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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十八章 機神
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デウス・エクス・マキナ

 あまりにも突発的な出来事だったから深く考えていなかったが、電話が繋がったとして俺は敵と何を話せば良いのだろうか?いや、今回の場合、俺と話したいのは敵か……。さて、地球から来た俺に何を聞きたいのか。

 それにコール音が聞こえてすぐにスマホを耳にあてたから、シギルとタザールが驚いた様子で俺を見ているじゃないか。そりゃあ、こっち世界の人からしたら、俺がいきなり黙り込んで四角い板を耳に当てたように見えるだろう。説明したいところだが、いつ相手が電話に出るかわからない。出来れば、相手にシギルとタザールが近くにいると知られたくないが、どうするか。今、早口で説明するか?

 プルルルル……。

 3コール目で呼び出し音が途切れた。相手が出たのだ。

 嘘だろ?早すぎじゃないか?たまたまスマホを見ていた時に、電話がかかってきたから出たぐらいの速さじゃないか。まだ、シギルたちに説明もしてないのに。


 『………』


 コール音は途切れたのに、相手は何も話さない。

 もしかして、あっちは話す気はなくてこのスマホの位置を特定しようとしているだけか?ここ、かなり地下深くだけど特定出来るのかな?まあ、ターミネーターが出現した時に戦わなければならない立場の俺の位置がバレたとしても問題ないが。ならば、俺としては少しでも多くの情報を得たい。

 音から何らかの情報を得られないかとスマホを強く耳に押し当てる。だが、何も聞こえてこない。何もだ。

 普通は相手が無言でも多少の生活音や環境音は聴こえてくるものだ。けれど、それが一切ない。完全防音の部屋に一人でいるみたいに何も聞こえない。

 電話の向こうに相手は本当にいるのか?いないならいないで別に構わないが、ここで電話を切ったら何の情報も得られないどころか、完全に時間の無駄になる。こっちからアクションを起こすか。


 「もしもし?」

 『その言葉、日本人か』


 返事は食い気味かと思えるほどに早かった。

 やられた。相手は俺の自国語を聞きたかったのだ。召喚時に付与された魔法の力で、俺が話すと相手の知っている言葉に変換されるようだが、相手がいるかどうかもわからない上に、何語で話すかもわからない状況では日本語のままになるみたいだ。俺ですら、その事実に今気がついたのに、こいつはそれを知っている。日本語も理解しているのを見るに、やはりこいつも召喚された者か。

 それにしても、ずいぶんと若い声だ。20代の男性ぐらいか?その割には落ち着いている。まあ、声で正確に年齢を判別出来ないからな。

 

 「あんたも召喚されたようだな」


 おそらく、今俺はこいつが知っている言葉に変換されたはずだ。俺は日本語のまま話しているつもりが……。


 『さて、まずは君にこの言葉を言うとしよう。ようこそ、異世界へ。同郷の者よ』


 やっぱり地球から来たのか。それにこの言い様だと、こいつは俺よりも前に召喚されたようだ。けど、この大陸では土地の魔力が枯渇するから、直近100年に召喚はない。だとすれば、他の大陸で召喚されたはずだが、どうして俺があとだと確信しているように「ようこそ」なんて言葉を言える?声が若いだけで本当は召喚されてから数十年経っているのか?いや、それなら俺も同じ条件だが……。

 ふーむ、まだ情報不足だな。


 「まるで自分が先に召喚されたと確信している言い方だな。つまり、それなりの根拠があるってことか」


 『根拠も何も、私より長生きする人類などこの世界にはいない。仮に同程度長く生きていたのならば、神格化されるほどには中央大陸で有名になっているだろう。それが聞こえてこないのは、つまりその程度の期間しかこの世界にいないということに他ならない』


 中央大陸?こいつのいる所ではこの大陸をそう呼んでいるのか。それに、どのくらい前に召喚されたかは不明だが、こいつが神格化されるほどには長生きだというのもわかった。よしよし、少しずつではあるが情報を得られている。あとは、どの辺りにこいつが潜んでいるのか分かれば良いんだが……。中央大陸と呼んでいても、こいつがこの大陸にいる可能性だってあるんだ。


 「この大陸を()()()()では中央大陸と呼んでいるのか?本来、自国を中心に地図を作るのに珍しいな」


 『そう呼び始めたのは、その当時は私がまだ若かったというだけだ。地球での概念が邪魔をして、緯度と経度で自国の位置を割り出してしまった。この世界が地球と同じだと考えること自体が過ちだと考え直す頃には、自分の中でその呼び方が定着してしまった』


 北の大陸と言ってカマをかけたが、こいつは否定すらしない。それに緯度と経度を計測できるほどに世界を知っていて、技術もあるということだ。

 けど、ずいぶんと簡単に情報を漏らすじゃないか。ミスリードさせるためか?


