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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
三章 迷宮都市の光と闇
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錬金道具

 俺達が応接室から出て、受付まで戻ってくると冒険者ギルドの中が何故か騒がしかった。


 (俺達みたいな目立つパーティを見ても騒がなかったのにな。何かあったのかな?)


 冒険者達の視線が一点に集中している。その視線はある冒険者の一人に注がれていた。


 「ふぁ、かっこいい、女の人です」


 エルの言う通りだった。視線を集める冒険者は女性だ。鎧で身を包み、全身を隠すほどの盾を持っていた。武器はショートスピアだろうか、盾から少しだけ石突が見えているからおそらくそうだろう。盾に収めるようにしているのか。そしてなにより視線を集めている理由は、容姿だろうな。銀色の美しい髪をセミロングにしているが、かなりの美人だ。

 この世界の女の子達は美人ばっかりなのか?うちのメンバーも殆ど可愛いか、美人だと俺は思う。

 しかしそれでもそれだけで視線を集めるだろうか?ちょっと聞いてみるかな。


 「あのすみません。あの方はどういったお人なのでしょうか?」


 俺が近くで話している冒険者達に聞いてみた。


 「なんだ、新入りか?この街であの人を知らないなんてなぁ」


 「というより、昨日この街に来たばかりなんですよ」


 「なるほど、そういうことか。あの人は『聖騎士』と言われているな」


 聖騎士?教会に属する騎士だろうか?


 「法国の騎士か何かですか?」


 オーセリアン王国の北西に位置する国、法国エステルという国がある。詳しくは聞いていないが、この世界で一番大きな宗教の国だろうな。俺はその国の騎士かと尋ねた。


 「いや、ちがうちがう」


 「そうそう、珍しく光魔法を使う冒険者で、あの全身白い鎧がなんとなく聖騎士っぽいなってことで、そう言われているみたいなんだ」


 「なるほど。そう言われてみれば聖騎士みたいですね。それなら目立つ理由も分かりますね」


 彼女の装備している防具はその殆どが白い。金属の上にわざわざ塗っているのだろう。


 「まあ目立っている理由はそれだけじゃないんだよ」


 「あの人は瞬く間にAランク冒険者になって、更に今、地下30階まで進んでいるって話だ」


 「それは凄いですね!」


 「だろ?それもソロでだぜ?光魔法を使えて接近戦も得意なんだ。英雄の逸材だよ」


 聞けば、冒険者になってから得意の光魔法であっという間にAランクになり、その魔法に頼らない程の近接戦闘技術を持っているらしい。その上、誰ともパーティを組まず、一人でダンジョンに潜っているのだから有名にもなる。今一番この街で有名だとか。

 だけどこれだけ視線を集めても、『聖騎士』は気にすることなく、受付嬢と話している。顔は美人だが、どこかぼーっとしている雰囲気があった。

 俺は話を聞かせてくれた冒険者達にお礼を言って、仲間の元へと戻ると、3人に今の話をした。


 「そんなにお強いのですか。私達も負けてはいられませんね」


 「そッスよ。力をつけて、これからガンガン稼ぐんスから」


 リディアとシギルはやる気になっているな。確かにその通りだ。俺達は他の人の事を気にしている余裕はない。


 「そうだな、とりあえず行くか」


 「この後は、どうする、です?」


 「もちろん明日の為の買い物だ」


 明日は試しにダンジョンへ潜ることにしている。そのために準備をしなければならない。

 俺達は『聖騎士』を見ている冒険者達を横目にギルドを後にした。



 とは言ったものの、明日は試しに潜ってみるだけで、その日のうちに戻ってくる予定だから必要な物はないのだが。それに何が必要かなんて、初めてちゃんとしたダンジョンに潜る俺達には分からない。

 本当はポーションや毒消しの薬が欲しいのだが、この世界の回復薬は非常に高い。まず、高度な回復薬はダンジョンから手に入るのだから、値段が高いのもうなずける。そして錬金術で作ることが出来るポーションも材料は結局ダンジョンに生える植物や一部の魔物から採取しなければならないのだから、やはり高額だった。今の俺の予算では買えなかった。

