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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十八章 機神
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滅亡の危機

 警戒するように指示を出してから5日が経った。当然と言えば当然だが、この短期間では成果などない。

 見回りしているティリフスや警備隊、入出国を監視している兵士やエルからも怪しい人物の報告はない。リディアもまだ帰ってきていない。

 それはターミネーターの弱点を探している俺たちも同じだ。わかったことと言えば、ターミネーターの体はやっぱり硬いということ。ノミのような工具で思いっきり叩いても少しの傷しかつけれず、高温の火魔法でも溶かすことが出来なかった。これではこの大陸の殆どの人間が、ターミネーターを倒すことなど出来ないだろう。

 ターミネーターの体は、シギルも知らない金属で出来ているらしく、大陸にこの金属は存在していないようだ。硬度はなんとミスリルよりも硬いそうだ。そして、俺が弱点だろうと予想していた胸の部分や関節のような重要そうな部分は、分厚いこの金属で守られていた。今回討伐したターミネーターは胸の部分を『電磁加速砲』で吹き飛ばしてしまったが、前回のシリウスとヴァジの二人で討伐したターミネーターを調べて判明した。念のため、前回倒したターミネーターを借りておいて良かった。

 では、どうやってシリウスたちは前回のターミネーターを倒したのかだが、それは残骸を見てわかった。首をはねてとどめを刺したのだ。

 首と胴体をつなぐ部分の隙間に運良く剣が入り、首をはねることが出来たようだ。

 これが弱点かと喜んだが、今回のターミネーターの首を確かめてみてがっかりした。今回のターミネーターはこの首部分に隙間などなく、さらに金属で覆う改善が施されていた。弱点は見つかっていない。


 半月が経っても成果がない。喜んだことと言えば、リディアが帰ってきたことぐらいだ。リディアにはスパールと一緒に政務を手伝ってもらうことにした。


 一ヶ月が経った。動力源と思われる胸の部分と頭部は分厚い金属で覆われているが、よく見ると2つをつなぎ合わせて一つにしていることがわかる。なのに、どうやって接着しているのかはわからない。溶接しているように見えない。……つまり、何もわかっていない。

 街を監視している者たちからも、不審人物の報告はない。

 俺は間違ったことをしているのではないかと、焦燥に駆られ始めた。


 二ヶ月が経つ。ここでようやく進展があった。魔法都市とエルピスに異常はない。だが、オーセブルクから不審人物の報告が上がった。その人物は恐ろしく規則的な行動をしているらしい。同じ時間に同じ場所に立ち、同じ時間に移動を開始して、同じ順序で街を歩き回る。

 もちろん、そういう性格の人もいるだろう。だが、その行動は一日続いているそうだ。朝夕、そして夜中。それに気がついたオーセブルク警備兵が仲間と交代で見張った結果、数日間睡眠を取らずに行動していることが確認できたらしい。その人物は()で、顔もこれといった特徴がなく、覚えにくい容姿をしていて発見が送れたと報告書には書いてあった。

 間違いなくターミネーターだろう。相手に悟られないように近づかず、話しかけもするなと指示を出した。何とかしたいが町中にいるとなると、戦うわけにはいかない。弱点を見つけて一撃で仕留められるようになるまで放置するしかない。

 ちなみに魔法都市やエルピスではこういった人物の報告はない。魔法都市にはいないのか?

 弱点探しの方でも進展があった。重要部分は完全なブラックボックスだと諦めかけていたが、重要部分を覆う金属を毎日諦めずに触っていたシギルが、ある違和感に気がついたことが切っ掛けだ。

 俺にはそんな違和感はなかったのだが、シギルにはほんの僅かに突起物があるように感じたそうだ。やっぱり手がちっちゃいから感じ取れるのだろうか?

 それはともかく、その突起物らしきものを調べることになった。だが、調べるのにも一苦労あった。なんせ、俺の触覚では突起物を感じられないほどなのだ。非常に小さいものだとわかるだろう。それを調べるには倍率の高い凸レンズがなければ無理だ。まずはそれを手に入れるところから始めた。

 この世界にもルーペはある。だから凸レンズを作り出す技術はあるのだが、鑑定スキルがあるからかルーペは多く作られていない。なんとかクリークに職人を探し出してもらい、高倍率の虫眼鏡を作ってもらったのだ。

 そうして虫眼鏡を手に入れ、ようやく調べられることになった。結果、その突起物はネジであることがわかった。こうして重要部分を覆う金属が、ネジによって接着されていることが判明した。そして、虫眼鏡で調べることで、ネジが数か所あることもわかった。このネジを取り外すせば、重要部分を覆う金属を開き、中を調べることが可能になる。

 しかし、ここにも問題が。ネジは目に見えないほど小さく、取り外すための工具、つまりドライバーが存在しないことだ。ネジ自体は地球でも紀元前からあったと言われている。しかし、締結ネジともなると1500年になるまで記録がない。そんなネジの、さらに触れても違和感のない小ささのものを取り外す工具などこの世界に存在するはずもない。当然、作る必要がある。

 もちろん、作成は信頼できる鍛治師のシギルに任せた。だが、そんなシギルでも工具を作るのには手こずった。作ってもサイズが合わなかったり、ようやく合っても小さく細い工具は強度が弱く、折れ曲がったりもして失敗が続いた。

 ミスリルを使うことでようやく問題が解決し、工具が完成。あのシギルでも完成に一ヶ月の時間を要した。

 その間、弱点探しはタザールに任せ、俺は政務を片付けることにした。一つのことに集中できない立場というのも辛いものだ。


 3ヶ月が経った。工具の完成を待ち、俺が政務を片付けている間に他国では多くの問題が起きていた。

 ちょくちょく帝国と自由都市に書簡で連絡を取り合っていたのだが、自由都市では飛空艇を個人所有する商人たちが新たなる地の発見を目指して海の向こうに行く計画が随分前からあったそうだ。そして、1ヶ月前にその飛空艇が出発したことは自由都市の書簡で知っていた。