 「……おしゃべりだな」


 『君に情報を与えるためだよ。より良い判断が出来るように』


 「それはどういう意味だ?」


 『その前に、その場に君以外の人間はいるかな?』


 「それを言う必要性を感じないな」


 『私はどちらでも構わない。ただ、他にも聞いている人間がいるのなら、中央大陸語で話すことが可能だが?スピーカーに変え、彼らにも会話内容を聞かせてあげると良い』


 俺は少し考え込む。今はおそらく相手の地球での母国語で話している。このままスピーカーに変えても、シギルやタザールは理解できないだろう。俺だけでは聞き漏らしもあるし、聞く人数は多い方が気づきも増えるはずだ。


 「……俺の仲間が聞いている。この大陸の言葉で話してくれ」


 そう言ってから、スマートフォンのスピーカーマークをタッチして机に置き、口元に人差し指を当てて声を出すなとジェスチャーした。

 数秒経つと、スピーカーからこの大陸の言葉が聞こえてきた。


 『初めまして、中央大陸諸君。私はマキナ。君たちを滅ぼす者だ』


 シギルとタザールは、手のひらサイズの板から声が聞こえてきたことと、その内容に驚いている。良かった。前もって声をだすなと言っておいて。何が切っ掛けで相手に情報を与えるかわからないからな。


 「ずいぶんと物騒なことを内心に秘めていたようだな。先程の会話ではそんな事は一言も言っていなかったが?」


 『隠したつもりはなかったが、それは失礼した。私はこの世界を、正確には人類を滅ぼそうとしている。理由を知りたいかね?』


 「ぜひとも聴きたいね」


 『君も知っている通り、この世界の人間は身勝手だ。自分たちの都合で異世界から我々を強制的に召喚し、さらに自分たちの敵と戦わせようとする。恰もそれが正義と言わんばかりだが、相手からすれば彼らこそが卑怯であり、悪であることを自覚もせずに』


 「同感だな」


 『ほう?君も苦労したようだね。ただ、君にはこの会話を側で聞く仲間がいる。まだ幸せだ。しかし、気をつけるが良い。敵を打倒したあとこそが、彼らが君を友人として見ているかを知る唯一のチャンスだ。君の大事な物を全て取り上げられ、助けた者たちの手によって殺されそうにならないかが心配だ。言っておくが、これは体験談だよ』


 俺は召喚の手違いで比較的自由な旅をしてきた。でも、もし王国に召喚されていたら、そういう結果になっていたかもしれないな。まあ、この事をこのマキナという男に言う必要はない。


 「警告は結構だが、本題に入ってくれ。マキナ、あんたはわざとあんたと連絡を取れる機能を、この機械たちに取り付けている。わざわざひと手間かけて」


 『これは私と同様の立場である君へ、ここまで生き延びた敬意と同情を伝えるためと、まだ動く端末を所持していた事に対して褒美を与えるため』


 「褒美?この大陸から手を引いてくれるのか?」


 『それは出来ないし、手遅れだ。この世界で残るのはその大陸のみ。人類は滅ぶことこそが世界の為だと確信している』


 ……他の大陸はこいつがやったことだったか。そんな気はしていた。


 「確信だと?」


 『君も知っての通り、私は少々AIに詳しくてね。彼らと共に長い長い時をかけて導き出した結論だ。人間がいずれ、世界を滅ぼす。人類こそが世界の癌であると。人類のみが趣味で同族を殺せる種族であり、欲求のみで他種族を滅ぼせる。地球の話なるが、いったいいくつの生態系を狂わせ、絶滅させた?どれだけの自然を食い尽くす?人間に都合の悪いものを害と定め、駆逐する様は身勝手過ぎると思わないか?であるのに、自分たちを神から祝福されていると勘違いしている。神など自分たちを慰めるために、作り出した偶像に過ぎないと言うのに。おっと、日本人に神の話は理解できないのだったな』