 できれば、念の為に一本は持っておきたかった。これを期に自分で作っちまうか?錬金術の道具や本でも探してみようか。


 「それにしても凄い人混みッスね」


 「頭が、クラクラする、ですぅ」


 「エルは人混み苦手ですからね、離れないように手をつなぎましょう」


 「はい、です!」


 エルとリディアが手を繋ぐ姿を見ると微笑ましいな。


 「で、旦那。何買うんすか?ポーションは諦めたんスよね」


 「そうだな。あれは高価過ぎて買えないな。だから、錬金術の道具と本、後は調味料を手に入れたいから、安そうな店見かけたら教えてくれ」


 この世界で欲しいものが手に入る国はブレンブルク自由都市だと言われている。その次には、ブレンブルクから一番近いこの迷宮都市オーセブルクだとヴァジから聞いた。

 まさにその通りで、俺が欲しい物が売っている店がたくさんあった。この街にある店舗もだし、露店にも売っていた。俺の好みは露店だ。わけあり商品も多いがその分安い。

 俺達は色々な露店を回ってみた。皆で露店巡りも楽しいものだな。


 目当ての物はすぐに見つかった。錬金道具と本がセットで大銀貨5枚だった。他の露店でも見たがここが一番安く、本の内容もそれなりに新しい情報だったからこれを購入。調味料も色々買った。調味料といっても、地球で手に入るようなものはなく、塩コショウの類が多かった。高価な胡椒と砂糖は買うことを諦めたが、マスタードっぽい物やみりんっぽい物が手に入ったのは僥倖だったといえる。さらには唐辛子っぽい物やオリーブ油っぽい物なども手に入った。

 全て、『ぽい物』なのは、ダンジョンで手に入る物で作られているのと、この世界で手に入る物だから名前が違うからだ。味見した結果、それっぽい物ということで購入を決めた。その他にも色々と買ってしまい銀貨5枚も使ってしまったが、価値はある。日本で使われていた調味料を自分で作ってみるつもりだからだ。早く作って皆にも食べさせてあげたいね。


 後必要なものといえば、料理道具やテント、ランプなど野営に必要な物だった。これが非常に高くて手を出しづらいが、必ず必要だとアンリに教えてもらったから購入を決意。ダンジョンなのだから、寝る時に木と布で適当にテントを作ろうと思っていたのだが、一年中雨が降っている階層があるらしいので、雨を弾く魔物の革で作られたテントを買うことにしたのだ。なんと全部で金貨1枚もしたから、冷や汗が止まらん。

 一応、用意しておかなければならないものは買ったから、宿に戻ることにした。

 何よりエルが限界だった。まだ、人混みは苦手みたいだ。終始俺達の誰かと手を繋いでいたからな。



 宿に戻ってくると、荷物を置いてから三人に留守番を頼むと俺は一人で街に戻ってきた。

 何故三人を置いてきて一人でかというと、金銭を工面する為だからだ。やはりこういうのは皆に心配かけたくないからな。

 リッチから手に入れた宝杖を商人ギルドで売るためだ。多分、普通の商人の方が高価で買い取ってくれるんだろうが、詐欺を恐れたのと、ある程度値段が分かるようになるまでは商人ギルドで基本値を調べることにしたのだ。



 商人ギルドの前まで来た。冒険者ギルドの真裏だったのが二度手間感で少し悲しい。

 商人ギルドは冒険者ギルドと繋がっていた。あれほどの大きな建物だった意味がようやく分かった。つまり、両ギルドが管理していたわけだ。この街の冒険者ギルドに買取の受付がないのはこういう事だったのか。

 とりあえず中に入ってみると、中は冒険者ギルドと変わらなかった。冒険者ギルドで依頼達成の報告をした後、その足で商人ギルドに物を売る冒険者が多いらしい。街の商人に売ったほうが得なのはわかるが、ダンジョンに潜った後は面倒だよな。

 おっと、とりあえず俺も買取の査定してもらおう。

 買取カウンターへと行ってみると、ある人物が買取してもらっていた。冒険者ギルドで見た『聖騎士』だった。


 「エリー様、では買取金額は大金貨1枚ですがよろしいですか?」


 どうやら『聖騎士』はエリーという名前らしい。そのエリーはしばらくぼーっとしてから、こくりと頷いた。

 あまり話さない人っぽいな。しかし、雰囲気が独特だなぁ。それにしても大金貨1枚と聞くと大したことないように聞こえるが、日本円で十万円程度稼いできたのか。この世界の物価からすると100万円の価値ということだから、すごい稼いだな。さすがはAランク冒険者ということだろう。


