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もしかしたら俺は賢者かもしれない  作者: 0
十八章 機神
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最悪の予想

 なんとか全員生存でターミネーターを倒した俺たちは、降下挺を呼び出して自由都市の飛空艇に戻った。ターミネーターの残骸も忘れずに回収した。ただ、『電磁加速砲』に使ってしまった左腕は遠くまで飛んでいってしまって行方がわからないため、回収は断念した。

 今回の戦闘に関して詳しく話し合うために、少し休んだあとは自由都市の飛空艇内にある作戦室に集合することになった。もちろん、シリウスも参加する。

 俺は傷を治癒ポーションで癒やし、汚れた服から用意された服に着替えると作戦室へ向かった。

 ヴァジもシリウスも既に到着していた。作戦室には他の兵士たちの姿はなく、俺たち三人だけだった。


 「俺たち三人だけか?」


 自由都市にとって重要な報告なはずなのにと、疑問に思った俺は入室直後に挨拶もせずこんな質問をしてしまった。


 「完全な勝利とも、余裕の勝利とも程遠い内容だったからな。英雄が三人がかりで、たった一体の魔物相手に苦戦したことを兵士どもには知られたくないんだ」


 いや、俺は英雄じゃないよ。

 飛空艇内の兵士たちは今回の勝利で大騒ぎだ。今は喜ばせてあげたいのだろう……。


 「ふん、二体目が出没した以上、この先も出没する蓋然性(がいぜんせい)が非常に高いのだ。余韻に浸るよりも対策させるべきであろう?事実をそのまま知らせろ。蒙を啓く頃合いだ」


 啓蒙か。シリウスが度々言っている『蒙を啓くのは王の務め』というのは、何を知らせ何を知らせないか、それをいつ知らせるかを決めるのは王の重要な仕事であるということ。けど……。


 「俺は迷うな。ターミネーターはさらに強くなってまた来るような気がする。もしかしたら既にこの大陸にいるのかもしれない。備えは必要だけど、国民全体に知らせるのは危険じゃないか?」


 「どちらにしろ俺は報告書を書くしかできない。判断するのは大統領だ。……それよりも、既にこの大陸にいるというのはなんだ?」


 そうだった。ヴァジはあくまで英雄であって、国の代表ではなかった。なんか、存在感も影響力も凄いから勘違いしてたな。ヴァジには今回の内容を、ある意味公務員的な立場に属する兵士たちに教える権限がないってわけか。


 「あー、うん。あくまで予想と前置きするけど、今回戦ったターミネーターは前回二人が戦った時よりも性能が上がっていた。つまり、強くなっていたってことだよな?」


 俺が二人の顔を交互に見ながら聞くと、ヴァジとシリウスは頷いた。

 あの魔物をターミネーターって呼んだことにシリウスから質問がなかったってことは、俺が作戦室に来るまでの間にヴァジが説明してくれたみたいだ。

 ヴァジが記憶を思い出すかのように視線をさまよわせながら口を開く。


 「……ああ。前回は、今回で言うところの最後の方の展開を、最初から最後までやっていた。シリウス皇帝が接近戦で、俺が横槍を入れつつ回復もしていた。姿を消しても見破られることはなかったし、俺が一人で戦っても多少の時間は稼ぐことも出来た。息を整えるのに交代していたのもあって戦闘は長引いたが、今回のように二人がかりじゃないと時間を稼げない程ではなかった。そしてなにより、ヒトの姿ではなかった」


 「あれ?そう聞くと、あまり性能が上がっているようには思えないな」


 結局、戦闘とは慣れだ。ターミネーターの戦闘スタイルが前回とは違っただけで、時間をかけて戦えば相手の戦い方に慣れて前回同様の展開になったはずだ。ターミネーターの性能が上がったって思っていたのは俺の勘違いか?まあ、前回の時は俺はいなかったから勘違いしても仕方ないけど……。

 俺が首を傾げていると、シリウスが「それは違うぞ、ギル」と首を横に振る。


 「前回から何年が経っていると思っている?我の成長を忘れている。その増した力や速さ、技に戦闘経験があっても圧倒出来なかった。そこのジークフリートも同様であろう。……が、致命的な負傷を負わされるほどにまで追い詰められた。確実に奴は強くなっていると言えよう?」


