 俺がそう言うと全員が配置に着いた。リディアが最前、少し下がるようにシギル、そして俺、一番後方にエルという配置だ。

 今回はシギルの戦闘訓練でもある。シギルは背中に背負っていた大きな槌、ウォーハンマーを取り出した。このウォーハンマーは、ヴィシュメールを出る時にシギルに手伝ってくれと言われ、一緒に作ったものだった。もちろん魔術付加をし、火属性の攻撃をすることができる。

 なぜウォーハンマーかとシギルに尋ねたら、ドワーフはこれ一択ッスと言っていた。確かにドワーフは地球の物語でも斧か槌を武器に戦うイメージがある。シギルもどっちか迷ったが俺達のメンバーに打撃系がいないということで槌を選んだらしい。

 そのウォーハンマーの初お披露目だ。


 『ぶもぉおおおおぉおお!』


 俺達に近づいてくる魔物は牛だった。いや、牛っぽい魔物だ。だが、倍近く大きい。

 牛の魔物は俺達に向かい一直線に向かってくる。


 「リディア、俺とエルで突進を止めるから、注意を惹きつけてくれ。シギル、メインアタッカーはおまえだ、頼むぞ」


 全員が頷いたのを確認すると、俺は目の前に5個ほど魔法陣を出した。使う魔法は土属性の石礫。

 魔力を込めると魔法陣から人間の頭ほどの大きさの石が飛び出した。いや、岩か。

 岩が飛び、牛の魔物に直撃するが怯まずに突っ込んでくる。だが、2個、3個と当たると、段々速度が落ち、全部当たる頃には止まっていた。

 魔物の足が止まると、俺の後ろにいたエルが弓で足を狙う。何本か刺さると魔物は悲鳴のような声を上げた。


 「よし、後は頼むぞ」


 俺がそう言うと、リディアが魔物の横から攻撃をする。惹きつける為にわざと手加減してだ。今回はシギルが戦闘に慣れる為なのだから、リディアには援護に回ってもらう。

 そして、魔物のヘイトがリディアに向かう。魔物はずいぶんとご立腹で、足を痛めているのにもかかわらず、地面を蹄でひっかく仕草をする。突進の前兆だな。

 それを見たリディアは後ろに退き距離を取る。

 魔物はリディアが後ろに下がるのを見ると、すぐさま突進した。

 だが魔物の真横から大きな槌が現れた。シギルが突進に合わせて、ウォーハンマーを振ったのだ。

 そのウォーハンマーは魔物の頭に命中する。

 魔物は突進の勢いのまま転がった。そしてそのまま起き上がらなかった。


 「いっちょ上がりッス」


 シギルはウォーハンマーを担ぐと笑顔で言った。魔物の突進の力を利用し、カウンターでウォーハンマーを命中させたのだ。あれでは気絶か死んだだろうな。

 念の為に注意しながら牛の魔物に近づくと、頭がへこんでいた。これは即死だったはずだ。

 シギルは見事に初戦闘を終えたのだった。


 「やるじゃないかシギル。リディア、二人でも平気そうか?」


 「このぐらいの魔物であれば大丈夫だと思います」


 「そうか。じゃあ、リディアとシギルで狩ってほしい。後、解体も頼むぞ。俺とエルは薬草採取だ」


 3人が役割を理解すると俺とエルは薬草採取へと向かった。エルはエルフで薬草の知識も詳しいし、それを見つける為の良い目を持っているということでこの布陣だ。リディアは冒険者稼業が長いだけあって、狩った後の解体作業も出来るというから、シギルと二人でコンビネーションも兼ねて狩りに専念してもらうことにした。



 エルと二人で端の方にある森へ来た。俺達は薬草採取が基本的な仕事だが、ここはダンジョンだ。魔物も出現するのだから、その排除で戦闘をするつもりだ。

 森と言っても、ヴィシュメールの森のようなジャングルみたいな雰囲気ではなく、木漏れ日が差し明るく、林に近い。


 「気持ちいい、森、です」


 「そうだな。だが、魔物が出るから気をつけて行こうな」


 「はい、です」


 だが、そんな心配は必要なかった。

 エルがおもむろに弓を構えると矢を射る。遠くの方で何かが倒れる音がした。

 魔物が気づく前にエルが全て倒してしまうのだから、エルフの目と言うのはすごいものだ。

 この地下4階の森の魔物は猿のような魔物で、力はそれほどでもなく体も小さい。だが、石等を投げてくるからそれなりに気をつけなければならないが、エルが敵の攻撃範囲外から一方的に倒してしまうのだからほぼ安全が確保されたと言っても過言ではないだろう。それでも何が起きるか分からないから念の為に警戒は怠らないようにしている。