 「かしこまりました。では少々お待ち下さい」


 取引が成立したらしいな。おっとそんなことやっている場合じゃない。俺も買取してもらわないと。

 『聖騎士』の隣が空いていたからそこに行くとすぐに受付嬢が来た。


 「いらっしゃいませ。商人ギルドオーセブルク支店へようこそ、本日は買取の査定でよろしいでしょうか?」


 そういえば商人ギルドの本店はブレンブルク自由都市だったな。支店でも、商人ギルドの接客はどこもしっかりしてるなぁ。


 「はい。この宝杖を査定していただけますか?」


 「かしこまりました。少々お待ちください」


 受付嬢は手袋をつけると宝杖を持ち上げる。受付嬢と言っても鑑定出来る技術を持っているから、兼鑑定士なんだろうな。

 しばらくルーペでみたり、叩いたりしている。今見ているのは、金属や宝石が本物かどうかだろう。


 「こちらはマジックアイテムみたいですね。専門家を呼びますのでもう少々お待ちいただけますか?」


 なるほどマジックアイテム関連は専門家がいるのか。

 俺は頷くと受付嬢は奥へ消え、すぐにもう一人スタッフ連れてきた。今度はそのスタッフが手袋を着用し、宝杖を見る。


 「これは素晴らしいですね!確か、シリウス帝国の前の国だったクラウス国の英雄が持っていた宝杖がこんな感じだったと思いますが」


 「ああ。確かに魔力を込めると石壁が出るんですよね、それ」


 「では、本物ですか?!」


 俺は軽く手に入れた時の話をしていると、視線を感じた。

 振り返ると後ろで『聖騎士』が俺のことを見ていたのだ。熱心に俺の話を聞いていた。


 「あの、何か御用ですか?」


 「その宝杖、売って欲しい」


 『聖騎士』は宝杖を欲しかったらしい。それにしても綺麗な声だな。抑揚を感じないし無表情だが。


 「えっと、何故でしょう?」


 「その宝杖は形見」


 形見?それじゃあもしかして……。


 「じゃああんたはルドルフの?」


 俺が名前を言うと目を見開いた。ずっと無表情の彼女が珍しい。ルドルフは俺が倒したリッチの名前だ。


 「ルドルフは曽祖父」


 血縁者だったのか……。


 「最後を知りたいか?」


 俺が言うと彼女は頷いた。そうだよな、知りたいはずだ。


 「えっと鑑定士さん。それはいくらぐらいの査定ですか?」


 「そうですね。大金貨3枚といったところでしょうか」


 「せっかく査定していただいたけど彼女に売ることにします。申し訳ない」


 「いえ、お話は聞こえてました。そういうことなら仕方ないですね。また、違うものが手に入ったらぜひうちで売って下さい」


 「わかりました。ありがとうございます」


 鑑定士から価格を聞くと『聖騎士』と共に商人ギルドを出て、冒険者ギルドにある酒場へ行った。

 そこで俺はリッチの、いやルドルフの日記の内容を彼女に伝えた。そして、リッチとして蘇ったから俺が倒したこともしっかりと伝えた。

 彼女は無表情のまま最後まで静かに聞くと、小さく頷いた。


 「ん、ありがと」


 彼女の言葉はそれだけだった。俺はルドルフの死に関わっていないが、その後魔物として蘇った彼を倒したのだ。それなりに恨まれる覚悟もあったが、お礼を言われただけだった。


 「俺を恨まないのか?」


 「何故?あなたは関係ない。魔物は魔物。ルドルフじゃない」


 魔物として蘇ったのなら、それはルドルフではないと彼女は言う。その通りだと思う。彼女は無表情で何を考えているかわからないが、常識人だった。


 「それで売って欲しいというが、いくら出すんだ?」


 実はこの質問は彼女を試している。


 「大金貨5枚」


 そうか、事実か。

 俺は、彼女が嘘を言っているのではと思ってしまったのだ。詐欺をし、安く買取り高く売ろうとしているのではと疑ってしまった。

 疑って悪かったと思ったから、彼女に売ることに決めた。


 「君に売ることに決めたよ。本当は譲りたいが、俺も仲間を食わせなきゃいけない。大金貨1枚でいいか?」


 俺も甘い。まだ彼女が嘘を言っている可能性はあるのだ。大銀貨5枚で売ればこの先余裕が持てるのだが、どうにもそんな気にはなれなかった。商人ギルドより安く売ることにした。

 彼女はまた目を見開く。


 「いいの?あなたを騙している可能性がある」


 「騙してるのか?」


 彼女はふるふると首を振った。


 「なら、信じよう」


 「ありがと」


 大金貨1枚と宝杖を交換する。『聖騎士』は宝杖を手に取ると抱きしめた。色々思うことはあるのだろうけど、聞かなかった。


 「俺はギルだ。君はエリーで良かったか?」


 「どうして知っているの?」


 「すまない。さっき商人ギルドで聞こえていたんだ。馴れ馴れしかったか?」


 「別にいい」


 エリーは呼び捨てでも気にしないみたいだ。『聖騎士』とは呼びたくないからな。


 「ギルは冒険者?」


 「そう、明日から潜るんだ」


 それからエリーと色々ダンジョンの事を話した。情報も集めることが出来て良かった。エリーは帰ってきてばっかりで、しばらくゆっくりしてからまた潜ると言っていた。

 気づけば長時間話してしまった。そろそろ帰らないと3人が怒る。


 「色々話を聞けてよかったよ。またダンジョンであったらよろしくな」


 「うん。また話そう」


 そうして俺達は冒険者ギルドの酒場を出た。エリーは無表情で抑揚のない話し方をするが、落ち着く人だった。また話したいと思ってしまった。


 さて、明日からダンジョンだ。

 こうして俺は宿へと戻っていくのだった。

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