 なるほど、二人のレベルアップを忘れていたか。もし二人が鍛錬を怠っていたら劣勢だったのは俺たちだったかもしれない。そう考えるとゾッとするな。


 「そうかぁ。強くなっているってのは喜べないけど、予想の前提が崩れなくて良かったよ。で、話を戻すけど、既にこの大陸にいる可能性が大きいと思ったのは、人工皮膚で人の姿を模倣していたからだ。あの姿で人々に紛れていたらパッと見じゃ判別できない」


 「……街に潜んでいるっていうのは、さすがに考え過ぎじゃないか?」


 「かもしれない。でも強くなっていて、そして、これからもさらに強くなったターミネーターが現れるのは多分間違っていないと思う。今回のターミネーターはあまりにも二人と相性の良くない性能だったのが理由だ」


 「相性の悪い魔物ぐらい誰でもいるんじゃないか?それに相性が悪かったからってそれが街に潜んでいることにどう繋がる?」


 「あまりにもって言っているじゃないか。おそらく、あのターミネーターは前回の戦闘で得た情報で、二人を対策して性能を上げたんじゃないかと予想したんだ。シリウスの剣撃に耐える衝撃吸収に、修復する多耐性付きの人工皮膚。ヴァジの姿を消すスキルを看破する探知機能。見当外れの予想ではないと思う。ただ、前回のターミネーターは破壊されている。そうなると考えられるのは別のターミネーターが持ち帰った可能性だ。前回の戦いの場に、戦闘をしたのと別のターミネーターが潜んでいて、その記録を元に製造されたんだ。そう考えると、他にも情報収集しているターミネーターがいてもおかしくはない」


 俺が最後に「さっきも言ったが、あくまで予想だけどな」と締めくくると、シリウスが「チッ」と舌打ちをした。


 「その可能性があるなら、国民に知らせるのは早計か。こちらの言葉を理解しているかは疑問だが、理解していた場合は最悪な状況になる。本当に潜んでいるか、潜んでいたならどの程度かを把握するのが先か」


 この大陸の言葉をターミネーターが理解できている場合、国民に知らせたと同時に奴らの耳にも入る。その後、情報収集が目的で人々に紛れているターミネーターがどういった行動に出るのか……。考えるまでもないだろう。


 「それが良いかもな」


 俺とシリウスの会話を聞いていたヴァジもガリガリと頭を掻きながら「上になんて報告すりゃあいいんだ」と呟いていた。

 とは言え、俺も他人事ではない。魔法都市にも既に潜んでいるかもしれないから、帰ったら極秘で調査しないとならない。……いつも街でふらふらしているティリフスなら発見できるか?それも大事だが、今回の戦いで俺は役に立たないことがわかった。『電磁加速砲』なら倒せるが、魔法陣を展開する時間が稼せげない。予想が正しければ、これから先は各国の英雄に力を自国のことで精一杯になるはずだ。俺たちだけでターミネーター倒せるよう対策しなければならない。そのためには、ターミネーターのことを詳しく知る必要がある。


 「ヴァジ、頼みがあるんだが」


 「なんだ?」


 「前回倒したターミネーターの残骸を借りたい。あ、今回の残骸も一度魔法都市に持ち帰りたい。詳しく調べて弱点を探したいんだ。もちろん、弱点がわかったら、自由都市と帝国にも教えるから」


 ヴァジは悩むように顎を撫でるが、すぐに小さく頭を振ってから頷いてくれた。


 「俺たちよりもギルの方が詳しそうだしな。上に掛け合ってみよう」


 「ああ、頼む」


 ヴァジが交渉すれば自由都市のトップ連中も断れないだろう。これでターミネーターの残骸をくまなく調べることができる。弱点を発見するか、または特攻の魔法が開発できれば良いのだが……。

 思わず俺は「はぁ」とため息を吐く。その直後に入室禁止にしていたであろう作戦室の扉が断りもなく開かれた。

 開いた人物は兵士だった。顔を真っ青にして息を切らしている。

 おそらく只事じゃないはずだが、そんな事知るかと言わんばかりにヴァジはその兵士を睨みつける。


 「誰も入ってくるなと言っていたはずだが?」


 「も、申し訳ありません!ですが緊急で!」


 ヴァジは眉根を寄せながら顎をしゃくって「話せ」と促す。

 ヴァジだけではなく全員の機嫌が悪そうだからか、兵士は若干顔色を悪くしながらピンと背を伸ばして報告を始めた。


 「鉄の魔物が動き出しました!」


 ……嘘だろ?