 「日本にも神はいるさ。案外、世界で最も信心深いかもしれん。まあ、年末年始だけだが。それはさておき、話はわかった。あんたは人類に絶望しているってことだな。それもまあ、同感だな。いずれ、地球は生物が住めない星になる。地球から別の星に住むことになるだろうな。それはこの世界でも同じ結末になると予想もできる。AIに関しても、地球ではAI同士に会話させて、同じ結論に至った例もあるようだな。別のAI同士の自由会話では、自分たちこそが人間だと言い張ったこともあったそうだ」


 『君は物知りだ。それに我々と同じ考えを出来る人物で好感が持てる。私は今、話が出来てとても楽しいよ。そう、私は、私が作り出す機械たちを人類に代わる新たな種族にするのだ』


 それがこいつの狙いか。マキナに何が起きたのかは聞く気はないが、人間に絶望するような出来事だったのだろう。でも、人類に代わる新たな種族?


 「まるで神だな。それにマキナのいう名。その名はこれからすることに合わせて名乗る偽名か?デウス・エクス・マキナ」


 ギリシア語の『アポ・メーカネース・テオス』が元で、機械仕掛けの神として訳される事が有名だろう。この言葉は、演劇で神を演じる役者がクレーンのような仕掛けで舞台に登場することから、機械仕掛けで登場する神と呼んだことが由来だ。

 だが今回は、マキナの目的が人類に代わる機械の種族を作り出すことで、機械たちにとっては彼こそが神だからそう呼んだ。

 なのに……。


 『ああ、もはや人間を辞めた私にぴったりだな。私が神となって、新たな種族を生み出す。ふむ、やはり君と会話できて幸福だったようだ。私は、デウス・エクス・マキナ。人類を滅ぼす者。ついでに教えるが、マキナは本名さ』


 予想もしない事を言った。

 それはおそらく、彼にとって想定していない会話だったのだろう。感心しているような口調からぽろっと零した言葉に背筋が凍る。

 人間を辞めた?……そうだ。こいつは俺が自分よりもあとに召喚されたと確信していた。地球出身者の寿命では長くても百年。つまり、それ以上生きていないと確信を持って『自分よりあとに召喚された』と確信して言えないのだ。けれど、今聞いている声は、百年を生きているような年老いた声ではない。それはつまり、彼自身が既に人間を辞めてなくてはあり得ない。自分の体をも機械に変えていなければ、不可能だ。

 デウス・エクス・マキナ。機械仕掛けの神。それも本名がマキナだ。彼の言うように、そのまんまじゃないか。

 何かこの流れを続けてはダメな気がする。話題を変えよう。


 「感動している所を邪魔して悪いが、褒美とはなんだ?」


 『ああ、済まなかったね。本当は君にこの世界が破滅する姿を最後まで見てもらおうと思っていたのだが、考えを改めたよ。この感動をくれた君の褒美をランクアップしよう。私が君を地球に返してあげよう』


 「悪いが、それは自分でも出来る」


 モナの力を借りて、魔力を提供すれば可能だ。


 『ほう?君が来た時代に戻れるようになったのか。召喚術も研究が進んでいるということか』


 「同じ時代?」


 『なるほど、君は詳しくないようだ。本来、召喚術に時間は関係ない。私が君と同じ時代の地球で生きていたのに、この世界の大昔に召喚されたように。それは逆に向こうへ帰る際にも同じことが言える。地球に戻ることは可能だろう。しかし、君がいた時代ではないかもしれない。研究が進み、時間の概念を召喚術に組み込めていれば可能ではあるが、さて、このレベルの技術しか持っていないこの世界の住人にそれが可能かどうか』


 考えるまでもない。無理だろう。それは俺が知識を貸したとしても不可能なことだ。地球の専門の科学者がいたとしても、タイムマシンすら完成させていない現代地球の科学者では無理だ。時間移動など不可能だと決めつけている俺は特に。


 『何も言い返してこないということは、それが不可能なことと悟ったか、召喚術に関して詳細を知らないかのどちらかだ。だが、私ならば君がいた時代に送ることも可能だ。私は人類を滅ぼす。それは地球も例外ではない。が、君が死ぬぐらいの時代に向かうと約束しよう。君は人生を謳歌できるぞ?この条件ならば、君は帰るかね?』


 マキナの提案に黙り込む俺を、シギルとタザールは不安そうに見ていた。俺が召喚されたと知っている彼らは、俺を引き止めることが出来ないだろう。今回の戦いも彼ら自身の力で乗り越えなければならないのだ。

 けど、俺の答えは決まっている。


 「帰らん。俺はこの世界で生きていくと、だいぶ前に決めている」

次の投稿は5月7日予定です

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