 それにしてもエルも強くなったな。


 地下1階から5階までの平原エリアには下級治癒ポーションの材料となる薬草が群生している。何故瞬時に傷を癒やす事が出来る薬品を作ることが可能なのかは、ダンジョンで生成される植物だからとしか言えない。ダンジョンで生成される物全ては、魔力を帯びているからそれが関係あるのだろう。

 魔力を回復させる薬を作る場合は魔石が必要だと買った本に書かれていた。魔石は魔力を貯めることが出来、それを体内にいれることで魔力を回復させるらしい。しかし、魔石は非常に高価だ。現段階で薬に使うのはやめたほうがいいだろう。


 「ギルお兄ちゃん、あれ薬草、です」


 「ん、どれどれ?」


 確かに本に書かれていた薬草があった。20メートル先にある薬草を見つけるとは、エルを連れてきて正解だったな。


 「すごいなエル!あんな遠くの薬草を見つけることが出来るのか!」


 頭をわしゃわしゃと撫でるとエルは目を細めながらはにかむ。可愛いな天使かよ。

 この調子なら今日は苦労せずに目標を達成できるだろう。



 しばらく魔物を倒しながら薬草の採取をしてから、リディア達の元へ戻った。

 リディアとシギルも休憩していたらしく地面に座っていた。


 「あれ?もう薬草採取終わったんスか?」


 「ただいま。というか、かなり時間経っているはずだぞ?」


 「え?そんなにッスか?」


 シギルは集中して狩りをしていたせいか、時間の事を忘れていたのだろう。俺とエルが森へ行って4時間は経過しているはずだ。


 「結構狩れたか?」


 「はい、シギルががんばってくれました」


 「あたしも中々やるんスよ」


 「そうか、二人共お疲れ様」


 そう言って二人の頭を撫でてやる。二人共ニコニコしながら頬を赤くしている。


 「そ、それで、ギルさまはどうでしたか?」


 「ああ、こっちはエルが頑張ってくれたから、たくさん採取できたよ。そっちの成果は?」


 「こっちは10匹は倒したッス」


 10匹は狩り過ぎかもしれない。そんなに肉を持って帰れるかな?出来る限り持って帰りたいが、無理な場合はそのまま置いておくしかない。ダンジョンは不思議な場所で、魔物の死骸は一日放置するとダンジョンに吸収され、腐ってそのまま放置ということがないのだ。人間や亜人は違う。死ねば地上と同じように骨へと変わっていく。この差に何か意味があるようにも思えるが今は分からないな。


 「結構狩ったな。持って帰れるかな?」


 「ギルさまのマジックバッグと皆で持っても無理でしょうか?」


 「どうだろうな。マジッグバッグの容量がわからないからな」


 マジッグバッグか、早めに全員分ほしい所だな。


 「もしかして狩り過ぎでしたか?」


 リディアが少し悲しそうにする。これでは狩りすぎとは言えないな。


 「いや、シギルの戦闘経験もあったんだから、別にかまわない。だけど狩った分は出来る限り持って帰ろう」


 「はい」


 こちらから一方的に命を奪ったのだから、出来る限り美味しく食べてあげたい。人間の勝手な言い分だが、俺に出来る事はこれだけだと思う。

 リディアも俺の気持ちを察してくれたのか、微笑みながら返事をしただけだった。

 まあ一日目は成功と言えるだろう。今日はこのぐらいで地下1階の街へと戻ることにした。


 食料と薬草の確保は出来た。明日からは本格的にダンジョンに潜ることができそうだ。

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― 新着の感想 ―
[一言] 攻撃特化もしくは無知でなければ必要な物揃えて建物も工具も武器もアイテムも魔法で自作すれば安上がり。
2019/11/17 12:09 退会済み
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