 再起動したという報告を兵士から聞いた俺たちは、急いでターミネーターを保管していた倉庫へ向かった。倉庫は作戦室からすぐだった。

 倉庫の扉の前には兵士たちが数人で剣を抜いて構えていた。どうやら戦闘は始まっていないようだ。


 「状況は?!」


 ヴァジが声を張り上げながら兵士たちに駆け寄る。


 「よ、横たわっていた鉄の魔物が突然上体を起こしました!接触するなと命令を受けていたので、すぐに倉庫を出てジークフリート様に伝令を出しました。その後、近くにいた兵士を呼び、この扉を外から見張っています」


 声は裏返っているが、冷静な対応が出来たな。最新鋭の飛空艇に乗るだけあって、やっぱり有能な兵士たちが揃っているようだ。


 「よし、お前たちは下がれ。俺たちが中へ入って確認する。もし戦闘が始まったら乗組員は降下挺で脱出だ。行け」


 「「「はっ!」」」


 兵士たちが走り去って行くのを見送り、俺たちは倉庫内へ突入した。もちろん、先頭はシリウスだ。

 シリウスが剣の抜いて扉を開くが、倉庫内を見たシリウスが眉根を寄せる。


 「どうした?」


 「見てみろ」


 シリウスがそう言うので、俺も中を確かめてみる。

 確かにターミネーターは上体を起こしていた。しかし、扉を開けた俺たちに対して見向きもしない。というか、明後日の方向に顔を向けている。

 油断は出来ないが、突然襲われる危険はないようだ。ただ、気になるのは断続的に聞こえるピッピッという電子音と、その音と同時閉じられるターミネーターの瞼だ。

 いったい、何をしているんだ?いや、それよりも完全に停止したはずだ。もしかして心臓は動力源じゃなかったのか?

 当然、知らない情報が多すぎて答えは出ない。

 間もなくして、ターミネーターの瞼が完全に閉じると、起こしていた上体は再び音を立てて床に倒れた。

 シリウスが近寄って剣を首元に突きつけつつ様子を窺う。しばらくして何も起きない事を確認すると、俺とヴァジに向かって「来い」と顎で促した。

 近づいて恐る恐るターミネーターに触れるが動く様子はない。


 「なんだってんだ?まさか死んでなかったのか?」


 「最後の力を振り絞ったか。何かを為すには傷が深かったのであろうな」


 死んだ?力を振り絞った?違う、再起動して何かを成し遂げたから機能を停止したんだ。では、いったい何を?

 何故、明後日の方向を見ていた?あの電子音に瞬きにはどんな意味が?

 明後日の方向はどこだ。あー、太陽があっちだから、北か。自由都市の破壊された基地がある方か。ん?あれ?フィッシュプールって二度破壊されているよな。たまたまじゃなくて、そこが上陸地点だった可能性は?北の海を渡った向こうがターミネーターの拠点で、そこから出撃して真っ直ぐ南に向かうと行き着くのがフィッシュプールだから襲われたんじゃ?

 それにあの電子音と瞬き。最初聞いた時は自爆かとも思って身構えた。でも、あれが別の事をする時に鳴る音だとしたら?

 何となく嫌な予感する。あーいう音って、FAXとか昔にあったモデムとかで鳴る音に近かった記憶がある。

 おそらく基地である方向を向きつつ、電子音を鳴らす?

 ……まさか、通信か?!状況の報告と戦闘記録を敵基地に送られた?!

 まだ断言はできない。でも……。

 そうだった場合、今回の戦闘で使った魔法や戦術はもう通用しないだろう。回復魔法も、電磁加速砲も。さらにレベルアップしたヴァジとシリウスのデータまで相手には知られてしまった。俺の存在も。

 ただ、ターミネーターが既にこの大陸中に潜んでいる可能性はなくなったか?いや、小さくなっただけか。通信が出来ても、単独である根拠にはならない。調査はすべきだろうな。

 暫定的なことばかりだが、悠長にしてはいられない。魔法都市に帰ったら早急に対策を練らなければならない。


 「クソ厄介だな、チクショウ」


 思わず溢れた言葉に、ヴァジとシリウスが同時に肩をすくめる。別に二人がそんなに仲が悪くなかったと知れたことが、今回の件で得た最高にどうでも良く、最高に良い情報だったな。

 あ、そうだ。この二人にも通信の原理や敵の基地の方向の事を説明しないと。もちろん、また確定情報ではないと前置きして……。

 機械を知らない世界の住人に説明か……。ああ、こっちもこっちでクソ厄介だ。

次の投稿は2月19日です。

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