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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
一章 賢者の片鱗
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村発見

下流に向かって、30分程進んだところで建物を発見した。川から100mぐらい離れた場所に、柵で囲み、中心に建物が約10棟ぐらいぽつぽつと建っている。


 「意外と近かったな。ただあれが、村なのか、モンスターの住処なのかはわからないが……」


 警戒しながら近づいて行くと、人らしき影が歩いているのがわかる。いや、正確には人ではないのだろう。兎耳を生やしていたり、虎が二足歩行してたりと様々な人種がいた。亜人という者たちだろう。純粋に人間っぽいのもいた。


 「お、おぉー。初めてファンタジーとか、異世界とかを意識したぜ」


 誰もいない世界。道すがら、そんな考えが頭をよぎっていたが、一安心だ。あとは、彼らが人類と敵対していないかだが……。

 警戒はするだろう。だが、明らかに人間っぽい人影も確認している。すぐさま、攻撃されるというのはないだろう。

 あとは言葉が通じるかだな。そこが一番の問題だ。

 そんなことを考えながら村の入口まで辿り着いた。そこには一人……、一匹?とにかく虎の大男が、槍を持ちこちらを見ている。


 「とまれ!この村になにか用か?!」


 言葉は理解できるようだ。だが、明らかに警戒している。


 「まってくれ。怪しいものではない」


 「どこがだ?!怪しすぎるからこちらは警戒している!不思議な格好しやがって!」


 改めて自分の姿を見てみる。体が小さくなったせいか、少し大きく感じる黒いスーツの上下、更には靴下のみ。そして、リュックサックを背負っている姿。地球では、靴を履き忘れた程度だが、この世界では不思議なのだろう。

 こういう時は、冷静にこう言ってやるのだ。


 「俺の村では正装だ。俺からすれば、この国の格好も変に見える。それと同じでは?」


 「むぅ……。そうなのか?それで、お前は何をしにこの村に来た?」


 少しだけ警戒心を解いてくれたみたいだ。自分の服を見ながらなんの用かと聞いてくる。

 んー、同情を誘ってみるか?


 「獣に襲われ、荷物を置いて逃げてしまった。すまないがこの村で物資を補給したい。それと、よければ泊まらせてほしい」


 「はっはっは。なるほどな。怪しいが、まぁ、いいだろう。まずは村長と会ってもらうが、滞在できるかは彼に聞いてくれ」


 なにわろてんねん。危うくそう口から出かかったが、頷くことで誤魔化した。

 とりあえずは、村にいれてもらえるみたいだ。



 その虎男に案内されながら、村の一番奥まで来た。周りの家より一際大きいのが村長の家なのだろう。虎男は「少しここで待て」と言い、中に入っていった。ほどなくして戻ってきた虎男について来いと言われ、家に入った。

 ついていくと、木で作られた机を4脚の椅子で囲むように配置されている部屋に通された。

 そのうちの一つに座っていた男が立ち上がり柔和に微笑んで話しかけてきた。


 「ようこそ。私が村長のマーデイルです。聞けば、獣に襲われたとか。大変な目に遭いましたね」


 金髪の長髪を後ろで結び、見えている耳は人間よりも長く少し尖っている。地球の伝承ではエルフと言われる種族だ。30代前半に見える恐ろしく整った顔立ちの男。

 マーデイルは俺に席をすすめる。


 「ありがとう。本当に大変な目に遭いました。靴すらも履かずに逃げましたよ」


 そう言いながら椅子に座り俺も困ったような笑顔をうかべる。


 「まずは、名を聞こうか?」


 案内してくれた虎男が、マーデイルの左後ろに立ち腕を組みながらそう尋ねる。

 会社勤めの人間として、自己紹介を忘れるとは、俺も思いの外冷静ではなかったらしい。


 「失礼した。私は……、ギルです」


 自分の名前を本名で答えていいものか悩んだが、間をあけて怪しまれたくなかったので、咄嗟に昔遊んだネットゲームで使っていた名前を言った。


 「ギルさんですか。それで、ギルさんはこの村で物資を補給したいのと、一日滞在したいとのことですが?」


 「はい。ですが、恥ずかしながら、この国に入ったばかりに襲われたもので、こちらのお金をもっていないのです。厩舎などでもいいので、一日置いてもらえませんか?」

 

 さすがに無一文で数日泊まらせてくださいとは言い出せない。


 「俺は反対だ」


 「ハルガル。失礼ですよ」


 虎男はハルガルという名前らしい。おまえ、俺に自己紹介したか?