 ターミネーターの事があるのに行かせてしまってよかったのかと言ったのだが、北には行かないよう命令をしたから問題にはならないと返事が来た。

 とにかく、自由都市の商人たちは東、西、南の北を除いた三方向に探検隊が出発した。

 それから1ヶ月が経った現在、最初の探検隊が帰還した。だが、その報告でとんでもないことが判明したのだ。

 問題の報告をした探検隊はこの大陸の東に向かったのだが、計画としてはまず自由都市とも交易をしていた島国に立ち寄り、そこからさらに東に行く予定だったそうだ。ちなみに昔に俺が学院の生徒に教えた7属性の七曜術は、この国の魔法だ。

 探検隊はここで補給を済ませてさらに東を目指した。飛空艇を一週間飛ばしたところで陸地を発見。その陸地は真っ白な大地だったそうだ。法国のような雪国なのかと考え、探検隊はしっかりと防寒具を着込んでからその陸地に降りたそうだ。

 だが、その陸地は寒くなかった。大地に積もっていた白いものは雪ではなかったからだ。ならば、山の噴火が起きて灰でも積もったのかと慌てたそうだ。しかし、その白いものは灰でもなかった。理解できないことに恐怖を感じ、探検隊はすぐ飛空艇へ戻った。それから飛空艇でその陸地を調べることにした。結果、その陸地は途轍も無く広い大陸だったそうだが、その全てをその白いものが積もっていたそうだ。街と思われる建物群も発見したらしい。けれど人の気配どころか、生物の気配は一切なかった。

 探検隊は未開の地が人の住める場所でないことにがっかりしたが、発見という点では大成果で大喜びした。食料の問題もあって中途半端ではあるが、探検隊は自由都市に戻ることにしたようだ。そうして一ヶ月を掛けた大探検の報告を自由都市に持ち帰ったのだ。

 時を同じくして、自由都市は軍を北へ出発させた。もちろん、飛空艇隊を組んだ空軍で。これはターミネーターの本拠地がどのような場所かを偵察するためだったそうだ。

 約一ヶ月の偵察任務。帰ってきた偵察隊の報告は、驚くべきことに探検隊と同じものだった。北に大陸を発見。しかし、その大地は雪でも灰でもない白いものが積もっていて、人の住める場所ではなかったと。

 さらに、少し遅れて西と南に向かった探検隊も帰ってきた。報告は同じ。白いものが積もっていて、生物が存在しない陸地があったと、そう報告してきたそうだ。

 はじめ自由都市の首脳陣は、商人たちが口裏を合わせているのではないかと疑ったそうだ。新大陸を国主導で開拓される前に、自分たちでしたいがためにと。だが、探検隊ではなく、偵察隊までもが同じ報告をしていることで、その疑いが晴れた。だが、ある最悪の結論に至った。

 それは、この大陸以外にヒトは存在しない、という結論に。

 俺はこの書簡を読んで、自由都市を疑った。新大陸は自分たちが好き勝手したいがために嘘を吐いているのではと。でも、嘘を吐いたところで、各国が飛空艇を所持しているのだからすぐにバレるのだ。この嘘に意味がない。つまり、これは真実だ。この星は人類滅亡寸前だということになる。

 そうなると、この大陸も他人事ではない。東西南北の陸地はいつ、そして何が原因でこの白いものが積もったのかを調べなければならない。

 考えられるのは災害だ。そう考えるのが自然だろう。けれど、どうしてもターミネーターが関係しているのではと考えてしまう。何故だろうか。

 とは言え、情報不足で証明できるものではない。それは自由都市の首脳陣も同じ考えのようで、再び、偵察隊を出す予定だと、最新の書簡には書かれていた。

 問題を知らせてきたのは自由都市だけではない。帝国もだ。

 帝国はターミネーターに対抗するため、兵士たちの訓練強化や、対等に戦える人物を探すことに力を入れた。シリウス自身も強くなるために帝国内にあるダンジョンを攻略していた。

 だが、問題は三ヶ月が経った現在に起きた。

 帝国の食料庫と言われる領地で人々が蜂起したのだ。それも武装蜂起。だが、放棄した人々は『一揆』と言っているらしい。

 一揆とは、圧政に抵抗するために農民などが反乱を起こすことだ。

 けれど、俺にはシリウスが圧政を強いているようには思えない。しっかりと民のことを考えているように見えていた。彼らのことを考えて、魔法都市からトイレを買ったことだって記憶に新しい。だからこそ、革命の国と言われる帝国で十年以上革命の兆しがなかったのだ。なのに、ここにきて武装蜂起?

 タイミングと言い、なにやら陰謀めいているが、その場にいない俺がそう思った所で何も出来ない。

 とにかく、しばらくはシリウスの身動きが取れない。「前皇帝との契約もあり、鎮圧に掛かりっきりなるだろう」と、シリウス本人から書簡が送られてきた。

 鎮圧にどれくらいかかるかわからないが、数ヶ月はターミネーターが襲来したとしても助けてくれない。かなり不味い状況だ。

 ターミネーター側に有利な状況が続いている。運が悪い。

 とは言え、シリウスが王である現帝国が、蜂起程度で滅亡するとは思えない。時間は掛かるだろうが確実に鎮圧するだろう。

 念のため、もし助けが必要ならすぐ連絡するようにと、シリウスに書簡を送っておいた。

 その直後、シギルからネジを外せる工具が完成したと報告が届いた。

 俺に出来ることは一刻も早く弱点を探すことだ。急がなければならない。

次の投稿は3月26日予定

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