 「とても警戒されていますね。何かあったのでしょうか?」


 そう尋ねると、村長は苦笑しながら答えてくれた。

 この村は、奴隷商人に襲われ、うまく逃げきれた者たちの村だという。村の名前はないらしい。

 亜人の男は基礎体力があるからか労働として使われ、女は性奴隷か娼婦になるそうだ。

 こんな目立つところに村があって、また襲われないかと思い訪ねたら、逃げきれた者たちはそれなりに戦闘能力があるから、ある程度自衛ができるらしい。

 俺のような人種をヒト種というらしいが、この国はヒト種が大半で亜人が生きていくには厳しいみたいだ。


 「そういう経緯がありまして、ヒト種の方はそれなりに警戒しています。さて、どうしたものか……」


 マーデイルはかなり慎重だ。これは色よい返事はもらえないかと諦めそうになった時、何か見られている気配がした。そちらを見ていみると、扉のところから女の子が覗いている。

 目が合ったので、手を振ってみた。


 「ひうっ!」


 女の子が驚き、扉の裏へと身を隠す。マーデイルとハルガルが声に気付いてそちらを見る。


 「エルミリアか。こちらにおいで」


 マーデイルが苦笑しながら、入ってくるように女の子、エルミリアに言うと、とたとたと小走りしながらマーデイルの後ろに隠れる。


 「はは。ずいぶんと警戒されていますね。お、そうだ……確かリュックに……」


 そう言いながらリュックを開け弄っていると、ハルガルが組んでいた腕を下ろし更に警戒を強くする。

 それを無視し目当てのものを取り出す。いちごみるくの飴だ。ネットで買った1キログラムの大容量版だ。会社勤務の人間に糖分は欠かせない。

 飴のひとつを取り出し、エルミリアに手招きする。


 「お嬢ちゃんにこれをあげよう」


 エルミリアがマーデイルの後ろから顔を出し、スンスンと鼻を動かすと、恐る恐るではあるが近づいてきてくれた。

 見た目12か13歳ぐらいだろうか。美人とかわいいを両立させる顔立ちで長い金髪をサイドポニーのように結び、エルフの特徴的な耳を片方だけ出している。将来、どのような成長を遂げてもきっと美人になるだろう。

 俺の手から飴を受け取ると、困ったようにマーデイルの顔を見る。


 「ギルさん、それは?」


 「これは、飴という菓子です。ただ口に含み舐めるだけの菓子ですが。マーデイルさんたちもどうぞ」


 そう言いながら俺は、飴をマーデイルとハルガルにも手渡す。


 「村長、毒かもしれません」


 失礼な。もふもふと撫で回すぞ猫科。

 一方、マーデイルは飴に鼻を近づけ匂いを嗅いでいる。


 「いえ、毒は入っていないようです。とても甘い香りがしますね。私が先に頂いてみましょう」


 おまえも毒を疑っていたのかマーデイルよ。しかし、嗅いだだけで毒がわかるとはエルフすげーな。

 包みごと食べようとしたから、慌てて止めて開け方を教えた。

 マーデイルが飴を口に含んだ瞬間、目を見開き驚いた顔をしている。


 「これは……。これは、素晴らしいですね。なんと奥が深い味わい。少しミルクが入っていますか?」


 あ、そういえばエルフは乳製品とか肉とか食べれないのか?

 聞いたら、この世界のエルフは、どちらも大丈夫とのこと。よかった。

 エルミリアの目がまだ食べては駄目かと、目でマーデイルに訴える。


 「エルミリア、食べてみなさい。ハルガルも。」


 エルミリアとハルガルが口に含む。やはり、二人も目を見開き驚く。エルミリアは、両手を頬にやりニコニコと微笑み体をクネクネしている。かわいい。

 一方、ハルガルは無言で食べているが尻尾をピーンとしているから、喜んでいるのだろう。猫科だしね、仕方ないね。

 これだけで、警戒を解いたのか、エルミリアは俺の横に座りニコニコしながら味を楽しんでいる。


 「ははは。子供は現金なものですね。もうギルさんになついてしまった。エルミリア、まずギルさんにお礼をいいなさい」


 「あ、あり、ありがとうです」


 (ども)りながらも、可愛らしい声でお礼をいってくれた。


 「どういたしまして。お嬢ちゃんはいま、何歳かな?」


 「エルは、70、です」


 は?70歳?地球の俺より全然年上じゃないですか。敬語使ったほうがよろしいですか?

 驚いていたらマーデイルが不思議そうな顔したから、俺の村ではエルフは珍しいのでと言い訳しておいた。そう言うと、マーデイルは、なるほどと頷き色々話してくれた。

 エルフは100年でようやく一人前だという。人間でいえば、100年生きて二十歳。

 エルフの平均寿命は300年程らしく、マーデイルは325年も生きているらしい。


 「もうすぐ、お迎えが来るかもしれませんが、せめてこの子が100歳ぐらいになるまでは、おいそれと死んでられませんので、老骨に鞭打って生きていますよ」


 「そうですね。ぜひとも長生きしてください」


 そう言うと二人して笑いあった。

 それからは順調で村に一泊して良いと許可をもらえた。マーデイルの家で泊まらせてくれるとのことだったが、年頃の女の子がいるのでこちらから遠慮しておいた。今日はマーデイル家の馬小屋で一泊だ。

 ならば、食事だけでも食べてほしいと言われた。どうしてそこまで、気を使うのかと聞けば、飴のお礼だそうだ。なんでも、この世界での甘味はかなり貴重なものらしい。

 とても有り難い申し出なので、ご相伴に預かることにした。

 干し肉と野菜を煮たスープとパンという質素な食事ではあったが、優しい味でとても満足した。

 そして、その食事中に色々この国の話を聞けたので、後でメモでもしておこう。

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